ほんとうに……だいじょうぶ?

初出:Pixiv 2021年8月8日

 

降谷さんが、風見は本当に僕とのセックスに満足できているんだろうか……? ということに悩み。
風見に体当たりしてみる話です。
不衛生な描写がありますので、お気をつけください。


 

なんでもそこそこ。
どころか、何事も並以上にこなしてきた。降谷零にはそういう自負がある。スポーツも勉強も、数年前に始めた料理も、仕事も。少しかじればすぐに上達し、ものにしてきた。

だから。
恋愛においてもそうありたいし、それに伴うもろもろも、上手にできる自分でありたい。そう考えるのは自然なことだろう。
恋愛には、ペーパーテストや実技検定があるわけではない(インターネット上に恋愛IQ診断なんてものを見つけたが、それを信頼する降谷零ではなかった)。スポーツと違って勝ち負けや計測による記録が残るわけではない。料理のように誰かに食べてもらって、味を確かめてもらうこともできなければ、仕事のように明確な目的があるわけでもない。

まして、降谷零の恋人は彼の部下という立場にあった。
風見裕也は降谷よりも年が一つ上だ。仕事中に砕けた言葉を遣うこともある。だが、それであっても、遠慮が無いわけではない。だから、いささかの不満があったとしても「とてもお上手ですよ」と言うに決まっている。

夕飯のみそ汁の具を刻みながら、降谷は初めて風見裕也の男性器に口淫を施したときのことを思い出した。事前に動画を見て予習していた。けれど、口の中で起きていることは映像に映らないから、見よう見まねでしゃぶるしかない。
ほんの少しの甘みを伴った透明な苦い汁。それを喉の奥で感じながら、降谷は舌を動かしたり、口をすぼめた。しかし、風見裕也は降谷の口淫で達しなかったのである。
それでありながら、「上手ですね」と頭を撫でられた屈辱ときたら。
風見の言葉に騙されるような降谷ではない。風見からフェラチオを受けた時、降谷零は大抵の場合、数分。速いときには数十秒で達する。しかし、風見は自分の口淫では射精をしない。
降谷零にとって初めての恋人は風見裕也であり、そして、唯一セックスしたことがある相手も彼しかいない。だから、性行為における比較対象は風見だけなのだ。

風見とのセックスにおいて、「自分は負けっぱなしだ」と降谷は考える。
交わりが深まるにつれ、降谷はいつも、快感の波にのまれ、わけがわからなくなった。
当初、その現象について、降谷は「自身が女性的な役割を担っているため」と考えた。しかし、どうも、そうとも言い切れないということに気がつく。
性行為向上のために視聴した男同士のセックスの映像。その中に受け入れる側が積極的に仕掛けたり、上に乗って激しく腰をふるという構成のものがあった。
降谷は念のため、男女の行為を映した作品も確認した。すると、多かれ少なかれ女性側から何かしらを仕掛けていた。
いわゆるマグロといわれる状況になりたくはない。
降谷は、主体性を持ってセックスしているつもりだった。しかし、降谷は風見をオーラルでいかせたことがなかったし。挿入時に腰をゆすろうと思っても、途中から自分の体をうまく操ることができなくなる。そうして、最後はいつも、痙攣を繰り返すばかりで、本当に風見を気持ちよくできているのか。自信がなかった。

考え事をしているうちに、みそ汁は仕上がっていた。火を消すタイミングを逸する。気がつけば鍋はぐつぐつと煮えたぎっていた。

「いかん……この悩みはあまり引きずるべきじゃないな」

降谷の足元で、愛犬が心配そうに「くうん」と鳴いた。

セックスの手技には自信を持てない降谷零であったが、自己の感情のマネジメントにおいては、それなりに自信があった。したがって、今の状況が好ましくないことを理解し、行動を起こすことを決意した。
性行為に関する悩みを抱えるのは初めてのことであったが、問題解決技法を用いれば、今、自分がすべきことが見えてくるだろう。
そう考えた降谷は、ようやくガスコンロの火を止め、作り置きのおかずをレンジで温めはじめた。

コピー用紙に、もやもやを書き出す。

自分が一番困っていることはなにか。少しずつ、整理する。
そして導き出された答えは「風見が自分との行為に満足しているか不安である」ということだった。
一般的に性行為の悩みはパートナーと共有し話し合うことがよいとされる。セックスにおける満足感、あるいは相手への不満というものは、非常に主観的な問題だ。いくら恋人とはいえ、別の人間である降谷が、風見の感じ方を推しはかることは難しい。
したがって、降谷自身が悩みをうちあけ、風見の正直な気持ちを聞くよりほかない。

いや、最初から、そうすべきだということはわかっていたのだ。

だが、降谷の中にささやかな抵抗があった。
風見裕也の「上手ですね」とか「すごくそそられます」とか「きもちいい」などという、あれらの言葉が本心ではなかったかもしれないと考えると、いたたまれない気持ちになる。
それでも、降谷零は志の高い男だ。セックスについて率直に話し合うことができない関係に甘んじるつもりはない。難しい課題についても、適宜、話し合いながら先に進んでいける自分たちでありたいと考えた。

 

 

休日前夜。
ハロはとても敏い犬だったので、主人の表情から自分が早々に寝た方がいいことを察した。
午後八時、夜はまだ始まったばかりだ。二人は静かにコーヒーを飲む。
翌日は何の予定もなかったが、抱えている案件に少々の懸案事項があり、だから、アルコールは避けた。しかし、今日は夜更かしをするつもりだから、この時間にカフェインを摂取しても問題ないだろう。

コーヒーを淹れたのは風見裕也だった。

「ハロさん寝ちゃいましたし、コーヒーでも飲みます?」

降谷が立ちあがるよりも早く、風見はキッチンに移動しケトルで湯を沸かした。
キッチンの隅には風見が私物を置くための小さなボックスがある。これは、二人がつき合う前からあるもので、ハロの世話をする際に、ここで休憩を取れるようにという降谷の配慮だった。
蓋つきの箱の中には、カップラーメン、菓子類、コーヒー・お茶類に割りばしとマグカップなどが常備されている。
恋人同士になったのだから、と。降谷は、私物ボックスの廃止も考えた。しかし

『俺、降谷さんがこの箱を置いてくれた時、すごく嬉しかったんです。降谷さんの中に自分がいてもいいんだってそう思えたから』

ある日、風見がこぼした言葉が嬉しくて、だから、箱はそのままだ。

「うまいな」
「でしょう? これ、一杯250円なんです」
「……そうじゃなくて、なんていうか、ひとが淹れてくれるお茶は、おいしいなって」
「ああ。そうですね。降谷さんは、ふだん、コーヒーを出す側でしたね」
「それもあるし……自宅で誰かにコーヒーを淹れてもらうことなんて、ここ何年もなかったから」

風見は、なにも言わなかった。なにも言わないのが風見裕也の優しさであると、降谷は知っている。
だからこそ、性行為において風見が不満を言わないことを「優しさ」ではないかと不安になるのだ。
性行為の際。風見裕也は最後まで、それなりの理性を保ち降谷を抱く。終わりが近づくにつれ「それ、きもちいい」「これ、すき」「そこ、もっと」というように。二語文しか話せなくなる降谷とは違い、風見は、最後までそれなりにしっかりした構文で降谷零を煽った。

「……風見、僕は、君との関係をそれなりに信じている」
「え……? あ、はい……」
「だから、これから僕が話すことに対して、君には率直な意見を求める」
「……大事な話なんですね?」

風見は、私物のマグカップをぎゅっと握りしめ降谷を見つめた。

「ああ。とても、大事な話だし、この話をするのは、正直少し怖かったりする」

降谷は、自分の不安を率直な言葉で語った。そうすることが、自分の気持ちを落ち着けるのに一番良いと考えたからだ。
そして、覚悟を決める。マグカップをテーブルの上に置き、身体を風見に向きなおした。

「降谷さん……」

風見もまた、マグカップをテーブルの上に置いた。

「風見……あのな」
「ええ……ゆっくりでいいですよ。夜は長いですから」
「うん」

降谷がうつむく。風見は、その背中をそっと撫でた。それが、とても心強かった。

「僕……君としか性行為をしたことがないと言っただろ?」
「え……? ああ、おっしゃってましたね」
「その……」

言葉につまる。
風見の大きな手が、子供をあやすようにとんとんとリズムよく降谷の肩を叩いた。

「降谷さん、俺、大人ですから……ね?」
「うん」

風見裕也が大人の男であることを、降谷は世界中の誰よりも知っている。風見のセックスには熟練の技のようなものがあった。経験に乏しい降谷でもすぐにわかるほどに、風見のセックスはとても上手だった。
だからこそ、安心して身を任せることができる。しかし。だからこそ、風見と自分を比較し、ふがいない気持ちになった。
降谷は覚悟を固める。こんなことでおじけづくわけにはいかない。今まで、もっと、たくさんの怖いこと。たくさんのピンチを切り抜けてきたのだ。
負けず嫌いな降谷は自分を奮い立たせる。

「……もしかして、僕はセックスの際、君を満足させることができていないのではないだろうか」
「え……? そっち……?!」

風見は、切れ長の目を最大限まで見開き、それから、手で顔を覆うった。
予想外の反応に、降谷は焦った。

「なんだよ……そっちって……」
「……いや、言いにくい過去のカミングアウトかなとか……そう思ってたんで」
「おい……なんで顔……隠してるんだよ???」
「いや……顔……なんか……にやけてしまって」
「は?! 僕は、至極まじめに話しているんだが???」

降谷は、ぎろりと風見をにらんだ。

「あー……降谷さんさあ……!」

風見裕也のにやけ切った顔に、降谷は眉を吊り上げた。

「なんだ?」
「かわいすぎますって」

風見の腕が、降谷を抱き寄せた。そうして、そのまま、Tシャツの裾から手のひらを忍び込ませた。
このままでは、まずい。降谷は、そう思い、風見の頬をギューッとつまんだ。

「おい……話の途中だ!」
「え? ですから、俺が満足してますよってこと実践でお伝えしようと思ったんですが?」
「それは無理だ」
「え……?」
「行為の最中、僕は大抵、理性を失う。だから、君の気持ちが本当であるか確かめる自信がない」
「……いや、降谷さん……もう、その言葉だけで、俺は心底幸せなんですが?」

風見に超至近距離で見つめられ、降谷は、身体を熱くした。つねり上げた頬をそっと撫でてやる。

「負けっぱなしは嫌なんだ」
「負け……? セックスに勝ち負けなんてないでしょう? いや、まあ、二人とも気持ちよくなれるwin-winな行為を目指したいと思っていますが」
「でも……僕……。君を口で……最後まで導けたことがないし……。相手を気持ちよくする体の動かし方とか知らないし……」
「えーっと……そのままの降谷さんで、俺は満足なんですが?」

風見が、降谷のこめかみにキスを落とした。

「僕は君と違って、経験が少ない。だから……君が満足できてるかどうかの判断材料が乏しい。ゆえに……いまいち、君の言葉を信じ切れないんだ」
「でしたら……」

二人きりなのだから、そんなことをしなくていいのに。風見は降谷に耳打ちをした。

 

 

風見は、自身のスマホからSIMカードを抜き。それから、念のためにと、機内モードに切り替え通信を遮断した。

「よし。じゃあ、これをここに固定して……ちょっと試しに、録画してみますね。えーっと降谷さん、ベッドに座ってもらっていいです」
「ああ……」

セックスの様子を撮影し、その映像によって自分たちの行為を確認するという風見の提案は理にかなっている。しかし、性行為を撮影するということに対して、降谷は、いささかの違和感を感じていた。
それでも、風見の言葉を信じ切れないと言ったのは自分だし、こうするよりほかないのだろう。

「よし、録画ボタン押しますね」
「うん……」
「えーっと……降谷さんは、こういう撮影は初めてですか?」

スマホの画面をのぞき込みながら、風見が降谷にたずねた。

「え……それはまあ、そうだが。風見……この質問必要か?」
「はい。音声の具合を確認したいので、もう少しだけ、おつきあいください」
「うん……」
「じゃあ、降谷さんは初めてオナニーしたのは何歳の時ですか?」
「えっ? ……なんだ、その質問?」
「うーんと。なんていうか……まあ、前戯みたいなものですよ。いやらしい質問されると、えっちな気持ちになるでしょ?」

風見は実に真面目な顔で言った。
たしかに、そうかもしれないと降谷は思う。それに、自分にはセックスに対する探究心というか、創意工夫が足りていないという自覚があった。降谷が資料として鑑賞したAV。それらの作品からは、より刺激的なものに挑戦しようという気概が感じられた。

「……そうかもしれない」
「はい……じゃあ、答えてください。初めてのオナニーはいつですか?」
「たしか……十歳の時だと思う」
「え……?! 思ったより早いですね。……まあ、降谷さん、ませてそうですもんね。好奇心旺盛だし……えっちなことに目覚めるのが人一倍早くても不思議じゃない」
「別に……そういうことをしようと思ったわけじゃなくて、偶然……」
「なるほど。発見しちゃったんですね。性器をこすったりすると気持ちいいってことを」
「お風呂で、体を洗っている時に……偶然そうなっただけで……」

「前戯のようなものだ」という風見の言葉通りだった。下腹が熱くなるのを感じる。降谷は、もぞもぞと腰を浮かせ、湧き上がる欲求をやり過ごそうと試みた。

「じゃあ、精通もその時?」
「いや……まだ、その時は、変な感覚だなって思うくらいで……」
「でも、くせになっちゃった?」
「くせになるってほどじゃないけど……たまに?」
「たまにって言うと、月に一度とか?」
「……週に、一回か二回ほど……」

降谷は、部屋着のハーフパンツを握りしめる。

「それで……初めてのえっちは?」
「え……それは、君も知ってるだろ?」
「あー……女性とも? したことなかったんです?」
「その……誘われたこともあったけれど……初恋の人と、もう一度会うまでそういうことはしないって思ってたから……」
「そっか……。では、十歳でオナニー覚えたのに二十九歳になるまで、性経験なかったんですね」

降谷は、目をぎゅっとつむり、それから、ぱちくりと瞬きを繰り返した。

「風見……もう、カメラテストは十分だろ?」
「あ……ええ、まあ」
「じゃあ、ほら?」
「ん? 待てなくなっちゃいました?」
「……そういうことじゃない。その……録画を確認する時間を考慮すると、そろそろ始めないと朝になっちゃうだろ?」
「……今日のセックスを今日のうちに確認しておくってことですか?」
「……そりゃあ、感覚が残っているうちに映像でのフィードバックをした方が効果的だからな」
「……ああ、それはそうですね」

風見はスマホの角度を微調整すると、ベッドに向かった。そして、降谷を抱きかかえるようにして座る。

「……ん」
「……最初はこの態勢でしましょう? その方が、お互いの表情がフレームに納まりますので」
「はずかしい……」

風見の手のひらが、Tシャツの生地の下で、さすさすと降谷の下腹をさすった。

「……降谷さんが、俺の言葉を信じ切れないという以上、こうするよりほかないでしょう? 俺は、実践でお伝えするって方法を提案しましたが?」

ぐっと腰をつき出すようにして、風見は固くなった性器を降谷の腰に押し付けた。まだ服を着たままだというのに、その熱すらも伝わってくるような気がして、降谷は体をよじった。

「俺、もう、こんなですよ」
「そう……だけ、ど」

風見は降谷のハーフパンツのウェストを掴んだ。そして、それを上に引き上げる。

「いや……っ」

ハーフパンツの柔らかな生地が、降谷の陰部に食い込んだ。

「いやですか? でも、こうやって、ぐにぐにするの気持ちよくないですか?」
「きもち、いいけど……」
「直接触ってほしい?」
「……そういう、わけじゃない、けど」
「じゃあ、直接、さわりますね?」

風見は、降谷のハーフパンツと下着を膝までずり下ろした。

「降谷さん、足上げて。……そう。上手」

子どもの服を脱がすような風見の手つき。降谷はTシャツの裾をぎゅっと握りしめた。

「じゃ、足、開いて……」
「うん」
「そう、うん。いい感じ。……かわいいですね? 硬くなって、真っ赤になって、ぬるぬるになってる」

風見は、降谷の包皮をぺろりと剥いた。

「あ……っ」
「きもちい?」
「ん……うん」
「降谷さん、前、見てごらん?」
「え?」
「スマホのカメラ、ちょうどね、降谷さんのこの辺が真ん中に収まるようにセットしたんで」

先ほどまでの、子どもに対するような手つきではなく。あからさまに性的な意図を持った動きで、風見は降谷の陰茎を扱いた。

「や……やだ……はずかしい……だめ……」
「だめ……? でも、ちゃんと記録しないと」
「そ……だけどっ……あ……やだ……やだやだ、きちゃ……うっ」
「うん、降谷さんが射精してるところ、ちゃんと、記録に残しましょうね」
「あー……あ…んん……っ」

下唇をぎゅっと噛みしめて、降谷は、どうにか快感をやり過ごそうとした。

「あー……ダメですよ。また、血が出ちゃいますよ?」
「んん……」

風見の左手が、降谷の唇に触れた。

「ほら、なめて?」

唇をすりすりと、撫でられ、降谷は条件反射のようにそれを口に含んだ。風見の指が降谷の口蓋に触れる。
大好きなこの指に噛み痕をつけてはいけない。降谷は風見の指を、いとおしむようにちゅうちゅうと吸い上げた。

「降谷さん、上手。前は、手コキされちゃうと、他のこと何もできなくなっちゃったけど。今日は、指フェラ、上手にできてますね」

ぬるく湿った風見の声に降谷の体がふるえる。

「上手に射精できますかね……? 降谷さんの精液、いつも、ぴゅうぴゅうすごい勢いで出るんですよ……? 後で一緒に見ましょうね」

逃れられない快感に、降谷は甘い絶望を感じた。
いや、逃げ道はあった。たとえば、降谷が風見の指をかんだり。その場ですくりと立ち上がれば、風見はこの茶番をすぐさま中止しただろう。
しかし、降谷はそれをしない。逃れられないのだと信じたかったのかもしれない。あるいは、本心では、このシチュエーションの続行を望んだのかもしれない。
興奮からか、降谷の虹彩が少しずつ色を変えていく。

「ん……んんっんあ……」

風見が自身の指を降谷の口から引き抜いた。妙なさみしさを感じたのも束の間。風見が、手淫の勢いを速めた。

「あ……っあああ……んんあっ……」

白い液体が、勢いよく吹き上げていった。降谷が、呼吸を整えようと肩で息をする。風見は、降谷の陰茎の根元を握り、管の中に残った精液を押し出すよう、先端に向け圧をかけていった。

「残ってるのも、全部出しちゃいましょうね」
「んー……あ……あ。だめ、イッたばっかだかッらぁ……」
「んー……でも、ね。ほら、見て、白いのとろとろ出てきましたよ」
「あ……ぅ……ふっ……」

降谷のザーメンを指にまとわせながら、風見がつぶやく。

「降谷さん、フェラで俺をいかせたことないこと気にしてましたけど」
「……うん」
「射精の後ね、こんな風に、尿道には精液が残ってるんです」
「……みんな?」
「うん。みんな。精液は粘液ですからね」
「……そっか……そうだな」
「で……この、管の中に残った精液をね。口で吸い上げるのをお掃除フェラって言うんですが」
「おそうじ?」
「そう。お掃除フェラ。……俺ね、これ大好きなんで。今日は、普通のフェラはしなくていいから、最後にこっち、口でしてくださいね」
「なあ……やっぱり、僕のフェラ……気持ちよくなかった?」
「まあ……たしかに、上手、とは言えません。でも」
「……でも?」
「不慣れなのに、一生懸命頑張ってる感じが、すごくよくて。精神的にはすごく満足してます」
「そうか……」

風見は、降谷の頭に手を添え、後ろを振り向くよう促した。そして、顔をのぞき込むようにしながら、キスをする。体をよじらせながらするキスは、ひどくもどかしかった。風見の眼鏡のフレームが、ごつごつと降谷の頬骨にぶつかる。風見は、キスを中断し眼鏡を外した。右腕をするりと降谷の膝下に滑り込ませる。そして、やや強引に降谷の下半身をベッドに引き上げ、上体を押し倒す。

「あ……風見……まって……」

キスを寸止めで阻止され、風見は、ほんの少し不満気だ。

「んー?」
「その……」
「うん」
「さっき、君が、お掃除……ふぇら? のこと教えてくれただろ?」
「ああ、そうですね」
「全部をかなえてやれる自信はないが、僕にこうしてほしいと要望を伝えたり、その……技術指導的なことをしてくれてもいいんだぞ?」
「技術指導……? ですか?」
「正直……僕はこちら方面に関しては、からっきしだし……独学では限界があるから……」
「独学?」

風見がきょとんとした顔で、降谷の顔を見つめた。

「……独学って、自己開発とかそういうことですか?」
「……なんだ、その自己開発って」

降谷は風見をじろりとにらみつけた。

「えーっと、まあ、実践を意識した自主トレのようなものですね」
「……まあ、それも少しはしているが」
「え?! 降谷さん、俺とのセックスをイメージして、えっちなことをなさってるんですか?」
「……君なあ」
「あ、いえ……。俺、自分の恋人が俺をオカズにしてオナニーしてるというシチュエーション、すごく好きなんです。ですから、その……少しと言わず、どんどん、深めていってください」
「風見……」
「なんです?」
「君って、ちょっと、変態っぽいよな?」
「あー……気づいちゃいました? でも、降谷さんだって、十分に素質ありますよ? 天才肌といいますか……」
「え……?」
「さっき、動画撮影してるってことを意識したとたん、明らかに、感度上がってましたよね?」

降谷の視線が泳ぐ。
仕事中であれば、どんなに緊張する場面でもポーカーフェイスを貫けるのに。風見との性行為の際、降谷は自身の表情を制御できなかった。

「……そんなことは、ない」
「そうですか? 俺は、興奮しちゃいましたけどね。いけないことをしてるって感じがして」
「……変態だな」
「ええ。まあ、でも、降谷さんが気にならないとおっしゃるなら、ちょっと、カメラのアングル替えましょうか」
「え……?」
「さっきまでは、ここに座って、手コキするのにちょうどいい位置に設置してたんですけど、セックスの様子を録画するなら……カメラの位置、こっちの方がいいでしょ?」

ポカンとする降谷をよそに、風見はベッドから降りカメラを設置し直した。

 

「ここにカメラを置いて、縦画面で動画を撮れば、バックをしてる時の降谷さんの腰の動きと、俺の表情の両方が同じ画面に収まるはず……」
「今日……後ろからなのか?」
「それが一番、撮影した時の収まりがいいかなと思ったんですけど……降谷さんもしかして、バックお嫌いでした?」

後背位が好きか嫌いかで言えば、好きな方に入る。
後ろから挿入されるときは、風見に顔を見られなくてよいという安心感から正常位よりも行為に集中することができた。だが、撮影しながらとなると、性行為中のだらしない(であろう)顔を見られてしまうことになる。

「いや、後背位は、嫌いじゃないんだが……君としてる時の自分の顔が映像に残ってしまうと思うと……」

風見が腕を組み、眉間にしわを寄せた。

「あのー……お言葉ですが……。降谷さん、それはないんじゃないんですか?」
「え……?」
「だって、不公平ですよ。たとば、正常位でしたとしますよね?」
「うん」
「そうなったら、俺の腰の動きと、表情はばっちり撮影されてしまいますが、降谷さんの顔はほとんど映らないし、腰の動きも死角に入る。それは、ちょっと、公平性に欠けるんじゃないですか?」

降谷零は「くそ」がつくほどまじめな男であり。正義感のある男である。
パートナーから、公平性の話を持ち出されて、それでもなお自分の意見を押し通せる男ではない。

「それに、降谷さんがちゃんと上手にセックスに取り組めているかも、撮影しないとですよね?」
「たしかに……それは、そうだが……」
「……じゃあ、どうしても顔が映るのが嫌でしたら、枕に顔を押しつけるなどして隠すようにしてください。そうすれば、ほとんど映らないはずですから」

風見の大きな手のひらが、降谷の頭をやさしくなでる。

「まあ、でも……いきなりバックっていうのもなんですから。最初はこっちから入りましょうか」
「そうだな」
「では、カメラセットしますね」
「ああ……」

スマホの角度の微調整を終え風見が降谷の方に目をやる。
降谷は、自分でTシャツの裾をまくり上げた。

「……今日は、積極的……ですね」
「ああ。創意工夫だ……君に、負けてばかりはいられないからな」
「そうですか。……降谷さんが真剣勝負で臨むなら、こちらも、本気を出さないとですね」
「……期待してる」

風見は自身のハーフパンツを脱ぐと、勢いよくTシャツを脱ぎ捨て、パンツ一枚になった。
野球をやっていた頃に、随分鍛えたらしい。風見の体幹は、とてもしっかりしている。動画撮影のためにつけられたままの蛍光灯が風見の筋の走行を浮き彫りにする。

「風見……今日は、明るいから」
「うん?」
「君の体……いつも以上にたくましく見えるな」
「そうです……?」
「ああ。電気……つけてるから。筋のつき具合が、とてもよく見える」

風見は、降谷の大胸筋に頬をよせた。

「おい……いきなりなんだ?」
「今……眼鏡してないんで、これくらい寄らないと見えないんですよ」
「……?」
「降谷さんの乳首……。もう勃ってる」
「あ……」

風見はふーっと、左の乳首に息を吹きかけた。

「……すげえ、敏感になりましたよね、ここ」

つめ先で、かりかりと、先端をひっかかれる。

「降谷さんもしかして、自分でするときも、ここ、触ってます?」
「や……っあ……」

風見が自身の顎をすりすりと降谷の胸に擦り付けた。
ほんの少し、伸びたひげが、微妙な加減で胸全体を刺激していく。

「んん……」

降谷は風見の頭に両手を添えた。短く刈られた髪を、かき混ぜる。
風見は指の腹で、降谷の乳首をつついた。少しずつ角度を、圧を、触れる面積を変えながら。敏感な先端を丁寧に刺激していく。
風見は時折、上目遣いで、降谷の表情を探った。降谷は、その視線に気づくと、瞳をゆらゆら揺らし

「……かざみ」

と、愛しい人の名を呼んだ。

「……えっちのときは、そうじゃないでしょ?」

風見は、ぎゅうっと、降谷の乳首をつねり上げた。

「………ん、あ……っあ……ん……ゆ…ぅ……や」
「……ねえ、一人でするときも、ここを使ってます?」
「あ……や……ひっぱんなっ……いで……んん……」
「ほら、ちゃんと質問に答えてください」
「あ……や……やだ……」
「恥ずかしい?」
「うん……はずかしい、よぉ……」
「じゃあ、身体に聞いてみましょうね? この乳首がどれくらい、えっちになっちゃったか、調べてみます」
「や……かざみ……だめ」
「かざみじゃないでしょう?」

風見は、真っ赤な乳首に爪を食い込ませながら、れろりと舌をはわせた。

「や……やだあ……一人の時も、してる……。ゆーやが……触ってくれる時のこと思い出しながら……ここ、さわってる」

がばり、と。風見は顔をあげる。

「……俺のこと思い出しながら、してくれてるんですか……?」
「うん」
「すごい嬉しい」

そう言いながら、風見は指の腹でぴとぴとと、降谷の乳首を刺激し続ける。

「……ん……んん……っ」
「気持ちいい?」
「うん……きもちいい」
「俺、あなたが気持よくなってると、すごいうれしいです」

風見の手が、降谷の骨盤を滑り、腿の付け根をするすると撫でた。

「あ……ゆ……ゆぅや……あっあ……」

抵抗にならない程度の抵抗をかわしながら、風見が降谷の股関節を開脚させた。そして、両太腿の間に、顔をうずめる。

「や……なめちゃ……やだあ……」

分厚い舌が、ぬるりと、内腿を這う。

「……れい、ちゃんと正直に言って? 本当にいや?」
「ん……あ……はずかし……いからあ」
「恥ずかしいと、いやはちがいますよね?」

ぺちゃぺちゃと、わざとらしく、音を立てながら、風見は降谷の肛門の少し上のあたりに舌をはわせた。短くそろえられた、硬い黒髪が、竿の裏側をじょりじょりと刺激する。

「あ……はずかし……」

快感に耐えきれず、降谷は太ももをぎゅっと閉じた。

「……ん……まったく……俺の顔……太腿で挟んじゃって……本当はもっと欲しいんじゃないですか? 恥ずかしいだけなら、続けますよ」

硬くとがらせた舌が、降谷のアナルのふちをツンツンとつついた。度重なるセックスと、自己学習によって、幾多の摩擦を受けたそこは、そのような経験をしていない成人のアナルとは異なる外見をしている。肥厚しぷっくりと膨れ上がった肛門縁がひくひくとして、風見を誘った。

「や……や……あ、そこ……きたな……っあ……だめ」
「……汚いんです? 今日はシャワ浣してないんですか?」
「……した……っけど……。お風呂出てから、けっこ……時間たってる……からぁ……」
「あー……れい、汗っかきだもんね?」
「や……はずかし……ぃいっ」

降谷が、本気で嫌がったら、アナルへの舌責めをやめるつもりだった。しかし、恥ずかしがりながらも、本気で拒むようなしぐさは見られない。
降谷が「恥ずかしい」と言うたびに、風見の責めはエスカレートしていく。
風見は上の歯を会陰に押し当てながら、舌をアナルに差し込んだ。

「や……あ……舌……なかは、だめ……きたないからぁ……」

降谷は、腰をひねり、風見の舌の動きから逃げようと試みた。しかし骨盤に置かれた大きな手のひらが、それをゆるさない。快刺激が幾重にも幾重にも積み重なっていく。

「あ……ああ……んっあ……ひあああ……や……」

降谷は、小さく体を痙攣させた。

「あれ……軽くいってます……?」

くたっと弛緩した体と、ゆったりと吐かれた息。抵抗を弱まった隙を風見がついた。

「ふ……ぅん……あっ……ああ……あ、や、ゆ……やッ」

太く長い指が二本。降谷の直腸に侵入する。

「あ……ぅ……っ」

ぬちりぬちりと音を立てながら、奥へ手前へと。一往復にかかる時間は、不規則に変わる。速くて一秒。遅くて八秒。
速い刺激には、脳の処理が追い付かず。ゆっくりの刺激には、物足りなさを感じる。降谷のアナルが、風見の中指と人差し指を締め上げた。

「ん……んん……ぅっふ……ふ……はぁあ……」

風見は、指の出し入れをやめ、指の腹を使って、じんわりと、内壁に圧をかけた。意識してなのか無意識なのか。降谷は腰を揺らす。その動きに伴って、風見の指の先端が直腸に食い込んだ。短く切りそろえられた爪は、粘膜を傷つけない。

「や……っん、ゆうや……」
「んー、どうしてほしいんです?」
「わかんな……っい」
「わからなくないですよね? まったく……腰ゆらゆらさせながら、俺の指をつかってオナニーして……」
「っ……や……ちが……う……体……ふるえちゃってる、だけ……」
「なんで、ふるえちゃうんです?」
「ん……っあ……」

自身のへそに向かって、硬く立ち上がった降谷のペニス。風見は、ジグザグ線を描きながら、会陰から裏筋にかけてねっとりと舌を這わせた。

「ああ……っ!! あ……ふ……うぅ……あ、ああ……あ」

降谷の腰がびくりと浮き上がる。その衝撃が、また新たな快刺激を呼ぶ。
降谷は、腰を動かすのを止めることができなかった。

「……ほら……やっぱ、オナニーしてるんじゃないですか?」
「んっ……だって……君が……ナカ……いじってくれないからぁ……」
「物足りないんです?」
「……ほしぃよ……ぉっ」
「なにが欲しいんです」
「ゆ……ぅやに……僕の…………あ……あ、なるを……もっと、ぐちゅぐちゅにして……ッほし……い……んっああああっやっ……や……ゆうや……は、げし……っ……んんんーぅっふ」

二本の指はいつのまにか三本に増えていた。

「んっとに……手マン、大好きですよね……」
「あ……っあ……あ……っっぐりぐり……だ……っめぇ……」

降谷が目を見開く。湿ったまつ毛がキラキラ光る。

「うぅあ……あ……っあああ」
「チンコより、指の方が好きなんじゃないですか?」
「あ……や……っあ……」
「すっげ、キュウキュウ締まってる……本当にここ、好きですよね?」
「ん……んんん……ぅあ……そこだめ……」
「嫌いなの?」
「きらぃじゃ……ないっけど……」
「じゃあ、好き……?」
「あ……っあ……ちょっと、好き……」

降谷の直腸の腹側にある数センチ大のしこり。風見の指が器用に、それを挟み込む。

「……ちょっと、じゃないですよね? ……記憶にないかもしれないですけど、……この前、俺がここをガン突きしたら、イきっぱなしになった上、潮吹いちゃってましたよ?」
「んやあ……あ……っ……んんあ……ゃ」

前立腺を掴まれながらも、しかし、望む刺激はもらえない。ならば自らの体をゆするよりほかない。

「ああ、また、俺の指を使って、気持ちよくなろうとしてる……。本当に一人で気持ちよくなるの上手ですね? これなら……今日は、このまま俺が指さしたまんまでいれば、勝手に、中イキまでいけちゃうんじゃないですか?」
「や……こんなんじゃ……たりな……」
「どうしてほしいんです?」
「か、かざみのぉ……オチンチンが……ほし……っ……ふ……ああ……ッあ」
「また呼び方を間違えた」

風見の指が再び、降谷の中を激しく動いた。

「ゆ……ぅやの……おちん……ちんほしい……あ……ぅ……ほし……」
「あー……じゃあ、一回指でいってからにしましょうね? あなたのここ、めちゃくちゃ締まるから……いっぺん脱力させないと、痛くって」
「あ……あ……あああ、っふ……ふ……ううう……ゆ、ゆう……や……だめ……きもちい……僕……あ……おかしくなっちゃう……っ」
「うん。ほら、おかしくなったところ見せて」
「や……あ……っあああ……あああああ」

降谷のペニスから、透明な液体が勢いよく飛び出す。
だらんと弛緩した体。口はだらしなく開けっ放しになっている。風見は肩で息をしている降谷をうつぶせにひっくり返した。

「ほら、腰……あげてください」

そんな風に言われても、うまく力が入らない。ゆっくりと腰をあげれば、Tシャツの生地が脇腹の皮膚の上を滑った。

「あ……んん……ん……ふ……っふー」
「腰、もう少し上げてくださらないと、高さが合わないんですけど?」

風見に急かされて、腰をあげようと試みる。下腹部の筋が収縮する。たった、それだけの刺激が呼び水になり、甘い疼きが広がっていく。足ががくがくする。その、振動すら、気持ちがよく感じられる。
研ぎ澄まされた感覚が、些細な刺激を拾い。発達した大脳がその刺激を増幅させる。

「腰、ゆらゆらしてますけど? まったく……本当にオナニー好きなんですね? 十歳からでしたっけ? ちなみに俺は十三歳です。初めてしこったのは……。だから、俺よりも二年。あなたの方がオナニー歴長いんですね」

快感におぼれる降谷の姿に風見は強い興奮を覚えた。自分でも、ちょっとよくわからない言葉責めをしているなと思う。だが、今の降谷には、そんな言葉責めであっても十分だった。
降谷零は風見裕也の声が大好きである。そして、少々の被虐嗜好を持ち合わせた彼は「風見が意地悪な口調で話している」という事実だけで、歓びを感じた。むろん、言葉の内容も大事であるが、今の降谷はなにを言われても心地よく感じる程度には、風見裕也の声を欲していた。

「ぁ……あ……んん……腰……ゆれ……ゆらして……ごめんなさい」
「んー? 謝る必要ないですよ?」

風見の手が、降谷の骨盤に添えられた。

「ただ、ほら、ゆらゆらしてると……狙いを定めるのが難しくて」

もちろん、そんなわけがない。降谷の腰を固定し、下半身をつき出せば、それで、挿入は完了するはずだ。実際、快刺激から逃れようとばたつく降谷の腰を掴み、ひと思いに根元まで押しこむなどということは日常的に行ってきた。

風見が、強引な挿入を行ってきたのには、事情がある。挿入について合意形成がなされたにもかかわらず、降谷が、風見のペニスから逃げようとすることが度々あった。別に、挿入が嫌なわけではない。むしろ欲している。降谷の肉体は激しい快感を求めながらも、聡明な頭脳は理性を失うことを恐れた。

降谷の腰はなおも揺れ続ける。その動きに伴って、パンツから露出した風見の陰茎が、降谷の尻を撫でた。
自身の尻から垂れた粘液によるものなのか、あるいは、風見の先走りか。アナルから仙椎にかけて、ぬるぬるとした液体を、すりつけられる。いや、風見はほとんど動いていないのだから、すりつけているのは、降谷自身かもしれない。
もうすぐ挿入してもらえるという興奮が、降谷の感度を高めていく。下半身の揺らぎをこらえることができない。

「もしかして、挿れてほしくないんですか? ほら、ここで、腰を止めてくださいよ」
「……ん……挿れ、て」

降谷は腰の動きを止められないことに対し、ある種の開き直りの境地にいた。あるいは、風見に対しての甘えかもしれない。なんだかんだ言っても、最終的には、いつものようにやや強引に挿入してくれるだろうと考えていたし、降谷は風見の強引な挿入を望んでいた。

「でも、ほら、ゆらゆらしてるから」

だが、風見は降谷の思う通りには動かなかった。
じっとしたまま、降谷が静止するのを待つだけだった。

「あ……腰……掴んで……ぐいって、奥に……いれて……?」

ふるえる声で、自身の欲望を伝える。

「んー……いつもそうやって挿れてますけど、やっぱり無理やりっぽいのはよくないんじゃないかなって思うんですよね」
「え……でも、僕は……だいじょう、ぶ……だし」

後ろから聞こえてくる風見の声。降谷はふり向いて、その顔を確認したいと思った。だが、もしも、風見がものすごく冷めた顔をしていたら……? そう考えるとひどく恐ろしかった。
腰にあたっている、風見のペニスは、完全な勃起状態にあり、したがって、風見が冷めているはずなどなかったのだが、今の降谷は、そこまで考えをめぐらすことができない。
おそろしくて、悲しい。自身を拒まれたような気分になる。

「……挿れて……? ゆうや……いれて……おねが……い、いれて……」

涙があふれてくる。風見から、降谷の表情は見えない。しかし、声を聞けば、泣いていることは明白だった。

「あれ……もしかして、泣いてるんです? でも……泣いてる恋人に、無理やり、チンコぶち込めるほど……Sじゃないんですよね。俺」
「……ばか……君に……挿れて、ほしくて……っ、僕は……んっ……う……ふぇっ……」

降谷がしゃくりあげる。
風見は、降谷を仰向けにし、それから寄り添うように横になった。

「……降谷さん、ごめんなさい……。泣かないでください」
「……君が、いじわる……するから……」
「……でも、あの……ですね」
「うん……?」
「俺、本当は強引にされるの嫌なんじゃないかと思って、ちょっと不安だったんです……」
「不安?」
「ええ。毎回……わりと無理やりな感じになってるじゃないですか……」

降谷は、風見の首筋に、ちゅっと、キスをした。

「いやじゃない……。というか……不安なら、こんな風に、意地悪して確かめるんじゃなくて、ちゃんと言葉にして言え」

拒まれたわけではないという安堵感と、風見が自身のことを大事にしてくれているんだという実感。降谷は、なんだか幸せな気分になっていた。
セックスは、言葉によらないコミュニケーションかもしれないが、言葉によるコミュニケーションは、セックスをよりよくする助けになるのかもしれない。そう考えながら、降谷は正直に話し始める。

「僕……かざ……えっと、ゆうやに……強引にされるの……好きなんだ」
「え……? マジですか? ……わりと強姦っぽくなっている気がして、本当に大丈夫なのか心配だったんですが……」
「君が……僕を強く求めてくれる気がして、嬉しかった……。だが、僕の趣味に無理やり付き合わせるつもりはないから……。嫌ならしなくていいぞ」
「いえ……嫌ではないと言いますか」
「うん」
「むしろ、けっこう興奮するっていうか……好き? っていうか……。でも、警察官としての倫理観が邪魔をして……といいますか。なんていうか、こう……不安になることが無いわけではなくて……。こういうのってデートDVに該当するんじゃないかとか……わりと悩んでいたといいますか」
「……僕は、無理やりだと思っていないし……。ああいう時の君、すごく男らしくて……けっこう興奮する……」
「……れい」

風見が、降谷の上に覆いかぶさる。

「ん……」

降谷は、顔を真っ赤にしながらも、風見の顔をじっと見つめながら自ら脚を開いた。

「んんっあああ……」

今度は焦らすことなく、風見は、自身の陰茎を降谷の中に押しこんでいく。
奥まで到達すると、風見は腰を激しく動かした。降谷の長い脚が、風見の腰を挟み込む。

「っ……れい……」
「あ……っあ……ゅうや……あっあ……んん」

いつもよりも、大きな喘ぎ声。奥を突かれ、降谷は、あっという間にてっぺんに到達した。
楽器の演奏・ペット可の物件は、それなりの防音性を備えていたが、さすがに、ここまで大きな声だと、多少は近隣に響いてしまうかもしれない。
陰嚢がパンパンと降谷の尻を叩く。

「あ……れ、い……っ……ごめ……おれ……きょ」
「あ……っっああ……あああっ」

降谷の直腸が攣縮を始め、風見のペニスをぎゅうぎゅうと締め付けた。

「ちょ……きつ……あ……無理、で、る……」
「あ……っ……ゆぅや……ぁ……」
「っく……ん……ふっ……く……あ……はあ……あ」

風見は、降谷の中で達した。それから、ゆっくりとペニスを引き抜き、ティッシュに手を伸ばす。
その手首を降谷が握りしめて制止した。

「どうしました?」

風見がたずねれば、降谷は息をはぁはぁさせながら、とろんとした表情で言葉を発した。

「ぼ、く……いま、おきあがれないから……」
「え?」
「おそうじ……」

ちろりと赤い舌を出し、風見の股間をじっと見つめる。

「え……? でも、今日……ゴムしてなかったし……いま、除菌ジェルで拭きますんで」
「いい……君だって、ぼくの……汚いところなめたろ? だから……だいじょうぶ」

衛生観念に欠ける行為を、あの降谷が欲している。
スカトロには興味のないはずの風見だったが、このシチュエーションにいささかの興奮を覚えた。

「では……」

そう言って、降谷の頭上にまたがって膝立ちになる。
イラマチオのような姿勢に、風見はたまらない気持ちになった。降谷と付き合うようになってから、風見は自身にサディストの傾向があることを自覚するようになった。
差し出されたペニスに降谷がしゃぶりつく。自身の腸液と、風見のザーメン、それからアナルセックス用のローション。口の中に、なんとも言えない苦みが広がった。
口をすぼめながら、ゆったりと首の曲げ伸ばしをした。じゅうじゅうと、音を立てながら、降谷は風見の精を吸い取ろうとする。しかし、その刺激は弱弱しく、風見はたまらず自分の手を使い始めた。管に残った精液を押し出すように、竿を刺激する。それに呼応するように、降谷は風見の裏筋に舌を這わせた。

「あ……きもち……い……」

風見は天井を仰ぎ、ぎゅっと目をつむった。対する降谷は目をぱちりと開き、風見のペニスの付け根を観察した。
風見の雄の味が徐々に濃くなる。口の端から唾液が垂れそうになると、降谷はそれをごくりと飲み込み口の中を空にした。
唾液を飲む瞬間、口腔内は陰圧になる。風見のペニスに、降谷の頬肉がぴたりとはりついた。
こうして、ザーメンの味が薄くなるまで、降谷は風見の陰茎をしゃぶり続けた。

「れい……じょうず……」
「ん……」
「ありがとう」

風見は礼を言いながら、降谷の頭を撫でた。
汗でしっとりとした金髪が、風見の手のひらにしっとりとなじむ。
風見は、ごろんと横になると、降谷のこめかみを撫でながら、首を傾げた。それからゆっくりと顔を近づけていく。
しかし、降谷は、人差し指で、風見の顎をつつき。キスを制止した。

「いいのか?」
「なにがです?」
「僕の口の中……たぶん、君の精液の味……残ってるけど?」
「……いや、なにを言ってるんですか? 今更ですよ」

二人でにっこりと笑い合い、それから、キスをした。深く深く、舌を絡ませ合ううちに、身体はお互いを求め、そして、二人は溶け合った。

おわり

 


 

【おまけ】

「そういえば……ゆぅやの、スマホ……充電……だいじょうぶだったかな……?」
「え……?」
「だって……ぼくたち……ろく、じかんくらい……えっちしてたろ?」
「……ああ」
「ろくが……ちゃんと……できてる?」

風見はにっこり笑うと、自身のスマホの画面を降谷に見せた。
充電の残量は78%。

「録画、してませんよ」
「え……?」
「あなたが俺の言葉を信じてないのが悔しくて、ちょっと意地悪しただけなんで。撮影してないですよ。だいたい、公安警察である俺たちが、たとえ、外部との通信を遮断したスマホであっても、こういった動画を撮るのは……」
「……そう……だよな。僕……自覚が足りてなかったかもしれない」
「え?」
「……別にいいんだ。それに、君が本当は撮影していないっていうことに気がつかなかったこと自体、どうかと思うし……」
「いや、えっと……え? 撮影してよかったんですか?」
「……いや、基本的には、君と同意見だよ。公安警察としての自覚というのは大事だと思う」
「撮りましょう……」
「え?」
「せっかくですから、ちゃんとした機材と、データを安全に保存するための準備をしてから、撮影を……」
「……なんだ、今からじゃないのか?」
「え……? 降谷さんって……本当にえっちなんですね?」
「君だって、たいがいだろ……。今日だって、何度も何度も……」

降谷は、風見の顔を見つめながらふふっと笑った。
自分たちは、セックスの相性がとてもいいのかもしれない。そんな気がしたからだ。

(そうだよな? 風見)
(降谷さんがなんで笑ってるのか、わからない)

 

 

【あとがきなど】

久々に、ちょっとだけ気合の入ったエロを書こうと思ったんですよ。
そしたら、私じゃなくて、私の脳内の風見裕也がすげえ、気合入っちゃって……

「ちょ……おま……ふるやさんになんてことを?!!!!」

って、感じになり。
あげくに、原作で、風見は堅物という情報が出てきて……
堅物はこんなことしないだろ?????
という気持ちになり。

でもさ……
本当に堅物な男は、上司に対して、砕けた口調にならないはずだし……!
自分がお下がりをもらうことを見越して、上司の洋服を買ったりしないはずだし……!
だいたい、仕事の連絡が来るスマホで、ソシャゲーとかしねえんだわ……!
あと、上司の家で、うたたねとか、しねえんだわ……!
つまり、堅物って言うのは……「FAKE」!!!!!
降谷零による印象操作かもしれないって、私は、そう思い込もうとしたわけですよ。

ちなみに「ほんとうに……だいじょうぶ?」っていうタイトルは、ダブルミーニングです。
作中でお互いの気持ちを確認し合うシーンを踏まえているのと。

「こんな話をアップしてしまって、ほんとうに……だいじょうぶ?」

という私の気持ちを踏まえています。
あと、めずらしく、ファーストネーム呼びを採用したんですが。

「ゆうや」

という、音の響きのポテンシャルを最大限に引き出すような喘ぎ声を書きたかったんですけど……
とちゅうで、いろいろ見失い、謎喘ぎを書いてしまった気がします。

 

 

 

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