メタモルフォーゼ

初出:Pixiv(2021.1.11)

飲み屋のおしぼりでチンコを作る男どもの話。
見栄剥きをしない風見裕也と、見栄剥きを知らない降谷零  の続きのようなそうじゃないような……


 

性経験に乏しい僕ではあるが、さすがに、風見裕也と自分の関係が不適切であることは理解している。

数か月前、銭湯で、男性器の話になって。僕の性経験と知識の乏しさが露見した。だけど、風見は僕のそういういびつさを、からかったりせず、体質改善の手伝いをしてくれるようになった。
いろいろな刺激を加えても、表情をあまり変えない風見に対して。僕は性器をちょっと触られただけで、腑抜けになってしまう。性的快感への耐性だけで言えば、僕なんかより風見裕也の方が圧倒的に、務まっているかもしれない。

風見から風呂の間だけでも、剥いたままにした方が衛生的にもトレーニング的にもよいとアドバイスされたので、それを実践している。でも、それをするたびにしたくなってしまい、自分でもその変化に戸惑っている。
先日、風見にその状況を伝えたら「それは、遅く来た思春期のようなものですから、あんまり気にしなくても大丈夫ですよ。俺も中高生の頃は、結構、そんな感じでしたから。それに、刺激に慣れてくれば、そういうのも減ると思います」と、教えてくれた。
もしかしたら、僕は、風見に何かを教えてもらうのが好きなのかもしれない。風見からアドバイスをもらうと、なんだかほっとするし。体質改善の手ほどき。僕は、ひそかに、その機会を楽しみにしていた。

そんなある日。
僕たちは居酒屋の個室でビールをあおっていた。風見裕也のおすすめの店。栃尾あげと鮮魚が実においしくて、僕はとてもうれしくなる。

たらふく食べて、たくさん飲んで。午後十時。なんだか、まったりした空気になる。
僕は、ふと思いついて、おしぼりで犬を作って風見に見せた。風見は「耳の形がちょっと違うけど、降谷さんとこのワンちゃんと同じ白い犬ですね」と言った。

「じゃあ、俺も」

と、風見も何かを作り始める。よどみない手の動き。僕は、彼の手の動きを見るのが結構好きかもしれない。

「ほら、チンコです」

なんと、風見は、おしぼりで、男性器を作ってみせた。

「……品がないな」

と、苦言を呈する。しかし、僕は、なんだか妙にときめいていた。

「そうですか? 降谷さん、これ、作ったことあります?」
「ないな……」
「じゃあ、作り方、教えてあげますね」

風見が、やや強引に、おしぼりでのチンコの作り方を教えようとする。僕は、風見に、何かを教えてもらうのが、多分、好きだから。その誘いに、うなずいてしまった。
犬の形をしていたそれを、正方形の濡れタオルに戻し、風見の手ほどきを受けながら、男性器を作る。

「できましたね」
「うん」
「すごく、上手だ。降谷さんは、なにをやらせても筋がいいですね」

風見に褒められると、なぜだかとても嬉しい。

「ちょっと、手に取っても?」
「ああ、かまわない」

風見が、男性器を模したおしぼりを手に取る。そして、指で、先っぽのところをつついた。

「降谷さんの、カリより、ちょっと大きいですね」
「え、うん……そうかな?」
「あ、実際のサイズというより、バランスの話です。降谷さんのは、なんていうか、シュッとしていてきれいじゃないですか」

おしぼりの男性器の話が、いつの間にか、僕の性器の話にすり替わっている。
風見裕也は少し酔っているのかもしれない。もう片方の手で、自作の男性器を手に取る。両手に、性器の形をしたおしぼりを持っている姿は、はっきり言ってシュールだった。

「こうやって、先っぽと先っぽ、つんつん合わせるのとか、今度やってみたいですね。気持ちよさそうだ」

おしぼりの先と先を、こすり合わせながら、風見が笑う。
ただの品の無いジョークだ。実際の僕の性器がどうこうされているわけではないし、風見が自身の性器を露出しているわけではない。
だけど、もしかしたら、僕もだいぶ酔っていたのかもしれない。
下半身に熱が集まるのを感じた。

「風見……」
「どうしました?」
「僕の体……変かも……」
「変?」
「触ったりとか、してないのに……なんか、こう…気持ちいいっていうか」
「ああ。そういうこともありますよ。結局、なにが快感であるかを決めるのは脳なので」
「そっか、じゃあ、変じゃないな……」

僕は、本当に、その辺の知識と経験がからっきしなので、風見から、性に関する知識を教えてもらうと、とても安心する。

「それに、俺も今のを聞いて……勃っちゃいました」
「そうか……」
「そうです。だから、どうでしょう。社会科見学を兼ねて……ラブホテルなど」
「……君の家や、僕の家じゃだめか?」
「……男二人、勃起したままタクシーに乗る勇気があるなら、それでも」
「そっか……それもそうだな……」
「ちなみに、ホテルでしたら、この店を出て三つ目の十字路を右に曲がったところに、いいところがあります。会員カード持ってるんで、割引きが効きますし」
「会員カード……なんてものがあるのか?」
「ええ。誰でもなれますよ。だいたい、どこのラブホも、さらの会員カードが置いてあるので……降谷さんも作ってみます?」
「いや、いいよ。君以外と行く機会は無いと思うから」

風見が、ジョッキに残っていたビールをぐーっと飲み干す。その喉の動きがかっこいいと思ってしまったのは、やっぱり、アルコールのせいだろうか。

「じゃ、行きましょう。俺、降谷さんのラブホデビュー全力でエスコートしますんで」

風見は、居酒屋の支払いを全額自分で持ち、ラブホテルに関しては一番いい部屋を取ってくれた。部下のくせに。なんでそんな真似をするのだろう。でも、気前がよくて、男らしいなと感心した。

さて、体質改善途上の僕は、ホテルに入ってすぐ、風見にズボン越しに触られただけで下着を汚してしまった。だけど、風見がやさしくフォローしてくれたから、情けない気持ちになることもなかったし、二人で入ったジャグジーの風呂には天窓がついていて、なんだか贅沢な気持ちになった。

「僕、風見とこういうことしてるの、結構楽しくて好きだよ」

天窓から見える夜空。確か今日は晴れていたはずだけれど、ネオンの明かりが邪魔をして、星なんて少しも見えやしない。
それなりに、距離を取ってジャグジーを使っていた風見が、近くに寄ってくる。それから僕の手をぎゅっと握った。

「じゃあ、俺達、つき合っちゃいましょうか」

経験がない僕だけれど、その言葉の意味が分からないほどには、世間ずれしていない。
おつきあいするかしないかって、とても、重大な選択だ。でも、多分、風見と一緒だったら楽しいんじゃないかという気がして。僕は「そうだな。つき合ってみようか」と即答してしまった。

 

 

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