俺の恋人、スイカに関しては赤OKなんで

初出:ぷらいべったー 2021/1/6

※ゼロ茶 TIME47 のネタバレがあります

〇原作軸より一年前くらいの夏。
〇つき合っている風降(時間系列とか、細かいことは気にしないでください)
〇性行為を匂わす表現がある


 

暑い時は、暑い土地のものを食べるに限る。
夕刻。部下二人を伴って、タイ料理の店をおとずれた。
今日は、昼食もろくに取れていなかった。加えて、俺のおごりとなれば、部下たちはそりゃあ食べるし飲む。もちろん、俺だって負けていられない。つまみに頼んだ空芯菜の炒め物が絶品で、ビールが進む。

先代の国王の写真が飾ってあるこの店は、創業から十五年。街の人々からとても愛されている。トムヤンクンが一番の人気メニューだが、俺はここのタイ風焼きそばが好きだ。タイ料理の醍醐味は調味料で自分好みの味に変えられることにあると思う。テーブル備え付けの調味料を使って、味を辛くしたり甘くしたり酸っぱくしたり、食が進む。
追加のパクチーを頼んだ。ついでに、ビールも注文しよう。

たらふく食べて、支払いを済ませようとレジに向かえば、カウンターに大きなスイカが置いてあった。スイカの表面には花模様の彫刻が施されている。

「それ、きれいですね」

レジを打つおかみさんに声をかければ、きれいな日本語が返ってくる。

「ああ。それね。昼間にやっている料理教室で、フルーツカービングをやることになって」
「フルーツカービング? ですか?」
「ええ。そのお知らせを兼ねて、宣伝用に飾っておいたの。……そうだ、お客さん、これ、サービスしますよ。お土産に持って帰って」
「え?」
「あなたたち、とても、たくさん食べて飲んでくれたから」

こんな大きなスイカ……もらったところで……と思う。しかし、これを見せたら喜びそうな人の顔を思い出して、俺はスイカを受け取った。
部下二人からは「風見さん、そんな大きなスイカどうするんですか?」「えっ? まだ食べるんです?」と、言われたが、本当のことを教えてやる義理もないので、「スイカ、好物なんだよ」と適当に答えておいた。
二人と別れ、自宅ではなく、恋人の家に向かう。

合鍵で玄関を開ければ、キッチンに電気がついている。仕事熱心な恋人はダイニングテーブルで、ノートパソコンとにらめっこをしていた。

「降谷さん」
「んー……? 仕事が忙しいから、かまってやれない」
「スイカ、お土産です」
「……スイカ?」
「ええ、サービスでもらったんです。それも、ちょっと特別なやつ」

白いビニール袋に入った特大のスイカを差し出す。降谷さんがノートパソコンを閉じる。

俺の恋人は旬の食べ物に目がない。
梅雨に入った頃。降谷さんのために黄色の小玉スイカを取り寄せた。しかし、スイカに限っては、”赤”で問題ないらしい。
黄色いスイカをほおばりながら、降谷さんが言った。

『黄色いスイカか……めずらしいな。でも、僕は”普通のやつ”の方が好きだな』

と。
俺に対してだけ見せる少しわがままなところとか。『赤いスイカが好き』とは言えない、こだわりの強さとか。そういう全てがかわいらしく思えて、だから、せっかく用意したのにとか、そんなことは一切思わなかった。
それから俺は、時折、”普通の”スイカを差し入れるようになった。

降谷さんが、白いビニール袋からスイカを取り出す。

「フルーツカービングじゃないか!」

満面の笑み。降谷さんの声は弾んでいる。
俺の恋人は、本当にかわいらしい。五キロはあるであろう大玉スイカを運んできた疲れが瞬時に吹き飛んだ。

「ええ。タイ料理屋のおかみさんがくれたんです」
「そうか……じゃあ、本場の技術だな」
「あ、これ、タイが発祥なんです?」

俺がたずねれば、降谷さんがフルーツカービングの歴史について語り出す。

「降谷さんは、なんでも知っていますね。とっても物知りだし、説明も上手でわかりやすい」
「……まあな。知識は誰にも盗めない財産だから、君も、いろいろなことに興味を持って情報を集めるといい」

上司の時の口調で降谷さんが言う。褒められて嬉しいくせに。たぶん、照れ隠しをしている。

「冷やして、明日食べましょう」
「ああ、スイカは二日酔いにもいいからな」
「……俺……そんなに酒のにおいします?」
「うん。今日、結構、飲んだろ?」
「まあ、それなりに」

少々、酒が過ぎたという自覚はある。俺は、叱られることを覚悟した。

「そんなので、この後、使い物になるのか?」
「え……? 仕事のお手伝いですか?」
「……いや、今日は、もう、仕事は終わりにして……明日、スイカを食べてからがんばるよ」
「では?」
「ほら、あっちだ」
「…ああ、あっちのことですか?」
「……うん」

降谷さんを抱き寄せる。

「俺、酒臭い上に、汗臭いですけど、いいんですか?」
「……まあ、これくらいないら」
「降谷さん」

降谷さんの下半身に、腰を押し付けた。

「俺のここ……ちゃんと、使い物になりそうです」

降谷さんがキスを欲しがる。

「……降谷さん。先に、スイカを…ね?」

キスをする前に、スイカを冷蔵庫にしまった。
そこから先は「君、酔ってる?」「ええ、酔ってるんで、ちょっと自制が効かないかもです」てな具合で、ことは進んで。

翌朝。カラカラになった体に冷たいスイカがしみわたる。

「うまい! やっぱり、夏はスイカですね」
「ああ。君と食べるスイカは、いつも、おいしいな」

降谷さんがほほ笑む。
好きな人と食べるスイカは……というニュアンスで言いたいのだろうけど。今日に限って言えば、脱水になりかけた状態でのスイカだから、なおのことおいしく感じられるのだし。そもそも、俺が差し入れるスイカは下原スイカの特選品だ。スーパーのスイカとはモノが違う。
迷信は信じないくせに、俺と一緒に食べるから、スイカがおいしく感じられると信じている降谷さんが愛おしい。

だから、この夏。俺は、降谷さんにたくさんのスイカを差し入れた。
フルーツカービングに興味を持った降谷さんは、俺がスイカを持ってくるたびに、その表面に美しい彫刻を施した。

――果たして、このフルーツカービングの技術が、役に立つ日が来るのだろうか?

そんなことを考えながら、スイカの表皮に模様を刻む降谷さんの横顔を見つめる。
ああ。それにしたって、俺の恋人は、なんてかわいらしいんだろう。

 

 

【あとがきなど】

フルーツカービング、タイ発祥なんだ?! (私が)タイ料理屋行きたい……!!! という気持ちと。
風見裕也って、赤の他人から野菜や果物をお裾分けされがちじゃん? という二次創作の風見あるあると。
どうして、降谷さん、フルーツカービングを……? に対する私なりの推理と。
あむぴかわいい!!! とにかくかわいい!!!!!!!! スイカに関しては赤OKなの?!!!!

を混ぜ合わせた結果、このような話になりました。
雑な二次創作はしないと、誓ったばかりだけれど、この昂りを鎮静させるためには、二次創作するしかなかったのです……。

 

 

 

 

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