錯誤

風降リモート調教⑦
※つきあってない
※ギャグ

M奴隷失格の朝から……
美味しい朝ご飯を食べて、気持ちを立て直して、仕事に邁進する降谷さん。
しかし、ご主人様(風見)との日々を忘れるなんてことはできなくて……

ごあいさつ
課題
我慢
未熟
休息
失格
錯誤
首輪(終)

 


 

「おいしかった……」

風見の言う通り、ここの朝食は、おいしかった。
新鮮なフルーツに、野菜。
しっかりと味付けされた煮物に、ふっくらごはん。
赤魚の粕漬は、味付けが優しくて、ほうれん草のおひたしも、ほどよいシャキシャキ感を残している。
軽めに済ませようと思ったのに……
名物のクロワッサンは、バターの香りがよく、ついつい、二つも食べてしまった。

よく寝たし、よく食べた。
だから、次は仕事だ。

くよくよと落ち込んでいる暇はない。
いや。
落ち込んだってかまわない。けれど、時間は有限だ。今日やれることは、今日やるべきだ。

 

 

それから僕は、風見から受け取った情報をもとに、対象に関する情報を集めまくった。
M奴隷になれなかった僕だけれども、あれらの調教には、それなりに意味があったと思う。
僕はM奴隷の心理を、前よりも少し理解できるようになったし。そういった関係者と話をするときに、それらしい話題で、その場を乗り切ることができた。

ビジネスホテルでの失態から、十日が経過した。

夜景を見渡せる、高台の駐車場。
助手席のベルモットは、僕が集めてきた情報を見て

「あら……バーボン。あなた……ずいぶん、コアなところまで探ってきたのね……」

と、言った。

「ええ。これくらいは調べないと……探り屋の名が廃れますからね」
「で……? この悪趣味な写真はあなたが撮影したの?」
「いいえ。彼のご主人様に頼んだら、いろいろと見せてくれたんですよ」

ベルモットは、タバコの煙を吐き出すと、足を組みかえながら言った。

「ふーん……あなた、意外にもこちら方面も得意だったのね。おきれいなセックスしか知らなそうな顔して……ここまで探ってくるなんて。どんな手を使ったのかしら?」
「簡単なことですよ。相手の趣味に対して、それなりの関心を示し、敬意を持って接すれば、あとは向こうが勝手にしゃべり始める」
「そう……この男については、ここまででいいわ。それじゃ、いつものホテルまで送ってくれる」
「ええ」

どうやら、ご満足いただけたらしい。
僕は、はやる気持ちを抑え、安全運転で、彼女をホテルまで送り届けた。

 

これで、一件落着。

SMというものに、振り回された、数週間がようやく終わりを迎えた。
午後九時。
僕は、部屋に戻ると。ハロとひとしきり遊び。それから、シャワーを浴びた。
一段落ついたとはいえ。日々は続いていく。またこういった仕事が飛び込んでくることもあるかもしれない。
M奴隷としての日々は、一週間にも満たなかったが、風見との日々も続いていく。

そして、三つの顔を使い分ける僕の、身体はしかし、一つしかなく。
M奴隷として生きた、あの日々は、僕の肉体に深く刻まれた。

あの日から、なんとなく、オナニーを中途半端なところで止めてしまう。もちろん、最後まですることもあるんだけれど、かれこれ、五日間、出していない。
なぜこんなことになってしまったのか?
答えは明白だ。
風見裕也。いや、ご主人様の甘くてやさしい声で、ゆるされながら迎える射精。僕は、あれが欲しくて、ほしくて、仕方ないのだ。

(……まだ、許可をもらえていない)

そう、思うと、どうしても手が止まってしまう。風見はとっくに、僕のご主人様ではないというのに。

最後まで手を動かし続けて、どうにか射精にこぎつけたとしても、許可なく射精したことに罪悪感を覚えてしまい、気持ちいい感じが全く残らない。
後味の悪い射精。せめて、僕がまだ、風見のM奴隷であったなら、無許可射精について報告し、次の指示をもらうことができる。

だが、それは叶わない。

僕にM奴隷の素質がないばかりに。風見には、ずいぶん迷惑をかけてしまった。

シャワーを終え、寝仕度を整えながら、明日の予定を思い浮かべる。
ポアロのシフトは午後三時から。ちょうど、探り屋としての仕事が一段落ついたところだ。午前中は、ゆっくり過ごそう。そう思ったら、うずうずしてきてしまった。

だけど、普通のマスターベーションではきっと。このうずうずは、解消されないだろう。
少し考えこむ。どうしたら、この欲求をうまく満たしてやることができるか。

「そうか……!」

僕はスマホを立ち上げて、朝食のおいしいビジネスホテルの部屋を予約した。午後十時半。今からでも宿泊の予約を受け付けてもらえるというのは実にありがたい。

「ハロ、朝ごはんを食べたら……そうだな、七時半までにはここに戻ってくるから、お留守番頼むよ」

 

風見が用意してくれたのと同じタイプの部屋。僕は、部屋に入ると、バッグを椅子の上に置き、中から、いくつかの器具を取り出した。

オナホ。アナルビーズ。ローション。乳首を挟むためのピンチ。

なぜこんなことをしているのか?
普通のオナニーがうまくできないのだから仕方がない。
僕は別に、性欲が強いわけではないし、そういった誘惑にも弱いわけではない。だが、自分の性的欲求をうまくコントロールできない状況には、いささかの不安を覚える。
だから、僕が、一番気持ちいいと思った自慰行為と、類似の状況を作り上げ、射精を目指すことにした。つまり、風見と通話しながした、あの晩の射精を可能な限り再現しようと考えたのだ。

だが、同じビジネスホテルの部屋で、なおかつ、五日間射精していないという状況であっても、どうしても足りないものがある。

ご主人様の存在だ。

僕は、服をすべて脱ぎ、アイマスクをしてベッドの上で正座した。そして、いないはずの風見に向けて、ごあいさつをする。
風見が。いや、ご主人様が、僕に最初に教えてくれたこと。
M奴隷としての覚悟を伝えるための大事な礼儀作法。

僕は、目の前にいないはずの人に向かって、深くお辞儀する。
(いままでだって、リモートだったのだから、目の前には誰もいなかったのだけれど)

風見のことを思い浮かべ

「僕は未熟で……ご主人様にはたくさん迷惑をかけてしまいますが……ご主人様好みの淫乱なM奴隷になれるようがんばります。だから、どうか、根気強くしつけてください」

懇願するような気持ちで、口上を述べる。
部屋は、しんと静まり返っている。それはそうだ。ここには僕しかいないし。ワイヤレスイヤホンを装着したところで、電話がつながっているわけではない。

――風見は、僕が上手に挨拶できると、褒めてくれた。
――僕がお粗相してしまったときには、やさしく、どうすべきかを教えてくれた

風見の声がしないから、どうしたらいいかわからない。だけど、自分が卑猥なことをしているということに、興奮してしまっているのも事実で。

「ご主人様……僕、淫乱だから……おちんちん触りたいです」

そう報告した。
もちろん、返事はない。悲しくなりながらも、仰向けになり、足をM字に開脚させ、さわさわとペニスを触る。

「ご主人様……ぼく、えっちな、おちんぽ汁……出てます……とろとろ出ちゃう、でちゃってるっあ……聞こえ、ますか……あん……僕、おちんちん扱きます……しごいてます……」

そう言って、竿を、しこしこするのだけれど、膨れ上がるのは、快感ではなく、不安な感情ばかりで……。僕は、たまらなくなり、アイマスクを取っ払い、ワイヤレスのイヤホンを外した。

そして、僕にはもう、ご主人様はいないんだと。改めて、それを自覚する。

ベッドサイドに並べた、アナルビーズに手を伸ばす。
僕の体は、普通じゃなくなってしまった。ご主人様にどうにかしてもらわなければ、マスターベーションすら、ろくにできない不自由な体。

それなら、もっと、強い刺激で、この体を上書きしてしまえばいい。
僕は、アナルビーズにたっぷりとローションを塗りこめて、座薬を入れる時の要領を思い出しながら、それをアナルにつき立てようと試みた。

 

それが、間違いの始まりだったことに、この時の僕はまだ気がついていなかった。

 

続く

 

 

【あとがきなど】

ハロ嫁をみたら、この話の続きとか書けなくなるんじゃないかって心配してたけど。
そんなことはなかった。
むしろ、ハロ嫁を見たことにより、降谷さんの命令であれば、風見裕也……リモート調教くらいは余裕でこなすな……という気持ちにすらなった。

今まで、視点を、風→降→風→降と交互に書いてきたんですけど。今回は、連続で、降谷さん視点でした。
ベルモットは、バーボンが持ってきた写真にちょっと引いてます。
だけど、バーボンは、そこに気がついていないというか……

「たーげっとの、人間としての尊厳を放棄したとしか思えないような写真を持ってきたんだから、ベルモットも満足するだろう。脅しに使うには、より変態っぽい写真の方が効果的だと思うし」

と、思っているので。
自分の仕事に満足している状態です。

そして、ご主人様を失ったM奴隷の末路は悲惨です。
命令してほしくて、でもしてもらえなくて、オナニーすらろくにできない、情けない体になってしまうのです。(たぶん)

 

 

 

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