三千世界の片隅で

初出:ぷらいべったー 2021/9/5

【確認事項】
〇純黒軸の風降と、執行軸の風降がスワッピングをする
〇攻め同士の合意で始まった行為であり、受けたちにとっては、不意打ちのできごと

執行ざみ×純黒ふるや
無理やり?/寝取られ?/開発?


 

ゼロの執行人が封切になったときは、風見と二人で見に行った。
理屈はわからない。だが、僕の認知するこの世界は多重構造であり。そして、僕たちは、別の世界線を生きる自分たちのことを、映画や漫画などの媒体によって、うかがい知ることができた。
執行人の僕は、毛利先生を利用した。
雨の中でたたずむ風見裕也。執行の彼は、僕の隣にいる風見よりも、苦悩の表情が似合う気がした。

映画が円盤になった時、風見はすぐさまBDを入手し、繰り返し再生した。

「いやー……この雨に濡れてる降谷さん、色っぽいですよね」

日本橋のワンシーン。
風見はそこを随分と気に入ったらしかった。巻き戻し機能を使って、そのシーンばかりを再生している。

「……君、僕との時間よりも、執行人の僕を見る時間の方が大事なのか?」
「あ……いえ。そりゃあ、あなたとの時間の方が大事に決まっているんですが。しかし、こういう降谷さんって新鮮で……なんていうか、ちょっとしんみりしてて、いいなって……」
「……どうせ僕は、観覧車の上で、因縁の相手に殴りかかる粗暴な男だよ」
「あ……いや、そういう降谷さんも大好きです」
「”も”……?」
「いや……そういう降谷さん”が”大好きですが……でも、この降谷さんにも会ってみたい気がするんですよ」
「ふーん……」
「降谷さんこそ、執行の俺に会いたいとは思わんのですか?」
「……会ってみたいとは思うけど。僕には君がいるから、それで十分だよ」

そもそもとして。
別の世界線の自分たちに会いに行く方法が、あるはずがない。
ありもしないできごとを想像しながら、僕たちはじゃれ合った。

――季節が流れて。そんなやり取りをしたことすら、忘れていた。

今日の風見は、キスが、いつもよりも丁寧だった。普段の風見は、よく言えば情熱的。悪くいえば、雑。
しかし、今晩の風見は、じれったくなるほど静かに、少しずつ、僕の口腔内のあらゆる場所に舌を這わせた。
風見の香りを感じる。いつもより、ほんの少しだけ、甘くて、だけど爽やかなにおい。めずらしく香水をつけているのかもしれない。あるいは、シャンプーを変えたのか。
風見の体温や、さらさらとした手のひら。がっちりとした僧帽筋から、肩甲骨までのライン。
すべてがいつも通りであるのにもかかわらず、僕は、ひっかかりを覚える。なんだか、不安だ。
匂いが違うだけで。キスが違うだけで。どうして、こんな気持ちになるのだろう?

ある程度キスをしたところで、ネクタイで手首を縛られた。手首を縛るプレイは、僕たちのお気に入りで、だから、これ自体はめずらしいことじゃない。
しかし、いつも通りなのに、何かが違う。ネクタイで結び目を作る仕草も「きつくないです?」と聞いてくる声も、すべていつもと同じなのに、僕は、なんだか、とても怖かった。

キスに引き続き、風見の愛撫は丁寧だった。
もちろん、こういうことは初めてではなかったが、それでも、僕の体表面のすべてにキスを落としていくような。そういう、細やかな触れ方は初めてで、僕は酷く戸惑った。
体がこわばる。

「どうしました?」

風見が僕の頭を撫でた。
どこか不安げで、少し自信なさげな声。それがすごく色っぽかった。
しかし。なんだろう。なにかが引っかかるのだ。なにかが。
風見の顔をじっと見つめた。悲哀の色を帯びた、大人のムード。いつもの、ちょっとだけオラついた雄っぽい風見とは違う、しっとりとした表情。
小さく揺れる瞳を見つめながら、僕は、絶対にありえないはずの可能性を考えた。
そんなことが、おこるわけがない。

「……ちょっと、疲れているのかもしれない」
「……では、今日は、ここまでにしておきますか?」
「いや、いいよ。むしろ、こういうことをして、気分を変えた方がいい」
「そうですか……? では、降谷さんが気持よくなれるよう善処いたします」

やさしい触り方。
だけど、ものたりない。もっと、荒々しく、僕の体に触れてほしい。

「……早く、君と繋がりたい。……準備はしてあるから」
「……そうですか? でも、少し、ほぐしてからにしましょうね」
「ああ、そうだな。少し、ほぐした方がいいだろう」

 

だが。
それは、少し、ではなかった。
風見は、長く太い指で、僕のおなかの中を搔きまわした。
挿入の前に、五回もイってしまい、僕の体はくたくただ。

「も……っやめろ……だめ……っ……おなかっ……へ、ん」
「いや……しかし、降谷さんのココ、キュウキュウで、しっかりほぐさないと……」
「だいじょ……っぶ、だから……さっさと挿れろっ……!」
「しかし……」
「いいから……!!」
「……では」

ベッドサイドの電気が灯る。風見ががさごそと何かを始める。
何をしてるんだ……さっさと挿れろよ! と思いながら、風見の様子をうかがう。その手にあったのはコンドームだった。
そりゃあ、僕たちだって、最初の何回かはそれをつけた。だけど、コンドームを着ける、そのわずかな時間すら、煩わしくなり、最近はつけないのが普通になっていた。

「おい……焦らすなよ……っ! いつも着けてないのに、今日はどうしたんだよ?!」
「……え? 着けなくていいんですか?」
「……生で入ってきて……中だししまくってくるくせに白々しいんだよ」
「……そうですか。では、そうしましょう。ただ、提案してきたのは、あなたですからね」
「……まどろっこしい……さっさと、はじめろ!」
「はい。では、失礼します」

仰向けになった僕に、風見の体が重なった。ゆっくり、ゆっくりと、風見が僕の空洞を埋めていく。

「んっ……じらすな……」
「……しかし、よく、なじませてからの方が」
「いい、から……はやく……動け」
「……純黒の俺はずいぶんと手荒なんですね」
「え……?」

耳を疑う。

「降谷さん、気づいていたでしょ?」
「え……まさか、そんな……うそだ」
「お望み通り、腰、動かしますよ?」
「え……っやだ……だめだ……あ……んっ」

そんなことが起こるはずがない。
しかし、僕らは、お互いの世界線で起きていることを、映像や漫画で知ることができるのだから、それぞれの世界は、相対的独立を保っているにすぎず、細いながらもどこかでつながっている。

「だめ……抜け……! 抜けよ!」
「どうしてです?」
「だって……君は風見じゃない」
「……そう、ですけど。俺も風見裕也ですし。おそらく、純黒の俺もいまごろ、あっちの降谷さんとセックスしてるはずですよ」
「やだ……っあ……あん、そんなわけが、な、い……」

そう、そんな馬鹿げたこと。起きるはずがないのだ。
だけど。

『いやー……この雨に濡れてる降谷さん、色っぽいですよね』

日本橋のあのシーンを。何度も何度も見ていた、風見の横顔を思い出す。

「あっ……嘘だ……抜け! 抜けよ!!!」
「……口ではそうおっしゃいますが……降谷さんのココ、めちゃくちゃ吸いついて、俺のことすごく欲しがってますよ」
「そんなことない!!!!」

だけど。風見なのだ。
姿かたちも、声も、体温も、汗でちょっと湿った肌のはりつくその感触すら。
確かに、僕を抱いているのは、風見裕也なのだ。

「ね……? ほら……ここ、好きでしょ? とんとんしてあげます」
「……え? なに……あ……やだ……なに?」

拒みたい。そう思うのに。縛られた腕の力では、風見をはねのけることができないし。なによりも、挿入前、後ろの穴だけで、五回も達したせいで、うまく力が入らない。
それでも、どうにか……
目の前の男をはねのけようと、悪戦苦闘している隙に、随分奥まで、風見が来ていた。

「……やだ……こわい……そこ……なにっ??」
「あれ? ここ、届くはずでしょ? それとも、純黒の俺は、ここまで挿れないんですか?」
「わかんな……っあ……かざみ、こわい……ぼく……おなかがじんじんして……」

目の前にいる男は、風見であって僕の風見ではない。
わかっている。そんなことは。
しかし、執行人の風見が風見であるということも、また、まぎれのない事実で。流されそうになる。
僕は、自分の弱い気持ちを、吹き飛ばすように、大きな声で叫んだ。

「君、わかってるのか?! これは、強制性交だぞ?!」
「……ゴムなしでって、俺のこれを欲しがったのは、あなたですよ?」

風見が、僕の腰をぐっとつかみ、それから、奥を一突きした。

「え……あ……ぁ……なに……僕は、そんなこと……」
「言いました」

ゆっくりと、前後する腰。

「言った……いったけどぉ……だって……君が君じゃないなんて、きづかなかあっあ……から……やだ……そこ、だめ……!!」
「俺の降谷さんは、ここ、大好きですよ……っ……あなたもきっと……はっあ……ここ、好きになるはずです」
「やだ……こわい、こわいこわい……んんっ……なに、これえ……っ」
「結腸です……」
「や……けっちょ? え……うそ……あ……だめ……へん、おなか……へんだ……」
「変じゃないでしょう。ほら、ちゃんと気持ちいいって、言ってくださいよ……」
「や……っあ……やだあ……いわな、い」
「んー……? じゃあ、もっと、気持ちよくしちゃいますね……」

もっと? ……そんな。
恋人以外の男に、想像を絶するようなことをされている。
風見のセックスは、粗削りなところもあるし、すこし、荒っぽいけれど……だけど、僕がこわがることはしなかった。

「だめ……やだ! やだ……っ! あ……っ!」
「……かわいい」

かわいいなんて、言われてもうれしくない。うれしくないのに、風見の声がいいものだと刷り込まれている。僕の脳髄はそれをうれしいと受け取ってしまう。

「やだ……っあっあああっ」
「すごい……かわいい……っ……観覧車の上で、赤井秀一に殴りかかるあなたを……こうやって……ッ……俺のペニスで……めちゃめちゃにしてやりたいって、ずっと思ってた……!」
「やだ……助けて……! 風見っ……かざみ……!」
「残念ですけど、あんたの風見は、今頃、俺の零とお楽しみの最中ですよっ……くそ……っ……あいつ……俺の零に……っ……中だしするのか」
「あ……っあ……やだ……そんなことしない!!! 僕の風見は……君みたいに、こんな……あっあ……恋人以外の男を抱いたり……しなっあああ」

いきなり、奥を激しくつかれた。

「くぐり、ましたよ……ほら……わかる? ここ?」
「あ……っああ……どうしよう……ぼく、どうしたら……ああっ……おかさ、れて……しまった」
「降谷さん大丈夫です……っほら……」

その声は確かに風見で。ペニスの抽送がゆっくりになる。
しゅるり、と、手首を拘束していたネクタイを外された。

「ね……ほら、零……ね……大丈夫……ほら? 気持ちいでしょう?」
「あ……っあ……わかな……あたま……おかし……」
「ここね、ゆるゆる……そうだな、あと一時間くらいですかね? ゆるゆる。ね、こうやって、ゆるゆるしてあげますからね……」
「やだ……っ……僕の体……おかしく……」
「うん……でもね……っここ……すごく、キュウキュウすいついて……気持ちいいから……がんばって……純黒の俺のために、奥の感じ方覚えましょうね?」
「やだっ……なんで……うっ……」

涙がぽろぽろ止まらない。

「執行の零は、ここ、開発済みだから……っあ……あなたの風見も……向こうで、いろいろ、ここの犯し方、教わってくる、はずですから」

わけがわからない。
どうしてこんなことになっているのか。
僕の風見は、執行の僕と浮気をしていて。
そして、僕は恋人ではない男に犯されている。

悪い夢のようだ。

「ほら……零……もう、難しいこと考えなくていいから……? 気持ちいいことだけ考えて……はあっ……ね……っほら……えっちな、身体になって……っ……恋人である、俺を愉しませてあげないと」

風見の背中に腕を回す。
本当に、それはもう。何度確かめたって、風見なのだ。

「零……」
「んっ……ゆう……や」
「うん」
「ぜんぶ……わかんなく、なっ、あっ……うくらい……僕をっ……んっきもち、く……し、ろ」
「はい!」

そこから先のことは、もう、覚えていない。

 

 

【あとがきなど】

風降は、風降成分100%のスワッピングができるんだよ♡
というお話。
需要? 私の中にめちゃくちゃあるよ♡

純黒のいきのいい降谷零を……あだるてぃーで、なんか変態っぽさがある執行ゆうや(偏見)が、ねちっこせっくすで黙らせてしまう風降……どう考えても最高だよな……
という、ピュアな気持ちで書きました。

執行ゆうや……おまえってやつは……って、思いながら書いたけれど……
この話、地味に、純黒ゆうやも……おまえってやつは……って感じの男なので……
純黒ゆうや……執行軸の開発済みの降谷零とのセックス、めちゃくちゃ楽しんでると思うし……
執行ゆうやのねちっこセックスに慣らされた、執行降谷零は……純黒ゆうやの若々しいセックスをすごく楽しんじゃうと思うから……

わりを食うのは、純黒降谷零だけだったりする。

 

 

 

 

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