仕事帰り、深夜のコンビニで思うこと #風降版ワンドロ・ワンライ

風降版ワンドロワンライ 8回「コンビニ」
本文35分くらい推敲+投稿準備40分くらい。


 

【仕事帰り、深夜のコンビニで思うこと】

気持の切り替えは得意な方だ。仕事が終われば、自分の時間に集中することができるし、失敗も長くは引きずらない。自分はそういう人間だと思ってきたし、そうあろうとも思っている。
だから、そうではない行動をとっている自分に気がついたとき、俺は少し動揺した。

コンビニで、食事を調達する。

カップラーメンを手に取るが、すぐに、それを棚に戻した。もう少し、ちゃんとしたものを食べようと思って、弁当を眺める。しかし、あの人の手作り弁当に慣れてしまったせいで、幕の内を見ても、丼ものを見ても、物足りなさを感じてしまう。
ならば、おにぎりとサラダと総菜を組み合わせてバランスのとれた食事を……と思うわけだが、おにぎりの棚を眺めながら「このもち麦が入ったやつ、降谷さんは好きかな?」とそんなことを考え、買い物がスムーズに進まない。
自分の時間に上司のことばかり考えてしまうなんて、俺らしくない。
とはいえ、仕方のないことかもしれない。時間通りに動く仕事ではない。休みが、いつ仕事に変わるかわからない。業務の特性もあって、あの人と二人きりの時間が長いし、ゼロの要求に応えるため、もっと自分を磨かなければならないと思う日々を送っている。

駅からの帰り道。スーパーの閉店時間を、とっくに過ぎた夜の住宅街。ようやくやってきた自分の時間。それなのに、コンビニに並ぶすべての商品があの人と結びついてしまう。
いつから、自分は、仕事とプライベートの時間の切り替えが、こんなにも下手になってしまったんだろうか。そう思いながら、秋鮭を使ったおにぎりと、ハムとレタスのサンドイッチを手に取る。これだけでは、野菜が足りないから、カップのミネストローネスープも一つ。
続けて、菓子の棚へ。チョコレートは……食事としてではなく、補食としてなら許されるだろう。プラスチックのかごに、チョコレートを三種類ほど放り込みながら、考えるのは、やはりあの人のことだ。
らしくないと思う。けれど、どうしても、降谷さんとのささやかなやり取りばかりを思い出してしまう。

――そう。ささやかなやり取りだ

確かに、俺は業務時間外のコンビニで、上司のことを考えている。
顔がよくて、何でもできて、厳しいけれどやさしい、あの男のことばかりを考えている。
だが、思い出すのは、仕事真っ最中のシビアな場面ではない。業務の合間に交わした何気ないやり取りばかりなのだ。

――なーんだ、そうか、そうだったのか

仕事とプライベートの切り替えが下手になったわけじゃない。降谷さんとのやりとりが日常と隣り合わせの場所にあるから、つい思い出してしまうだけだ。そのことに気がついてほっとする。そしたら、なんだか、気が抜けた。
それで、今日発売の漫画雑誌のグラビアが、ヨーコさんだったことを思い出し、雑誌の棚の前へ移動する。ついでに、箱ティッシュを買おうと日用雑貨の棚に目をやった。目に入ったのは、スタイリッシュなデザインの紙の箱。

――あ、この店。ゴムはここに置いてあるのか

なんで、そんなことを考えたのかはわからない。しかし、なんだか、そわそわする。
妙な気まずさを、ごまかすように、ティッシュをかごに放り込み、漫画雑誌を片手にレジに向かった。

「あたためますか?」

の、店員の問いにすぐに反応できずにまごついた俺はポイントカードを取り出しながら、やっぱ、今の俺、なんか変だよな? と、そんなことを考える。
会計を済ませ、店を出ようとする俺に、背の高い眼鏡の店員が声をかけた。

「お客様、あたための商品が……」
「えっ……ああ、すみません」 こんなかっこ悪いところを、降谷さんに見られなくてよかったと思いながら、この感情ってなんだっけと、首をかしげる。外は静かな夜で、店員が「お熱いのでお気をつけくださいと言って渡したミネストローネが、本当に熱い。
チョコレートにスープの容器が触れないように、細心の注意を払って、手提げにしまう。そして、足早に店を去る。

 

 

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