でこぼこりんご

風見が降谷さんのお見舞いに行く話。
風+降小噺。
付き合ってない。CP未満。

※あとがきで、SSの書き方について語っている

 


 

どちらが悪かったとか。間違えていたとか。そういう話ではない。
二人そろって自分の感情をこらえられなかった。それだけのことだ。
四六時中、とまではいかないが。現在、僕が一番関わりを持っている人間が、風見裕也であり。その逆も、しかりだ。たくさん会っている分だけ、どうしたって、事故も起こる。
それを理解していたから、僕は、結論をあいまいにし、特に、仲直りのようなこともせずに別れた。
そして、次に会ったらいつも通りだと、そう信じていた。
だから、正直、想定外だった。あの日のいさかいを、僕らは半月も引きずっている。

……さて。
僕は今、病院のベッドで、窓の外を見ている。

さる大学病院の個室。
大きなけがをしたわけでも、大病をしたわけでもない。健康診断で取った心電図に、異常波形が映りこんでいた。P波が一か所だけ、二峰になっていたという。
念のため、再検査をする……まではわかる。だが、入院は大げさだ。
それでも。裏の理事官の命とあらば逆らうわけにもいかない。突如、言い渡された、三泊四日の入院療養。庁舎から病院に直行するように言われ、荷物を取りに行くことすら許されなかった。
着替えとタオル。歯ブラシ、箸やコップなどの用意。それから、留守中の犬の世話。頼める相手は一人しかいない。

風見は、入院のしおりに書かれた物品を僕に手渡すと、ビニール袋に入った、小さなタッパーを差し出した。

「……リンゴを食べれば、医者知らずだって」

ぶっきらぼうな言い方。たしか、その言葉を教えたのは、僕だった。
カサリ。袋から、半透明の容器を取り出し、蓋を外せば。酸化し変色した、でこぼこのカットリンゴが、八切れ入っている。一つ摘まみ上げ見つめれば、蜜が、たっぷりと入っていた。

「では……俺は、これで」
「……風見」
「なんでしょう?」
「今度、リンゴの剥き方、教えてやる」
「……はい」

リンゴを口に含む。シャリっと歯を立てれば、さわやかな香りと、甘み。そして、少しの酸味が、口の中いっぱいに広がった。
シャリシャリと、リンゴを咀嚼する。
一度、立ち去るそぶりを見せたくせに。直立不動の風見が、僕を見つめていた。

「風見……」
「はい」
「おいしいよ」
「……それは、よかったです。降谷さんあの……」

何か言いかけたところで、風見のスマホが、ブーブーっと、音を立てながらふるえた。

「仕事、抜けてきてくれたんだろ? ありがとう。助かったよ」
「……失礼いたします」

お辞儀を一つして、彼は、立ち去った。
別に、仲直りをしたわけではない。あれがけんかであったかすらも怪しい。だけど、僕は今、さわやかな気分だ。
もう一口。リンゴをかじる。カクカクした見た目の、荒削りのカットリンゴ。

シャリシャリと噛めば、幸せな甘みがやってくる。

 

 

【あとがきなど】

先日、通話をしていて、ssの書き方の話になり。

①一番書きたいシーンを決める(何をしている場面? 雰囲気は?)
②そのシチュエーションの前に何があった?(どうして①のような状況になったのか)
③①のシーンを通して、二人の関係性はどう変化した?(関係性の変化がわかるような描写をいれる)

の、三段階で、話はすぐに作れる。ということをお伝えしました……。
二次創作は、世界観の構築もキャラを一から作る必要もないので、この段階を踏むだけで、それらしいものが書けてしまう……。文章による二次創作は、すっごい簡単♡

で、その際「療養中の降谷さんにリンゴを差し出す風見裕也」を例にあげたので。
せっかくだから、仕上げてみました。

①書きたい場面
険悪なムードの中、降谷さんのお見舞いにやってきて不格好なカットリンゴを差し出す裕也。

②そのシチュエーションの前に何があったか?
なぜ、険悪? →ちょっとしたいさかいがあって、仲直りできていない。
なぜ、入院? →黒田さんの命令

③関係性の変化
風見の降谷さんへの思いが伝わって。わだかまりがとける。

に、場面描写を足せば、ssっぽい文章が仕上がってしまうというわけ。
簡単だね!

 

 

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