ごあいさつ

風降リモート調教・連載(3~4回で終わると思います)
※つきあってない
※ギャグ
※性行為はないですが、卑猥な言葉や性的な表現があります

この話は、年齢制限ないですけど。調教すすむにつれて、R-18になる予定です。

ごあいさつ
課題
我慢
未熟
休息
失格
錯誤
首輪(終)


定期連絡の折、降谷さんが実に言いにくそうに、少しのためを作ってから言った。

「風見、すまないが、君にリモート調教のご主人様役を頼みたいのだが」

その瞬間、俺は、ぬるくなった缶コーヒーを、飲みこみ損ねてむせた。

「……ッゲホ……ゲホッ……ヴンン」
「おい……」
「あ、すみません、コーヒーが変なところに入って」
「……大丈夫か?」

真夜中の、歩道橋の上。背中合わせで話していた俺と降谷さん。
周囲に人がいないことを確認し、降谷さんが、こちらに寄ってきた。

「いえ……あの、さっき、なんて?」
「ああ。リモート、調教だ」
「それは……その調教は……ワンちゃんにではなく……その、降谷さんに、いわゆるSMとして……ということですか?」
「ああ、そうだ……」

遠くから、クラクションの音が聞こえる。ふうと息をつき。降谷さんの正面に回る。

「えーと、それは……降谷さんの、ご趣味ですか?」

一応、念のため、確認しておく。
ご主人様役を「やれ」と命令されたわけではない。現段階では「頼みたいのだが」と打診されただけだ。
別に、断る理由はないが、引き受ける理由もない。仮に、これが、降谷さん自身の趣味の問題であるとしたら、俺は断るつもりだった。
だがしかし

「……実は、潜入先の組織で、SMを趣味とした男に近づく必要があってな……。その人物へのアプローチとして、そういったクラブに紛れ込むのが一番手っ取り早いという話になり……。だが、どうも調べてみると、あの世界というのは、信用が大事らしく……同じ趣味を持つことが証明できなければ、クラブへの入会を断られてしまうらしいんだ」
「なるほど……しかし、降谷さんなら、こう……ご主人様側、といいますか。女王様的ポジションならば、すぐにでも対応できるのでは?」
「……僕も、いろいろと、調べたんだが。どうも、その男が、M側の人間らしくてな」
「なら、なおのこと。調教する側を演じれば……?」

俺は、ネチネチくどくどと説教する降谷さんの姿を思い浮かべた。あの要領で、ネチネチと、M男を叱責してやればいいのに。なぜ、それをしないのか?

「……逆だ。彼には、すでに、パートナーがいるんだ。だから、彼と同じご主人様に飼われる方向で、接触を試みる予定だ」
「……そう、ですか。しかし、だからといって、わざわざ、俺がリモート調教する必要は……」
「いや、あるんだ。これが」
「ほう?」

降谷さんは、かぶっていたキャップを外し、一度前髪を後ろに流してから、それをかぶりなおした。

「この話を持ってきた、組織の女にな……」
「はい」
「自分をご主人様に見立てて、マゾヒスト的な発言をするように言われて……とりあえず、鞭で叩いてくださいと頼んだんだ」
「あー……」
「そしたら、失笑されてな……」
「失笑か……」
「君は、どう思うか?」
「え?」
「今の、僕の発言……」
「んー……そう、ですね。痛めつけるだけが、SMではないですからね……」

降谷さんは、はー……と、深くため息をついた。

「そうなんだ。その女にも、似たようなことを言われた。チェリーボーイのあなたには無理かもね、と」
「辛辣ですね」
「しかし、まあ、事実だからな」
「……え? それは、降谷さんに、SMプレイの素質がないという意味ですか? それとも……失礼ですが、その、童貞でいらっしゃる?」
「後者だ」
「……え? それ、マジで言ってます?」
「……まあ、あるだろ、そういうことも」
「まあ、あるかもしれませんが……」

降谷さんは、自身がチェリーボーイであることに、とくに恥じらいがあるわけではないらしく、淡々と話を続けた。

「それで、まあ、こういう時代だからな」
「はい」
「ネットで、ご主人様を募ってみたわけだ」
「え……? ご主人様を……?」
「しかし……だな。こう。リモートだから顔を見せずにいけるものと思っていたが。写真や動画を求めてくるし……僕自身も、得体のしれない男からの命令を聞く気にはなれず」
「え……? ちょっと待ってください。ご主人様、女性じゃなくて、男なんです?!!!!!」
「ああ。実は、そうなんだ。その男……結婚しており、女の愛人もいるのだが……そういう、性癖を満たす相手は、男性がいいらしくてな」
「こじらせてますね……」
「ああ。……まあ、そういうわけで、こういったことを頼めそうなのは、君ぐらいしかいなくて……」

心底、困り果てた顔。
俺は、自分の立場であったら、どうするだろうかと考える。俺だったら、適当なM男を協力者にし、そいつをクラブに送りこむことを考える。しかし、今回は、件の組織に関わる仕事だ。降谷さんは、なるべく、関わる人間を増やしたくないのだろう。
と、なれば、俺に断る余地はない。

「了解しました……。しかし、俺も、SMについては、無知でして……」
「ああ、僕もからっきしだ」
「潜入する予定のSMクラブの資料などありましたら、送ってください。潜入先のクラブに合わせた調教をする必要があると思いますので」
「本当に……引き受けてくれるのか?」

本当に、引き受けていいものか、正直、俺も迷っている。
普段の命令系統とは逆に、俺が、降谷さんに命令し、支配する。その逆転が、俺達の二者関係にどのような影響を与えるのか、予想できない。
しかし、降谷さんには、俺の助けが必要なのだ。
ならば、ご主人様でも、緊縛師でも。なんだって、やってやろうと思うのだ。

「ええ。あなたの役に立てるのであれば」
「ありがとう。じゃあ。あとで、メールする」

降谷さんが立ち去る。
その足跡を聞きながら、俺は、スマホを立ち上げ、リモート調教について検索した。

 

 

調教は、翌日から始まった。
前日の夜に送られてきた、SMクラブの概要。性別を問わず「性的な支配」を好む成人が集う場所である、というようなことが書いてあった。
鞭で叩く叩かれるという世界ではなく。Sである人間がMである人間の性的な決定権を握るという構造。それによって、双方の支配欲求と被虐心を満たしていくという営みであるらしい。

降谷さんから送られてきた資料と、ネットで収集した調教関連の実例集や手引書。
俺は、どちらかといえばS寄りの人間だ。したがって、女性とのセックスの折に、少しのいじわるを働いたことがある。
だが、これから挑戦するリモートでのSM調教は、俺の知るSっぽい言動とはずいぶん趣が異なる。M奴隷自身が、ご主人様に、調教を求めている……そう自覚させることが肝になるようだ。

 

夜。風呂を終え、部屋着に着替えた俺は、インカムを装着し、約束の時間に、電話をかけた。
降谷さんはいつもの調子で

「風見か?」

と、電話に出た。
自分も、いつもの調子で「リモート調教の時間になりましたので、お電話差し上げました」と言いそうになった。しかし、これではいけない。俺は、降谷さんのご主人様であり。そして、降谷さんは、俺のM奴隷なのだ。まずは、そのことを確認しなければならない。

「風見か……じゃ、ないですよね? あなたにとって、俺は、どういう存在ですか?」
「え……?」

俺の質問に、降谷さんは戸惑った様子だ。
ちなみに、降谷さんは、近所のビジネスホテルに泊まっている。飼い犬の前で、調教されている姿をさらすのは、さすがにかわいそうだろうということで、俺が部屋を手配した。

「ほら、わかりますよね……? ちゃんと考えてください」

そう……簡単なことだ。「ご主人様です」と言えばいい。その言葉が出てこないにしても、そういったニュアンスが伝わる表現ができれば、とりあえず合格だ。

「えっと……君は、僕の右腕で……」

しどろもどろになる降谷さんはめずらしい。緊張しているのかもしれない。

「ええ」
「いつも、僕のために、一生懸命、仕事をしてくれて……そうだな。まるで、風見鶏みたいに、向かい風の中を、まっすぐに、一心不乱に走って……なんていうか、本当に、かけがえのない存在で……大事にしたいと思っている」

……。
え、降谷さん、そんなことを思ってたんですか?
うれしさのあまり、ありがとうございますと口走りそうになった。だが……違う。今は、そうじゃない。

「降谷さん……ちがいますよね? いいですか? M奴隷としての自覚を持ってください。あなたにとっての、俺は……?」
「あ、そうか。そっちか。えーっと、ご主人様だな」

そう。正解だ。しかし、言い方が少し引っかかる。
とはいえ、うれしい言葉をいただいたあとだ。どうしたって、甘くなってしまう。

「そうですね。ちゃんと言えましたね」
「ああ。それで、えーと。調教用に、そういった物品を揃えてきたのだが。まずは、この数珠状のものを、つっこめばいいか?」

最短距離で、調教を進めようとする降谷さんに、俺はあわててストップをかける。
これから先のことを予測し、自分から指示を仰ぐ。その姿勢は、すばらしい。仕事をしていくうえでは、そういった積極性が大事になる。
しかし、これは、リモート調教なのである。性的な支配をされる側が、先回りしてことを進めようとするのは、不適切な言動に該当する。

「いいですか、降谷さん。プレイの前には、あいさつです。これは、礼儀として大事なことと、手引書にありました」
「そうか……そうだな。あいさつは大事だ」
「ええ、では、まず、あいさつをしましょう」

俺の声掛けに、ふるやさんは。

「こんばんは」

と言った。

「こんばんは」

俺もそう返す。

「今日は、寒の戻りで寒かったですが、ご主人様は体調いかがでしたか」
「ええ、特に変わりないですよ」

……いや。なんだ、この。あいさつは?
語学学習の、レッスン1みたいなやり取り。違う。確かにこれも、あいさつだが、方向性がおかしい。
俺は、いささかの焦りを覚える。なにごとも、人並み以上にこなしてしまう降谷さんだが、M奴隷に関する才能はからっきしなのではないか……と。

「そうか、なら、よかった」
「……えーと、降谷さん。調教におけるあいさつって……もっと、違う感じみたいです」
「え? そうなのか……? すまない……僕、手間をかけてしまって」
「いえ……お気になさらないでください。M奴隷に礼儀を教え込むのは、主人である俺の務めですから……えーと、そうですね、もっとこう……服従に対する覚悟が伝わるような、そういうことを言うと、それらしくなると思うのですが……」
「服従? たとえば……?」
「ご自分の頭で考えましょう。服従というものは、M奴隷自らが望んで……というところに意味があります。それに、アクティブラーニングの観点からも、自分で考えて行動することが大事になります」
「たしかに……そうだな」

インカム越しに聞こえる声。なんだか、いつもより張りがない。
もしかしたら、上手にM奴隷を演じられないことに、葛藤があるのかもしれない。

「大丈夫ですよ。降谷さんなら、立派なM奴隷になれます。とりあえず、言ってみましょう……」

S側が、こういった、優しい声かけをしていいものか迷ったが、今日はまだ、調教初日だ。信頼関係構築のためと考えれば必要なことだと思うし、そもそも、俺達はガチの調教をしているわけではない。降谷さんに、M奴隷としての所作が身に着けばいいのだ。紋切型通りの調教をする必要はない。

「えっと、僕を、いじめてください……とか、かな?」
「うーん……ちょっと、違いますね」
「では……」
「まあ、心構えとしては、伝わってきましたので……そうだな、じゃあ、例文をお伝えしますので、それを、ご自分なりにアレンジを加えて……M奴隷としての覚悟が伝わるような感じで述べてください」
「ああ、わかった」

俺は、昼間に作成し、プリントアウトしておいた、SM調教に便利そうな例文集から、ごあいさつの一例を読み上げた。

「じゃあ、読み上げますね……私は未熟ですが、ご主人様好みの専属奴隷になれるようにがんばります。どうか、きびしく、しつけてください」
「え……」

思わずこぼれた声。降谷さんの戸惑いが伝わってくる。しかたがないことだと思う。降谷さんは、別に、俺好みの専属奴隷になりたくて、この調教を受けているわけはない。だから、こんなことを言わなければならないなんて、想像していなかったのだと思う。

「その……それは、SM業界では、わりと一般的な、ごあいさつなのか?」
「うーん……俺も、実際のところはよくわからないんですが。そういった体験記や、文章調教のサイトなどをみたところ……」
「そうなのか……なかなか、厳しい世界なんだな」
「ええ。ちなみに、全裸で……というようなことも書かれていましたが……まあ、初日ですし。俺達の目的は本格的なSMプレイをすることではないので……そこまでは求めません……」
「そうか……まあ、じゃあ、君の好意に甘えて、服は着たまま挨拶をさせてもらうよ」
「ええ……」

深呼吸の音が聞こえる。ふーっと細く長く、降谷さんが、息を吹き出す。
そして、やや、つっかえながらも、降谷さんがM奴隷としてのごあいさつをした。

「僕は……未熟な奴隷ですが……かざ、えっと……ご主人様好みの、奴隷になれるようがんばります。どうか、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

ところどころ、微妙なずれを感じたが、まあ、合格にしておこう。時計を見る。あいさつだけで、すでに二十分が経過していた。

「はい。よろしくお願いします」
「……うまく、できてたか?」
「え、あ……えっと、ところどころ微妙なところもありましたが、まあ、初日ですので……潜入までに仕上げていけばよいかと」
「もう一回」
「え……?」
「風見……いや、ご主人様……もう一度、あいさつをさせてください」

降谷さんが、いつもの負けず嫌いを発揮した。
だが、いつもとは、少し趣が違う。俺に、あいさつをしてもいいかと、許可を求めている。それも、ちゃんとご主人様呼びで、敬語を使って。
降谷さんにはM奴隷の才能がないのではないかと、そう思い込みそうになっていたが、なににおいても、瞬く間に一定水準以上の腕前になってしまう天才肌のわが上司において、M奴隷としての心意気を身に着けることなど、きっと造作もないことなのだ。
ならば、俺も、この人にとって、不足のないご主人様にならなければならない。

「ああ。では、シャツとインナーを脱いで、胸を晒しながら、あいさつをしてください」

ただ、あいさつをさせるのではなく。卑猥な命令を追加してみた。

「え……あ、いえ。はい……シャツを……ですね」

降谷さんは、健気にも、俺の命令を聞き入れた。

「はい」

最近の電話は、着替え程度の雑音は拾わない。だから、降谷さんが、本当にシャツを脱いでいるかなんて、わからない。だけど、きっと、脱いでいるだろうという気がした。

「脱いだ……いえ、脱ぎ、ました」
「うん。よくできました。では、あいさつをしてください」
「はい……僕……降谷零は、未熟な奴隷ですが……ご主人様好みの奴隷になれるよう努力します。だから、どうか、調教をしてください」

少し、声が震えていた。だが、先ほどとは、見違えるほどに、あいさつが上手になっている。

(俺も、あなたの期待に応えられるような、立派なご主人様になりたいと思います)

口には出さず。心の中で、誓う。

「じゃあ、さっそく、今日の調教を始めましょう」
「えーっと、手始めに、この、アナルビーズ? とかいうやつを挿せばいいか?」
「降谷さん……M奴隷は、自分から、指示を仰いじゃだめですよ」
「あ、そうか……すまない。いや……ごめんなさい」
「はい。えーと……降谷さん、指示を仰ぐのくせっぽいので……そうだな……次、それやったら、お仕置きをしましょうか?」
「お仕置きか……いいな。だいぶSMっぽい形になってきた」
「ええ、いい調子ですね。で……降谷さんが用意した道具ってどんなのがあるんですか? スマホで写真撮って送ってもらえます?」

ちゃんと、ご主人様を務めなければと思うのに。
ついつい、いつもの感じが出てしまう。降谷さんもそれに気がついたのか

「ああ……じゃない。いや、えっと……準備した、お道具の写真、送らせていただきます。ご査収の程よろしくお願いします」

と、口調をへりくだったものに、修正した。
どことなく、ビジネス文書風の言葉が混じってしまうのは、ご愛敬というところだろう。これは、今後の調教の課題になりそうだ。SMらしい語彙を身に着けてもらうために、M奴隷らしい口調を暗記カードのまとめて、お渡ししようと考える。

「はい。あ、届いた。……今、画像開きますね」
「お願いします」

スマホで画像を確認すれば。ベッドのシーツの上に、アナルビーズ、ローション、おそらく乳首に着けるためのピンチ、オナニーホール、アナルプラグが、丁寧に並べられていた。
そして、画像の隅に、くしゃくしゃのシャツと、インナーが映りこんでいる。
偶然、映り込んだものなのか、それとも意図したものなのかはわからない。だが、降谷さんが、俺の言いつけ通りに服を脱いでいたことが明らかになり、俺は、いいようのない高揚感を覚えた。
こんなこと、知りたくもなかったが。なぜ、世のご主人様たちが、M奴隷の調教に夢中になるのか、少しだけ、わかった気がした。

「降谷さん……シャツとインナー……本当に、脱いだんですね」
「ああ。いや……はい。ご主人様の命令なので……」
「じゃあ、今日は、あいさつも上手にできましたし……服を脱いで……という、卑猥な命令もこなすことができましたし、そろそろ……」
「ひわい……?」

ああ、そうか。草野球の後の着替えであるとか。組み手の後のシャワーなど。俺たちは、お互いの下着姿や裸をある程度知っている。降谷さんは、特に恥じらいもなく、上を脱いだのかもしれない。
だが、これは、性的な主従関係に基づいた調教なのだ。ならば、えっちなことをしている自覚を持っていただかなければならない。

「そうです。卑猥です。……いいですか? 降谷さんは、今、俺に命令されて、おっぱい丸出しで、俺の調教を受けているんですよ」
「おっぱい……? いや、そうか……まあ……確かに、そうなるか……」
「だいたい、今目の前にある道具。スケベなおもちゃばかりじゃないですか? そんなにたくさん買い込んで……アナルビーズのことをやたら気にして……降谷さん、あなた、淫乱なんじゃないですか?」

普段の俺なら、上司に対して、こんなこと絶対に言わない。
しかし、自分の命令によって、降谷さんの服を脱がせたという体験が、俺の調子を狂わせた。
降谷さんも、部下からこんなことを言われるなんて、想像してなかったかもしれない。

「いや……だって、これは……その……調教で必要そうだったから、買っただけで」
「うん」
「別に……そういう、いん、らん……とか、そういうのとは違うから……」
「でも、降谷さん、最終的には、それを使って、M奴隷として、俺にオナニー報告とかするわけですよね?」
「そう、だけ……ど」

降谷さんの声が、どんどん小さくなっていく。
少し、性急だったかもしれない。
俺は、慌てて、ご主人様モードをひっこめた。

「すみません。淫乱はいいすぎました。まあ……無理せず行きましょう。道具を使うとか、オナニー報告とか……そのあたりは、絶対に必要なわけじゃないですから」
「え……?」
「……降谷さんが、ある程度、SMについて理解し。M奴隷らしい所作を身につければ、ひとまず、目標達成でしょう? そのあたりをクリアできてしまえば、そういった道具を使う前に、調教を切り上げても問題ないですし」
「……そう、だな」
「ええ」

俺は、手元に広げたリモート調教用の資料を整え、ファイルにしまった。

「今日は……もう、おしまいか?」
「……えーと。そうだな。……じゃあ、一つ宿題出しておきますかね」
「ああ……調教課題……というやつだな」
「よくご存じですね」
「まあ、僕も、自力でなんとかしようと……少しは、試したからな」
「なるほど。さすがは、降谷さんですね……」

そう言いながら、今の降谷さんにちょうど良い難易度の課題を考える。

「えーと、次の調教は三日後なので……」
「ああ」
「今日から、次の調教まで、毎日、寸止めオナニーをしてください」
「寸止め……?」
「……えっと、射精寸前で止めるってやつですね。うーん。それだと、ちょっと、難しいかな? ……じゃあ、毎晩、ペニスを半勃ちくらいまでさせて……でも、それ以上は、がまんでどうでしょう?」

いく寸前で、三日間はきついが。ゆるく勃たせた状態までで、オナニーを引き上げる……。
これくらいなら、どうにかなるんじゃないだろうか? なんなら、俺も、降谷さんにつき合って、同じ課題をやってみてもいい。

「え……っと、完全に勃起させてはだめなのか?」
「ん?」
「いや、あの……その、あ……なんでもない!」
「まあ、別に、完勃ちさせてもいいですけど。それで、射精できないと、結構、しんどいかなと思うので、ゆるく勃たせるくらいでいいですよ。……まあ、そのあたりは、ご自分で、調整してください」
「ああ、わかった……」
「じゃあ、そろそろ……」
「ああ。では……じゃないな……ご主人様、調教ありがとうございました」
「えーと……初日にしては、がんばれてたと思いますよ」
「はい」
「じゃあ、また、三日後」

電話を切り、伸びをする。
なんだか、すごく気をつかったし、すごく疲れた。こんな日は、さっさと寝るに限る。
俺は、洗面所で歯磨きをし、寝仕度を整え、ベッドの中に入った。

 

 

 

【あとがきなど】

くら寿司の、風降クリアファイルが、リモート調教にしか見えなくて……。
風降がリモート調教するとなったら、どうなるんだろうという妄想の産物がこれです。
ちなみに、このリモート調教は、業務なので。風見裕也は、堂々と職場のPCで調教関連の資料を作成していました。
うっかり、画面をのぞいてしまった、部下A君が、すげえ顔していたとかいないとか……。

あと、ベルモットは、バーボンのことを童貞だと思っているわけではなく。
disりのつもりで、「チェリーボーイ」と言ってます。
バーボン、特にそのあたりに、反応せず、サラッと流したので。
ベルモットは、バーボンがガチの童貞であることに気づいていません。

 

 

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