とにかく今年、僕は君と浴衣を着た #風降版ワンドロワンライ

風降版ワンドロ・ワンライ「浴衣」
本文40分くらい+推敲&投稿準備20分くらい


 

「自分、大学生の時に浴衣の着付けを勉強したんです。パソコンで動画を何度も見て」

そんな話をしたのは、風見と知り合って最初の夏だった。僕らはビアガーデンで肉を焼きながら、あたりさわりない世間話をした。
お互いのことをよく知らなかったし。僕も風見も、二十代後半の青年だった。仕事から離れれば砕けた話もしたし、年相応に色っぽい話もした。

僕が、警察学校時代の合コンの話をすれば、風見は「え? そのイケメンが全部、おいしいところを持っていっちゃったんですか?」と笑った。
あの頃の僕らは、自分たちが、いずれ恋愛関係に至るなんてことを、まったくもって予測していなかった。お互いが、お互いの体に、欲を持つなんて思ってもみなかった。

「ホォー? 浴衣の着付けを……?」
「ええ。当時付き合ってた彼女と、どうしても浴衣デートしたかったから」
「ああ。それで、君が着付けを?」
「ええ。着付けができた方が便利でしょう?」

そして、僕は、その言葉の本当の意味を、つい数時間前まで理解していなかった。

 

※※※

 

「ね……? 着付け、上手でしょう?」
「……ああ」
「男同士だから、披露できませんでしたが、おはしょりだって上手に作れるんですよ」
「そうか……」

夏祭り。浴衣で歩く帰り道。ホテルに誘われた。
家まで我慢しろという僕に「大丈夫ですよ。自分、着付けの復習やってきましたから」と風見が言った。
それで、僕はようやくのこと、学生時代の風見が浴衣の着付けを身に着けた真の目的を知った。
部屋にハロを残してきたから、三時間の休憩をほんの少し早めに切り上げる。

「……不純な動機だな」
「え……?」
「つまり君は、浴衣姿の女性と、ラブホテルでこのようなことをしたくて、着付けについて学んだんだろ……?」
「……いやだな、降谷さん。人類の進歩は常に性欲によって支えられているんですよ」

ため息をつきながら、髪をかき上げれば

「ああ……やっぱ、いいですね」

しみじみとした口調で風見が言う。

「ん……? 君、浴衣が好きなのか?」
「いいえ。なに着せても似合っちゃうあなたが好きなんですよ」
「ハァ?」
「紺も似合いますが、来年は、もう少し、明るい色合いの浴衣もいいですね」

風見が、自分で自分の浴衣の帯を結ぶ。その仕草が、ひどくよいものに見えた。「来年の夏も、一緒に過ごしてくれるのか?」と、言いそうになり、あわててひっこめる。
約束は、極力、少ない方がいい。

「そうか。さて、忘れ物はないか?」
「はい……!」

部屋を出る。エレベーターまでのカーペットが下駄の音を吸い込んでいく。
外に出れば、街に人通りは、ほとんどない。祭りの終わりをしみじみと感じた。こんな風に、いつか、二人の関係も静かに冷えて、終わっていくのだろうか。
僕の浴衣を着つける、風見の横顔を思い出しながら、愛犬の待つ部屋を目指し、下駄の音を響かせる。

 

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