初出:ぷらいべったー 2021/1/6
風降未満?
ふるやさんから、お年玉をもらう、かざみゆーやと。
お年玉の使い道。
仕事始めから数日。
降谷さんと数週間ぶりに顔を合わせた。新年のあいさつを済ませ、手短かにデータをやり取りする。ひとけのない夜の公園。寒の入りをしたばかりの空気は、透きとおるような冷たさ。
「実家には電話くらいしたのか?」とか「餅は食べたのか?」とか。
「少しはゆっくりできましたか?」とか「ワンちゃんはお元気です?」とか。世間話を少しして、そろそろ帰路に着こうかというところで、降谷さんが
「これ」
と、小さなポチ袋を差し出した。手袋を外して、それを受け取る。
「君には、一年がんばってもらったから」
「よろしいんですか?!」
三十路男が、年下の上司からお年玉をもらってよいのだろうか……という葛藤がないわけではないが、俺は降谷さんの右腕だからわかる。降谷さんは、こういうふるまいをするのが好きだ。
『締めるところは締めるが豪胆で話の分かる上司』
降谷さんはそれを理想としている。飲みに行けば「無礼講」という言葉を使いたがるし、ことあるごとに自販機の飲み物などをおごってくれる。
「わー……! ありがとうございます!」
「今年も君をこき使うから……覚悟しておけ」
降谷さんが、したり顔で言う。背伸びした子供のようで、かわいらしいが、それを指摘する勇気は俺にはない。
「はい、誠心誠意、お尽しします!」
※※※
年明け。久しぶりに鶴山さんがポアロにやってきた。年末年始は遠方からお客さんが来たり、町内会の仕事をしたり、社交ダンスの新年パーティーがあったりと忙しかったらしい。
「久しぶりに、じっくり取り組めるわ」
鶴山さんはお気に入りのスマホゲームに熱中した。頃合いを見て、コーヒーのおかわりを勧める。
「少し休憩したほうがいいわね」
そう言うと、鶴山さんは、ゲームを一時中断した。
数十分が経過する。
鶴山さんが、ふたたび、スマホを手にした。
「あら、ユーヤさんだわ。ユーヤさんも年末年始は忙しかったらしいのよね……」
ユーヤという名前を聞いて僕は部下の顔を思い浮かべた。
「まあ! ユーヤさん……気合十分ね。今年も誠心誠意、お尽くしします……ですって。あら、ずいぶん大盤振る舞いしたのね……装備が一新されてるわ……」
鶴山さんのゲーム仲間であるユーヤも、随分なはりきり屋であるらしい。
たぶん、ユーヤもいいやつなんだろうなと、そんなことを思った。
鶴山さんのユーヤにとっても、僕の裕也にとっても、今年がよい一年であればいい。