休息

風降リモート調教⑤
※つきあってない
※ギャグ

不可抗力の降谷さんに、あれこれする風見裕也。

ごあいさつ
課題
我慢
未熟
休息
失格
錯誤
首輪(終)


「降谷さん……おーい……降谷さん? ちょっと、大丈夫ですか? 降谷さん?! 降谷さん?」

ふうふうと、呼気の音が聞こえる。声のボリュームを上げる。

「ふ! る! や! さーん!!!!!」

しかし、返事はない。

「ん……んん……う」

微かにうめきのような声が聞こえた。

「ふるやさん、ふるやさん? おーい降谷さん? ……安室さん! れ、い……ゼロ! 降谷さんてば」

呼び方を変えても、反応がない。俺は、部屋着のまま、外へ飛び出した。
外階段を下りながら、アプリを立ち上げ、プライベート用に契約している、カーシェアリングの予約を取る。
コインパーキングの一角。確保した車に乗り込み、エンジンをかける。深呼吸を一度。それから、ゆっくり、アクセルを踏む。

 

十五分後。目的地にほど近い駐車場に車を停めた俺は、もう一度、インカムのマイクに向かって、降谷さんの名前を呼んだ。だが、返事はない。

カードキータイプのビジネスホテル。フロントで、出張のサラリーマンが、旅客者名簿に記名をしている。
俺は、何食わぬ顔をして、他の客と共にエレベーターに乗り込んだ。
八階で降りる。エレベーターの中で立ち上げた特殊なアプリ。スマホをドアに押し当て二十秒ほど待つと。あら不思議。カチャンと音がして電気錠が開く。

部屋に入るなり、照明のスイッチを入れる。
ベッド上で、降谷さんが仰向けのまま、くったりしていた。
俺の言いつけ通り、全裸にアイマスクをし……右手はペニスのあたりに。左手は、顔の横に。

「降谷さん、ふるやさーん。おい……」

通話を切断し、インカムを外す。
ベッドサイドに到着すると、かすかな呼吸音が聞こえてきた。

「失礼します」

アイマスクとワイヤレスのイヤホンを外してやる。それから、降谷さんの頬を叩きながら、脈を取る。

「んん……ん」

微かに反応がある。
呼吸も、脈も問題がない。
だが、目の下には、濃いクマがある。

「えーと……寝落ち、だよな? ……これ」

念のため、体を触り、筋肉のはりを確認する。麻痺の兆候はなし、体の表面が冷え切った感じもない。

「よかった……マジで寝てるだけだ」

循環器や脳血管系の発作が起きたわけではないとわかり、安堵する。ふーっと息を吐きながら、降谷さんから離れる。
そして、なんとなく見て見ぬふりをしていた、そこに目をやる。

「うわー……すっげえ出てる……」

へその周りが、白いものでドロドロになっている。
俺は、男だし。大学の長期休み。溜めて溜めてのオナニーを試したことがあるから、なんとなくわかる。さぞかし気持ちがよかったことだろう。

バスルームに向かい、タオルをお湯で絞って、降谷さんの体を拭く。
どこをどう見たって男の裸。自分ではない男が出したザーメン。だが、嫌悪感はわかない。
自分が、この人の右腕だからなのか。あるいは、条件付きとはいえ、ご主人様を務めているからか。単純に、降谷零の肉体が、同性の自分から見ても、魅力的に見えるからなのか。自分でもうまく説明できない。

ただ、ひとつ、確実に言えることがある。
これは、俺の落ち度である。
自分が「主人の役目」を十分にこなせていないから、このような事態に陥った。

すやすやと眠る降谷さんの股間周辺をタオルで拭えば、敏感であるらしい彼のペニスは、あっというまに、育ちあがった。
ここまできたら、誤差の範囲だ。射精を助けてやろうと、竿をさする。
降谷さんのそれは、太さは並だが、すらりと長く。全身の肌と同じで、色は艶のある褐色。そして、先を剥いてやれば、真っ赤に充血した亀頭が先走りでテカテカになっていた。
俺は、同性愛のケがないし。降谷さんをそういう目で見たこともない。
ただ、この人の体にも、原始的な欲に根差した器官が存在しているということに、改めて驚く。
そして、ごしごしと扱いてやれば

「んっ……ふっ……あ……ふ、んッ……んん」

降谷さんの呼吸が荒くなった。
この人の体を、こんな風にしているのは自分なんだと思ったら、気分がよかった。

「んっ……んあ……あん……」

いつもより、1オクターブ高い声は、少しだけ、くぐもっている。
起きちゃうんじゃないか? この人……? そう思いながら、ちらりと顔を窺えば、口をパクパクさせながら、額に玉の汗を浮かべていた。

「降谷さん……?」

問いかければ

「……んっ、ごしゅじ、さま……ぼく、いきた……いです」

と、返ってくる。
やっぱ、起きちゃったか? と、思うが、いまさら手コキを止める気はない。
そんなことよりも、こんな状況であってもなお、自分をご主人様と呼び、射精の許可を求める、降谷さんの健気さに、胸が熱くなった。

「イッていいですよ」

手の動きを速める。
皮をずらし、先端を人差し指で、クニクニしてやる。

「あっあ……んん!!」

ぐいんと、エビぞりになる体。
そして、量は多くないものの、ぴゅぴゅぴゅと精液が飛び散る。
本人の申告が正しければ、四度目の射精。降谷さんの体が、小刻みに震える。その姿が、かわいく思えた。
再び、汚れてしまった下腹部を、ティッシュで清め、タオルでもう一度、ふき取りってやれば、今度はさすがに勃起することなく、呼吸も鎮まっていく。

寝たふりなのか。
それとも、本当に眠っているのか。
判断がつかないと思いながらも、大きな体の下に敷かれた掛け布団をどうにかして、体の上にかけてやる。
時刻は、11時を回ったところ。明日、俺は、非番日だし。降谷さんの予定も、それほど詰まっていない。
俺は、ため息をつきながら、ポケットにしまったままのスマホを立ち上げ、最近、入会をゆるされた、とあるコミュニティ・グループのSNSにアクセスした。

――趣味の情報交換グループ

漠然としたタイトル。しかし、このSNSの目的ははっきりしている。
ここは、俺のような新人から、ベテランまで。M奴隷の飼い主たちが、情報交換を行うために作られたSNSだ。
調教の成果報告から、道具のレポ、M奴隷の貸し借りについてなど、語り合いたいテーマに合わせて、いくつかの小部屋が用意されている。

俺は「SM初心者の質問・相談」と書かれた小部屋をタップした。

降谷さんが寝落ちした原因は、だいたいわかっている。
昨夜。カイシャにて射精許可を求める電話を受けた際、寝不足について訴えがあった。あの時、自分が調子に乗って追加の指示を出さなければ、降谷さんは、ぐっすり眠ることができただろう。
だが、俺に縋りつく降谷さんが、かわいらしく思え、もっと、いじめたらどうなるんだろうと……。

欲が湧いた。それで、せっかく鎮まりかけていた熱を、掻き立てるような命令をした。

目の下のクマ。この眠りの深さを見るに、降谷さんは相当の睡眠負債を抱えていたらしい。
今の降谷さんにとって立派なM奴隷になるということは、大事なミッションの一つだ。しかしながら、極度の睡眠不足。これは、いただけない。

ご主人様役が、こんなに難しいとは思わなかった。

『調教師見習い・K:数日前からM奴隷の調教を始めたのですが、思うようにいかず苦戦しています。今日も無理を強いるあまり、M奴隷を寝落ちさせてしまいました。お互い初めてのSMであり、リモート中心の調教ゆえ、相手の限界を見極めるのが難しく戸惑っています。じっくり時間をかけ、しつけていくことが大事だとわかりながらも、事情により、早急に調教を仕上げなければならず、焦っています。諸先輩方のアドバイスをいただければ幸いです』

他の書きこみを参考に、現状を文章にする。
このSNS利用者は、趣味による連帯感もあってか落ち着いたやり取りをする者が多い。
そうわかっていても、緊張する。投稿ボタンを押せない。
自分が未熟な主人であることを自覚しているし、俺の調教はグダグダだ。

降谷さんの寝顔を見つめながら、少しでも得るものがあれば……と。祈るような気持ちで、投稿ボタンを押す。
スマホを置き、伸びをする。

いったん、外に出る。ホテル横のコンビニで、軽食とお茶・スナック菓子を買い込む。

「ただいま……まだ、寝てる……か」

部屋に戻り、テレビの音量を絞って、ニュース番組を眺めた。
しばらくして、スマホに、通知が飛んできた。
ペットボトルのお茶を飲み干して、内容を確認すれば、先ほどの投稿に返事が書きこまれていた。

『匿名課長:Kさんこんばんは。こちらの世界へようこそ(笑) 書きこみを読んで思ったんだけど、そのマゾ女、本当にM志望? 最近はネットの情報を見て、自分の性癖について深く考えずに、刺激的なセックスをしたいという理由で、奴隷になりたがる子が増えてるよ。俺は男の尻を専門にしてるんだけど、この前、その手の子から調教希望のメールが来たんだ。アラサーで童貞って書いてあったし、たぶん、本人は性的なことをしたかっただけだと思うんだけど、Mの適性が、まったくないのに調教を希望してきて……。途中で連絡とり合うのやめたよ。Kさんのパートナーもそのタイプってことはない? てか、Mが調教中に寝るって、よっぽどだよw』

俺は、ため息をついた。
ハンドルネームに課長とつけるくらいだから、それなりに調教の経験がある人なんだろう。それに、指摘が、いちいち的確だ。
もちろん、降谷さんは、気持ちいいことがしたくて、M奴隷を希望しているわけではない。だが、自分の性癖や適性を考えずに、M奴隷になることを決意したのは事実だ。

『調教師見習い・K:匿名課長さん。お返事ありがとうございます。確かに、俺のパートナー(ちなみに、女ではなく男です)も、自分の性癖を深く考えずに、M奴隷を志望している感じがあります。Mとしての適性については、あるように思える時もあれば、まったくないように感じられるときもあり判断に困っています。一生懸命ではあるんですが……。参考までに、匿名課長さんが調教希望のアラサー童貞を「Mとしての適性がないと判断した理由」を教えていただけますか?』

せめて、降谷さんに適性があれば……。俺が、調教についての手技を増やすことで、どうにかなるかもしれない。
返信はすぐだった。

『匿名課長:Kさん。適性の評価って難しいよね~。たまに、一目見ただけでわかる、奴隷オーラ駄々洩れの、野生のMみたいな逸材もいるのですが、そういう子は超レアケース。この前、メールでやり取りした子も、最初は、適性ありそうな感じを受けたんだけど、なんていうか、恥じらいに欠ける子でね。俺が、今、飼ってる子の写真を送って、調教に使用してる道具を教えてやったところ、何を思ったのか、自分で口コミを調べて器具を注文したらしく、その報告をしてきやがったw アラサーで童貞だし。学校でも、会社でも優等生で通ってきたんだろうけど「そうじゃねえだろ」と……。うぶな子を、ド淫乱に仕立て上げるのは大好きなんだけれど、素質がない子に、いくらしつけをしたところでね……。スケベにはなるかもしれないけど、M奴隷に仕立て上げるのは難しい。そんな子に時間を割くのは無駄だよ。』

「恥じらいか……」

なるほど……と一人うなずく。
その観点から言えば、降谷さんも、素質がないタイプになるだろう。今日言わせた「えっちな、おちんぽ汁」も、できる事なら、恥じらいながら言ってほしかった。

『調教師見習い・K:匿名課長さん、ご丁寧な解説ありがとうございます。やはり、うちのMも、素質がなさそうです。負けず嫌いなところがあるので、調教の中断には反発が予想されますが……パートナー解消の方向で話を進めたいと思います』

そもそも、俺たちの目的は、ターゲットのM男と近づくことであり、無理にこの調教を続ける必要はない。
確かに、対象と同じご主人様に飼われることができれば、相手も降谷さんを仲間と認定し、普通では話さないようなことを教えてくれるかもしれない。また、一緒に調教を受けながら、ゆすりの材料を集めることもできる。
けれど、無理にそれをする必要はない。別の方法がきっとあるはずだ。
しばらくして、また返事が届く。

『匿名課長:Kさん。時間の無駄とは言ったけど、俺は、すでに何人か、M奴隷を抱えているから、そう思うだけだし。Kさんが調教を辞める必要はないよ。SMって、奥が深いし、きっかけ次第で花開くこともある。実際、俺の知り合いにも、こっちサイドからMに転身したやつがいるしねw まあ、どっちにしろフォローは大事。調教を継続するにしても自分のところから巣立っていくにしても、主人である以上、M奴隷に対しては最後まで責任を持って接してやらないと』

その書きこみを読み、思わず

「匿名課長さん……」

と、つぶやいてしまった。なんか、ちょっと感動した。この人は、根っからのSM好きに違いない。

お礼のメッセージを書きこむ。ふと、気がつけば、0時50分を過ぎていた。
降谷さんが眠り始めてから、おそらく三時間近くが経過している。
起こすべきかいなか……ベッドサイドにしゃがみこみ、寝息を立てながら眠る降谷さんの顔をのぞき込んだ。

「さーて……どうしましょうかね……」
「ん……」

 

 

【あとがきなど】

降谷さんが、ぐっすり眠っているのは、風見の側だからだったりします。
風見以外の気配を感じたら、すぐに起きて、臨戦態勢にはいるはず……。

そして、2話目で出てきた、ご主人様……!
ここで出てきました。
影で「あいつマジで、M奴隷になる気あるの?」みたいに、悪く言われてしまう降谷零が、かわいすぎるという話を、ある方として……
どうしても入れたくなった……
匿名課長さんは、放置プレイの暇つぶしとして、風見とやり取りしてます。

 

 

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