Melty,melty,melty

初出:Pixiv 2021/9/19

【確認事項】

〇そしかいご
〇事実婚状態の風降。
〇降谷さんが、風見とのえっちが大好き。
〇風見のことを好きすぎるあまり、盗み聞きをする降谷零。
〇風見が降谷さんをネクタイで縛ったり……という描写がある。


 

風見と付き合い始めて三年が経つ。
長らく追っていた組織に関する仕事が落ち着いて早二年。
三十一歳になった僕は、忙しくはあるものの平穏な日々を送っている。

潜入捜査がいったん打ち切りになったことで、僕は右腕を失うことになったが。その辞令を伝えた晩「俺をあなたの人生の右腕にしてください」というプロポーズを受け、僕らは今、事実婚のような生活を送っていた。
今日は久しぶりに、ゆったりと二人の時間を過ごせる。
ハロには、ペットマッサージを施し、ぐっすり眠ってもらっている。……と、いうよりは。僕がマッサージを始めると、その意図をなんとなく察するらしい。名犬ハロは、飼い主のために、僕の部屋のベッドの上ですやすやと寝息を立てるのだ。

二人暮らしにしては少々贅沢な部屋。それぞれの個室と、寝室にワンフロアのLDK。
風見にだって秘密にしたいことはあるだろうし、僕にだって秘密はたくさんある。
僕らはお互いにたくさんの機密情報を抱えていた。
きちんと、部屋を区切ることによって、僕らはお互いの秘密を持ち出すことなく、それぞれに抱えることができる。

ハロを寝かしつけた後、バスルームで風見を迎え入れる準備をした。
それから、一時間、積読になっていたミステリー小説を読んでいたら、風見から「駐車場につきました」という連絡がはいった。
僕は、ゆっくりと、玄関に向かった。
かちゃり、と鍵の回る音。
ドアが開けば、愛しい人が

「ただい……」

きょとんとした顔でこちらを見た。
薄ピンクのTシャツにボクサーパンツを一枚。それだけを着た僕に、風見があわててドアを閉めた。

「ちょっと……あんた、なんて格好を」
「だって……今日は朝から約束してたろ? 仕事を早く切り上げて帰ってきたのに……君、なかなか帰ってこないし」
「なかなかって……九時前に帰ってきたら上等でしょう?」

こんなやり取りをする時間すらもどかしい。僕はスリッパを履いたまま、玄関のたたきに降り、風見に抱き着いてスラックスの上から、硬いお尻を撫でた。

「ちょっと……靴くらい脱がせてくだ……」

その唇をふさぐ。舌を滑り込ませれば、風見は左手に持っていたバッグを下駄箱の上に置き、僕の体を抱きしめた。
キスをしながら、風見の陰部に手を添える。そこは、すでに力を持ち始めていて、たまらない気持ちになる。
いつから、ここを大きくしていたんだろうか? キスをした時か? それとも僕の服装を見た瞬間か? あるいは、マンションのエレベーターの中からか?

風見はびっくりしたようなリアクションを取っているけれど、こうなることは、ここ最近のお約束だ。
股間に添えた手のひら。ズボンのファスナーの金具を探し当ると、僕はそれを一番下まで下げてしまう。
隙間から指を滑り込ませ、さわさわとすれば、風見のパンツはほんのり湿っていて、その事実にすごく興奮する。
キスを切り上げ、しゃがみこむ。風見の指先が、僕の耳をやわやわと触った。
上目づかいで、風見の表情をうかがえば、あきれたような顔。眼鏡がほんの少しずっこけていて、それがすごくかわいらしかった。
ボクサーパンツの合わせからむりやり、風見の性器を取り出せば、むわっとした匂いが広がる。先っぽの皮をむき、舌を添える。それから、竿の部分をしゅっしゅと扱けば、風見の性器は、どんどん硬くなっていった。

「ふっ……ふ……あ……すごい……君の、もうこんなに……」

うっとりしてしまう。とても大きくて、硬くて、隆々とした、雄の証。

「……ほら、降谷さん……ベッド行きましょうね」

風見が僕の頭を撫でる。

「……これだけ大きくなったんだ。もう、入るだろ?」
「……ここで?」
「ここで……」
「声我慢できます?」
「できる」

僕は立ち上がり、下駄箱の上にある風見のバッグを抱きしめながら、上半身を天板にあずけ尻を突き上げた。

「ほら……はやく」
「……しょうがない人ですね」

振り向きながら、風見の目を見つめる。風見が眼鏡を外し、それを僕にかけた。
視界がぐわんとゆがむ。

「お尻、もうちょっと上に」

僕は、前を向き、目をつむった。カチャカチャとベルトを外す音に衣擦れの音。
ばさりと音がし、左の頬に何かがふれる。目を開けてみれば、風見のズボンがそこに置かれていた。
僕は、そのズボンを引き寄せ、クン、と匂いをかいだ。
今日はどんな仕事をしていたのだろう。ほんの少し、機械油のにおいがする。そして、その奥に、風見自身の匂いを見つけ、僕はうれしくなる。

「早く……はや…くぅ」

再び目をつむり。風見のズボンに顔をうずめた。

「はいはい、ちょっと待ってくださいね」

期待で、腰が揺れてしまう。
腰に大きな手のひらが添えられた。とても熱い。
ウェストのゴムに指がかかる。バックの生地を臀裂のあたりまで降ろされる。フロント側は、僕のペニスに貼りついたままだ。
呼吸が荒くなる。すうっと息を吸うと、スラックスに染み込んだ風見の匂いが脳まで届くようだった。

「いいですか?」
「ん……焦らすな」

尻に、欲しくて仕方なかったものがあてがわれる。風見が挿入しやすいように、脚を肩幅に開き腰を突き上げた。

「あっ……」
「こら……声」
「あ……だって……君がいきなり……」

おそらく、すでに半分は入っている。何度行為を重ねても。いくら入念に準備をしても、挿入を始める時の圧迫感には、なれることができない。
腰に添えられた手が離れていった。心もとない気持ちになる。足にうまく力が入らない。
シュルシュルと布の擦れる音。
風見が僕の背中に腹を乗せながら、耳元でささやいた。

「お口開けてください」

言われたとおりに、口を開ける。ずり落ちた眼鏡。視界の端に見えたのは風見のお気に入りのネクタイだった。

「口に噛ませますよ」

僕、ネクタイをぱくりと食んだ。風見が、僕の頭の後ろに結び目を作る。

「ん……っ」

言葉を封じ込まれる。

「んっ……んん」

風見が再び僕の腰に手を添えて、ゆるゆると腰を動かし始めた。

「んんっ……んっぅん……」
「こら、うるさいですよ」

うるさいと言われたって。
だって、気持ちがいいのだ。
胸の下に置いた鞄が、Tシャツの布越しに僕の胸を愛撫する。口には風見のネクタイ。
そして、おなかの中いっぱいに、風見が入ってくる。
耳にキスをしてほしい。そう思いながら、髪を左耳にかけた。風見は、その仕草から僕の欲望を正確に読み取る。僕の背中にのしかかりながら、耳に唇をくれた。
耳たぶの後ろを、舌でつんつんとつつかれる。それが、たまらなく、気持ちがいい。

「んんー……! んっんんぅ……」
「こら……、しずかに! 降谷さん、聴こえます?」

聞こえる? 何が?
風見のペニスと僕のアナルが奏でる音。
風見のシャツと、僕のTシャツがこすれる音。
ガタガタと音を立てる木製の下駄箱。
風見の息遣いと、自らの鼻息。

そして微かに、足音が聞こえた。

「んんー!!」
「こら……」

ぺちんと、尻を叩かれる。

「人が来ると思って興奮しちゃったんですか?」

風見のささやき。それは、まったくの図星で、僕は恥ずかしくなる。

「いけない人ですね……お隣さんかもしれないのに……まあ、俺達の仲のよさは、ばれてしまってるかもしれませんけど……さすがに玄関から喘ぎ声が聞こえて来たら、お隣さんも気まずいでしょうね」

かつ……かつ…カツ、カツン。
革靴の音がどんどん大きくなる。隣の部屋には、五十過ぎの品のいいご夫婦が住んでいる。お子さんは既に家を出ており、二人きりの生活を楽しんでいるとのことだ。
彼らは男同士のカップルである僕たちに対し、偏見を持つこともなく、近所づきあいも普通にあった。僕が、家庭菜園の野菜を差し入れれば、夫人がお返しに手作りのクッキーを焼いてくれる。そういうやりとりが何度もあった。

「……っ……ん」

必死で声をこらえる。
構造は鉄筋コンクリートだが、玄関はドアの分だけ、どうしても、防音が甘い。
突如、風見が、ペニスの出し入れのピッチを上げ始めた。

「……! ……!!!」

首を横に振る。でも、風見は、ピストンをゆるめてくれない。

「……! ……っ! ……!!!」

声をぐっとこらえる。酸素が薄くなる。風見のスラックスをぎゅうっと握りしめる。

カツッ、カツッ、カツ

足音が部屋の前を通過する。ドアが開く音。そして、数秒が経過し、ガチャンとドアが閉まり、再び静寂が訪れる。

「んっ……んんっ……!」
「声、ちゃんと我慢できましたね」

しゅるっと音がし、口元にあったネクタイが緩む。

「あ……っ……ああ……」
「ほら……がまん」
「ぁ……んっん」

風見のペニスが、僕の、奥をついた。
小刻みに、同じ場所をつつかれる。

「はぁっ……ふるやさん……」

耳元で名前を呼ばれる。おなかの奥が、甘くしびれた。
下着の中が、べちゃり生ぬるいもので、ぬめった。

「あ……いってる? すごっ……しまる……」
「んっん……」
「……俺っ、も……そろそろ……」

背中から、風見が離れていく。僕は寂しい。
がしりと、腰を掴まれる。べちゃべちゃべちゃという音が響き、風見の吐く息で、部屋の気温が上がっていくようだ。
ズンズンと奥をつかれ、たまらない気持ちになる。そして、性器をいっぺんに引き抜かれた。

「あっ……! ……!!!!」

膝が崩れそうになるのを必死でこらえた。
背中の上をTシャツの生地が、滑っていく。
僕の背中の上に、ぽたぽたと、熱い液体がしたたり落ちるのを感じた。

「はー……っ。はぁ」

風見は僕から眼鏡を奪い取ると、それをかけ直した。

「降谷さん、立てます?」
「……うん」

よろよろと上体を起こす。僕の右わきに、風見の左肩が滑り込み、僕は重心をそちらに傾けた。
そして、ふたりで、ゆっくりと脱衣所まで移動すれば、風見によって丸裸にされてしまう。

「パンツ……おもらしでぐしょぐしょになってる……」

そうからかわれて、僕は、身の置き所がない。
素っ裸のまま、風見が服を脱いでいく姿を見つめる。
シャツ、インナー。少しだけシミができたブルーのボクサーパンツに靴下。風見が、それらを洗濯機に放り込んでいく姿を観察した。
風見のペニスは、へにゃんとリラックスしていた。
それに対して、僕のそこは、ツンと上を向き、とろとろとしたものを垂れ流している。
それが悔しくて、風見のペニスに手を添える。

「こら、がっつかない」
「だって……久々だし……」
「玄関で一回したでしょう?」
「あれで足りると思うか?」
「……まあ、足りないでしょうね」

両手で風見のペニスをしごきながら、立派な顎にちゅうちゅうとキスをする。
風見が僕の頭をやさしくなでた。

「降谷さん……まずは、俺が背中に、かけたやつきれいにしましょうね」
「うん……」
「風見」
「んー?」
「ちゅう、して」
「ふふ……あーんしてください」

舌を挿しこまれる。
風見のキスはとっても上手だ。

「ん……っ……んっふ……ふ」

こうして、僕らの夜は更けていった。

 

それから、三日後の平日午後九時二十五分。

僕は、半個室の居酒屋で一人お酒を飲んでいた。
となりから聴こえてくる風見裕也の声。それがたまらなく愛おしい。

なぜ、僕がこうやって、恋人の声を盗み聞きしているかといえば、上司部下の関係を解消したことにより同僚と気さくに話すときの風見の声を聴く機会が激減したためだ。
色っぽい風見の声も大好きだけれど、僕は自然体で、カラッとした感じの風見の声も好きで好きで仕方ないのだ。

「風見さん、同棲してるんですよね?」
「ああ。まあな」

突然始まる僕の話に、むせそうになってしまう。

「……夜の方ってどうなんです? なんか、一緒に住んじゃうと、マンネリ化しません?」
「いやー……まあ、まだ付き合い始めて数年だし。そうでもないよ」

気になる話題だ。
風見の後輩たちよ……そのあたりを詳しく聞き出してくれ。

「ていうか? どんな感じなんですか? やっぱ料理上手は床上手?」

その問いに僕は頬を染めた。

「お前……古い言葉を知ってるな」
「いやー……この前、××先輩と飲んでる時にそういう話を聞いて」
「なるほどな……」
「って……はぐらかさないでください……どういう感じなんですか」
「俺も気になってました。聞かせてください!」

僕と風見は関係を公表していない。したがって、風見の後輩たちは、僕を思い浮かべながらその会話をしているわけではない。それはわかるが、とても、恥ずかしい気持ちになった。

「まあ、なんていうか。何度やっても、処女みたいな人だよ」

その言葉に、僕は驚いた。
だって、風見とセックスするときの僕は……ぜんぜん処女じみていない。

「え……? なにそれ、どういう意味ですか?!」
「俺のチンコ見て、毎回びっくりするし。キスとかもおっかなびっくりだしな……でも、そういう所がかわいくて……」

誰の話だ。それは。

「えー……風見さんのチンコ見てびっくりするのは、何度見てもデカいからじゃないですか……?」
「……いやー。別にそんなデカくないぞ。俺は」
「何をおっしゃいます、風見さん……! 俺、ある人から聞いたんですけど。仮眠室で、風見さんの朝勃ちしたブツがスウェットの生地を押し上げるのを見て、思わず拝んだって話を聞いてますよ」
「あー……それ○○さんだろ。あの人は話を盛るからな」
「いや……通常時であの大きさっすから」
「日本人の勃起率で考えたらな……」

同棲相手との夜の営みについての話題は、いつの間にか忘れ去られ、場は風見のペニスの話題で盛り上がり始めた。
僕は、席を立ち、会計のカウンターに向かった。

「あの……ちょっと、用事ができてしまって……まだ出てない料理のお代は支払います。もし、もう作り始めてしまっているようなら、隣の席の男性グループにサービスか何かだと言って、出してやってください」

僕の無理やりな頼みを、店員は快く引き受けてくれた。
会計を終え、家に帰る道すがら、僕は、自分が傷ついたことに驚いていた。
風見は酔っぱらっていたのかもしれない。いや、しかし。酔っぱらっているとはいえ、あんなにも事実と異なる話をするだろうか?
玄関で、セックスを求めるようなパートナーは恥ずかしいということだろうか。
風見は、処女のような僕とセックスをしたいのだろうか。
考えれば考えるほど、頭が混乱していく。
僕は、必死になって、風見と初めてセックスしたころの、まだ、性に目覚めていなかった頃の記憶を呼び起こしていた。

 

今日は、風見と思い切りセックスする日だ。
しかし、先週のできごとがあって、僕は不安な気持ちでいっぱいになる。
ペットマッサージの仕上がりにも、影響が出ていたのかもしれない。ハロが心配そうな顔で、こちらを見つめていた。
それでも、どうにかこうにか、ハロを寝かしつけ。僕は、リビングのソファで、風見の帰りを待つ。
この前のように、Tシャツとパンツ一枚なんて格好はしない。きちんと、部屋着を着こんでいる。
今日はシャワーだけにして、後ろの準備も自分でしなかったから、時間がぽかりと空いてしまった。
久々に、動画配信サービスで映画を見ることにした。

「……降谷さん」

その声掛けに、ぱちりと目を開ける。
目の前には風見。
僕はといえば。ソファで横になっていて、体の上には薄手の毛布が掛けられていた。

「風見、お帰り」
「……寝てらしたので、疲れたのかなと思い」
「え……ああ。ありがとう」

ふと見れば、風見もすでに部屋着になっていて、髪がほんのり湿っていた。

「君、夕飯は?」
「ああ、済ませてきました。降谷さんは?」
「僕も軽く……」

体を起こし、毛布を肩から羽織った。

「寒い?」
「うん。少し」
「牛乳、あっためて来ましょうか?」
「……ああ。頼む」
「ブランデーは?」
「いい」

数分後、二人分のマグカップを持って、風見が戻ってくる。
僕は、毛布をたたんでそを背もたれにかけ、風見が座れるよう横にずれる。

「はい……どうぞ」

イエローのマグカップを渡される。
風見は緑色。色違いのカップは、シンプルなデザインだが、取っ手のところの形が少しだけ上品で、僕はそこを気に入っている。
二人でゆっくり、ホットミルクを飲む。風見は、自分のカップには少しブランデーを垂らしたようだ。ほんのりといい香りが漂ってくる。

「降谷さん……」
「どうした?」
「なんか、最近、疲れてました? 家でも緊張している時間が多かった気がしていて」

見透かされている。
毎晩セックスをするわけではないが、ベッドを共にしているし、タイミングが合えば、ちょっとした体のふれあいをしていた。
体のこわばりや、表情。もしかしたら、風見は僕以上に僕の変化に敏いかもしれない。

「今日は、ゆっくり寝ましょうか?」
「……いや。だいじょうぶだ」

ちょっと引っかかることはあったが、基本的に僕は、風見とのセックスを強く欲している。
しかし、今日は、初めての時のようにふるまわなければならない。
マグカップの中の牛乳を飲み干して、一つ息をつく。

「風見。歯みがいて……ベッドに行こう」

そう言って誘えば、風見もあわてて、牛乳をのどに流し込んだ。

初めてセックスをしたのは、風見の部屋のセミダブルのベッドだった。
男同士二人、ぐっすり眠りたくて。そして、じっくり抱き合いたくて選んだキングサイズのダブルの上。僕は、体育座りをしながら、眼鏡を外す風見の背中を見つめていた。

このところ、僕が少しでも早く、と。風見とのつながりを求めた故に、ベッド上で”お作法”を一からなぞるのは、久々だ。
本当だったら、今すぐ風見のズボンを引き下ろして、ペニスに触れてしまいたい。
けれど、セックスを初めてしたころの僕は、そんなじゃなくて。体をカチコチにし、風見の一挙一動に戸惑っていた。
風見が、ベッドサイドに腰を下ろし、こちらをふりむく。すっと右手が伸びてきて、僕の顎を撫でた。

「今日は、おとなしいんですね?」
「……なんか、緊張してしまって」

それは、本当だった。
風見がどうしてあんな嘘をついたのか。
もしかして。自分から風見のペニスに手を伸ばしていた僕のことを、好ましく思っていなかったのだろうか。
そんな考えがよぎってしまう。

「……緊張?」

風見の手のひらが離れていく。それが寂しくて仕方ない。

「……いや。これは、僕の問題だから、君はいつも通りでいい」

そう、これは、僕の問題なのだ。
そもそもとして、盗み聞きなんて下賤な真似をしなければ、こんなことで悩むことはなかったのだ。

「……そう、ですか?」

風見がゆっくりと、ベッドにのぼってくる。僕は、スウェットの生地をぎゅっと握りしめて、風見に触れられるのを待った。
自分から触れたい。だけど、初めての時の僕はそんなじゃなかった。

「降谷さん」

風見に押し倒されて、僕は仰向けに寝転がる。
風見の匂いがする。風見の顔が近づいてくる。自分から、両手を首に巻き付けてしまいたい。舌をつき出してキスをねだりたい。だけど、初めての時の僕はそうではなかったから、我慢をしなければならない。
目をぎゅっとつむる。
風見の右手が、優しく僕の前髪をかき上げた。それから、こめかみに一つキスをされる。
嬉しくて体がふるえる。だけど、僕は、処女のようにふるまわなければならないから、顔をこわばらせる。

「降谷さん……?」

目をぱちりと開ける。風見が心配そうな目で、僕を見つめていた。その表情に、僕はたまらなくなる。下腹が、目の前の男をもとめてうずき出す。
だけど、それを悟られてはいけない。僕は目をそらし。

「続き、して」

と、答えた。
風見は、ちょっと困ったような顔をしながら、上に着ていた長袖のTシャツを脱いで床に放った。
へその下に、生えた産毛。僕はそれを触るのがたまらなく好きなのだが、今日は我慢しなければならない。
続けて、風見が、ズボンとパンツをずらして、性器を露出させた。
膝立ちになった風見が、僕にそれを見せつける。

「ほら、降谷さん……俺のココ。こんなになってる」

体が熱くなる。いつもだったら、僕はすぐさま起き上がり、風見のそこにしゃぶりついただろう。
だけど、今日は我慢なのだ。僕は、初めての頃を思い出し、少し大げさなぐらいに、びっくりして見せた。

「降谷さん……」

風見が、パンツの中に、ペニスをしまい込んでしまう。
僕は、悲しくなって、目をつむった。僕たちが集中してセックスに取り組めるのは、よくて週に一度。一か月間が空くこともある。
しかし、僕は、初めての時のようにふるまわなければならなくて。だから、自分から風見のパンツを奪い取ってしまうなんてこと、してはならないのだ。
季節は中秋。
ベッドと最低限のものしか置かれていない床張りの部屋はひんやりとした空気に包まれた。
風見がゴロンと横になり、僕を抱きしめる。

「無理、してますね?」

している。すごく。
本当は、いますぐ大きな背中に腕を回し、キスをして、ペニスをねだりたい。

「して、ない……」
「嘘だ、体が震えている」
「……これは」

君が欲しくてたまらなくて、身体がうずいてしまっているんだ……なんて。そんなことを言う処女がどこにいるだろうか。

「む……武者震いだ」
「え?」
「君との大事な夜だからな……気合が入ってしまうあまり」

いや、この言い訳はさすがに苦しい。

「無理、しないでください……」
「でも……」
「ちょっと、十分ほど待っててください」

そう言うと、風見は寝室を出て、どうやら自室に入ったらしかった。
何が始まるんだろうとそわそわする。
いつもだったら、その背中を追いかけて、風見の部屋でするなんてこともあるわけだが、今日はさすがに無理だった。
もぞもぞと体を動かすうちに、風見の部屋のドアが開閉する音が聞こえる。僕は、体を起こしベッドの端に座りなおして風見を待った。

「降谷さん……」
「どうした?」

風見の表情はとても穏やかだった。

「お布団入りましょうか」

風見に促されて、二人で布団にもぐる。

「降谷さん、ちょっと、身体、あっちに向けて?」

言われるがままに寝返りを打てば、僕の背中に風見がぴたりとはりついた。
セックスがしたい僕は、風見の体温に身を焦がす。風見の性器の感触を腰のあたりから感じ取ろうと神経をとがらせる。
そこは、ふにゃり、としていた。

「今日は、寝ましょう」
「え……? なんで……僕」

したい。なんて、今日はどうしても言えない。

「……言える時が来たら言えばいいです」

言える時って? 何を?
セックスしたいってことを? それとも、居酒屋で風見と後輩たちのやり取りを盗み聞きしていたことを?

「ちょっとずつね……また、慣れていけばいいんですよ。だから、焦らなくていい」

どういう意味だろう。風見の言葉の意味が全然分からない。

「風見……」
「今は、休みましょう。ね?」

頭をやさしくなでられる。
そういえば、初めて、セックスするまでの数か月の間、僕たちは、こんな風に身を寄せ合うだけの夜を何度も過ごした。
あとから聞いたところによると、手を出さないように我慢するにはかなりの忍耐が必要だったとのことだ。風見は、僕の心の準備ができるまで、性的な意味で僕に触れてこなかった。
だから、今度は僕が待つ番なのかもしれない。風見が、どうして、僕を抱かないのか。そこにはきっと、何らかの意味があるはずだ。

「風見」
「ん?」
「おやすみのキス」

キスをねだりながら体をよじれば、唇に触れるだけの短いキス。
僕は、風見の腕の中で寝返りを打ち、大きな胸に顔をうずめた。

 

 

 

最近、降谷さんの様子がおかしい。
決定的な違いに気が付いたのは、三日前の夜。
その日は、思い切りお互いの体を求めてもよい日だった。
いつもだったら、積極的に体を求めてくる降谷さんが、それをしなかった。めずらしく、うたたねなどをしていたから、疲れているのかと考えたが、俺を誘うような仕草が一切見られなかったし、俺のペニスにおびえるような表情を見せた。

その理由を知るのがこわい。

第一線を離れたとはいえ、過去にこの国の暗部と言われるような領域にも深く足を突っ込んでしまった降谷さんの安全は、非常に不安定だ。
何があったのか、聞くことができなかった。
降谷さんは、体をふるわせながらも、性行為の続行をねだった。
そりゃあ俺だってセックスをしたいと思ったよ? それも、すごく。とても。
けれどその選択をしてしまったら、降谷さんは永遠に、なにがあったかを言えずじまいになってしまうような気がした。それで、俺は、自室で自己処理をし、降谷さんと静かに眠ることを選んだ。

それから、軽めのふれあいすら、ためらわれて。今朝は久しぶりに、家を出る前のキスをしなかった。

「風見さん、この前の店よかったですね?」

運転席の部下に話しかけられ、はっとする。
俺は平静を装いながら、雑談に応じた。

「え……ああ。そうだな。サービスで、串焼きとあげ豆腐を無料でつけてもらえて、得しちゃったよな」
「いやー……しかし、もっと、風見さんの同棲生活のこと聞きたかったな」

その言葉にドキリとする。
俺と降谷さんは、ものすごく、ぎくしゃくとした日々を送っている。

「しかし、風見さんの彼女、最高ですね。毎度処女のような反応って……そんな、AVみたいなことあるんですか?」
「まあな」

そんなわけ、あるわけがない。
俺の降谷さんは、この数年間で、本当に、ちょっとヤバいくらいに、えっちな恋人に成長してしまった。
性経験に乏しかった降谷さんは、つきあい始めの頃こそ、行為のひとつひとつに戸惑いを見せていたが、今では、帰宅してすぐの俺に、セックスを求めるような、淫乱に育ってしまった。
俺は、そんな降谷さんがかわいくて大好きだった。
だからこそ、だれにも、そのことを知られたくなかった。
後輩たちは、俺のパートナーが誰であるか知らない。しかし、将来的に、俺たちの関係が公になることがあるかもしれない。だから、嘘をついた。

それから、一週間が経過した。秋もずいぶんと深まってきたが、俺たちの関係はぎくしゃくしたままだし、ハロもどこか不安そうだった。
ゆゆしき問題である。どうにかしなければならない。
しかし、どうやって?
性的に酷い体験をしたかもしれない人に、どのような声掛けをするべきなのか、俺はよくわからない。きっと、取り調べのような聞き方になってしまうだろう。
なにより、降谷さんが語る真実に、冷静でいられる自信がない。

その日は、二人の時間をゆっくり取れる日だった。
平時なら、玄関の扉を開けるのが楽しみで仕方ないのに、今晩は気が重かった。

「ただいま」

そう言いながら、玄関のドアを開ける。駐車場から入れた帰宅のメッセージは既読になっていたから、この前のように寝ているということはないだろう。

「おかえり」

下の方から、声がして、俺はびくりと体をふるわせた。
声の方を見れば、降谷さんが、床の上にぺたりと座り込み、瞼を腫らせていた。
驚くべきは、その姿で、降谷さんは、なんと、下着すら身に着けていなかったのだ。

「どうしたんです?!」

後ろ手で、ドアを施錠し、チェーンロックをかける。
上着を脱いで、降谷さんの肩にかければ、愛おしそうに、降谷さんがそれに触れた。

「風見ぃぃ……」

降谷さんがぽろぽろと泣き出す。
なんだ? まさか、仕事ではなく、この部屋でなにかあったんだろうか?
よくよく見れば、尻から、粘性のある液体が滴っている。
のどがひゅっと鳴った。
俺は、慌てて、靴を脱捨て、降谷さんを抱き上げ、その体をリビングのソファまで運んだ。
そして、ソファに寝かせる。
しかし、降谷さんは体を起こし、俺の腰に抱き着いた。

「ちょっと……」

これは、ただ事ではない。
どうしたらいいんだろうか。真実を知るのがこわい。だけど、降谷さんが頼れる相手は俺しかいない。
覚悟を決める。
頭をそっと撫でながら

「どうしたんですか」

なるべく、やわらかい口調で声をかけた。

「僕……すごく淫乱なんだ」

その先を聞くのがこわい。しかし、このままでは、お互いの心が持たないことは確かだった。たとえ傷つけ合う結果になったとしても、一度、腹を割って話さなければなるまい。

「淫乱……ですか?」
「僕……君のペニスを見てもうっとりしてしまって、ちっとも驚いたりしないし。キスだって、積極的に求めてしまう」

降谷さんの唇が、俺のズボンの合わせを這い、ファスナーの金具を見つける。
そして、器用に口だけを使って、社会の窓をすっかり全開にしてしまった。

「ん……君の匂い……ひさしぶりだ」

縦長の隙間から、下着越しにキスをされ、スンスンと匂いをかがれる。
俺は訳が分からない。

「あの……降谷さん、ちゃんと、ちゃんと説明してください」

すると、降谷さんは目に涙を貯めながら、上目遣いで俺を見た。体をそっと引きはがしながら、降谷さんの隣に腰をかける。
降谷さんは、俺の膝の上をまたぎ、こちらを真正面から見つめた。そして、尻を俺の太ももの間に落ち着ける。

「どうしたんです……? 家に帰ったら、すっぽんぽんだし……いきなり、淫乱だなどと言い出すし」

意味が分からない。

「だって、僕……すごくやらしいから」

やらしいからなんだというのだ。
降谷さんが、かちゃかちゃと俺のベルトを外しながら、胸をシャツに摺り寄せてくる。

「手を止めてください……」
「やだ……」

聞き分けが悪い。なんだか、イラッとしてしまった俺は、ネクタイを抜き取ると、それを降谷さんの手首に八の字に巻きつけて、ほどけないように結び目を作った。

「ん……」

降谷さんが、とろんとした目で、こちらを見ている。
なんだ、クスリでも盛られたのか? いや、しかし、この表情には見覚えがある。
これは、いつもの降谷さんの表情だ。俺とのセックスを重ねるうちに、気持ちいことが大好きになってしまった、えっちな恋人の顔。

「俺、やらしい降谷さんのこと好きですよ……。というか。最近、降谷さんおかしいですよ。俺とのセックスにおびえているようなそぶりを見せたり……それとは正反対に、こんな風に、俺を誘ってきたり」
「僕……君が……」
「俺が?」
「嘘をつくのを聞いてしまったんだ……」
「は……?」
「君が居酒屋で後輩たちと……」

まさか、あの店に降谷さんもいて、俺達の話を聞いていたというのか?
いや。そんな偶然があるわけがない。

「盗み聞きしてたんですか?」
「だって……君の、ああいう声……久しく聞いていなかったから」

ああいう声とはどういう声だろう。自分の声のことなのに、違いがよくわからない。

「あの時、君……僕との夜のことを聞かれて……何度しても処女みたいな反応をするとか、そんな話をしていただろう?」

していた。確かに。しかし、あれには事情がある。

「あれはですね……いつか、俺達の関係を公にするときがあったとして……」
「うん……?」
「俺が、本当の話をしちゃってたら、恥ずかしい思いをするのはあなただから……」

そこまで告げると、俺は、形のいい唇にキスをした。

なんだ、そんなことだったのか。降谷さんが悩んでいたのはそんなことだったのか。
なにか怖い思いをしたわけではなかったんだ……
その安心感から、俺はぽたぽたと涙をこぼした。

 

久々の深いキス。
手を縛られているから、腕を、その首に回せないのがもどかしい。
薄く目を開ければ、風見の目に光るものが見えた。
えっと思えば、キスが一時中止する。そして、風見が僕を強く抱きしめた。

「よかった……」
「え?」
「……あなたの身に何かあったのかなって……こういうこと……怖くなってしまうような何かがあったんじゃないかって……俺……おれ……すごく怖くて」
「……そんなこと、あるものか」

そう答える僕の声も震えていた。
僕は、風見に愛されているのだと思った。
いや、ずっと、愛され続けていたのだ。
つきあい始めの頃は、僕の心の準備ができるまで、セックスを待ってくれた。
僕が、風見に対して、盛ってしまっても、ちゃんと受け入れた上にすごく気持ちよくしてくれた。
いつか、二人の関係を公にすることを考えて、つかなくてもいい嘘をついてくれた。
ぎくしゃくした僕の態度から、僕の身に何かあったのではないかと案じ……そして、何もなかったとわかったとたんに、ぽたぽたと涙をこぼしてくれた。

――胸がじわりと温かい。

「風見……」
「……はい」
「手首……ほどいて」
「あ……すみません、今」

風見の体が離れてしまう、それが、ひどく寂しい。
手首の拘束をほどかれる、わずかな時間を永遠に感じるほどに、僕は、どうしようもなく、風見の体をこいしく思った。

「風見……っ」
「わ……降谷さん!」

僕は風見をソファに押し倒し、その上に覆いかぶさった。

「ごめん……僕が、君の会話を盗み聞きしたせいで……」
「いえ……俺の方こそ。パートナーについて聞かれた時、どう答えるかとか、事前にあなたと相談しておけばよかった」

風見の首筋に顔をうずめる。風見の匂いがする。そのことにひどく安心する。僕に押し倒された風見は、手を伸ばして、ジャケットを拾い上げる。
そして、いつの間にか、肩からずり落ちていたそれを、もう一度、僕の背中にかけてくれる。

「いつから、玄関で……?」
「わからない」
「え……?」
「ハロが寝たのを確認して、風呂場で……行為の準備をしているうちに、すごく悲しくなってしまって……」
「悲しく?」
「今日は、抱いてもらえるのかなとか。……君、最近、キスすらしてくれなかったから……それで、なんか、やけくそというか……」

風見が、眼鏡を外し、それをローテーブルに放った。
スポーツ用の眼鏡は、その程度の衝撃ではびくともしない。むしろ、テーブルの方に傷がついたかもしれない。
風見の手のひらが、僕の後頭部に添えられた。
誘導されるがまま、僕は顔をつき出した。

「んっ……うう…ッ」

ジュッ……チュウ、ちゅ……キスの音が響き渡る。僕は尻を使って、風見のペニスを愛撫した。
ローションでびしょびしょになったそこは、彼のスラックスをいくらかは汚したかもしれない。
だが、そんなことは、この際どうでもよかった。
今はとにかく、満たされたい。風見裕也という男によって。
キスによって、頭がぼんやりしてくる。僕はおぼつかない指先をどうにかこうにか動かして、風見のシャツのボタンを外していった。
スラックスのあたりに手を伸ばしたところで、風見が、体を起こしながら僕の体を後ろに押し倒した。
風見が、スラックスと、パンツを脱ぎ、器用に靴下と一緒に脱ぎ捨てた。ついで、シャツと肌着を脱ぎ、僕の上にのしかかってくる。
僕は、風見のペニスに手を伸ばした。
硬く、熱く、トロトロの液体をまとっている。欲しい。そう思うのだが、風見が諫めるように僕の手を引きはがした。僕は、風見の肩に手を添え、脚を大きく開脚させた。
しかし……

「あっあ……それはいい、からあ」

入ってきたのは、ペニスではなく、ごつごつとした男の指だった。
二本の指が、ゴリゴリと、中を掻きまわす。

「僕……ちゃんと、じゅんびっ……して、あるから……ッ」

風見の左手が、僕のサイドの髪をすくい、それを耳にかけていく。

「だめですよ……降谷さん……しばらくぶりなんですから……」
「あっあ……切れてもいい、からぁ……」
「だめ……優しく抱かせてくださいよ」
「あ……っあ……ぼく、君だったら……どんなふうに抱かれるのも好き……」
「本当、やらしい人ですね」
「うん……ぼく……君のせいで、こんな体になってしまった」

風見の指が僕の乳首をコロコロと転がす。それがたまらなく気持ちいい。
だけど、久しぶりのセックス。僕はもっと強く、風見を感じたい。

「あっ……ああ……もっと、強くして……」
「だめ」
「……ぎゅうってつまんでよ……ぼくをいじめて」
「……そんなこと言ってると、ピアス開けちゃいますよ」

その言葉に、おなかの中がぎゅんっと熱くなる。

「……えっ? 今の言葉に感じるんですか?」

そう、感じる。感じてしまうのだ。

「だって、僕……一日中君を感じていたいんだ」
「ああ……だから、飲み会を盗み聞きしたりとかしてたんですね」

風見の指が、僕の”いいところ”を掠めた。

「あっ……それ……そこぉ……」
「んー……?」

しかしそれは一瞬で、なかなか核心に触れてくれない。

「前立腺ぐりぐりして……」
「だめ」
「どうして……?」
「謝るまで、触ってあげないし、挿入もしてあげません」

風見の顔は優しく笑っていたけれど、本心では、盗み聞きのことをひどく怒っているのかもしれない。

「ごめんなさい……盗み聞きしてごめんなさい……」

風見が、僕の乳首をぎゅっとつねった。
痛い……痛いのに、甘い喜びを感じてしまう。

「あっあ……あ」
「謝ってほしいのは、そのことじゃないです」
「え……っあ……淫乱で、ごめんなさ……っ。僕が……こんなだから……風見は……嘘をつかなきゃいけなくて……」
「それも違う」

つねられた乳首をぎゅぅーっと引っ張られる。

「……っ……あ……あ♡」

お仕置きをされているとわかっているのに、僕の体はどうしようもなく感じてしまう。

「んんっ!」

乳首を解放されてもなお、甘いしびれが、まとわりついてしょうがない。
ソファがきしむ音。風見が僕の中から指を抜き、身体をぴたりと重ねてきた。
その重みすらひどく心地よい。

「ごめんなさ……ぼく、感じてしまって……」
「降谷さん、俺が謝ってほしいのはね」
「うん……」
「俺がどうしてそんな嘘をついたのか聞いてくださらなかったことに怒っているんです」
「……え?」
「不安に感じたなら、聞いてください。盗み聞きはしてもいいです。ただ、盗み聞きしていると事前のお伝えいただけると、俺も会話の内容を工夫することができます。あの時だって……あなたが聞いていると知っていれば、嘘をつくのではなく話を逸らす方向にもっていくことができた」

涙が、ぽろぽろとこぼれる。
風見は、どうしてこんなに優しいんだろう。
僕のせいで、ひどく、つらい思いをしただろうに。

「風見……君とのことで不安になったときは、君にちゃんと相談する。報連相ができないなんて……元上司として情けないよ……本当にすまなかった」
「降谷さん……」

風見の右手が、膝裏に添えられた。
風見は体を少し起こすと、ゆっくりと、腰を前につき出してきた。
アナルのふちに、ずっとほしかったものが添えられる。

「風見……大好きだよ」
「俺も大好きです」

ぐぐっと、圧迫感があって、ずぶずぶと、それが体の中に埋まっていく。
その異物感すら愛おしく感じられて、僕は、風見の体にしがみついた。
ソファの上で、風見が、どんどんと挿入を深めていく。そして、ほぼすべてが入り終わると、風見は僕の体を抱きしめながら、そっとキスをくれた。

「ん……っ」

舌を出して風見の唇をぺろりと舐めれば、熱くて分厚い風見の舌が中に入ってくる。
筒状の体の下と上に栓をされ、快感が逃げ場を失う。
風見は自分のペニスを僕の粘膜になじませるように、小さく、ゆっくりと動いた。
あるはずのない、生殖器がうずいたような気がした。
僕の中の雌が、風見を求めてジグジグと熱を持つ。
動いてほしくて仕方ない。そう思って、腰をゆらゆらとゆするが、風見は少しも動いてくれない。
じれったい。これもまだお仕置きなのだろうか。それとも、優しく抱きたいという言葉通り、僕をじっくりと愛でるための戦略なのだろうか。
そんなことを考えながら、風見のうなじをさわさわと撫でる。
口の中では、風見の舌が、僕の上あごを、れるりとなぞった。それが、たまらなく気持ちよく。キスと連動するように、おなかの中がぐにゃりと動いた。
自身の筒が動いたことによって、風見の凹凸に、ひだが絡まり、快感を拾ってしまう。

「んんっ……」

口の端から、二人の唾液が零れ落ちそうになり、慌ててそれを飲み干す。空っぽになった口の中を、風見の舌が、またじっとりと潤していく。
もう、このまま動かなくてもいいかもしれない。うっとりとした気持ちになりながら、風見のうなじから、首筋までのラインをやさしくなでれば、風見が、ガツンと、激しく腰を打ち付けてきた。
叫びそうになるが、口をふさがれているから、叫べない。
あわててしがみついた風見の背中には、ひっかき傷が残っただろう。
風見が、キスをやめて、僕の首筋に唇を寄せた。そして、ぴちゃぴちゃと舐められる。

「あ……っあ……風見、もっと……君をくれよ……」
「降谷さん……好き……優しく抱くって言ったのに……俺……」
「いい、君の好きなようにして……いっぱい、いっぱい、ぼくのことを……」

風見が、僕の腰をガシリと掴んだ。
その次にやってくる衝撃を想像して、僕はアナルをひくつかせた。

「……!! あっあっあ……あん、あっあああ゙……!」

小さなエクスタシーが連続して何度もやってくる。
おなかのなかから、全身がとろけていってしまいそうだ。

「降谷さん……俺……おれ……」
「あ……っあ……んん……中でだして……僕、おなかの中を、君の精液でぐしゃぐしゃにして……」

風見の腹に、自身の性器がこすれてしまう。それが気持よくてたまらない。風見の動きに合わせて腰を動かそうとするが、タイミングがちぐはぐになってしまって、もどかしくて仕方ない。

「んっ……ほら……もっと……俺の動きをちゃんと感じて」
「あっ……あ……」

言われたとおりに、風見の動きを感じながら、どう動いたら、一番お互いが気持よくなれるのかを探る。
しかし、そんなことをしていたのも束の間だった。
風見が僕のペニスを掴み、それを強く扱き上げたのだ。

「腰動かすのは、へたくそですけど……俺のこと締め付けるのは上手ですね……あっ……すっげ……きもちい」

風見が僕で感じている。それが嬉しくて仕方ない。

「ちょっと……激しくしますよ」

今までだってとても激しかったのに……
こんな抱かれ方を覚えてしまって、僕はまたひとつ、いやらしくなってしまうじゃないか。
でも、風見は、そういう僕が好きで。
僕は、風見に気持ちよくしてもらえることが嬉しくて仕方ない。
だったら、どうなってしまってもいいと思う。

「あっ……あっあ……あ♡」
「降谷さん……降谷さん」

僕の背中の下で、風見のジャケットはしわを作ってしまっただろうか?
ほんの束の間そんなことを考えたが、思考はあっという間に吹き飛んでしまう。
ソファがぎしぎしと激しく音を立てる。風見の声。風見のペニスが僕の体の中を出入りする音。風見の匂い。風見の体温。ぽたぽたと垂れてくる、風見の汗。僕の中に納まった、風見のペニス。
そのすべてが愛おしくて仕方ない。

「出しますっ……俺……」
「あっ……なか……中に出して……」

絶対に中に欲しくて、僕は、脚を絡めて、風見の体を引き寄せた。

「あ……っ……ふっ……」
「ん……ああっ……おなかの中。あついよぉ……」
「やべ……まだ止まんな……っ」

風見の精液を受け止めながら、僕は、自分の体が溶け落ちていくような、そういう甘やかな脱力感を味わうのだった。

end♡

 

 

 

【あとがきなど】

風見と、深めのえっちを重ねてきた降谷零が、唐突に「はじめてだから怖いの♡」ムーヴかましてきたら????????
という思いつきを文章にしてみました。

思いつきを、たたたーんとアウトプットするだけの二次創作楽しい……。

私は……
真面目過ぎる+頭の回転が速過ぎるゆえに、勘違いの深まるスピードがめちゃくちゃ早い風降が大好きです。

ところで、この風見裕也。
降谷さんが淫乱だとバレてしまうのはNGなのに……処女みたいな反応する人だと誤解されてしまうのはOKなんですね……
どういう価値観なの……?

 

 

 

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