リフレイミング

初出:Pixiv 2021/9/26
【確認事項】

元の世界に戻った、純黒ゆうやが見たものは……全裸でくたりとした、恋人の姿だった。
いわゆる、お清めセです。

 


 

風見は。
僕の裕也は。ちょっと、乱暴な抱き方をすることはあったけれど、それでも、僕が嫌がることはしなかった。

僕が嫌だと言えば。その先に進むことはなかったし。僕が、してほしいと言えば、それをしてくれた。

だけど、目の前の男は。まるで、僕を支配するような、そういう抱き方をした。
おなかの中が、恋人じゃない男のものでいっぱいになる。
怖い。怖いのに。気持ちがよくて、それがくやしかった。

触り方が違う。しゃべり方が違う。だから、これが、僕の裕也じゃないってことは明白なのに。
ぬくもりも、筋肉のつき方も、髪質も、声色も、僕が大好きな男のそれとそっくり同じで、僕は混乱する。

「ほら……ここ馴染んできましたね? 気持ちいでしょう?」
「あっ……ぼく……も、いきた……っ」
「いきたい? じゃあ、おねだりしないと。上手にできたら、奥を、たくさんとんとんしてあげますよ」

おそろしいことを言われている。
なのに、ひどく心惹かれてしまう自分がいた。とんとんってどんなだろう。もっと気持ちいのかなって。そんなことを考えてしまう自分がいる。
よくわからないと思う。いや、わからないと思い込みたい僕がいた。

「あ……、とんとん、して……!」

恥を忍んで、それをねだる。

「……なにで?」

そう聞かれて、僕は酷く恥ずかしい気持ちになった。
ゆるゆると、奥をずっと犯されて、それなのに、決定的なものをもらうことができなくて。
だらだらと、精液を漏らしながら、僕は、もうどうにかなってしまいそうだったのだ。

「……ぺにす」
「誰の?」
「裕也の」
「俺のなにで、どこをどうしてほしいの」

そんなこと、言いたくない。
だけど、この、終わりのない地獄から、逃げ出したい。

「裕也の……ペニスで……僕の、おなかの奥を……とんとん。して」
「かわい。おねだりしなれてないんだ」

風見が僕の腰を自分の体に引き寄せた。そして、僕のおなかの行き止まりを、とんとんとペニスの先を使って、ノックし続けたのだ。
開く。僕の体が。きもちいいを受け入れようとしている。
風見に対して、感覚が開いていく。

「あ……っあ……きもちぃ……っああ……こわ、い……こわいよ」

おなかの中から、熱いものが全身に広がる。
僕は、恐怖を覚えた。

「ああ、じゃあ、キス、してあげます。好きでしょ? キス」
「……んぅっ……」

唇をふさがれる。
頭がとろけるほどに気持ちがいい。
そして僕は、その分厚い舌に、自身の舌をすりつけながら、恋人ではない男にこの身をゆだねたのだ。

 

すすり泣くような声が聞こえた。
目を開き、後ろを振り向けば、びくりと、その体が震える。

「零……? ふる、やさん?」

返事はなかった。暗い部屋。
イージーパンツにTシャツ。それは、いつもの部屋着だった。

ベッドの上で、降谷さんが、素っ裸のまま、くたりとしていた。
乱れた寝具に湿っぽい、におい。
電気をつけるのがこわい。そう思った。

「電気、つけますよ」
「……だめだ」
「……どうして?」

聞くまでもない。

「……君に、見られたくない」

降谷さんの声はガラガラだ。泣いて、叫んだんだろうか。
夢の中で、俺が、あんな約束をしたばかりに。

部屋を出、ドアを閉める。
居間の電気をつけ、浴室に向かう。洗面器に湯をためる。それから、フェイスタオルとバスタオルを一本ずつ取り部屋に戻る。ドアの隙間から差し込む居間からの明かりが、降谷さんを照らした。
降谷さんは、ベッドに座り、うつむいていた。髪はぺたりとしていて、首筋に噛み痕が見える。
俺は、ドアを閉めないまま、降谷さんの近くにひざまずいた。

「ふいて、いい?」
「……僕は」
「うん」
「……君に……どう、謝ったら……」

フェイスタオルを絞る。

「どうして?」
「だって、君を……裏切ってしまったんだ」
「俺を?」

ぬるく湿ったタオルを、降谷さんの首筋に当てた。

「君以外の男を……僕は」

薄暗い部屋に目が慣れてくる。
彼の太ももの内側に、なんらかの粘液がまとわりついていた。

「求めてしまったんだ」

零は、ぽろぽろと涙をこぼした。
首筋のタオルを、静かに動かしていく。
鎖骨の上を撫で、それから、うなじをこすった。

「俺、でしょ?」
「君だけど……君じゃなかった」

こぼれる涙を、唇で吸い取ってやりたかった。
指先で、そっと、拭い去ってやりたい。
だけど、素手で、触ることにためらいがある。

「零……」
「……僕、あの男のことを」
「うん……」
「裕也、と、呼んだ」
「……悪いのは、俺です。だから……ね?」

抱きしめてやりたい。
だけど、俺の零は、小刻みに震えていて。だから、手を伸ばすことができない。
手のひらの代わりに、濡れたタオルを肩に置く。
褐色の艶肌に、白い体液がカピカピに乾いてへばりついている。
そして。きっと。中から、降りてきているんだろう。ぐちゃぐちゃに、ぬかるんだままの、内また。

「シャワー行きましょう? ね?」
「……僕」
「零……?」
「……中に出してって。僕、そう言ったんだ」

降谷さんは、ただただ、自分を責めていた。執行の俺でも。スワッピングなんて馬鹿げた話に乗った俺でもなく。自分自身を責めていた。

「俺、です。それ。俺だったでしょう? 声も。手も。ちゃんと、俺だったはずだ」

そう。俺だ。
今目の前にいる降谷さんが、こんな風になるまで抱いたのは、俺だ。
降谷さんに、というより、自分に言い聞かせるように言う。

「いいや。君……じゃなかった。触り方が、声のかけ方が……君、じゃなかった」
「いいや……俺です。いつもと違う触り方で、いつもと違う声掛けをしただけです」

わかっている。
そうじゃないことくらい。でも。俺なんだ。だって、執行人の俺も、俺だから。
零をこんな風に犯したのは、ほかならぬ、ここにいる俺なんだ。

「手首を……しばられた」
「……それは、たまにやるでしょう?」

ベッドに腰かける。降谷さんの肩を抱いた。
ビクリと、その体が震える。

「いっぱい……いっぱい、いかされた」
「……まあ、俺だって、そういうことすることはありますよ」

あの野郎。俺の零を、連続で……。

「……僕、奥……あいつは結腸って言ってたけど……そこまで」
「……俺のも、届きますから」

実際、届いた。

「それで……僕。そこを、わけがわからなくなるほどに、ゆらゆらと……されて」
「うん」
「それで……ぼく、自分から、ねだってしまって……中に、さん……ど、も」

えぐい話だ。だけど、俺は、それを、俺がしたこととして、受け入れる。

「俺です、それ」

タオルを手に取る。それから、降谷さんの内またをぬぐった。

「違う……君じゃない。僕が君を……裏切ってしまったんだ」
「俺です。零の、おなかの中ぐちょぐちょにしたのも。中で何度も出したのも。おねだりさせたのも……俺です」
「君じゃない」

零は、ふるえながら、俺を押しのけようとした。
だけど、恐怖でうまく力が入らないのだろう。抵抗は、とても弱弱しかった。

「俺のこと、怖がっている」
「あれをしたのは……君じゃないってわかってるのに……僕……体がふるえてしまって」
「違う。あなたが、俺をこわがるのは、俺に、それをされたからです」

俺は部屋着を脱ぎ、パンツ一枚になった。

「続き、しましょう」
「……」

零の手が俺の首に伸びてきた。俺は、その体をベッドに押し倒した。

 

「さっき、俺、どうしてましたっけ?」

われながら、間抜けな質問だなと思う。
だけど、こうやって聞き取りをしながら進めていくしかない。

「……手首、縛ったまま。とちゅ、まで、おなかのなかずっと」
「ああ……これ、で縛ったのか」

俺は、執行の俺がやった手順に倣って、零を抱いた。
指を挿しこむ。

「なか……きたない、から」

泣きそうな顔で、そんなことを言われた。

「どうして……?」
「あいつの……出したやつ……僕、そのままで……」

ぞわっと、鳥肌が立った。
だけど、その主張を認めるわけにはいかない。

「あいつ、じゃないです。これ。俺のです。俺が出した、俺の精液だから」
「でも……君、嫌だろ?」

嫌か嫌じゃないかで言えば、嫌に決まっている。
だけど、この人を傷つけた行為を、上書きするためには、それなりの覚悟が必要だ。
夢の中の戯言、とはいえ。俺があの取引に応じたせいで、この人は、深く傷ついた。
だから、別世界の俺が、零の中にはなった忌々しき白濁をそのままに。俺は挿入する。
そうしなければ、この人の心が救われない。

「……あなただって、嫌な思いをしたんだ。これくらい、どうってことないです」
「ゆう……や」

俺の覚悟が伝わったのだろうか? そこから先、零は従順だった。
長時間かけて、犯され続けた、零の肉筒は、ふにゃふにゃになっていて、俺のものを簡単に受け入れた。

「それで……とても、ながく……奥を、よわく、刺激され……てっ」
「うん……」

ペニスを一番奥までさしこみ、腰をゆっくり揺らす。ガン突きしたい気持ちを紛らわすために、俺は、胸元のしこりに指を伸ばした。

「あ……っ!! だ……むねは……はあっあ」
「胸は?」

きゅうっと、乳首をつまみ上げる。

「胸は、されてない!!!!!」
「え……あ、そうでしたか。でも、気持ちよさそうだし」
「あ……っあ、きもち、い、けど……」

零の目がとろんとしてくる。かわいい。ほっぺたに一つキスをくれてやる。

「あ……っ、これじゃ、さっきと同じじゃない」
「うん。でも、さっきと違うかもしれなど……こうした方が気持ちいい?」
「うん……っ。あ……きもち、いいっ」

じゅぶじゅぶと、結合部から、絶えず水音が響きわたる。
この体の中で何が起きたのか、思い知らされるような気がした。

(あいつ、どんだけ、ここに注ぎ込んだんだよ……)

執行の自分に対して、怒りを通り越して、少し、あきれる。

「ここ、奥をいっぱいされたの?」
「うん……それで、ぼく……おねだりをした」

 

これは懺悔、だ。
僕は、自分の身に起きたことを、恋人に伝える。

「わけが、わからなくなったって。……自分に言い聞かせながら。自分をごまかしながら……ぼく……んっ……あいつに、おねだり、したんだっ」

軽蔑してくれ。
僕は、目の前の男がかもし出す空気が、恋人のそれとは違うと感じながら。
体をゆるし、挙句、あさましくも、気持ちよくしてほしいとねだったのだ。

「君を、裏切ってしまった……」

涙が止まらない。
悪いのは僕、なのに。ひどく、傷ついたような気持ちになる。
僕を抱いた、僕の恋人じゃない風見の言葉を思い出す。僕の風見も、別の僕とセックスをしたのだろうか。
だけど、僕は、ただ、抱かれただけじゃない。
体を変えられてしまった。それは、取り返しのつかないことで。だから、それは、浮気なんかより、重い罪なのだ。

「ちがう、抱いたのは俺です」

しゅるっと、手首の戒めを解かれた。
その背中に腕を回したいと思った。なのに、あの男の体を求めた時のことが、鮮明に呼び起こされて。僕は、手を回すことができなかった。

「零……」

ぎゅっと、目をつむり、顔を横に逸らす。
こんな状況なのに、おなかの中はずっと、気持ちよくて。
あいつによって、開かれてしまった体は、あまりにもどん欲に、雄の性器を求めた。

「あ……っあ……とんとん、して」

なにも、考えたくない。ただ、快楽におぼれてしまいたい。

「裕也の……ペニスで、僕のおなかの奥……っいっぱい、とんとん、して」

恋人でない男に、ねだった時と同じように。僕は、風見裕也を求めた。
今までだったら、絶対に言わなかった卑猥な言葉。だから、きっと、彼は僕を軽蔑するだろう。

「れい」

枕のわきに置かれた、僕の手。
丸まった指先を、風見の手が、ゆっくりと伸ばしていった。

「ゆう、や?」

そして、手のひらが重なり。僕の指の間に、長く骨ばった、風見の指が絡まっていく。

「知ってます? こういう手のつなぎ方。恋人繋ぎって、言うんですよ?」

僕は、目を開き、おそるおそる、目の前の男の表情をうかがった。

「れい」

それは、優しい目で。いつも、への字の唇は、にいってしてて。笑ってるみたいで。
それを見たら。さっきまでとは違う理由で、泣きたくなった。

「ごめん……」
「どうして……? 謝ることなんてないでしょう」

首筋にキスをされた。

「あっ……」
「おなかの奥、とんとん、してほしいの?」
「うん……して、ほしい」

いつもより、丁寧に抱かれる恥ずかしさ。
だけど、いつもと同じ、僕の気持ちを尊重しようとする、恋人の優しさ。
鋭く、突き刺さるように感じられた、強い快刺激が、甘くとろけるようなものに、変質していく。

「裕也……して?」

僕の、裕也だ。いま、僕を抱いているのは。
そして、僕の一番奥を開いたのも、この男に間違いないのだ。

「うん、ほら、とんとん……。とんとん、きもちい?」
「あっ……とんとん、好き。裕也、大好き……きもち、い……あっあ……ゆう、や……っ」

 

いつもと同じ、甘い声が、俺を呼んだ。
ああ、ずっと、この声に呼ばれたかった。執行人の世界の、さみしそうな降谷零を抱いてる時も、自分はずっと、この声を求めていた。

「零……」
「あ……っあん、きもちい……ゆう……やは? きもちい? ぼくの……ここ、きもちいい?」
「うん、気持ちいっ……すごい……ほら、とんとん、とんとん」
「あ……もっと、強く、して……っ……!」
「うん、じゃあ、じゅぽじゅぽしてあげますね」
「じゅ……? じゅ、じゅぽじゅぽして……んっ」

両手を恋人繋ぎしたまま、腰をふるには、結構な筋力とバランス感覚を要する。
だけど、かわいいい零の求めに応じたくて。夢中で、しかし、一番いいところを狙いながら腰を動かした。

「すき……あっ。きもちいいよ……」
「れい、かわいい……俺も大好きです」

ここを、一番最初に開いたのが、自分ではないことに苦い気持ちになりながらも。
だけど、こんなにかわいい零を抱けることを、うれしいと思う。確かにあいつはここに一番乗りしたかもしれないが、こんなかわいい顔は見ていないはずだ。
だから、今回のパートナー交換は、甘みを引き立てるために必要な苦みだったと。そう思えば、執行軸の俺の行為も……ゆるせるような気が……いや、しない。
しかし、俺の葛藤なんて些細なことだ。
今は、目の前のかわいい恋人に、すべてを捧ぐ。

「あ……あっ、僕の、一番奥に……」
「うん」
「か、かけて……君のを……っあ……あぁう……ああ」

俺は、恋人繋ぎをいったん解除し、零の腰を掴んだ。そして、キュッとしまった尻を、陰嚢を使ってスパンキングする。
パンパンパンという小気味よい音と、ぐちょぐちょっとした、淫靡な水音が部屋を支配した。

「あ……あっ……ああああ!」

零が、身体をそらす。ピンと伸びた首筋の、喉ぼとけが上下した。長い腕がよりどころを求めて宙を舞った。俺は、お辞儀をするようにして、その手を迎え入れる。
背中に、刺さる爪。それがちょうど、別世界の降谷さんが作ったひっかき傷に重なって、浮気を責められているような気持ちになり冷や汗が出る。しかし、そんな考えが浮かんだのも、一瞬にすぎなかった。
急激に高まった緊張と共に、腹の中の圧がぐっと高まる。絡みつく襞。攣縮する直腸。

「あ……でる……っ」

亀頭を、奥にこすりつけるように、ペニスを深く突き刺せば。
別世界で、二度出した後にも関わらず、まるで一度目の時のような勢いで、射液が飛び出していった。

「あ……っ……あ……あつい」
「は……ごめ、まだ出る……」
「んんっ」

長くたっぷり注いでやる。
それから、俺が、ペニスを引き抜こうとすれば、零の長い脚が、俺の腰に巻き付いた。

「さっき……三度、出された、から」
「ああ。では、あと二回?」
「いや……」
「では……?」
「もっと、だ。君の……それで……僕のおなかの中を、きれいに……洗い流すまで……きみのでいっぱいにして?」

え……できるか……それ?
と思うと同時に。
別世界の、俺に負けたくないと思った。
返事はキス。
俺は、零の舌を絡めると同時に、ゆらゆらと、腰を動きを再開した。

 

 

【あとがきなど】

「風降って、劇場版とか、スピンオフとかごとに味付けが違うじゃん?」
「あ……これ、あれじゃん、風降×風降でスワッピングできちゃうじゃん?」
「いきのいい純黒・降谷零が くやしい……けど、感じちゃう……ビクンビクンってなるやつを読みてえ……できれば風降で」

という、思いつきで書き始めました。
最初は、執行風見×純黒れいだけ書いて終わりになる予定だったんですが……。
ちょっと楽しくなってしまい、逆verの「純黒ゆうや×執行降谷」を書きました。

純黒ざみには、オラついているイメージがありますが、あの子は案外、人情味のある男なんで(中の人も言ってた)。そういう一面にフォーカスを当てたため、あんな感じの仕上がりになりました。

ついったーにぶん投げた際、相互さんから「執行軸の風降付き合ってないんかい」「突如嫉妬する風見裕也に笑った」などのお言葉をいただきましたが……
執行の風見さんの根底には、降谷さんが、自分に甘えてくれないことへの悔しさみたいなものがあって。
それで、やべえセックスをしたり。純黒のらぶりー零に種付けするような……屈折した男になってしまったというイメージで書いてます……(伝われ……)
屈折した色っぽい大人の男の行動が……何周かして滑稽になってしまう現象。私は好きです。

書下ろしのお清めセですが。
前の男が出したものを掻きださないまま入れることによって「俺の零は汚れてない!」を証明する……
っていうのを書きたくて書きました。
執行風見のせいで、純黒れいは、えっちの才能がさらに花開いちゃってて。
それが気に食わないけど、でも、まあ、美味しくいただけてしまうのが、純黒ゆうやの強さです……
さすがは、あの大観覧車・崩落の中を生き延びただけある……(あれ、人生観変わるレベルの恐怖体験だと思う)

 

 

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