君の責任

初出:2021年4月5日(ぷらいべったー)
〇風降
〇居酒屋のトイレに二人ではいるシーンがあります

男だけの飲み会で
二人きりでない飲み屋のお座敷で
※卑猥な表現があるので義務教育を終えていない方は閲覧禁止です。


 

二次会には参加しなかった。

朝まで飲むと意気込む一団に別れを告げ、風見と二人タクシーに乗り込む。
降谷はこめかみをさすりながら三十分前のできごとを思い出していた。

 

居酒屋の男子トイレ。個室が三つあり、そのすべてが空いている。
用を足し終えた降谷は手を洗い、ついでに顔を洗った。備え付けの紙タオルで顔をぬぐっていると、ぎいっと音がして戸が開く。
降谷は鏡越しに、背後の男をにらみつけた。

「……風見、どうした?」
「降谷さん、ちょっとよろしいですか?」

風見によって、降谷は三つある個室の一番奥の小部屋に押しこまれた。
押しこまれた、と言っても、背中を軽く押されただけなのだから、逃げ出すことは簡単だ。しかし、降谷には風見に言いたいことがあり、狭い小部屋で向き合うことを選んだのだ。
ドアに鍵をかけ、風見が降谷の体を抱き寄せる。

「降谷さん」
「なんだ……?」
「……勃ってる」

吐息まじりの声。
降谷は身をよじらせて、風見の体を押しやろうと試みた。
指摘の通り、たぶん、勃っている。しかし、ジャケットを羽織った状態で、そこがどうなっているか、判断できるはずがない。だから、からかわれているのだとわかりながらも、降谷は体を熱くした。

「勃ってない」
「いや、勃ってるんです」

腰に回された手のひらに、ぐっと力が入る。
下半身に固いものが当たるのを感じ降谷は困惑した。

「……ね」
「……いや、君、なんで?」

自身の胸の尖りについて言われていると思い込んでいたが、風見は自分の性器の様子を報告してきた。
アルコールのせいか、風見の息は熱い。耳元で

「あなたがかわいいから」

と、ささやかれ、降谷の困惑はますます深まる。
頭が、ぽやんとして、自分が何を言おうとしていたのか、見失いそうだった。「流されてはいけない」と、自分を奮い立たせる。そして、風見の頬をぺちんとたたいて、今度こそ体を押しやった。

「いて……」

降谷は、うつむいたまま、ジャケットを脱いでみせた。
薄手のインナーと、一枚のシャツ。二枚の布地を、胸の突起が押し上げている。

「……降谷さん、それ」
「……うん」
「……透けて、ますね?」
「……だろ?」

風見の指がそこに伸びてくる。それを

「だめ……」

と、諫める。吐息まじりの声。我ながら説得力がないなとあきれる。
風見は、降谷の制止を聞いて手をひっこめた。

「どうしましょう。あと、三十分もすれば一次会はお開きですけど……ばっくれます?」

それは、切羽詰まった声だった。
だが、降谷は首を振る。

「あと、三十分なら、なんとか……」
「そうですか……じゃあ、俺は、抜いてから戻りますんで、先に座敷に戻ってください」

風見の手がドアのカギに伸びた。

「……おい。ここをどこだと思ってるんだ?」
「居酒屋のトイレですけど……やむをえないこともあるじゃないですか」

風見は、苦笑いした。どうも自身の発言にあきれているらしい。
ジャケットを羽織りながら、降谷が告げた。

「だめだ、君には責任がある」

と。

「責任……?」

体を向きなおし、風見が問えば

「そう。君のせいだ」

降谷が答える。

「この飲み会に関する苦情は受け付けないという約束ですし、俺は忠告しましたよ」

風見が抗議する。しかし、降谷は譲らない。

「そうじゃない。ジャケットの下……見たろ? 僕をこんな風にしたのは君なんだから、君は責任を取らなければならない」
「……え」

風見の頬が赤く染まった。

「君だけ先にすっきりするなんて、ゆるさない」
「降谷さん……それって?」

ザザーっと水の流れる音がする。
降谷が壁のボタンを押し、トイレを流した。そして、目の前の男の襟をつかみ、唇を押しつける。
ギイっと、ドアの音がして、足音が響いた。

――パタン。

真ん中を挟んで、一番向こうの個室を誰かが埋めた。
鍵のかかる音を確認し、降谷は風見を解放した。そして「お先に」とささやき、個室を後にする。

 

風見が、座敷に戻ってきたのは、五分後のことだった。
降谷は、風見が”処理”をして戻ってきたのではないかと疑ったが、表情のこわばりからそれは無いと判断する。横顔を見つめれば不自然に視線をそらされた。その様を見て、降谷は気分がよかった。

風見が、三本目のタバコを吸う。煙をふかして、眉間にしわを寄せながら。
そのシャツの襟からのぞくのどぼとけを見つめながら、降谷はジャケットのボタンを閉めたり、外したりを繰り返した。

 

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