見栄剥きをしない風見裕也と、見栄剥きを知らない降谷零

初出:Pixiv(2021.1.11)

※この風見裕也と降谷零は二人とも仮性です


 

別に、俺は、男性の性器に性的関心を持たないから、降谷さんのそこが、どういう形状になっているかとか、大きさがどんなものかとか、考えたことがなかった。
だけど、朝方に終わった仕事。なんとなくの流れでやってきた街の銭湯。積極的に見ようとはしないが、目に入ってしまえば、一応、確認をしてしまうのが、男の悲しい習性だ。

先に体を流し終えた降谷さんが湯船に向かう。その時、そこが見えたのだ。

俺は少々嬉しくなった。

別に、俺の方が大きいからとか、そういう話ではない。降谷さんが見栄剥きをしないという事実に、喜びを感じた。
実のところ、日本人男性の大半がそうであるように、俺も仮性というやつだ。もっと細かく言えば、若かりし頃の右手の使い方の名残で、皮は少々余り気味で、先っぽが三割程度顔をのぞかせているそういうタイプの仮性だ。
二十五歳までは、世の中の風潮にのっとり「見栄剥き」というものをしていた俺だが。最近はしていない。そりゃあ、もちろん、洗う時にはしっかり剥くけれども、それが終わったら、自然な状態に戻して、それでおしまいだ。

人間の行動には、個人個人が持つ、信念が反映されると考える。見栄剥きとは自信の無さのあらわれではなかろうか。
だから、降谷さんが見栄剥きをするような男だったら(仮に降谷さんが見栄剥きをしていたとしたら、俺は、ズルムケなんだなあとしか思わなかったかもしれないが)少しの失望を覚えたかもしれない。
石鹸の泡を流し終え、小物用の棚に眼鏡を置いて湯船に向かった。

仕事が終わった爽快感と、朝風呂の気持ちよさなどがあいまって、すっかり忘れていたが、俺はこの日、結構な寝不足だった。

睡眠不足による前頭葉機能の低下。少々のハイテンション。開店直後、貸し切り状態の銭湯。どことなく機嫌がよさそうな降谷さんの横顔。
少々の距離を取って、波を立てないよう湯に入る。タオルを頭の上に載せながら「気持ちいですね」と声をかければ「ここ、いいだろ? 僕、たまに来るんだ」と、降谷さんが返す。とても和やかな雰囲気。
そして俺は、ついつい言ってしまったのだ。

「ところで、あれですね。降谷さんも、見栄剥きしない派なんですね」

と。

「……みえむき…? それは、なんだ?」
「え……? ご存じないんですか?」

降谷さんの側に寄り耳打ちをする。

「チンコの話です。包皮を剥いて、ズルムケに見せかけるやつ」
「その……ズルムケってのは?」

降谷さんの反応を見て、俺のそこは、不覚にも大きくなった。
朝だし、仕事で疲れてたし、そういった生理的現象も作用していたと思う。
この時、俺は裸眼。目を細めれば、ぼんやりと降谷さんの輪郭が見えてくる。目が大きくて小顔。濡れ髪、いつもより長く見える金髪。なんだか、とてもかわいらしくて、そして色っぽかった。
脳が誤作動を起こしても、仕方のない状況だったと思う。おそらく、俺の脳髄は、上司である降谷零を性の対象であると勘違いした。

「ズルムケって、ご存じないです? 包皮は?」
「包皮は……保健の教科書に表記されていたから知っているが、ズルムケはなんて単語は載っていなかったはずだ」

いや、こういうのって、教科書で学ぶものじゃないじゃないですか……と、心の中で突っ込みを入れる。
男同士の猥談。そういう所から育まれる保健の授業では教えてくれない性の知識。降谷さんには、それが欠けている。
女性との性交経験は、あるかもしれないが、相手の女性も性知識に乏しい……もしくは上品な人だったに違いない。

「包皮から亀頭が出るようになってるでしょ? 世の中には常時そうなっている男がいて、それを俗な言葉でズルムケと呼ぶんです。まあ、ある種のステータスですね。見栄剥きは、自分で包皮を剥いてズルムケを偽装することです」
「……そうか」

降谷さんの声には、緊張の色があった。もしかしたら、降谷さんは、女性との行為……どころか自慰行為の経験すらほとんどないのかもしれない。なんとなく、そんなことを思った。

「その……君の考えでいいんだけれども、安室透は…その……みえむき? というやつをやりそうか?」
「え?」

どうやら、真面目であるわが上司は、潜入捜査時に見栄剥きすべきか、いなか。そのようなことが、気になり始めたらしい。少し考える。

「……そうですね。安室透については、かわいい顔してズルムケっぽいイメージがありますね」
「そうか……じゃあ、その、みえむき? をした方がいいか?」
「まあ、そうかもしれないですね。……降谷さんも、洗う時にはめくるでしょ? 見栄剥きするときは、亀頭を露出させた後に、カリのところに、ちょいとひっかけて、戻らないようにするんです」
「んー……それ、どのタイミングでやるものなんだ?」
「まあ、一般的には更衣室ですね。服脱いでる時に、すっと」
「すっと、できるものなのか?」
「え? できるでしょう? ……ん??? それとも、あれですか、降谷さん……」

まさか真性ですか? と聞こうとしたところで、別の客が入ってきたので、俺は口をつぐんだ。

「……もしよかったら、風呂終わった後、俺の家に来ます? その辺のこと、簡単に教えますけど?」

寝不足だった俺は、その誘いが、どのような結果を生むか、まるで考えていなかったし。性経験に乏しい降谷さんも、そのあたりのリスクマネジメントが、たいへん甘かったように思う。
その後、しばらく、差し障りのない話をしながら、湯で体をあたためた。

※※※

自室のベッドに、上司である降谷零が腰を掛けている。ちょっと意味が分からないなと思う。

結局のところ、何事においても、百聞は一見にしかずなので、おそらく見栄剥きについても、実際を見せてしまうのが手っ取り早い。
実は、銭湯において、俺の亀頭は露出していたのだが、それは見栄剥きによるものではなく、勃起に伴うものだった。
さすがに、公衆浴場で勃起したものをだれかに見られるのは気が引けるから、うまい具合隠していたが、俺の一枚上を行くこの人は、何かの隙に、俺のチンコの状況を盗み見たらしい。周りに人がいなかったとはいえ更衣室で

『君のそれ、みえむきか? それとも…ずるむけ、というやつか?』

と聞かれた時の動揺。あれを、どう表現したらよいものか。

『これは……その、勃起してるだけなので』

と、説明した時の降谷さんの「なるほど」という顔。二十九歳の成人男性と話をしているのに、中学生くらいの男の子に性教育をほどこしているような気分になり、妙な背徳感……そして謎の高揚感があった。
その後、服を着て、牛乳飲んで……などしているうちに、勃起はおさまったものの、胸の高鳴りだけはおさまらなかった。

降谷さんに、見栄剥きについてレクチャーする。それが、おかしな行為だということに気がついている。
けれども、欲、のようなものに勝てなかった。
降谷さんの隣に座り、ふにゃっとなった性器を取り出して

「ほら、こうやるんですよ」

と、皮をずらし、カリのところに引っ掛ければ、降谷さんが目を丸くした。

「君、それ……痛くないのか?」

なんとお答えしていいのやら。
そりゃあ、俺にだって、初々しい痛みが伴っていたこともありますが、それは、かれこれ十五年以上前の話なので……などと、馬鹿正直に話せばいいのだろうか?

「まあ、慣れ、ですよ。降谷さん、もしかして、先っぽ出したことって、あんまりない? いや、そもそも、カリ…いや、亀頭……ちゃんと露出します?」
「あまり……積極的には、やらないな……。一応、露出することには露出する」
「降谷さん、基本、皮オナですか?」
「かわおな?」
「いや、その……自慰行為の際に、ですね。こう、皮を動かす感じでするのかなって」

俺は、包皮をもとの位置に戻して、皮オナの動きをやって見せた。

「いや……一応、先は出す」
「ああ、なるほど」
「その方が、早く終わるだろう?」
「確かに……合理的かもしれませんね……。ですが…あの…失礼を承知でお聞きしますが」

今、この状況が、失礼そのものである気がしてならないが、それでも、一応、確認は入れる。

「なんだ?」
「降谷さん……自慰行為って、あまりなさらないですか?」
「え……いや、まあ…どうだろうな。一応、下着を汚さない程度には、処理しているけれど」

その言葉を聞いて俺は確信した。
栄養の摂取を目的とした食事と、味や色どり・季節感を楽しむための食事があるように。オナニーにも、性欲処理を目的としたものと、快感を楽しむためのもの。その二種類が存在している。
おそらく、俺の上司である降谷零は、後者のオナニーをしたことがほとんどない。
思春期の男子と同等、もしくはそれ以下の知識と経験。でも、まあ。個人差のあることだから、こういう二十九歳がいたって、いいとは思う。

「降谷さん……たぶん、敏感なんですね」
「そうなのか?」
「その感じですと、先っぽ触ると、すぐにイッちゃうでしょ?」
「まあ」
「それって、多分、相当に感じやすいですよ」
「そうか?」

降谷さんが、いまいちわかっていないようだったので、俺は、もう一度、皮をずらして先っぽを露出させた。

「だって、見てくださいよ」

降谷さんが、俺のチンコを凝視する。

「俺、こんな風にこすっても、ね? 勃起すらほとんどしないじゃないですか?」
「……本当だ」
「降谷さんも触ってみます?」
「え?」
「いや、亀頭の感じ方の個人差、触った方が体感しやすいかなと」

神に誓ってもいい。この時の俺は、至極まじめにそのセリフを述べた。下心なんて、なかった。
けれど、降谷さんの指がおそるおそる、俺の亀頭をつついたとき、けっこう興奮してしまった。

「本当だ……君、全然平気そうだな」
「降谷さんは、先っぽを、指でつついただけで、平気じゃなくなっちゃうんですか?」

俺の質問に、降谷さんがうなずく。そして、ちょっと不安げな表情で

「僕の体、変かな?」

と、言った。
指で触られるよりも、その言葉の方が不思議とチンコに来た。

「調べて差し上げるので、降谷さんも脱いでください」

俺は立ち上がり、自分のズボンとパンツを脱いだ。降谷さんは、ベッドに座ったまま、ゆっくり下半身を露出させた。

「あ、降谷さん。少し、勃起してますね」

そう言いながら、俺は、降谷さんの正面で膝立ちになった。

「うん」
「皮、ご自分で剥けます? 俺が剥いてあげましょうか?」

褐色の肌に、真っ赤な先っぽ。そこはすでにうるんでいて、外に出たがっているように見えた。

「いや、自分でやる」

降谷さんの手が慎重に皮をずらしていく。俺は、その様子を凝視した。
降谷さんの呼吸のリズムがどんどん、短くなっていく。そして、ぷるんと、降谷さんのカリが露出した。俺ほどではないが、立派な竿に対し、ほんの少しだけ小ぶりのそこ。そのバランスが絶妙で、なんだか、とても美しく見えた。

「上手にできましたね」

そう言いながら、降谷さんの表情を探る。顔を真っ赤にさせながら、手で口元を覆っている。
湧き上がる、いたずら心。俺は、ふーっと、降谷さんのそこに息を吹きかけた。それだけの刺激で、降谷さんの体は、びくりと震える。

「息、吹きかけただけで、こんなになったちゃうんですね。指でつついたら、すぐにイっちゃいそうだ」
「やっぱ……僕、変か?」

そう言って、涙目になっている降谷さんの、顔があまりにもかわいらしくて、俺は上目遣いのまま降谷さんの亀頭にキスをした。体がビクンと跳ねる。

「個人差のあることですから、変だとは思いませんよ。俺は、感じやすい降谷さんのこと好ましく思います……。でも、たぶん、降谷さんのここ…見栄剥き以前の問題ですね。ですから、ちょっとずつ、気持ちいいことに慣れた方がいいかもしれません。それで。安室透の時に見栄剥きできるよう体質改善していきましょう。俺、お手伝いしますので」

その提案に、降谷さんがうなずいた。
俺は、舌をとがらせ、先っぽの小さな穴にねじ込むようにあてがった。
たった、それだけ。それだけの刺激で、降谷さんは、あっけなく精を吐き出し。俺は、人生で始めて顔射を受けた。

 

 

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