Sound of Rain #風降版ワンドロ・ワンライ

第2回 #風降版ワンドロ・ワンライ
お題『雨』

わずかに性描写あるので、念のためR-18です。
本文55分、推敲20分でした。


――狭谷湖ってあるだろ? 今度、ポアロのお客さんたちと行くことになったんだが……

降谷さんとワンちゃんと俺はピクニックに出かけた。日曜日。夕方の七時過ぎに駅前集合。

「狭谷湖って、車でも行けますよね?」

と尋ねれば

「そうなんだが……実際のルートを歩いて確認しないと下見にならないだろ?」

と返される。そんなわけで、米花町から電車とバスを乗り継ぎ、一時間弱をかけて、多摩丘陵までやってきた。

「子どもやお年寄り、女性も参加するから、トイレの場所や休憩できる場所などを確認しておかないといけないんだ」
「……なるほど」
「しかし、君……」
「なんです?」
「狭谷湖にしては、装備が本格的だな?」

ジーンズにTシャツ、パーカーと運動靴。ポアロのバイトの時とほぼ変わらぬ服装をしている降谷さんに対して、自分は、トレッキングシューズに晴雨兼用の帽子。それに加えてゴアテックス製のウェアを羽織り大きなサックを背負っていた。
なんだか無性に照れくさくなって、

「いや……降谷さんが、山を舐めすぎなんですよ? いいですか? 確かに標高は150mもないですし、携帯が圏外になることもない。とはいえ、山では何があるかわからないんですからね!」

説教じみた返しをしてしまう。

「そうだな。まあ、備えあれば患いなしだ」

 

そんなこんなで、成人男性二名と白い犬。俺たちは、二十分足らずで頂上までたどりついた。

「……星がすごいな」
「あー……。この辺りは光害もほとんどないですしね」

湖の周りを一周して、下に降りようというところで、ワンちゃんが降谷さんの脚にすりすりと頬をすりつけ、うなるような鳴き声をあげた。

「……ワンちゃん、どうしたんです?」
「んー……疲れ、だとは思うのだが。もしかしたら……」
「もしかしたら?」

降谷さんがワンちゃんを抱き上げて、天を仰いだ。

「雨が降るかもしれない」
「えっ……?」

かくして、その予感は的中した。

 

それから俺達は、男二人と犬一匹でラブホに入ることになった。
狭谷湖の近くには、遊園地や野球場がある。雨に降られて、びしゃびしゃになった俺たちは、タクシーを呼ぶのではなく、ド派手な看板に引き寄せられるように、ラブホで雨宿りすることを選んだ。

ワンガレージ式のラブホテルは、きっと、どこかに監視カメラがあるに違いないが、受付は機械式だから、犬がいても、とがめられることはなかった。
入室すると、すぐ。降谷さんはパーカーを脱ぎ、タオルで体をぬぐった。
ホテルの備品のタオルを、犬に使うわけにはいかない。自分が荷物の中から、タオルを差し出すと、降谷さんが「ありがとう」と言って、ワンちゃんの体を拭き始めた。
その後ろ姿を見て、気まずい気持ちになる。降谷さんのTシャツはびしゃびしゃになっていて、生地が背中にぴたりと、はりついていた。

「あのー……降谷さん、ワンちゃんのお世話はいいですから」
「え……? しかし?」
「自分は、この装備ですから、中はほとんど濡れてないんです。シャワー先に使てください」

降谷さんは、少し無言になってから、こくんとうなずいた。
ワンちゃんの体を拭き、軽くドライヤーをかけてやれば、背後から、シャワーを使う音が聞こえる。
俺たちは男同士だし。同じ更衣室やシャワールームを使ったことだってある。しかしながら、場所がいけない。ここは、ラブホテルなのだ。性的なことをしたい人々の為に作られた、そういう場所なのだ。
条件反射というよりほかない。降谷さんをそういう目で見たことなんて、まったくなかった……とは言わないが、具体的な行為について何らかの想像をすることはなかったのに……。

しばらくして、バスルームから出てきた降谷さんが、少し困ったような顔をしながら、備え付けの寝巻に袖を通した。

「なあ、これって、ズボンはないのか?」
「……ない、ですね」
「ふーん」
「あ、そうだ。降谷さんがシャワー使ってる間に、下着を頼んでおいたので、これをはいてください」
「え……?」
「いや、あの感じだと、パンツまで濡れてたでしょ?」
「うん……ぬれ、てた」

ラブホだからだろうか?
降谷さんの口調が、なんだか、たどたどしい。

ふと、目をやれば、ソファで、ワンちゃんが眠っている。
ラブホという場の力にくわえて、降谷さんが妙にそわそわしているものだから、なんだか「連れ込んだ感」が出てしまっている。正直に言う。俺は、勃起していた。降谷さんに対して、というよりは、この状況に。

「君も、シャワー使うか?」
「はい。それでは……」

シャワーを使いながら、降谷さんって、ラブホに入ったことないのかな……などと、そんなことを考えた。
警察学校に通い、警察官になった人間は、たいていの場合、寮生活を送る。性生活が活発な二十代前半。ラブホを使う機会も多くなる。恋人が一人暮らしをしているパターンもあるから、一概には言えないが、普通は、それなりにこういう場に慣れているはずだ。
シャワーを終え、寝巻に着替えた俺は、ベッドの上で体育座りをしながらニュースを見る降谷さんの横顔を観察した。
備え付けの冷蔵庫に入ったミネラルウォーターを取り出し、それを電気ケトルで沸かしながら「お茶飲みます?」と尋ねれば

「君は……慣れてるんだな。こういう所……」

と、降谷さんが言う。

「ええ、まあ」

その言葉に、いろいろと察してしまった。

「……なあ、知ってるか? そこの戸棚みたいなやつ」
「……ああ。それ、窓ですね」
「うん……」
「外、何が見えました?」
「霊園」

ソファで眠るワンちゃんの頭をそっと撫でる。本当によく眠っている。起きる気配がない。
降谷さんは、きっと、場の雰囲気を変えようと、窓の話をしたのだろう。けれど、あっという間にその会話は終わってしまった。

「あの……大丈夫ですよ。最近はラブホテルで女子会をする人たちもいるらしいですよ? ここは、そういうことをする場所だけど。そういうことをしなくてもいい場所なんです」

そう言いながら、ベッドに片膝を乗せる。こういう時は、さっさと寝てしまうに限る。
ギシリというベッドの音に、しゅるりとベッドスローの歪む音。
そこへ、凛とした声で

「でも、君は、勃起してた」

と、降谷さんが言った。

「……してました、けど」

やっぱり、今日の降谷さんは少しおかしい。

「……僕も。その……勃っているし……下着が濡れてたのは雨だけじゃない……」
「え……?」

降谷さんが、はらりと、寝巻の前をはだけさせた。

「君がせっかく、新しい下着を用意してくれたのに……僕は、また……」
「……それ、我慢汁?」
「え……? ああ、うん。たぶん、それ……だと思う」
「……いいんです? 俺、止まれないかもしれませんよ?」
「ああ。ハロが起きないように……音に気をつけながら……なら」

ベッドに上がる。(あのワンちゃん、ハロっていうのか……)そう思いながら、俺は寝巻を投げ捨てた。
ザーザーという雨の音。部屋の電気を暗くすれば、電気ケトルの中で、ポコポコと湯が沸き立つ音が耳についた。

「じゃあ、声、我慢してくださいね……?」
「……うん」

降谷さんをベッドに押し倒し、下着の中に手を差しこむ。そしてぬちゃぬちゃとそこをさすれば、切なそうなうめき声が聞こえてきた。
その声をふさぐために、ぴちゃぴちゃとキスをする。

 

――それから、夜が明けるまでは、雨の音。

 

 

【あとがきなど】

雨宿りでラブホ、だいすき!!!!!

 

 

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