100.1秒物語

☆1001秒どころか、100.1秒あれば、読み終えるような風降sss集
(3本しかないけれど)
☆つき合っていない
☆ゼロ茶のネタバレがあります
☆ギャグです
☆3つめのお話は「文豪がIlove youをどう訳したかネタ」です


 

①服を買いに行く服はある(『丁度良いです』前日譚)

百貨店のキャッチコピーに「服を買いに行く服がない」というのがあった。
僕には、服を買いに行く服はあったが、残念ながら服を買いに行く暇がなかった。
僕は潜入捜査官をしている。だから、潜入先にふさわしい服を着なければならない。
最初の頃は、自分で買いに行ったりもしていたのだが、これが思いのほか手間だった。

そういうわけで、僕は、風見裕也に、おつかいを頼むことにした。

安室透として借りているアパートに風見を呼ぶ。
手持ちの洋服を見せながら、どんなテイストの服を買ってきてほしいか伝える。
ある程度の打ち合わせが終わる。
僕が「一息つかないか?」と声をかけようとしたところで、風見が言った。

「あの…降谷さん……やっぱり試着は必要なのでは?」
「ああ、それなんだがな……」

部屋のカーテンを閉める。

「策がある。風見、今、着ている服を交換しよう」
「は……?」

風見は戸惑っていた。しかし、僕がTシャツを脱ぎ始めたので、風見もあわてて、スーツを脱いだ。インナー姿になって、お互いの洋服を交換する。
風見のシャツ。風見のスラックス。それらを、一枚一枚身に着けていく。
風見は、僕の長袖のTシャツとベージュのチノパンを着た。

僕のTシャツは風見にぴったりだったし。
風見のシャツやジャケットは、僕の体にしっくりとなじんだ。

「な。君が試着してくれば、僕にぴったりサイズの服が手に入るんだ」
「えーと、降谷さん。……あの…確かに……ですね。上半身や腰回りのサイズは、ほぼ一緒なんだなーと思うんです」
「うん。君…骨太に見えて案外スリムだからな」
「いや……しかしです…、足の長さが、ちょっと……洒落にならないほど違うんですが」

僕は、物差しを手に取った。

「ああ…。けど、他はぴったりなんだし」

風見の足元に物差しを当てる。

「余っている布の長さで、裾上げがどの程度、必要かわかるだろ?」
「それは…そうですけど……俺は結構…複雑な心境ですよ」

風見が苦笑いをする。
僕は、これってパワハラになるのだろうかと、少しだけ心配になった。

(まあ、杞憂に終わったんだけれど)

②REIさん(風見さんの誤解が解けていなかった場合のお話)

<side K>

降谷さんにはまだ『REIさん』のことを聞けていない。けれど、状況証拠は十分にそろっていたし。REIさんはやっぱり降谷さんなのだと思う。

今のところ、仕事でもゲームでも俺と降谷さんはうまくやっている。この関係を続けるためには、おそらく、それなりの距離感が必要で。だから、仕事に怪コレを持ち込んではならないのだ。

――それでも

たとえば、すごく熱い展開で押し勝った翌日の、会合。
そんな時は、降谷さんの背中に熱い視線を送ってしまう。

(REIさん! 昨日の夜は、めちゃくちゃ燃えましたね!)

<side F>

最近、風見の視線が、なんだか気になる。
気のせいかとも思ったが、やっぱり気のせいではないと思うし。なんだか、やたらに熱がこもっている、そういう視線。
風見は、もしかしたら、そのような意味で、僕に興味を持ったのかもしれない。
今なら、まだ間に合う。そう思って、風見にくぎを刺した。

「風見……くれぐれも、公私混同には気をつけろよ」
「あ、はい! REIさんのこと、仕事中は封印します」
「…ああ…頼んだぞ」

(え……? 零さん?????)

不意打ちで、風見に名前を呼ばれた僕は、なぜかひどく動揺した。

③借り物の言葉ではなくて(今生のお別れになるかもしれなかった)

予感があった。これが、最後になるかもしれないって。

風見裕也と2人きりの屋上。月齢は16.3日。雲は一つもない快晴。段取りは、入念に確認してある。僕は、最後くらいはと思って、ささやかな公私混同を試みた。

「風見……」
「なんでしょう?」
「月がきれいだな」

しんみりとした口調になってしまった。
風見は、しばし、黙りこくったのち。

「降谷さん。俺、覚悟はとっくの昔にできていました」
「うん」
「自分は、あなたのためなら、この命を捧げてもいい。そう思っています」
「そうか」

皮肉だな……。そう思った。
最後の最後でようやく、風見と僕は想いを共有した。

などと、しんみりした気持ちになっていたのに。なんと、僕と風見は、しっかりと生還してしまった。
想いを伝えたことに後悔はない。けれど、これから先、風見にどう接したらいいかわからなくなって、話し合いを設けた。

「あの日……屋上で…僕たち、気持ちが通じ合っただろ?」
「……気持ちが通じ合う…? ですか?」
「ああ……まあ…なんていうか、両想いになったというか」
「え?」

風見がびっくりしたような顔をする。話のかみ合わなさに、不安な気持ちになった。

――外傷性の健忘?

今回の仕事で、風見は頭を打った。画像上の所見は何もないとのことだったが、見落とされた何かがあるのかもしれない。

「いや……覚えていないか…僕が月がきれいだと言って、君が僕のためなら死んでもいいというようなことを言って……」
「……あ! え? あれ、そういうつもりだったんですか? あー……本当だ。漱石と二葉亭四迷ですね……そのやりとり」
「……え?」
「いや、まさか、降谷さんが俺のことを、そういう風に見ていると思っていなかったから……。普通にしんみりしながら月を見ていました」

ちょっと、待ってほしい……。
どうやら僕は、風見との両想いになれたと勘違いした上に、風見に好きバレしてしまったらしい。

「それで、俺は、普通に、降谷さんのために死ねるって思ってたから、ああ言ったんです」

そうか……。
そう思われてたなら、それはそれで嬉しい……けれど…僕の想いは、君に知られていい類のものではない。
何を言うべきかはわかっていた。こうなったら、風見裕也を解任するよりほかないだろう。けれど、告げるべき言葉が出てこなかった。

その時だ。

風見が、僕の体を、ぎゅっと抱きしめた。

「降谷さん……借り物の言葉じゃ、わかりにくいんですよ。俺はね……そうだな、俺ならどう訳すかな……まあ…そっか…そうだな……」

風見がしばし、考え込む。僕は、風見の抱擁をほどくこともせずに、ただただ、風見の体が、あたたかいことを感じていた。

「ああ。じゃあ……ずっと、あなたの右腕でいさせて…でいかがでしょうか」
「……え? それって?」
「うん。風見裕也版のI love you」
「うん……」
「じゃあ、今度は降谷さんの番。漱石の引用なんかじゃなくて。あなたの言葉で教えてください。俺への気持ち」

僕は、風見の背中に腕を回しながら言った。

「君がワンちゃんて呼んでいる、僕の犬の名前なんだけど……ハロって言うんだ」
「え……?」

ひと呼吸おいて、風見が、ケタケタ笑い出す。

いや……僕だって、自分が、ちぐはぐなことを言っていることを理解している。
けれども。しょうがないじゃないか。本当は、シンプルに好きと言いたいけれど。
君に「好き」などと言ったら、僕は恥ずかしさで死んでしまいそうなのだから(=Ilove you)。

 

【あとがきなど】

タイトルは、一千一秒物語のオマージュです。足穂のファンがいたらごめんなさい。
(……私も足穂が好きです。友達になってください)

別の話を書いていたんですが、あんまりにも煮詰まってしまい。
気晴らしに、掌編を3本ほど書きました。
(下手の横好きだけれど掌編を書くの好きなんです)

『Ilove you』を、どのように訳すかネタは、使い古されたネタですが。このキャラだったら、どう表現するのかなあと、考えるのが楽しくて。ついつい書いてしまいます。(過去ジャンルでも書いたことがある)

私は

☆風見「ずっと、あなたの右腕でいさせて」
☆降谷「君に”好き”などと言ったら、僕は恥ずかしさで死んでしまいそう」

かなーと、考えましたが。
他の風降好きさんが『風見裕也/降谷零版Ilove you』をどう考えるのか、すごく興味があります。

それにしても、私……茶文脈の風降のこと、すごく好きなんだなあ……

 

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