なつやすみ #風降版ワンドロ・ワンライ

#風降版ワンドロ・ワンライ
第4回 お題『夏休み』

風降の何もない夏休み

※黒の組織がバカンス休暇取ってるという描写があります
※性に関する言及があります。


 

夏休み。

愛車RX-7。先日、新しい部品が手に入った。普段、彼女にはずいぶん無理をさせている。束の間のねぎらい。なじみの整備工場に彼女をあずけた。

驟雨、去ったあと、7月の朝。

空気が重く感じるほどの湿気。遠くに立ち上がるは入道雲。

夏休み。

プールに向かう子どもらの群れ。河川敷のグラウンドから聞こえる、ノックの音。

スケジュールは真っ白。
4日間の夏休みのその初日。

潜入先の構成員は外国人が多い。夏、彼らは仕事をセーブする。

まぶしい太陽。バカンスの季節だ。

幹部たちはそれぞれ、プライベートビーチでの読書であるとか、別荘で乗馬をするとか、行楽の予定があるらしい。

僕は警察官だ。つまりは、サラリーマンである。

与えられた夏休みは、4日間。それは、ここ何年間で、一番長い連休だった。

日が高くなっていく。
ハロと河川敷を走りながら、ぼんやりと夏休みの予定を考える。
そうだな。せっかくなら。風見を誘って、どこかに出かけたい。

しかし、愛車は整備中。

出かけるなら、レンタカーを借りるか公共交通機関を使うしかない。

愛犬との散歩を終え、シャワーを浴びる前に

「君も休みだろう? どこか出かけないか?」

電話をかけた。
レンタカーが必要だ、とか。
東京まで3時間で帰れる範囲で、いい場所を探しておけ、とか。
そんなことを、電話で伝えた。

シャワーを終え、僕が髪を乾かし始める頃。私服姿の風見がインターホンを鳴した。
アン! と、ハロの吠える声。

「申し訳ありません。レンタカーは、三連休で借りられませんでした……」

深々と頭を下げる風見に、僕は少しだけ、腹を立てる。

「おい、夏休みなんだから……そういう……部下みたいな態度はやめろ」
「しかし……」
「もっと……彼氏面しろよ。君は、僕の恋人だろ?」
「いえ……。彼氏だから、謝ってんですよ。したかったんでしょ? 車でお出かけ。」

風見はギロリとこちらを睨む。

「なんだよ……怒るなよ」
「いえ……怒ってるわけじゃなくて、悔しいんです」
「レンタカーが取れなかったことがか?」
「……年上の恋人として、あなたをドライブに連れ出せないことが……あー、せっかく穴場の夜景スポット見つけたのに。車、買うかな……」

僕は久しぶりに、自分からキスをねだった。
ちゅうっと、合わさった唇は、少し柔らかい。

「ほんと……すみません」
「なぁ、連れてってくれよ。いいところに」
「え……? しかし、車がないですし。白昼堂々、二人で表を歩くのは……。あむぴが短髪眼鏡の大男と歩いていたという目情が広まると……仕事がやりにくくなりますし」
「……君は、勘がいいわりに。ときどき、とても察しが悪いな」
「……は? いや、アンタの言い回しが難解なんですよ」

僕は、ゆっくりとベッドに移動し、端っこに腰をおろした。

「君も、僕に合わせて、夏休みを取ったんだろ?」
「はい……」
「だったら……連れてけよ。僕を。とんでもなく高いところまで」
「え? ああ……そういうことですか? まあ、いいですけど、今日は泣いても、やめませんから」

風見が僕の隣に腰かける。

「泣いてもやめない……か。しかし、君は僕の涙に弱いからな……」
「はは……よくわかってますね」

彼の案外器用な指先が、僕の髪を耳にかけていく。

「それにしても……。なんか、休みの日に、いきなりセックスって……学生みたいで、気恥ずかしいですね」

ふふっと、風見が笑う。

「……君は、そういう学生だったのか?」

コホンと。ごまかすように。風見が咳払いをする。

「降谷さんはどういう学生時代を?」
「……学生の本分は勉強だろ? 夏はアルバイトばかりしてた」

大きな肩に、そっともたれかかる。

「なら……」
「うん?」
「自分と遅く来た青春のような、夏休みを過ごしてみませんか?」
「遅く来た青春……?」
「セックスして、コンビニに買い出し食料とゴムを買いに行って、ちょっとテレビ見て、またセックスして、少し寝たら、またやるんです」

その提案に、体が熱くなった。

「どうです? 楽しそうでしょ?」

ピピッという電子音。風見が勝手に、エアコンの温度設定を下げたらしい。

「別に……かまわないけ、」

僕が言い切るのを最後まで待たず。
風見が僕の体にのしかかる。

エアコンのファンが回る。
隣の部屋からは、掃除機の音が聞こえる。

ガラガラ

遠くに落ちた、雷の音。

今夜も一雨あるんだろうか。
干しっぱなしの洗濯物のことを思いながら。

キスの雨を浴びる。

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