まったく #いいねの数だけkzmさんにまったくと言わせる

【#いいねの数だけkzmさんにまったくと言わせる】
twitterで12いいねをいただいたので。
風見さんに12回「まったく」と言わせました。
(13回言ってますが重複してるセリフがあるので12回とします)

【確認】
○「まったく……降谷さん○○がもう××ですよ?」的なニュアンスで「まったく」を使っています。
○SMちっくな雰囲気があります。ほんの少し。
○神聖な職場で性的なことをします
○降谷さんがセルフプレジャーをたしなみます
○降谷さんが潮らしきものを吹きます
○ 「見栄剥きをしない話」と、同じ世界線の二人ですが、どちらも、ストーリが全くないただのえろなので、繋がりらしいつながりはありません

※いわゆるなんでも、ゆるせる方向け!


 

別に急ぎの仕事ではなかった。
しかし、降谷さんが、キリのいいところまでやっていこうと言うから、それもそうだなと思って、オフィスに残った。明日は休みだし。仕事の後には、きっとご褒美がある。
三週間ぶりに恋人として過ごす夜。俺が仕事でがんばった分だけ、降谷さんもがんばってくれる。残業で焦らされた分は、あとでたっぷり、身体で返してもらおうと考え、俺は上機嫌で書類に取りかかった。

午後十時過ぎ。そこで、ちょうど一区切りがついた。
書類に決裁印を押す降谷さんに声をかけ、帰り支度を始める。

「風見、そこ、片付いたら、ちょっと。ついてきてもらえるか?」
「ええ、別に構いませんが……」

今、このフロアにいるのは、降谷さんと俺の二人きりだ。
だから、秘密の話があるにしても、ここですればいい。そう思いはしたが、何か考えがあってのことだろうから、疑問を口にすることはしなかった。
デスクの上を片付け終えると

「じゃあ、行くぞ」

と、降谷さんが言った。
鞄を持つべきかと少し迷ったが、降谷さんのジャケットが椅子にかかったままになっているのを見て、手ぶらのままその背中を追いかけた。

たどり着いた場所は空っぽの仮眠室。電気をつけようとスイッチに手を伸ばせば

「つけなくていい」

と、降谷さんが言う。
二段ベッドの前で、二人向き合う。少しの沈黙の後、降谷さんが俺に抱き着いて、首の後ろに手を回した。誰もいないとはいえ、ここは職場だ。制止しようとしたが、口をやわらかいものでふさがれてしまってはそうもいかない。
ちろちろと、唇を舐められる。俺は、降谷さんの肩に手を置き、彼の舌を捕まえた。
舌を絡ませたが、しかし、積極的に動かすことはせず。降谷さんがどうしたいのかを探る。
薄っぺらの舌が、俺の歯の裏をなぞった。おそるおそる、というような動きがかわいらしく、しばらくの間それを堪能した。
しかし

「ふ……はぁ」

キスの合間に漏れた、降谷さんの声がとても色っぽかったので、少し火がついてしまった。肩に置いた手で背中を撫でまわしながら、ねっっとりと、上あごの内側を舐めてやれば、降谷さんの腕に力が入るのが伝わってくる。
ワイシャツの後ろ身頃をさすりながら、時折、もっと下。ベルトの下の方までさわさわと撫でると、降谷さんの腰がゆらゆら揺れ始めた。
もともと感じやすい人だ。たったこれだけの行為でペニスが臨戦態勢になってしまったらしい。降谷さんは、硬くなったそれを俺の下腹部にこすりつけた。呼吸がどんどん乱れていく。
誰もいない仮眠室。ここならいいんじゃないか、と、そんな考えがよぎる。しかし、いいわけがない。
今日の仕事は片付いている。この時間なら、道は空いているだろうし、二十分もあれば、俺の部屋に着く。
そう思って、ぴたりとひっついた体を引き離そうとする。
しかし、降谷さんときたら……。
俺の下腹部でするオナニーが気持よくてやめられないのか。あるいは、キスをやめるのが寂しいのか、なかなか体をはがしてくれない。
仕方なく背中をさすっていた右腕で、形の整った鼻をキューっとつまみあげた。唇はキスでふさいだままだから、当然降谷さんは呼吸をすることができない。
頭の中で数字を数える。鼻をふさいでから、一分十五秒。降谷さんは、ようやく降参をした。
平常時なら、三分は息を止められる人が、その半分にも満たない時間で酸素を求めた。となれば、だいぶ切羽詰まっているのだろう。目には涙がいっぱいだ。そして、それは、今にもこぼれ落ちそうだった。

「降谷さん、ここ職場ですよ。どうしたんです?」
「……だって、キス、したかったから」

その言い方が、子どもみたいで、すごくかわいらしく感じられた。

「あなたねえ。キスするにしたって、こんな風にしたら、それだけで我慢できなくなっちゃうでしょう? 実際、チンコ硬くなってますし」
「……でも」
「うん」
「……声を出さずにすれば、誰にもばれないだろ」

その言葉を聞いて、降谷さんがなぜ、こんな行動に出たのかを悟った。

「降谷さん。もしかしてですけど……また、俺のタブレットの動画視聴履歴……確認しました?」
「……うん」
「では、数週前に俺が視聴した、”布団の中でサイレント凌辱シリーズ”をご覧になった……ということですか?」
「そう」
あのAVを見て、まさか本当に「声を出さなければばれない」と信じたわけではないだろう。
しかし、降谷さんは何事にも全力で取り組んでしまう人だ。恋人である俺との性行為に対しても、一切の手を抜かない。それはベッドを共にする時間だけではなく、それ以外の時間にも及んでいる。
その努力の一つに俺に対する嗜好調査というものがある。
降谷さんは定期的に俺がどんなAVを視聴するのか調査し(なんと、俺のタブレット端末は、そんな理由で恋人からのハッキングを受けている)俺の性癖や願望を把握する。そして、俺の欲求をすべて満たそうと試みるのだ。もちろん、男として、うれしくないわけがない。すごくうれしいし。その頑張りに応えてやりたいとも思う。
とはいえ、だ。AVとは男たちの叶わない夢を、映像という形にして再現したある種のファンタジーである。たしかに、声を出せない状況で……というシチュエーションには興奮を覚えるが、ここでセックスをするわけにはいかない。
“イヌ”の嗅覚は鋭い。
それに、たとえ、誰にもばれずに行為できたとしても。事後、降谷さんは、確実に、罪の意識にとらわれる。それがわかっている以上、この誘いには乗れない。

「まったく……降谷さん、いいですか? 声を我慢するの苦手なんですから、できるわけがないでしょう? すぐばれますよ?」
「……我慢の練習はした」

その言葉に、あきれを通り越して、ちょっと笑いそうになってしまった。めちゃくちゃ頭のいいはずの降谷さんは、俺とのセックスのことになると、がんばりが過ぎてしまうのか、時折、とても馬鹿みたいなことをしでかす。

「……我慢の練習、とおっしゃいますと?」
「……家で、おもちゃつかって……声出さないように……」
「おもちゃ……ですか。自分で買ったんです?」
「うん……ネットで」

我慢の練習をしたと言うが、降谷さんは人一倍感じやすい体質だ。今だって声がふるえているし、こころなしか呼吸も乱れている。おうちでどんなおもちゃを使って、どんな風に練習していたのかは知らないが、おそらくその時のことを思い出して、えっちな気分が加速してしまったのだろう。
手を伸ばして、降谷さんの胸元をさする。俺のせいで、降谷さんのそこは、すぐに勃起する。真っ暗な部屋。コリっとした感触を右手の小指で探し当てる。

「……ん」

ギューッとつまめば

「あ……あ……んんー……っ」

降谷さんは、甘くかわいらしい声で泣く。

「降谷さん、声。……練習の成果、全然出てないじゃないですか? まったく……。こんなんじゃ、すぐにばれちゃいますよ。……とにかく、ここでするのはだめです。さっさと帰りますよ。俺の家のベッドでちゃんと可愛がってあげますから……。いいですか? 今後は、職場で……なんて、変なことを考えないでくださいね」
「や……風見、そこ……離して……」
「ここでセックスしようとしていたのに、乳首摘ままれるだけで弱音を吐いちゃうんです?」
「やだ……ここで、しようとして、たとか、言うな」

シチュエーションのせいもあってか、いつもより感度がいい。
もう少しだけいじめておこうか……と思ったが。
降谷さんの反応は想像以上だ。あまりいじめ過ぎると、駐車場までの移動も難儀するようになるだろう。あまり意識しないようにしていたが、俺のチンコもきざし始めている。
俺は降谷さんの乳首を解放し、その腕をひっつかんで、仮眠室を後にした。

俺の部屋のベッドに腰を掛け、降谷さんは、切なそうな顔をしている。
仮眠室を出てから、俺達はずっと無言だった。おしゃべりが大好きな二人だ。いつもは帰りの車の中、静かになる時間が一秒もないというくらいに、いろんなことをしゃべり通すのに、今日は二人ともしゃべらなかった。

「降谷さん、上着とスラックス」
「うん」

のそのそと立ち上がり、降谷さんがジャケットを脱いだ。それをハンガーにかける。
カチャカチャと、ベルトが外れる音。ズボンが床に落ちる衣擦れの音。降谷さんからズボンを受け取り、ついでに、ネクタイの結び目をほどいてやる。

「シャツは、それ、後で洗濯機で回せばいいですかね?」
「うん」

降谷さんのスーツを、ハンガーにかけ終えて、俺はようやく自分の服を脱ぎ始めた。熱い視線を感じる。降谷さんが、俺の方をじっと見ていた。ボクサーパンツと靴下をはいただけの中途半端な状態でベッドの端にちょこんと座っているのがかわいらしい。

「降谷さん、俺が服脱ぐの見るの楽しいです?」
「うん」
「……さっきから、うん、しか言わないですね」

そうやってからかえば、靴下を脱ぎながら、降谷さんが言った。

「……ちょっと反省しているんだ」
「反省?」
「うん」
「え……なにか、反省するようなことありましたっけ?」

シャツとインナーを脱ぎ捨て、パンイチになり、二人分のスーツに、ファブリックスプレーをふきかける。

「職場で、そういうことを……しようとした」
「え……降谷さん。あれ、本気でしようとしてたんですか?」
「……うん」

照明を少し暗くし、降谷さんの隣に座る。

「職場で、やらしいこと……してみたかったんです?」
「……別に」
「したかったんです?」
「そういうわけじゃ……」
「したかったんですよね?降谷さん、俺に、職場の仮眠室で抱かれたかったから、あそこで、あんなキスをしかけてきたんでしょ?」

形のきれいな唇。それを、親指でなぞる。

「かざみ……」

降谷さんが、首をかしげて目をつむった。
キスをしてほしいんだろう。

「降谷さん」
「ん……」
「まったく。キスでごまかそうとしても無駄ですよ。降谷さん、本当は、あそこでセックスしたかったんですよね?」

キラキラのまつげで縁取られたまぶた。それが、ぱちりと開いて視線がぶつかる。

「……そんなことは、ない」

自信ありげな降谷さんは、どこに行ってしまったんだろう。弱弱しい声がかわいらしい。

「だって、おうちで、声を出さない練習までしたんですよね?」
「……それは」
「しなかったの?」
「した、けど」
「そうですよね。ネットでオナニー用のえっちなおもちゃ買ったって言ってましたもんね」
「……うん」

これだけの会話で、もう呼吸が荒くなっている。
降谷さんはつい半年ほど前まで、性に関する知識が男子中学生をさらに下回っていた。そして、気持ちいいことに対する好奇心を持ち始めたのもつい最近であり、つまり、今現在、遅く来た思春期のような状況にあるのだ。
俺にも心当たりがある。盛りのついたあの頃。
放課後の教室とか部室とか。立ち入り禁止の階段の踊り場、プールの更衣室、体育館倉庫。そういう場所でやってみたいという憧れは、確かに俺の中にもあった。
だから、嗜好調査の際に見たサイレント凌辱物のAVによって、降谷さんがそういう欲求を持ってしまっても仕方のないことだと思う。

「降谷さん、職場でえっちなことしてみたかったんですよね?」
「……わかんない」
「うーん。でも、降谷さんが、本当に声を我慢できるなら……俺もやってみていいかなって気がしてきました」
「え……?」
「声を我慢すれば、ばれないですよ。……今日は、降谷さんが、本当に声を我慢できるのか、俺がテストをしてあげます。そうすれば、降谷さんのがんばりも無駄になりませんし……」

眼鏡を外し、降谷さんの肩を抱く。
さきほどの仮眠室の時よりも激しく、降谷さんが俺の唇に食らいついた。今度は俺も最初から、降谷さんの口腔内で舌を暴れさせた。唾液がべちゃべちゃにあふれて、いくらすすり上げても、追いつかない。やがて、降谷さんの口の端から、どちらのものとも知れぬよだれが滴り落ちる。
手のひら全体を使って、胸のあたりをまさぐる。そして、ベッドに、降谷さんを押し倒した。
ちゅっ、ちゅっと、軽めのキスを施し、いったん降谷さんから離れる。

「降谷さん……あの動画、視聴履歴を確認しただけではなく、中も確認したんですか?」
「……うん」
「じゃあ、映像の中でどういう風にやってたか覚えてます?」
「……お布団をかぶって、その中で……声を我慢しながら」
「そうですね。じゃあ、いまから、ここを、さっきの仮眠室だと思って、布団をかぶってえっちをしますよ」

二人で布団をかぶる。
俺の部屋のベッドはダブルで。だから、布団に入れば、すっぽり二人の体を隠すことができる。
仮眠室のシングルの掛布団を思い出す。平均身長を大きく上回る男が二人。俺達の体はたぶん布団からはみ出るから、その時点で、AVのようにはいかないだろう。そのことに気がついて、俺は、少し笑ってしまった。
なぜ俺が笑うのかわからない降谷さんは、きっと、からかわれていると思ったんだろう。体をうつぶせにすると顔を枕に押しつけてふてくされた。

「じゃあ、しましょうか」
「……うん」

枕越しに聞こえるくぐもった声。

「とりあえず、一回、いきましょうかね? 降谷さん、緊張しちゃうとここ閉じちゃって、なかなか入らなくなっちゃうから……一度ね。いって、それで体の力を抜きましょう」

耳元でささやくと、降谷さんは微かに体を震わせたが、なにも答えなかった。声の我慢はすでに始まっているのかもしれない。
セックスの良しあしは、頭の良しあしできまるという言葉を聞いたことがある。
降谷さんと関係を持つようになり、俺はその言葉の意味をしみじみ理解した。過去に関係を持った女性と比較して、降谷さんは群を抜いてオツムの出来がいい。
どうしたら自分が一番気持ちよくなれるのか。どうしたら相手の気持ちを盛り上げることができるか。降谷さんはいつだって、俺が考えた以上の最善策を出してくる。それが無意識なのか、あるいは、それなりに意識してのことかはわからない。しかし、とにかく、降谷さんとするセックスは「イイ」のだ。
職場の仮眠室に、アナルセックス用のローションを備え付けているわけがないのだが、男同士のセックスにはどうしたってこれが必要だ。ローションを準備する。それから、スマホを少しだけ操作し、画面を伏せて置きなおした。
俺は、布団の中にもぐると、降谷さんのパンツをずるずると腿のあたりまで脱がしてやった。
手の感覚を頼りに、ローションを降谷さんのケツに垂らす。ひんやりとした感触にびっくりしたのか、降谷さんがもぞっと、身をよじらせた。ボトルにふたをしベッドの下に転がす。
降谷さんの尻に手を添えると、ぬるぬるとしたものがまとわりついてくる。手を滑らせながら、ケツ全体をまんべんなく撫でまわせば、もどかしさを感じたのか、降谷さんが腰をもぞもぞさせた。人差し指をするするっと。臀裂に沿って、上から下に滑らせる。「ふ……ふぁあ」と、吐き出す息は悩ましい。
アナルに指を添え、ふちを軽く押してやる。「ん……んん」と、降谷さんが必死に声をこらえる。ゆっくりと、指を挿し入れればそれは、あり得ないほどのスムーズさで中に入っていった。

「……降谷さん、どうして、ここほぐれてるんですか?」

考えられる理由は一つしかない。

「……ほぐれてない」

降谷さんはシラを切ろうとした。

「でも……」

俺は、降谷さんの中から人差し指を引き抜くと、続けざまに三本の指をいっぺんに、ぶち込んだ。

「あ……あっぁんんんぅ」

枕に口元を押しつけながら、降谷さんが、腰をゆらゆら揺らした。

「三本入るのは、おかしいですよね? これ、どこで準備したんですか?」

降谷さんは答えない。指の腹で、内壁を探る。この半年で何度も繰り返してきた行為。すぐさま降谷さんのいいところを探し当て、つつつつつ……と小刻みなリズムで刺激を加えた。

「ねえ、降谷さん……ここ。いつ、どこで準備したんですか?」
「……んぅ……あ……家、出る前に……自分、で……」
「ふーん……。でも、朝準備して、夜のこの時間まで、ここがトロトロってのは変ですよね?」

前立腺に指の腹をぐいっと食い込ませる。

「いやぁあっ……あああ」
「降谷さん、声が大きいですよ。あの仮眠室だったら、廊下の人にも聞こえちゃってます」
「ん……ごめんなさい……あ、でも、つよ、い……かざみ、それ、しげ、きが強すぎる」
「まったく。あなたが、すぐばれるような嘘をつくのがいけないんでしょう? 本当はどこで、ほぐしたんです? 正直に言わないと、これやめませんよ?」

ぐにぐにと、ぷっくりとしたしこりを、いじめ続ければ

「ああ……あー……んん、あ、あっあ……」

降谷さんは、枕越しにもわかるくらいの声で喘ぎだした。

「ああ、そっか、降谷さんはえっちだから、これ、ずっとしてほしくて、本当のことを言わないんですね。まったく……いつから、こんな淫乱になっちゃったんでしょうね」
「ちが……ぼく…いう、から……ちゃんと、言うから……強すぎるの……やだ、だめ……」
「はい、じゃあ、どこで準備したんです?」
「……トイレ…あっ……んん」

俺は思い出す。
きりのいいところまで仕事を進めると決めた後、降谷さんが「ちょっとだけ警察庁の方に顔を出してくる」と言って席を立った。それから数十分戻ってこなかったから、たぶん、あの時に準備を済ませたのだろう。残業を提案したのも、おそらくアナルをほぐすためだ。
俺は、降谷さんの中から指を引き抜き、すべらかな尻をゆっくり撫でまわした。

「ふ……っふぅ……ふ」
「降谷警部。仮眠室での一件を総合的に判断すると、どうやら計画性が認めらるようです」

衝動ではなく、計画性を伴う悪質な犯行。

「まったく……トイレって。もちろん、職場のトイレですよね? どうするつもりだったんです? トイレでアナニーしてるのが見つかったら……。場合によっては私生活上の不祥事で誡告処分になりかねませんよ?」

降谷さんは、部下である俺から、こういうことを言われると、たまらなく恥ずかしくなってしまうらしい。恥じらいと性感は、密接に関係する。

「あ……っ……でも……あんま……みんなが、つかってな……い、とこでやったから……」

ローションでぬめった手で尻を撫でまわしているだけなのに、降谷さんの声は、とても甘やかだ。

「本当ですか? 信用できませんね。仮眠室でセックスしたがる人ですからね……本当は、トイレでも、人にばれちゃうかもしれないスリルを楽しんでたんじゃないですか?」
「そんな……ぼく……そんな恥ずかしいこと、してなっい……」

必死で反論するさまがかわいらしい。
計算なのか、無意識なのか。俺は降谷さんのことを、もっと、たくさんいじめたくなる。

「ふーん。まあ、いいですけどね。……で、降谷さんは、トイレで準備をして、射精はしたんですか?」
「はあ?!」
「いや、だって、三本も指が入るようになってたんですよ。降谷さん、俺がここの準備をしてあげると、すぐに、ぴゅるぴゅると精液出しちゃうじゃないですか?」

つぷっと、指を二本突き刺し、ゆるゆると出し入れする。

「あ……っあ……指……だめ……っ」
「声が大きいですよ。まったく……なにが声を我慢する練習をしたですか。で、射精したの? しなかったの? どっちなんです?」
「あ……んん……して、ない……」
「ふーん……でも……」

下腹のわきから、空いた方の手を滑り込ませる。
そして、シーツと腹の間で窮屈そうにしている、降谷さんの性器をやわやわと握る。

「ここ、ぬめぬめになってますよ? すごいですね……シーツがべちゃべちゃだ。これ、我慢汁? もしかして、もうザーメン出ちゃってる?」

前をそっとさすってやる。ぬちぬちと、何らかの粘液が指に絡まる。

「や……や……ああ……あー……んんんん、それだめ……」
「ね、降谷さん、後ろの穴ゆるゆるするだけで、こうなっちゃうわけですし。前を少し触れば、こうですよね?」
「ああ……や、や、ゃ……やあぁ」
「ねえ、教えてください。職場のトイレで射精したんですか?」
「なん……ッで……やだやだ、はずかし……そんな……ゃ」

その反応で、答えは大体わかってしまった。
きっと、出したんだと思う。
降谷さんは「職場で、そういうことを……しようとした」から反省していると言ったが「しようとした」のではなく、おそらくは実際に「した」のだ。
まあ、俺も、あの仮眠室で降谷さんのキスを受け入れ、勃起乳首をつまみ上げたわけだから、同様の過ちを犯している。しかし、程度が違う。

「どうして、恥ずかしいんです? 射精してないなら、出してないって言えばいいだけでしょう?」
「ゃ……ぁあ……ごめんなさぃ……」
「ごめんなさい……? はー……。あーあ。……まったく。降谷さんともあろう方が……やっぱり、職場のトイレでアナルいじった上に、チンコこすって射精しちゃったんですね?」
「……ごめんっ……なさ……」

ずずっと、鼻をすするような音が聞こえる。枕に隠れて見えないが、どうも、恥ずかしさと罪悪感で、涙をこらえきれなくなったらしい。
恥ずかしがる降谷さんが、かわいらしくて、ついついやりすぎてしまった。気持ちよさのスパイスになる程度の恥ずかしさと罪悪感はありだが、泣くまで追い詰めるつもりはない。

「あー……降谷さんごめんなさい」

降谷さんの中から指を引き抜く。そして、降谷さんの体を抱えるようにして寝返りを打たせる。
泣き顔を見られたくないのだろうか。あるいは、仮眠室の設定を、それでも忠実に守り抜こうとしているのかもしれない。
降谷さんは掛け布団をかぶったまま、めそめそと涙を流した。

「……でも……僕がわるい……のだし」

降谷さんの体を抱き寄せる。

「降谷さんは、まだ、えっちなことに目覚めてから、半年やそこらです。俺は、まあ、人生の半分以上は、そういうことと慣れ親しんで生きてきました。みんなね、まあ、仮に、十五歳とかそのあたりで性に目覚めたとして。それから、ハタチになるくらいまで……仲間と情報交換したり、恥ずかしい失敗したり……夢中になりすぎて大学の授業さぼったり……そういうことを経て、ようやく、性との付き合い方をなんとなく理解してくるわけです」
「うん……」

前髪をかき上げて、おでこを撫でてやる。

「だから、降谷さんがそういう、えっちなことをしてしまったのは……仕方がないことではあるんです」
「……本当に?」
「ええ。思春期の頃って、そういうのありますから。そうだな……仮眠室で、降谷さんが誘惑したのが、三十歳の俺じゃなくて、十五歳の俺だったら、まあ、まず間違いなくやってましたね」
「……そう」
「降谷さん、ちょっと想像しました?」
「……なにを?」
「十五歳の俺に、ガン突きされて、ナカ出しされちゃうの」
「……馬鹿。そんなの、するわけがない」

降谷さんの声色が、徐々にいつも通りに戻ってくる。

「でもね、降谷さん……。なにか試したくなったら、ちゃんと俺に言ってください。職場のトイレでオナニーしてるの……誰かに声を聴かれるだけならいいけど……いや、よくないんですけども。それも。でも、録音されちゃったりとか……あと、ドアぶち破られて犯されでもしたら……ね? 俺、ちょっと、そういうの耐えらんないから」

ぎゅうっと、腕に力を込めて、二十九歳の青年の体を抱きしめる。
うっすら汗ばんだ肌が、しっとりと、俺の胸に吸い付く。

「風見……いくら、えっちなことをして、平常心を失ってたとしても、僕がそんな失態を犯すはずがないだろう?」
「ええ、そのはずなんですけどね」

俺は、掛け布団をはがすと、ベッドサイドに手を伸ばし、手探りで携帯を手繰り寄せた。
ロックを解除し、アプリを操作する。そして、降谷さんの耳に押し当てる。

『ねえ、降谷さん……ここ。いつ、どこで準備したんですか?』
『……んぅ……あ……家、出る前に……自分、で……』

「や……だ、風見……これ」

降谷さんが、俺のスマホを押しのけようと暴れる。それを脚と腕で抑え込んむ。

『ふーん……。でも、朝準備して、夜のこの時間まで、ここがトロトロってのは変ですよね?』
『いやぁあっ……あああ』
『降谷さん、声が大きいですよ。あの仮眠室だったら、廊下の人にも聞こえちゃってます』
『ん……ごめんなさい……あ、でも、つよ、い……かざみ、それ、しげ、きが強すぎる』

「降谷さんね……えっちなことをしたり、考えてる時のあなたは、結構隙だらけなんですよ? いつものあなただったら、気づくはずでしょ? 俺が、スマホの録音アプリを立ち上げたことくらい」
「や……やだ、声、恥ずかしい……聞きたくない……」
「降谷さん、自分では、声を一生懸命我慢してるつもりなんでしょうけど……実際は、全然、声、抑えられてないんですよ……」

再び泣き出しそうになった気配を察知し、俺は、スマホのボイレコアプリを終了させた。

「ひどい……録音するなんて」
「恋人のタブレットをハッキングして、AVの視聴履歴を確認する人に言われても、ぜんぜん響きません」
「そう……だけど。それは、君が対策しないのが悪い」
「いや……セキュリティ対策したところで、降谷さん、そのプログラムの穴を見つけて侵入してきますよね?」
「……まあ」
「仕事ならまだしも……俺は、恋人との間で、そんな不毛ないたちごっこはしたくないです。まあ、というわけで、俺が録音したことに気づかなかった降谷さんの手落ちです」

降谷さんは何も言い返さなかった。

「……少し特殊なプレイをお望みなら、俺にちゃんと相談してほしいんです」
「相談……?」
「ええ。……まあ、声を我慢しながら仮眠室の布団の中でセックスをすることに関しては、大変刺激的だし、興奮すると思うんですが、とにかくリスクが多い」
「……うん」
「ですから、刺激という意味では少しマイルドになってしまいますが、リスクを減らした状態で、類似のプレイをすればいいわけです」

我ながら妙な説明をしているなと思う。
しかし、俺の話を真剣に聞いている降谷さんは、たぶん今夜。普通のセックスでは満足できないだろう。

「例えば、ですね」

俺はベッドから抜け出し、バルコニーに面した掃き出し窓をがらがらっと、全開にして見せた。
ついで、遮音カーテンを開き、レースカーテンのみを残す。

「さすがに、ちょっとした喘ぎ声であれば、外の人や近所の人に聞こえることはないと思いますけど。降谷さんが、いつもと同じくらいの声を出したら……たぶん、外まで響いちゃいますね」
「え……窓を開けたままするのか?」
「ええ。この時期なら、窓を開けても寒くないですし」
「……さっきみたいに、お布団をかぶって?」
「……まあ、かぶった方が防音効果高いでしょうね……」

降谷さんは、布団の中で体をもぞもぞさせた。
実のところ仮眠室とかはどうでもよく、布団の中でねっとりと抱かれるAV女優をうらやましく思ったのかもしれない。

「お布団の中で、音が出ないようにするセックス……してみましょうか」
「……まあ、君がしたいなら、つき合ってあげてもいい」

そう言うと、降谷さんは、掛け布団の中に隠れてしまった。

(まったく、素直じゃないんだから)

俺は、パンツを脱ぎ捨て、そろそろと布団の中に入り、降谷さんの体に触れた。

 

 

『AVはファンタジーですからね。それを見たからと言って、映像の中で行われていることを実際にやってみたいかと言えば、そういうわけではないんです』

風見はそう言ったけれど、そんなことはないと思う。
パンストを破くAVの視聴履歴を確認した直後にした性行為。僕が通販で買ったストッキングを履いて行為に臨めば、風見は、今までで一番多く吐精した。
パンストに、絡みついた風見の大量の精液。それを見て、僕もつられて興奮してしまい。その日は、時間が許す限り、えっちなことをしまくった。
視聴履歴から風見の性癖を想像して、準備をする。
僕たちは、互いに、いろいろな仕事を抱えていて。頻繁に性行為の時間を設けられるわけではない。だから、空白の時間。僕は、風見との性交に向け入念な準備をすることで、自身の欲を満たしていた。
AVはファンタジーだから、実際にそれをしたいわけではないと風見は言ったけれど。そんなことはないと僕は思う。
十九日前に風見が視聴したAV。それも、シリーズ物を立て続けで何本か。
誰かにばれてしまうかもしれない状況下で、布団の中に隠れて性行為をするというコンセプトのそれを見て、僕はなぜだかとてもときめいてしまった。
初めての性交渉が、受け入れる側だったせいだからかもしれないが、僕は、そういった映像を観る際、どうしても、女性側に感情移入してしまう。風見にこれをされたらどうしよう……とか、風見は僕にこういうことをしたいのかなとか。そういうことを考えると、とたんに体に火がついて、すごく、えっちな気分になる。
僕の恋人である風見裕也は、とても、セクシーな声をしている。二人きりの時間、そういったニュアンスをこめて、耳元でささやかれると、僕はそれだけで、えっちをしたくなってしまう。
風見は基本的には優しいのだけれど、セクシュアルなことをするときは、結構意地悪だ。痛いことをしてくることはないけれど(乳首を強くかまれることはあるけれど、じんじんとしびれるのが気持ちよくて、最終的には痛みより快楽が上回ってしまう)、僕が恥ずかしくなるようなことをたくさんしてくる。
恥ずかしいのは嫌だと思う。だけど、恥ずかしがる僕を見て、目の奥をギラッと輝かせる風見のその表情が大好きで。だから、つい。彼の誘導に乗って、恥ずかしいことを言ったりしたりしてしまう。

そのAV男優は、風見と声が少し似ていた。僕は映像に釘付けになった。布団の中で、女の子に、声を我慢しなきゃダメだと囁きながら、しかし、手の動きは容赦がない。
布団の中で、熱い息を肌で感じながら、耳元で

『声を我慢して? みんな起きちゃうよ』

風見のあの声でささやかれたら、僕はたぶん、それだけですごく気持ちがよくなってしまうだろう。
AVと同じことがしたいわけじゃないと風見は言ったけれど、そんなことはないと思う。実際、僕はそれをしてみたかったし。その晩は布団をかぶり、風見の声を思い出しながら、自慰にふけった。

小さなバイブを買ったのは、より、リアルに「我慢させられている感じ」を体験したかったからだ。
僕にとって、性交渉をしたことのある人間は、風見裕也その人だけだ。
抱く方の経験がないままに、抱かれる側を知ってしまった僕は、排泄器官であるはずの場所を刺激される気持ちよさを知っている。風見は、僕の男性器のこともかわいがってはくれるけれど、どちらかと言えば、後ろを触るのが好きらしい。僕が恥ずかしがるからかもしれない。そして、後ろをされると、わけがわからなくなって、風見に言われるがままに、とても恥ずかしいことを言ってしまう。
愛犬が寝静まった夜。
僕は、お布団をかぶり、バイブに電源を入れた。アナルは、お風呂に入ったときに、ほぐしてあった。だから、それは、すんなりと中に入ってしまう。風見のものではないけれど、風見にそれを挿入されているのだと想像する。

『降谷さん、声、ちゃんと我慢してくださいね』
『バイブのモーターの音、案外すごいね……音で、みんなにばれちゃうかな?』

もともとのAVでは、社員旅行の旅館が舞台で。隣に同僚が寝ている中、性行為をしてしまうというストーリーなのだが。公安部に、慰安旅行なんてものはない。だから、僕は、自分自身も何度か利用したことのある場所。警視庁公安部の仮眠室の二段ベッドの中で、風見に抱かれることを妄想した。

そして、その晩。
僕は初めて、声を我慢したまま絶頂を得ることに成功する。

えっちなキスをして、それから、僕がしてほしそうにすれば。風見は、いつも応じてくれる。

本当は、今日でなくてもいい仕事を、今日中に済ませてしまおうと提案した。彼は、僕の従順な部下だから、その提案に逆らうことはない。
それから、警察庁おとなりに用事があるふりをして席を立った。そして、使用頻度の少ない会議室近くのトイレに入る。
職場で、こんなことをしてしまう罪悪感はあった。だけど、僕はかれこれ二週間以上、仮眠室で風見に抱かれることを想像しながらの自慰を繰り返してきた。
トイレであれば、個室になっている分、仮眠室よりも見つかるリスクは低い。なにより、ここで性器を露出させること自体には問題がない。ドラッグストアで売っている浣腸液。これを使用することはどうだろうか。アウトのような気もするが、排泄を促すためと説明すれば、まあ、セーフだろう。
使用する人間が少ないとはいえ、だれが来てもおかしくない状況。僕は、風見が一緒だったら、どんなことを言うだろうとか、そんなことを想像し、準備を行った。そして、彼の声を思い浮かべてしまったがゆえにペニスを硬くした。
『そういう時は、別のこと考えて気をそらすとおさまりますよ』と風見は言っていたが、僕は今のところ、それに成功したことがない。別のことを考えようとすればするほど、えっちなことを考えてしまって、余計に事態を悪くする。風見いわく、僕の体は敏感な方であるらしくて、少しこすればすぐに射精できてしまうから、効率を重視すれば気をそらすよりも自慰行為を選ぶことになる。
トイレで浣腸をし、アナルにローションをなじませてぐずぐずにほぐすという作業をしていた僕だが、さすがに、射精には抵抗があった。匂いなどの問題もあるし。自分が吐き出した白い粘液を見て、落胆せずにやり過ごす自信がない。
風見が言う『賢者タイム』というやつかもしれない。僕はきっと情けない気持ちになるだろうし。そういう気分のまま、風見をうまく行為に誘える自信がない。
だけど、その時、ばたんと誰かがトイレに入ってきて。そして、どこかの個室が埋まった。
ガチャガチャとベルトが外れる音。生々しい男性の息遣い。

「はぁはぁ……あー……」

なにをしているのかが、ありありと伝わってくる。
ここは、夜間、使用されることがあまりないトイレだ。そして、警視庁の職員はみな忙しい日々を送っている。
もしかしたら僕が知らないだけで、ここは、自己処理をするのに最適な場所として、それなりに認知されているのかもしれない。知らない男のうめき声。布がこすれる音が聞こえてくる。
僕はしばらく黙っていた。だけど、他にもこういうことをしている職員がいるのだということが、僕を変に勇気づけた。それに、ここ最近の布団の中の自慰行為で、僕は声を出さずに射精することを覚えた。
おそるおそる、ペニスを右手で包み込む。なんだか、いつもより気持ちいい気がした。
向こうの声がこちらに聴こえているんだから、僕も多少声を漏らしてしまっても大丈夫かもしれない。そういう気のゆるみがあって。少しだけ、喘ぎ声をこぼしてしまった。
先に達したのはおそらく僕だ。けれど、向こうの男も、随分と速かった。呼吸を整えながら、ぼんやりしていると、バタンと奥の扉があけはなたれ、水道を使う音が聞こえた。それから

「お先に」

とドア越しに声をかけられ、身体がビクンと跳ねた。
僕は慌てて、衣服を整え、それから、アナルセックスの準備に使った消耗品をビニール袋で三重にして閉じた。そして、周囲をよく確認したのち、トイレを離れ、庁舎内にあるゴミ一の時保管庫に向かった。
保管庫には、ゴミ袋が山積みになっている。僕は、シュレッターのゴミでいっぱいになった45リットルのゴミ袋を手に取ると、そこに自分のゴミを紛れ込ませた。ここまですれば、アナル洗浄の残骸が人目に触れることはないはずだ。

書類に目を通し、決済印を押しながら。一秒でも早く、風見の仕事にキリがつくことを願った。
一度出したはずなのに。僕のペニスは早くも芯を持ち始めている。なにより、おなかの空白は、愛しい人の熱を欲しがって、かすかな蠕動を繰り返していた。
はやく、ここを、風見のもので満たしてほしい。
だけど「キリのいいところまで」と提案したのは僕だから。仕事なんて投げ出して、セックスしようなんてこと、いくらなんでも言えるわけがなかった。
僕はきっと、険しい顔つきになっているだろう。書類を隅から隅まで確認して。ポンっと判をつく。
それから、午後十時を過ぎたころ。

「よし、終わったー!」

と、伸びをした風見の背中に、僕は抱き着いてしまいたかった。
だけど、平静を装うって

「風見、そこ、片付いたら、ちょっと。ついてきてもらえるか?」

と、声をかける。彼は従順な男だから、すんなり僕に従う。

「ええ、別に構いませんが……」

デスクが片付いたのを見届け

「じゃあ、行くぞ」

風見を連れ仮眠室に向かう。
布団の中で。妄想の中で。僕は、風見に何度も何度も、ここで抱かれてきた。

――だけど、実際の風見は、仮眠室で僕を抱かなかった。

「……声を出さずにすれば、誰にもばれないだろ」

と言えば

「降谷さん。もしかしてですけど……また、俺のタブレットの動画鑑賞履歴……確認しました?」

なんて、面白みのない答えが返ってくる。
えっちなことでいっぱいだった頭が、ほんの少し冷静になってくる。もしかして、僕はとんでもないことをしようと……いや、してしまったのではないだろうか?
胸をいじめられながら

「降谷さん、声。……練習の成果、全然出てないじゃないですか? まったく……。とにかく、ここでするのはだめです。さっさと帰りますよ。俺の家のベッドでちゃんと可愛がってあげますから……。いいですか? 今後は、職場で……なんて、変なことを考えないでください」

と、ささやかれれば。気持ちよさとみじめさで、胸がいっぱいになった。

「や……風見、そこ……離して……」
「ここでセックスしようとしていたのに、乳首摘ままれるだけで弱音を吐いちゃうんです?」

職場でセックスしようとしていたことを揶揄され。それなのに、摘ままれた、胸のしこりが気持よくて。僕はどうしたらいいのか、わからなかった。

風見はベッドの上で、ずいぶんと執拗な取り調べを行った。
黙秘権を行使しようとすれば、性感を高められ、あげく尊厳を揺さぶるような、そんな言葉を投げかけてくる。
体の触れ方はともかくとして。言葉のかけ方。そういえば風見は、あれでいて参考人の口を割らせるのが上手だ。風見の取り調べを受けた者たちはみな、このように、執拗に責め立てられたのだろうか。そんなことを考えながら、僕は、カイシャのトイレでアナルセックスの準備をしたことを自白し。射精したかいなかについて、強引な誘導尋問を受た。
恥ずかしさと情けなさ。そして、なによりも、こんなことを通して感じてしまっている自分と、どう向き合ったらいいのかわからなかった。罪悪感のようなもの。黒く、重く、どんよりしたなにかが。水あめみたいにどろどろと、胸の中を降りていく。

「……ごめんっ……なさ……」

僕は涙をこらえることができなかった。

「あー……降谷さんごめんなさい」

風見の指が引き抜かれる。そして、布団の中で抱き寄せられた。二十九歳なのに。性的な意味で非常に未熟な僕を、風見は決して馬鹿にしない。先ほどまでの、尋問口調が嘘のようにやさしく。僕に性的好奇心との付き合い方について教えてくれる。
けれど、僕の喘ぎ声を録音した音声を聞かせながらの説教なんてのもあって。やっぱり風見って意地悪だなあと思う。

でも、最終的には、安全に刺激的なえっちをする方法を提案してくれて。僕は布団にもぐって、風見に気持ちよくしてもらうのを待った。

 

 

布団の中にもぐれば、降谷さんが、早くも、ふーふーと呼吸を荒くしていた。
とても興奮しているらしい。それを指摘して「もうスイッチ入っちゃったんですか」などと、囁いてやりたい気持ちもあったが、先ほど泣かせてしまった反省もあり、ここは慎重に、やさしく下腹などを撫でてみる。
ほんの少しのぬかるみ。手の甲に、硬いものが当たる。
先ほどまで、あんなふうに、泣いていたのに。もうその気になってしまっている切り替えの速さに。仕事中の降谷さんを思い出して、ほんの少しうれしくなった。切れ者の降谷零も。えっちが大好きな降谷零も。ちゃんと、地続きでつながっているのだ。

「降谷さん」

と、耳元で囁けば、びくりと、体がふるえる。
チンコを軽くさすってやる。

「俺、今日はだいぶ、えらそうなこと言ってますけど。俺も、ほんの少しだけ、仮眠室であなたを抱いてみたいとか考えました」
「……や……あ……君も……たいがい……すけべだな」
「ええ。ですからね。まあ、窓開けてるだけでも、だいぶ、刺激的ですけど。どうせならここを仮眠室に見立ててセックスしませんか?」
「え……っ? ……ぁあ……やだ……あ……こすっちゃだめ……」
「やだ?」
「わかんな……っ」

職場の仮眠室から、今に至るまで、中途半端に気持ちよくさせながらも、射精をゆるしていなかった。だから、降谷さんは、ちょっと触られただけで、達してしまいそうなのだろう。

「降谷さん……声出さずに、イけます? ここ、仮眠室ですからね……いつもみたいに、大きい声出しちゃったら、みんな起きちゃいますよ」
「ん……あ……あっふう……ふっんん」

一生懸命我慢しているのに、声が漏れてしまうのがかわいらしい。

「枕使う? それとも手で、お口をふさいであげましょうか?」

そう言って、口元を空いた方の手のひらで覆ったら。

「んんんーっふ……ぁ」

降谷さんの体が跳ねて、俺の手を熱い液体で汚した。
精液でべとついた手で、乳首をひねり上げれば、射精したばかりの降谷さんは、身をよじらせて、その刺激から逃れようとした。

「声……上手に我慢できましたね。いつもみたいに、大きな声出したら、お布団の中でも、えっちなことしてるのがばれちゃいますもんね」
「うん……ぁぁん」

精液を乳首にすりこんでやる。

「ぁ……ゃ……ぅぅぅぅ……んんん」

必死で声を我慢する降谷さんがかわいくて、爪の先で先端をひっかけば、ほんの少し、声のボリュームが大きくなる。

「降谷さん、声」
「ん……ん……ぅふー……ふっ」
「ね? 一回イッたし。いれてもいい?」

耳元でたずねれば、暗くてよく見えないが、どうやらこくこくと首を縦に振ったらしかった。
俺は、無言で降谷さんに体を重ね、自身の性器をそこにあてがった。
ずっと、じらされてきたからなのか。声を我慢するもどかしさなのか。布団の中というシチュエーションがそうさせるのか。ツンツンと、チンコの先でアナルをつついただけなのに、降谷さんはもう、えっちな声をこぼし始める。

「ん……んん」
「降谷さん、声……。これじゃあ、挿入できないですよ?」
「ぁ……ゃ……ぃれて……ほしぃ」
「さっき、指を入れただけでも、あれだけ、えっちな声出してたでしょ? チンコなんか入れたら、叫んじゃうんじゃないですか? 本当に我慢できます?」
「する……するから……ちゃんと、声……我慢するぅ……」

我ながら、喘ぎ声は我慢しろと言いつつ、言葉責めはやめない矛盾に笑いそうになるが。その矛盾に打ち勝った時、はじめてイメプレは成就するのだ。だから、俺は、降谷さんを言葉でいじめ続ける。

「じゃあ、ちゃんと我慢してくださいね?」

不意に乳首をこすってやれば

「ぁ……あむね……だめ……ん……んん」

と、いう具合に。降谷さんのえっちな声は駄々もれだ。

「まったく。乳首ちょっとこすっただけで、声、出ちゃってるじゃないですか? これじゃあ、すぐにセックスしてるのバレちゃいます」
「がまんする……するから……ぁ……」
「本当です? じゃあ、ちょっと、我慢できるか確かめますよ?」
「うん……」

降谷さんの特に感じやすい方の乳首にしゃぶりつく。そして、もう片方を、指でつまむ。

「んん……んんん……ぅぅぅぁ……ぁあ……ふっ、ふっ」
「声……」

がぶりと、乳首をかむ。こうすると、いつもなら、あんあん泣いてしまうのだが

「ふぅあ……ん……んんん」

練習の成果なのか。よほど俺のチンコを入れてほしいのか。降谷さんはいつもの一割程度には声を我慢することができていた。
俺は、乳首への責めをやめ。降谷さんの頬にキスをした。

「すごいですね……本当に我慢できましたね」
「うん……れんしゅ……した、から」
「どうやって練習したんです?」
「……お布団の中で……君に、えっちなこと、言われてるの……想像しながら……おもちゃで」

先ほど、俺に、職場での自慰行為について自白させられたことで、恥ずかしさのハードルが下がったのかもしれない。降谷さんは、随分と露骨に、変態ちっくなオナニーをしていたことを報告した。

「まったく……俺の声をオカズにして、そんないやらしいオナニーしてたんですか……?」
「……だって、君にしばらく会えなかったし……」

頬にもう一つキスを落とす。こめかみにもひとつ。それから、耳に舌を這わせてぺろぺろと、なめまわす。

「えっちでかわいい……ですね。降谷さん……いれていい?」
「あ……うん……僕……お布団の中で君のことを思いながら、ずっと、君のが欲しくて仕方なかったよ」

なんか、恥ずかしいことを言う快感みたいなものを覚えてしまったのかもしれない。
頼んでもないのに、えっちなことを言ってくれるから、少し得した気分になる。

「うん、じゃあ、いれますけど」
「……んっ……うん」
「声、ちゃんと我慢してくださいね」

降谷さんの脚を割り、少しばかりこわばり始めていたそこに、無理やり、チンコを押しこんだ。

「んっあっ……」
「声……っふ……ね? 降谷さん、声我慢しないと……俺……ナカをかわいがれないから……ね?」

そろそろと中に突き進み、それから入れた時の倍の時間をかけて、ゆるゆると腰を引く。
ずるーり、ずるーりと、ゆったりとしたピストンを繰り返す。少しずつ往復の距離を増やしながら。ゆっくりと、ねっとりと。
こんな風に、ナカをゆっくりこすってやるのは初めてだから、降谷さんはその感覚に戸惑いを感じたらしい。

「ふっ……あ……かざみ……なんかっあ……んんんあ」

排泄時のような感覚があるのかもしれない。いつもはもっと、強い刺激を与えてしまうから、あまり意識が向いていなかったのかもしれないが。ゆっくりとした、物体の行き来は、おそらく、便塊が行き来するときの感覚を呼び起こしただろう。それに、もしかしたら、いつもより異物感を感じやすいかもしれない。
だが、俺は、前立腺をいじめてやることも、結腸をぶち破るこせず。ずるーり、ずるりと、ゆったりとした往復を繰り返した。

「あ……なんか、へ……ん。おねが……かざみ、いつも、いつもみたいに……して」

そうやって、懇願する降谷さんの額にキスを落とす。

「でも、いつもみたいに、ピストンしたら……ベッドの揺れで、俺達がセックスしてるのバレちゃいますよ?」

降谷さんが中止を求めない限り、俺は、職場の仮眠室でセックスしてるというイメプレをやめるつもりはない。

「ん……でも……これじゃ……あ……僕……なかなか、いけな、いけない……よ」
「うん……俺も、今日は出すまで時間かかっちゃいそう。朝まで、降谷さんのナカで、こいてたら……チンコふやけちゃうかな?」
「ぁあ……朝まで……あ……んん、だめ……おかしくなっちゃ……う」
「んー? 一晩中、ケツの中ずりずりされるの想像しちゃった?」

その問いに、降谷さんは、言葉を返さなかった。
代わりに、肉筒の中がキュウキュウとしまり、ヒダが、竿に絡みついた。

「ぁあ……ぅふ……んんん」
「まったく。俺に朝まで犯されること想像して、ここをヒクつかせちゃったんですか? 本当に淫乱だな」
「ゃ……あ……い……んらんとか、いっちゃ、や……ぁあ」

ピストンをほんの少しだけ速める。前立腺に、カリを引っ掛けるようにしてコリコリと刺激してみれば

「ぁ……ゃ……」

いつも以上に、反応がいいことに味を占めて。俺は小刻みなリズムでナカをゆすりまくった。

「ぁーぁぁぁぁあ……ぁぁぁあぁぁ……ん……ぁぁぁ…‥ぁぁ」
「……あっ…‥降谷さん声……っあ」
「んん……ぁっあ……んん……きみらって……こ……え……」
「あ……じゃあ、ばれちゃう……ばれちゃ……い、ますね。俺たちが……セックスしてんの」
「やだ……ばれちゃう……みんなに……ばれちゃうよぉ……」

まだ、一度も吐精していなかった俺は、いい加減に、ザーメンをぶちまけたくて仕方なかった。

「なか……なかい? 俺……きょ……ごむしてな……」
「うん……ナカ……なま……かざみの……せえ、え……き。中でだして……ああっあああ」

中出しの許可を得る。
俺は、降谷さんの腰を掴み、自身の性器を奥までねじ込んだ。

「あ……あ、声がま……できな……っ……ばれちゃ……セックスしてるのみんなにばれちゃう……ぅ」
「はあ……っ…あ、やべ……すっご……ひだ……からみついて、くっ……る」
「ああ……職場で、ぼく……あっああ……中だしされちゃうよ……ぉおお」
「すご……降谷さん、いつもより感じてるでしょ……なか、やば……すっげ、あつ……」

パンパンと、わざと袋を打ち付けるようにして、音を立てながらスパートをかける。

「ひゃ……あ……あっ……でちゃ……でちゃうよ……あ…っあああああ」

今まで、我慢していた分を、全部解き放つみたいに。降谷さんが大きな声を出した。
中がぐにゅうっと締まる。
下腹に、熱いしぶきがかかるのがわかった。

「ふるやさ……すっげ……あったか……潮……? めっちゃ、ふいてる……あ……あっあ……俺も、でる……」
「や……あう……あ、だめ……ああ……んん」
「あ……あっ……あー……はー……」

俺は、先っぽを奥にこすりつけながら、射精がおさまるのを待った。
そして、ずるずると、身体を引きはがしながら、かけ布団を引きはがす。
新鮮な空気を吸いながら、そういえば、窓を開けたままセックスしていたことを思い出す。
途中から、仮眠室のみんなにやってるのがばれちゃうことを想像して、絡み合ってた俺たちは、自分たちの声がどれほどのものになっているのか、注意を怠った。

「聞こえちゃったかな?」

俺がつぶやけば

「……? たしかに……つい、声を出してしまったけれど……ここは君の部屋だし……。大丈夫だろ?」

降谷さんがヘロヘロの体を、一生懸命に起き上がらせる。
どうも、えっちなことに夢中になると、ほんの少し抜けてしまうらしい。

「いや……今日、ほら」
「……? 仮眠室というていで、したことにはしたけど……イメージプレイってやつだろ?」
「降谷さん……俺が窓を全開にしたの……忘れちゃってました?」

一瞬の沈黙。
それから、ぱふっと音を立てて、降谷さんは布団の中にもぐってしまった。

「まあ……お布団被ってたから、たぶん大丈夫ですよ……。それに、大きな声出てたのも、イく寸前だけでしたし」

布団越しに体を撫でながら、大丈夫だと慰めてやる。しかし、愛しい恋人は、なかなか布団の中から出てこない。
仕方なく、俺ももう一度、布団にもぐる。背中から、降谷さんを抱きしめ、耳元で、慰めの言葉をかけ続けた。
そうこうしているうちに、降谷さんが、俺のキスを欲しがり。そして、気がついたら、もう一度。声を我慢しながらのセックスがはじまった。

 

 

【あとがきなど】

12回のまったくを言わせるうちに、私史上もっとも意地悪で執拗な言葉責めをする風見裕也が爆誕しました。

そもそも。
私は、風見裕也の、あの「まったく」から。そこはかとなく、Sっぽさを感じたし。
部下から「まったく」などと言われて、「あぁそうだよな、すまない」となる降谷零をみて。

(あーはいはい。そういう夜の上下関係匂わせてくるのやめてくださいね……)

っていう気持ちになっていました。ゼロ茶のこと、いつも不純な気持ちで読んでます。すみません。
だいたいね。

「まったく」

って、どう考えても、えっちなセリフじゃないですか???
いや……ちがうな……

風見裕也が降谷零に対して「まったく」と言い放った瞬間。このセリフは、ものすごく、えっちな言葉になるし。なんだかSMちっくになってしまうって、私は思うんです。

だからね……どうか、みなさんも、風見裕也に「まったく」と言わせてほしいんです。
いや、あの、こういうタイプのまったくじゃなくて……
降谷さんが、危険な仕事の後、ちゃんと帰ってきて「まったく、あなたって人はタフですね」と言う安堵のまったくとか。
降谷さんが、風見に甘えてきて「まったく、俺の恋人はなんでこんなにかわいんでしょうね」と述べる、甘々まったくとか。
そういう、えっちじゃない、まったくを言う風見裕也のこともすごくすごく見たいから……。
お願いです。みなさん、風見裕也に「まったく」を言わせてください。絵でも文章でも……いいや、いっそ。妄想ツイートとかそんなんでいいので……。

 

 

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