キューティクルオイル・20ml(2890円)

〇つき合っていないし、体の関係もない
〇身体接触はあるが、えろくはない
〇風見さんが、普通に降谷さんのことが大好き


 

最初に服を買ってくるよう指示を出したとき、風見は僕に聞いた。

『では、安室透や…潜入先での降谷さんの人となりを教えてもらっていいですか?』

洋服というものは、その人物の人格や生きてきた文脈が如実に表れる。風見は、僕がどういう風な人物として、二つの顔を生きているのかを知りたがった。
確かにその通りだと思った。公費を使って服を買うのだ。無駄な買い物を増やすわけにはいかない。それで、僕は、安室透とバーボンがどんな人物なのかを風見に伝えた。
几帳面な字でメモを取りながら、風見は僕の話を聞いた。そして、その情報をもとに、流行などを勘案しながら、僕にしっくりくる洋服や小物を買い集めてきた。
なるほど、風見のファッションセンスは悪くなかった。僕に似合う洋服や小物を選んで買ってくる。
さすがにループタイを見たときは、何を考えてるんだろう? という気持ちになったりもした。しかし、実際につけてみたら、予想外にしっくりきて、結局、あのループタイは何度か着用している。

そんな、ある日のこと。バーボンとしての仕事を終えて部屋に戻ると、風見がハロと遊んでいた。

「……ただいま。犬の世話、ありがとうな」
「あ、降谷さん! おかえりなさい。……そのループタイ使ってくれてたんですね」
「……まあな」

ハロが、僕の足元に寄ってくる。しゃがみこんで、ふわふわの体をなでまわす。

「事前に連絡いただければ、お風呂の仕度しておいたんですけどね」
「……いや、さすがにそれは頼めないだろ。犬に加えて、僕の世話まで頼むわけにはいかない……」
「そうですか……? お世話したいんですけどね。俺は」

風見の発言に、思わず耳を疑った。風見が、僕のことを敬愛し、僕のために役立ちたいと思っていることは知っている。けれど、今の発言は、少し行き過ぎではないだろうか?

「なんだ……それ? 僕は犬じゃないぞ?」

苦笑いしながら言うと、風見は冗談で答えた。

「……犬ですよ。あなたも自分も」
「まあ……そう言われれば、そうだけどな」

沈黙がおとずれる。僕は無言のまま、ハロをなで続けた。
やがて、ハロは満足したのか、僕のそばを離れ、水を飲みに行ってしまった。
風見が、眼鏡の位置を直しながら、僕にささやいた。

「降谷さん、犬同士……グルーミングなどいかがですか?」
「グルーミングね……まあ、短時間ならかまわない」

誘いに乗ってしまったのはおそらく、今日の僕は自分で思っている以上に、疲れていた。という、そういうことなのだと思う。

グルーミングするのだから、和室に移動して、ベッドに寝かされるのだろうと思っていたのに、風見は和室に向かう僕を引き留めた。
『畳だと、ぬれるとまずいので』と、言われた時には、さすがの僕も身の危険を感じた。だけど、この場から逃げ出す気にもなれず、風見の様子をうかがった。
風見は、洗濯用に使っているたらいを持ってきて、それから、お湯を準備した。

「はい、じゃあ、降谷さんそこの椅子に座って、たらいに足つっこんでください」

椅子に腰かけ、スリッパと靴下を脱ぎ、ボトムスの裾をまくり上げて、ふくらはぎの下あたりまでを湯に浸した。

「足、入れたぞ?」
「ええ。では、失礼します」

そう言うと、風見は、ガーゼ地のタオルを使って、僕の右足を優しくこすり始めた。
足の底。足首。ふくらはぎ。趾と趾の間。足の甲と、つめの生え際。
水音が、ちゃぷちゃぷと、部屋に響き渡った。ハロが風見の横で、僕の足元をじっと見つめている。

「お湯加減はいかがです? 冷めて来たら、足し湯しますけど?」
「んー……もうちょっと、冷めたら、お湯をいれてくれ」
「了解いたしました」

きゅっと目を閉じる。風見の手は、どこまでも、どこまでも優しかった。
僕の足にまとわりついた、何か重いものが取り除かれていくような感覚。ひとことで言えば、とても、気持ちがよかった。

そして、僕は、そのまま短い眠りに落ちた。

ふと、目が覚めれば。いつの間にかたらいは片付けられていて。風見が、僕の足元に跪いて、なにかをしていた。足の爪に、何かを塗られているような感覚。

「……君、なにをしているんだ?」
「キューティクルオイルを塗布しています。インターネットの口コミを調べたら、これが一番よかったので」
「……いや…なんで?」
「なんででしょうね……でも、組織に潜入している時のあなたの人となりを聞いたときに、いつか、降谷さんの足の爪をきれいに磨き上げたいって思ったんですよ」
「……なんだそれ?」
「なんででしょうね。でも…ループタイを買ったときと、同じような感覚です。降谷さんの足の爪は、きれいに磨き上げられている方がそれらしいって、そう思ったんですよ」

風見はキューティクルオイルを塗り終えると、今度は、僕の足にクリームをすり込みはじめた。確かに、風見の言う通りのような気がしてきた。
降谷零はともかく。安室透やバーボンは、そういったところまで、抜け目なく手入れをしていそうだ。
そうはいっても……

「でも、君……夏にサンダルでも履かないかぎり、足の爪なんて誰にも、見せないだろ?」

風見の指が、にゅるりと、僕の趾の間に絡みついた。そして、僕のことを見つめながら言う。

「ええ。もちろん、俺以外には、見せないでくださいよ」

風見は、僕の右足を、大事そうに両手で持ち上げた。
そして、風見裕也の唇が、僕の右足の甲に触れるのを見た時。僕の体の奥で、なにかがふるえた。

おわり

【あとがきなど】

風降と足浴って、相性がとてもいいんじゃないかなと思って書きました。
あと、降谷さんの足の爪を手入れする風見さん。
降谷さんは、グルーミング=セックスだと思ってたんですけど。風見さんは、グルーミング=お手入れをイメージしていた……という微妙なすれ違いです。
私が書いた話にしては、めずらしく、降谷さんの方が、乗り気だった。

風見さんは、前々から、隙あらば、降谷さんの爪を手入れしたくて。降谷さんの家に来るときには、いつも、つめの手入れ用品を持参していたんじゃないかな。

そして……ラストの、足の甲へのキス。書きながら、変な笑いが出ました。
ああいう感じの描写……性描写を書くよりも照れてしまう……

 

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