二人きりでない飲み屋のお座敷で

初出:2021年4月3日(ぷらいべったー)

〇つき合っている風降
〇「男だけの飲み会で 」の降谷さん視点
〇品がない
※直接的な絡みはありませんが、卑猥な表現があるので義務教育を終えていない方は閲覧禁止です。


 

同年代の仲間と飲んだ後、風見はいつも上機嫌で鼻歌を歌う。
タバコも吸ったんだろう、キスはいつも、少し苦い。
風見は飲み会で、どのように過ごしているのだろうか。どんな仕草でタバコを吸って、どんな話をして、どんな顔で笑うのか。
機会があれば、その姿を拝んでみたいと考えていた。

風見の部屋のカレンダーに飲み会の予定を見つけた。
自分のスケジュールと照らし合わせてみれば、ちょうど、予定が開いている。
そこで、僕も会に参加したいと申し出たが、風見の返事は渋かった。なにか不都合な事実があるのだろうか。男同士の飲み会と言っていたが、実際には女性がいるとか、あるいは、飲み会の開催自体がフェイクであり、何か別の用事がある……とか。
だが、そういうわけでもないらしい。「悪いことは何一つしてませんから」と風見は言い切った。
そして、飲み会に関する苦情は一切受け付けないという条件のもと、僕は会に参加することになった。

 

風見が「体育会系のノリ」と表現した会合は、たしかに上品とは言い難かった。
だけど、僕だって男であるし、潜入捜査官をしているのだから、そういうノリに合わせて、猥談に加わるなど造作ないことだ。
アダルトビデオや女性のバストに関する話題を、ほどほどにこなしつつ、座敷の隅に目をやる。風見は静かに酒を飲んでいた。

「そういえば、胸といえばですね、降谷さん……風見がどういうおっぱいが好きか知ってますか?」

右隣の男が話をふってきた。
風見は仏頂面になり、少し不機嫌な声で「お前ら、余計なことは言うなよ」と言った。どうも、僕にその話を聞かれたくないらしい。
仕事に関する隠し事は大いに結構であるが、プライベートはその限りではない。僕は風見が、ふだん、どんな猥談をしているのか興味があったし、同席者たちも、風見の話をしたくて仕方ないようだった。
僕は、恋人ではなく利害が一致する側を支持することにした。

「降谷さん、風見はですね……サイズでいったらDからE。大きさより形重視で、お椀型が最高だけど、次点は円錐型。それで、ですね……こっからが傑作です」
「おーい、お前、それ以上は言わなくていいだろ」

風見は、なおも、抵抗を続ける。
僕に知られたくない、やましいことがあるのかもしれない。

「風見、往生際が悪いぞ。……続けてくれ」

右隣の男に、続きを話すよう促す。

「大きさより、形より大事なのは感度……ってのが風見の持論なんですよ!」
「ほぉー……感度、か」
「ええ。もうぶっちゃけ、感度がよければ、形とか大きさは二の次だって豪語してました。ぺたんこでもいいって」
「そういえば、胸を揉んだら育つというのは都市伝説だが、感度は育てることができるとかも言ってたよな」
「言ってた言ってた」

とりあえず笑っておいた。たぶん、こうするのが一番いい。
僕は、風見が乳首にあれこれするのが好きであることを知っている。それこそ、この座敷にいる誰よりも。
風見が過去の飲み会で語ったことが暴露されていく。
風見が、試したことのあるあれこれ。
ひたすら舐めまわす、吸引、ローター、専用のクリップで挟む、他の場所を責めながら刺激を入れる。それらの行為には身に覚えがあった。
さすがに「シールタイプの鍼」とか「ピアス」の経験はなかったが、風見にそういう願望があることを知り少々の恐怖を覚えた。
自然と僕の意識はそこに向かっていく。

「風見、どんだけ、乳首開発に命かけてるんだよーって感じですよね」
「ああ、そうだな」

適当に相槌を打って、適当に笑って、その場をやり過ごしてきたが、非常にいたたまれない気分だ。ジョッキに半分ほど残っていたハイボールを飲み干す。

「真面目そうな顔をしてますけど、こいつ、めちゃくちゃスケベですからね」

その言葉に、本音がこぼれ落ちる。

「……ああ、それはよく知っている」

そう。そんなことは、身をもって、とてもよく知っている。

「え……?」
「いや……あの、まあ。隠そうとしても、そういうのってにじみ出るものだから」
「おい……風見! お前のエロいとこ降谷さんに隠しきれてないらしいぞ」

からかわれた風見は、タバコに火をつけて

「そりゃあ、降谷さんの前では、そういうの隠してないからな」

と答えた。
僕は、風見が変なことを言い出すんじゃないかと心配になった。
そんなことは絶対にありえないが、僕たちがつき合っていることが露見すれば、先ほどの話は「風見の経験や願望」ではなく「風見が降谷零にしてきたことや、してみたいこと」に変貌をとげる。
タバコを吸う風見をギリッとにらみつける。風見は、吸い始めたばかりのタバコを消し、テーブルにつっぷして

「あー、お前らのせいで、降谷さんに俺が乳首フェチの変態だってバレちゃったじゃないか。感度があんまりよくない乳首を、丁寧に育て上げて、休みの日にTシャツ着せて、乳首が透けてるのを見て楽しみたい願望のある男だってこと……降谷さんには知られたくなかったのに」

と、のたまった。
バレたもなにも。そんなことは、僕が一番知っている。
暴露をかました風見に注目が集まる。だから、僕の顔がどうなっているか、みな気がついていないだろう。風見以外は。

そういう表情の変化を知った上で、風見は僕をからかう。
先ほどの言葉の通り、彼は僕の前で自分がすけべであることを隠そうとしない。

胸には熱視線。唇が(す・け・て・る)と告げた。

僕は、自分のそこがどうなっているか確認しなかった。先ほどから、僕の意識の三割程度は、ずっとそこにある。だから、ご指摘の通り、そこがそういう風になっていてもおかしくない。
ジャケットを羽織る。インナーと胸にある突起の間で、ごくごく小さな摩擦が起こり、じわんりとした甘さが広がった。
こんな体になってしまったことを、よりによって、二人きりではない飲み屋の座敷で自覚させられる。

この状況を作り出した犯人は、憎らしいくらいにゆったりとした仕草で、二本目のタバコを、じっくりゆっくりのんでいた。

 

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