君との出会いをもう一度

 

風降(ひだあむ要素?)
#風降版ワンドロ・ワンライで書いた「はじめましてを重ねる」の降谷視点。


別に、それを気にしているわけではなかったのだけれど。風見裕也は、僕が見つけてきた男ではない。
僕がまだ、右腕なんていらないと思っていた頃、上からあてがわれたのが、風見裕也という男だった。

僕はずいぶん抵抗した。しかし、上の見立ては正しかった。

こんな仕事をしているものだから、僕も風見も、猜疑心を持って人と接するのが習慣になっている。
僕は、時折、風見を試すようなことをしたし、風見も僕を値踏みするような眼で見ていた。

いつからだろう? そういう、腹の探り合いのようなことをしなくなったのは? 少なくともこの一年ほどは、そういうこともなくなり、僕は「風見ならできるはずだ」と思って仕事を言いつけるようになったし、風見は僕の頼まれごとを、とにかく素直に、そして今まで以上に一生懸命こなすようになった。

潜入捜査の中で、安室透という架空の人物が必要になった時、僕はひらめいた。

風見裕也は、第三者によってあてがわれた右腕だが、風見裕也……いや、飛田男六は安室透の助手にふさわしい男であるか僕自身が見極めたい、と。

風見裕也は、飛田男六なのだから。そんなまどろっこしいことをする必要はない。わかってはいる。しかしながら、僕は、彼と出会い直してみたかった。例えば、どうだろう? 探偵助手を求める安室透の元へやってきた、飛田男六という男に僕が試験をするというのは?

風見に頼んでいた案件。あちらも、そろそろ一段落するはずだ。

僕は、定期連絡に関する待ち合わせの日時・場所を、ちょっとした暗号にし、それを風見に送った。それなりに凝った暗号にしたつもりだったが、風見はそれを解くことができたらしい。

約束の日時場所。歩道橋の真ん中でスマホを見つめる風見に、僕は肩をぶつけた。「すみません」と謝る彼から、記憶媒体を受け取り

「あの……はじめまして。飛田さん……ですよね?」

と、声をかける。

風見は、驚いたような顔をしたが、すぐさま僕に合わせた。

そして、突如、始まった就職面接に合わせ、探偵助手の希望動機を語る。

茶番。なのだから。そんなに真剣になる必要はない。しかし、風見は実に真剣に、探偵助手になりたい理由を語った。

それは、おそらく、風見の本音に根差した言葉だった。探偵助手の志望動機として、彼は、どんな仕事をしたいかを語ったが。それらの言葉から、警察官として、そして公安の人間として、彼が何を大事に思っているかを知ることができた。

――飛田男六に合格を告げ、安室透は、就職試験をやめにした。

記録媒体を渡すという仕事を終え、さらに、僕の茶番に付き合った風見は、深々とお辞儀をして、来た道を戻り始めた。

その背中に、

「風見……このあと時間あるか?」

声をかける。風見裕也が、くるりと振り返った。

僕らは、上の人間によって引き合わされた二人組だ。
仕事によって、お互いの理解を深めてきた、反面、言葉によって語り合うことは、存外、少なかった。
どういう気持ちで仕事をしているのか。飛田男六を通してではなく、風見裕也本人から、そういう話を聞きたいと思ったし、僕も自分の話をしたいと思った。

先ほどは、話を聞くばかりだったから、今度は僕から

「僕は、ある女性を探すために警察官になったんだ」
「女性?」
「ああ。初恋の人なんだ」

警察官になった理由を語る。堅物の風見は「初恋?! えっ? 志望動機……そこ?」と驚いた。

ほんの少し、得意な気持ちになって

「ふふ……チャラいだろ? 僕?」

と、言えば

「いや……むしろ、一途でびっくりしました」

と、風見が答える。

思いがけない言葉に驚く。風見が、いやにうれしそうな顔で、ハイボールのジョッキを空にした。

(なにが、そんなにうれしいんだか……)

しかし、僕もなんだか、うれしかったから、それ以上は深く考えないことにする。

 

 

 

【あとがきなど】

ワンライの時に、一応、降谷さんサイドの思惑まで考えてはいたんですけど。そっちまで入れちゃうと、ワンライじゃなくなるので分割しました。

風降の出会い、色々あると思ってるんですけど。私は、上の意向でこうなった派です。
それが、ありがたくもあり、ちょっと癪だったりする降谷さん。

なんつーか

「恋愛結婚がすべてじゃないし、お見合い結婚の方が離婚率は低いと知りながらも、なんとなく、恋愛結婚に憧れている」

 

という。そんな感情に近いものが降谷さんの中にあったら、いいなと思って、このお話を書きました。

 

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