――東京は明日、今年最後の真夏日になるでしょう。
気象予報士が伝えた。
十月。秋服を着る機会など、実際には、ほとんどないかもしれない。最近の日本では、夏の終わりとともに、すぐさま冬がやってくる。
それであっても、秋物のカットソーやら、羽織を準備してしまうのは、なぜだろうか。
あの人が、この国の「四季」というものを愛しているからかもしれない。
雑誌、インフルエンサーの投稿、街中の定点観察。あの人の肌色と、髪色を思い受かべながら、自分には微妙に似合わないピンク色のパーカーを試着する。
姿見の前で、肩をぐるっと回した。やわらかな生地は、肩関節の動きを制限しない。
カットソーに、秋カラーのパンツ。こげ茶のショートブーツ。それから、小物を少々。
両手にショップバッグを抱え、あの人の部屋をたずねた。
「……君、これはまた、随分と買ってきたな」
「安室透は、お洒落さんですから」
「しかしなあ……。さて、あちらに夏物の服をまとめて置いた」
「ああ。では、来年、着そうなものに関してはクリーニングに出しておきましょう」
「来年?」
怪訝な表情。降谷零が首を傾げる。
「風見、来年は……」
「ああ。そうですね。来年には、来年の流行がありますもんね」
「いや……そういうことではなく」
「あ……!」
「ん……?」
「どうした、ワンちゃん? 君も、服が欲しいのか……? そうだな……お散歩用のレインコートを新調してもいいかもしれないな?」
来年のことは、わからない。
来年、どころか、次の衣替え。いや、明日のことさえも。
「ああ。確かに、秋は雨降りも多いしな……洗い替えも含めて、もう一枚か二枚」
俺が話をそらしたことを、降谷さんは気がついているだろうか。気がついて、そして、この話題に乗ったんだろうか。
来年の夏のことはわからない。そんなことは百も承知だ。それであっても「来年の夏……どうなっているかなんて、わからないだろ」だなんて。そんな言葉、どうしたって彼に言わせたくなかった。