課題

風降リモート調教
※つきあってない
※ギャグ
※性行為はないですが、卑猥な言葉や性的な表現があります

降谷さんが、調教課題に挑みます。
(三日間、自慰を中途半端な状態で中断する)

ごあいさつ
課題
我慢
未熟
休息
失格
錯誤
首輪(終)


 

一週間前。

僕は、ネットで知り合ったご主人様候補の男と、メールのやり取りをしていた。
男から「アナル調教は外せないな。お尻を使ったプレイの経験はあります?」と、質問され「経験はないです。具体的に、どのようなことをするのでしょうか?」とメッセージを返した。

そして、送られてきたのは、男子大学生の尻の写真だった。彼は、この男が管理するM奴隷のひとりであるらしい。
無駄に解像度が高い画像ファイル。当然、モザイクも、かかっていない。
不快な気持ちになりながら、写真を見れば、大学生の肛門に、何かが挿さっている。

『彼は、お尻に何を挿しているのですか?』
『これは、アナルビーズという肛門専用の玩具だよ』

どうやら、男同士の調教では、尻の穴を使って、このようなことをするらしい。僕は、男が送ってきた画像を削除し、アナルビーズについて検索した。
そして出てきたものは、球体が数珠状につらなった、スティック状の物体。予想していたものより細い。だが、思っていたよりも長さがある。
いくつかの商品の口コミを調べる。寸法や素材。手入れのしやすさや、値段の比較。
そのうち使うことになるだろうと思い、僕は、シンプルな形状のアナルビーズを一つ注文した。

だが

『アナルビーズですがネットで検索しました。よさそうなものがあったので、こちらを購入しました。 https://ana……』

そのメールを送った後、男と連絡が取れなくなった。
あのやり取りの、何がいけなかったのか、よくわからない。けれども、ご縁がなかったのだから、次に進むしかない。

その後、僕は、同時並行で数名のご主人様候補とやり取りした。だが、なかなか、うまくいかない。
顔写真を求められたり、主従関係を結ぶためのテストと称し、野外露出を指示されたり……。
仕事柄、自分の顔写真を送るわけにはいかないし、他人の写真を使うのもはばかられる。
また、僕の適性を試すためとはいえ、信頼関係ができる前から難易度の高い命令を出す男と関係を作れるとは思えない(SとMの主従関係には、信頼が大切であると、解説に書いてあった)。

ある時は袖にされ。ある時は、僕が相手を突っぱね……パートナー探しは難航を極めた。
五日経っても、成果が得られなかった。と、なれば、損切を考える時期だ。

ご主人様探しを諦めた僕は、セルフ調教について調べた。手元には、届いたばかりのアナルビーズがある。
僕は、いくつかのサイトを参考にし、文章に書いてある課題をこなしていくタイプの調教を試みた。
しかし、すぐに挫折する。なにが正解なのか、よくわからないし、心理的抵抗もある。

仕方なく、次の方法を考える。特殊な性癖が絡んだ問題だ。僕が選べる選択肢は多くない。

それで、いたしかなく。恥を忍んで、風見裕也にお伺いを立てた。

 

 

「えーと……初日にしては、がんばれてたと思いますよ」
「はい」
「じゃあ、また、三日後」

通話が途切れる。

必要に迫られての行為。
風見がご主人様になり、僕にリモート調教を施す。

通話に使用していた、ワイヤレスイヤホンを外し、ケースにしまう。

ビジネスホテルのベッドの上で、僕は、ため息をつく。
時間にして、三十分ほど。今日の調教について、ふりかえる。情けないことに、僕は、あいさつの時点で、てこずってしまった。
それだけじゃない。風見から、僕の言動に対して指摘があった。なんでも、自分から先手を打って指示を仰ぐというのは、M奴隷らしからぬ態度らしい。

初回ということもあり、本日のやりとりはあっさり終わった。風見は僕に、次の調教までに取り組む課題を与えた。
性器をゆるく勃起させ、自慰を中途半端なところで切り上げる……というシンプルな課題。
だが、僕は、すでに、このささやかな課題に、つまずきかけている。

ゆるく勃たせるだけでいいと、風見は言った。
しかし、僕は既に、完全な勃起状態にある。
調教を受けているうちに、そうなっていた。僕のそこはバキバキだし、おそらく先走りが漏れ出ている。

最後に自慰をしたのは二日前だ。だから、溜まっているわけではない。
また、調教中に、ペニスに触れてもいない。
ただ……僕は、想像してしまったのだ。セックス・トイを使いながら自慰をする自分の姿を。

そしたら”こう”なっていた。

だいたい……「おっぱい丸出し」とか「淫乱」とか……。風見が、そんな言葉を言うのがいけない。
いや、こんなのは八つ当たりだ。
頭では、わかっている。彼はあくまで、僕に頼まれて仕方なくご主人様を演じたまでだ。

一応、それなりの予備知識のもと、風見の調教を受けている。しかし、知識と実際の体験の間には大きな乖離がある。
卑猥な言葉を言われて、そういった気分になってしまうとか。倒錯的状況に欲が刺激されるとか。まさか、自分がそうなってしまうなんて、思ってもみなかった。

ベッドの上に並べた玩具。そのうちのひとつ。オナニーホールに、自分のペニスを挿しこみたいと思う。アナルビーズとともに、ついで買いし、一度も使ったことのない道具。
性的衝動に知的欲求が絡み合い、オナホというものを試したい気持ちが膨れ上がる。
僕は、あわてて、新品のセックストイをバッグにしまい込んだ。

だが、おもちゃを隠しただけでは、僕の欲求は、おさまらない。そこに、触れたい。いつもの要領で、手で扱いて、出してしまいたい。
そして、よからぬひらめきが生まれる。
与えられた課題に反して射精しても、僕が黙っていれば、いいのではないか? そうすれば、調教失敗は露見しない。
僕は、隠し事に慣れているし、風見も、僕のだんまりには慣れっこだ。

――そうだ。今ここで、こっそり射精して。明日から、課題をこなせばいいのではないか?

射精したいあまり、僕は、へりくつをこねた。
実際のプレイは伴わなくてもいいと風見は言った。僕がM奴隷を演じる上で必要な知識と、ある程度の所作が身に着けば、それでいい、と。

だが。風見は、実に一生懸命に『ご主人様役』に取り組んでいる。ならば、僕も真剣さをもって、調教に臨みたい。
とはいえ、一度、こうなってしまった体を、射精なしで鎮めることはむずかしい。
したい気持ちと、すべきでないという気持ち。

――するか、しないか、それが問題だ。

堂々巡り。同じことを、ぐるぐる考える。
すると、考え込んだのがよかったのだろうか、徐々に勃起がおさまってきた。
今のうちに寝てしまおうと、ズボンとパンツを脱ぎ、ベッドに入る。
シーツにこすれて、ペニスが、兆しそうになった。だが、その高ぶりは、ピーク時ほどではない。
僕は、掛け布団の外に両手をだし、ペニスに触れたくなるのを、ぐっとこらえた。

 

スマホのアラームが、午前五時を知らせる。六時間は寝ていただろうか。頭が、どうにもすっきりしない。
昨日は寝付くまでに時間がかかった。二度寝を決意し、三十分後に、アラームをセットして布団をかぶる。
ぼんやりとしたまどろみの中で、右手が下半身に向かって伸びた。そして、そこを触りそうになった直前。僕は、自分が何をしようとしているのかに気がつき、慌てて飛び起きた。

無理やり射精欲を抑え込んでの就寝。それに加えて、生理現象としての朝勃ち。

カーテンの隙間から差し込む光。僕は、あわててシャワーに駆け込んだ。
熱いシャワーを浴び、シャンプーをする。そのうちに、ペニスへの意識が薄れ、全身のさっぱり感とともに、出したい気持ちも、どこかへ流れていった。
僕は、そのまま支度を整え、ホテルをチェックアウトして、自宅へ帰った。

 

ハロとの散歩に、そうじ・洗濯、ポアロの早番。
なにかしている間は、気がまぎれる。僕は、自分が調教中の身であることすら、すっかり忘れて、いつも通りの日常を送る。
夕方までのシフトを終え、買い物をして部屋に帰る。
洗濯を取りこんで、しまう。台所に立ち、夕飯と、常備菜を作って、夕飯を済ませる。
食器を洗い終えた僕は、ノートパソコンを立ち上げ、おととい歩道橋の上で、風見からもらい受けたデータを展開した。

と、その時。スマホが、ふるえる。
あわてて確認すれば、それは、風見からのメッセージだった。
アプリを立ち上げて、用件を確認すれば「きちんと調教課題をこなしてから就寝してくださいね」と書かれていた。
僕は、ため息をつき、それから、スマホの検索バーに「オナニー 射精しない リモート調教」という言葉を入力した。もしかしたら、調教課題をこなすためのヒントがあるかもしれない。

そして、それなりの量のテキストを読み終えた僕は、先ほどよりも深くため息をついた。
風見が僕に与えた課題は、射精管理のカテゴリーに分類されるものらしい。
僕に課せられた命令は、難易度としてはかなり、やさしいようだ。
どのように簡単かといえば。まず、期間が短い。通常は最低でも五日程度、射精を禁じられる。
風見は、完全に勃起させずにオナニーを切り上げていいと言ったが、通常は、寸止めといって「射精直前まで追い込んだものを我慢させる」らしい。
くわえて、風見は、オナニーを物理的に禁じる方法(貞操帯や陰茎を締めつけるリングの使用など)を採用していない。
実に紳士的な調教だ。その事実に気がついて、僕は、少し落ち込んだ。課題の難易度を低く設定してくれたのに、僕は、風見に内緒で射精することをたくらんだ。

そもそも、調教課題は「M奴隷がご主人様の命令に応えることの、よろこびを知るためのやりとり」であるらしい。
昨晩、欲に負けて、射精しなくてよかったと思う。あれで射精していたら、僕は、M奴隷としての基本的な心理を学ばずに、ハリボテのM奴隷として現場にむかうところであった。
課題を最後までやり遂げ、ご主人様の命令に応えるよろこび……というやつを、主観でとらえてみたい。

もしも、課題をやり遂げられないのであれば、その旨を風見に報告して射精の許可を得る。
仮に、無許可で射精をした場合であっても、粗相を隠すのではなく、状況をきちんと報告し罰を受けること。
きっと、そういった、コミュニケーションが大切になる。ちょっとした出来事の積み重ねが、リアリティを伴った演技を作っていくのだ。

僕は、風見に「どうしても射精したくなった場合は、どうしたらいいか」確認のメールを送ろうとし、思いとどまる。短く「了解」と、ひとことで返事をする。
それから、二時間ほど、パソコンに向かって仕事をし、シャワーを浴びて、ベッドにはいった。いつも通り、服は着ていない。

目を閉じる。できることなら、このまま、眠りに落ちてしまいたい。
だけど、僕には与えられた課題がある。
ふーっと、息を吐き出し。意を決して、ゆっくりと、右手でペニスをなでる。

――ゆるく、勃たせるだけ……。少し触って、すぐに終わりにしよう。

しかし……。それにしたって。
昨日から、射精を我慢しているせいだろうか。やさしく触っているだけなのに、すごく気持ちがいい。

(もう一回、こするくらいなら大丈夫かな……えーっと……もう一往復くらい……だいぶ硬くなってきたけど、まだ、我慢汁出てないし……もうちょっと)

様子見しながら慎重に。完全な勃起に至らないよう、やわやわと扱いていたはずなのに。気がついたら、また、バキバキにしてしまった。

(どうしよう、これでは、出してしまいそうだ。もう……このまま、出してしまいたい)

射精欲に負けそうになる。
だけど、僕は、風見のがんばりに応えたい。彼は、僕の為に、一生懸命資料を集めて、ご主人様を演じている。
ペニスから手をひき、太もものあたりをぎゅっとつねる。痛みに刺激によって、気を紛らわそうと試みるが、簡単にはいかない。
いっそ、風見に電話して……と考えるが、時刻は既に午前一時を回っている。さすがに、この時間に、コールするのは憚られる。

耐えよう。大丈夫、今までだって、大変な困難を乗り越えてきたんだ。
これくらい、どうということない。今日こらえて、明日一日我慢すれば、二度目のリモート調教だ。大丈夫。これくらい……僕はきっと、この課題をクリアできる。

ぎゅっと目をつむり。
僕は、祈るような気持ちで、睡魔がやってくるのを待った。

 

【あとがきなど】

降谷零……ご主人様探しで、苦戦し。セルフ調教にも乗れず。
仕方なく、最終手段で、風見に、リモート調教を願い出たんです。
そしたら、風見が、予想以上の働きをしてくれているので……自分も頑張らなきゃと思っているところです。

降谷零が、数珠状のものを尻に入れたがっていたのは、最初のご主人様候補とのやり取りの影響でした。

この降谷零は、すけべ体質ではあるんですけど。それほどMッ気があるわけではありません。
ですから「ご主人様に与えられた課題をこなすよろこび」を、意味としては理解できるんだけど、ちょっとよくわかんないな……という感じです。

 

 

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