たちの悪い三十路男と、世間知らずな女の話

※この話には、女の子を幸せにして素敵な家庭を築きそうな風見裕也は出てきません※

風見裕也は、オリ主に自分の名前を教えません。自分のことを「ゆー君」と呼ばせます。
ゆー君は香水をしていて、とってもいい匂いがします。
ゆー君は、すごくずるい男で。そういう ゆー君にはまっちゃったオリ主は、多分とっても不幸です。

ゆー君の本カノ的ポジションにいるのが降谷零です。つき合ってるかどうかは定かではないんですけど。ゆー君は、降谷さんのことが大好きです。

※R-18ですが、描写はぬるめです
※茶のネタバレがあります

【オリ主】
24歳。看護師。低身長。恋愛経験とぼしめ


 

 

ゆー君とは、シモキタのクラブで知り合った。

音楽は好きだったけれど、クラブには、いいイメージを持っていなかった。
だから、クラブに行ったのはその時が初めてだった。

私をクラブに誘ったのは、高校時代の友人。
彼女は専門学校を出てから接客業をしていて、お休みはだいたい平日だった。私は、看護師で平日休みがまあまああったから、最近はこの二人で遊ぶことが多い。
友人は、彼氏とか彼氏のような人が絶えないタイプの人で、大学2年の時だけ彼氏がいた私とは、恋愛に対する考え方がまるで違った。
だから、クラブに誘われた時、私は少しだけ不安になったが

「ここは、純粋に音楽を聴きに来てる人も多いし、平日のクラブってサラリーマンなんかも多いから、出会い目的の人はあんまりいないよ」

という彼女の言葉に油断をした。
渋谷や六本木や新宿じゃなくて、下北沢。
その地名だけで、なんとなく安心感がある。あえて終電を逃して、カラオケか何かで寝て、カフェでモーニングを食べて、雑貨屋をのぞいてから家に帰るなんてのもいいかもしれない。
合わないなと思ったら、さっさと家に帰ればいいのだし。

そのように考えて、私は、彼女の誘いに乗ることにした。

その日の夜勤は、午前3時過ぎに、飛び込みの入院があって、死ぬほど忙しかった。家に帰って、5時間ほど仮眠を取ったけれど、なんとなく、頭がぼんやりしていた。

友人との待ち合わせは、駅前に午後6時。
商店街でカレーを食べてから、目的の箱に向かった。
平日ど真ん中の水曜午後7時。客はまばらだった。純粋な客よりも、イベント主催者の関係者みたいな人たちの方が多かった。

みんな楽しそうにお酒を飲みながら、それぞれのスタンスで音楽を楽しんでいる。

私の友人は、お酒が大好きだ。「かけつけ3杯」などと冗談を言いながら、結構な勢いでカクテルを胃に流し込んでいた。
私は、カシスソーダを飲みながら、場の雰囲気を楽しむことにした。
時間が経つにつれ、客が増えてくる。
ふと気がつくと「出会い目的の人はあんまりいないよ」と言っていたはずの彼女は、主催者の関係者っぽい男の人とと仲良くなっていた。

(あーあ)

と、思う。けれど、私も彼女も来年25歳だ。そこに目くじらを立てるような無粋なことをしてはいけないんだと思う。たぶん。
そういうわけで、私は純粋に音楽を楽しむモードに入った。ほろ酔い気分で音楽に身をゆだねるのはすごく気持ちがよかった。
その時だった。身長がまあまあ低い私は、すぐそばに居た大学生っぽい男の子の死角に入っていたみたいで、すごい勢いでぶつかられてしまった。
カクテルが、大学生のTシャツにかかってしまう。そして、私は、その人に絡まれてしまった。相手は、金髪のピアスじゃらじゃらで、お酒も結構飲んでいる様子だった。すごくこわい。
私が、必死で謝っていると

「どうしたんですか?」

と、頭の上から、優しい声が降ってきた。

そこから先のことは、あんまり覚えていない。

眼鏡をしたスーツ姿の男が、すごい圧で大学生に声をかけ、あっという間に追い払った。
夜勤明けで、初めてのクラブで、お酒もちょっと入っている私は、すごくぼんやりしていて。でも、お礼を言わなきゃと思って、その男の人をじっと見つめた。

「あの……!」
「はい…?」
「ありがとうございました」
「ああ……いえ」

その男の人は、私の顔をじっと見て。それから、ふっと視線をそらしながら、スーツの上着を脱いだ。

「あの……これよかったら羽織ってください」
「え…?」
「Tシャツ……びしゃびしゃですよ」

そう言われて、体が熱くなるのを感じた。
おそるおそる自分の胸元を見たら、ブラのレースが透けていた。

「ありがとうございます……」

ジャケットを受け取り、肩に羽織る。ふわり…といい匂いがして。ああ、この人、香水とかするんだなとか、そんなことを思った。

「物販にTシャツありましたけど……それ、買ってきましょうか? もしくは、駅の方のユニクロまで行きます? 9時までだから、まだやってると思いますけど」

夜勤明けの疲れなのか。お酒のせいなのか。クラブという非日常感がそうさせるのか。
正解は、わからなかったけれど、私はもう少しこのジャケットを羽織っていたい……そう思った。
普段の私なら、絶対にそんなことを思わないし、そもそも、初対面の男のジャケットを羽織ることすらしなかっただろう。

「では……ユニクロまで…ついて来てくれます?」
「ええ。もちろんですよ。一人で留守番させるわけにはいかないですからね」

私たちはクラブを出て、夜の下北沢を歩いた。

 

――あのー、お名前は?

んー……女の子からは、ゆー君と呼ばれることが多いですね

――ゆー君、ですか……お歳はいくつなんですか?

三十路なんですよ。君から見たら、30歳なんて、おじさんでしょ?

――いやいや、そんなことはないです。おにーさんだなー、とは思いましたけれど……私は看護師なんですけど…ゆー君は何をしているんですか?

あー……見てわかると思うんですけど。まあまあ、お堅いところですね。結構、ブラックなんですけど、働きがいがありますよ。

――仕事一筋なんですね

んー……? そうとも言えるかもしれないですね。確かに……仕事で認めてもらいたい気持ちはあるからなー

――いいなあ、そういうの。私もそれくらい仕事にのめりこんでみたいです。そういえば……ゆー君、彼女とかいるんですか?

あー……居るように見えます? 「彼女」はいないですね。作ったとしても、今の生活じゃ、長続きしないだろうし……

下北沢の夜を、そんな会話をしながら歩いていく。

ユニクロに到着すると、ゆー君は「ちょっと、男物で見たいものがあるから、見てきてもいいですか?」と言った。私は「もちろんです」と答えてTシャツ売り場に向かった。

私は無難そうな(でも、えりぐりが結構開いている)Tシャツをかごに入れ、周囲にゆー君がいないことを確認してから、下着コーナーに向かった。
わかっている。ユニクロの下着が、かわいくないことくらい。でも、ここ数年、そういうことがない暮らしをしていた私のブラジャーとパンツの色と柄はとってもちぐはぐで。せめて色の揃った上下の下着を準備したかった。

もちろん、なにもない可能性が高いことくらいわかっている。

けれど、何かあるかもしれないし。何かなくても、手持ちの下着が一組増えるというそれだけのことだ。

会計を終えて、出入り口付近で、ゆー君を待つ。
私よりも10分ほど遅れて、ゆー君がやってきた。ゆー君の手には、ユニクロの白い袋があって、私は少しびっくりした。
ゆー君が男物を見たいと言ったのは、私がゆっくり買い物ができるようにという気づかいだと思っていたから。
自意識過剰だったかなと思い、軽く自己嫌悪に陥る。
でも、それを顔に出さないように

「ゆー君も、買い物したんですね」

と、できる限り明るい声で言った。
ゆー君は、なぜかすごく嬉しそうな顔をして。

「これ……なんていうか…友人からの頼まれもの…というか、なんというかで。決して高くはないけれど、あの人にすごく似合いそうだなと思ったら、つい……買ってしまったんですよ」

と言った。
そういえば、男友達の多い男の人は、いい人が多いって誰かが言っていた気がする。にこにこ笑う、ゆー君の顔がとても素敵で、私は勇気を出してみることにした。

「あの……クラブに戻っても、なんか微妙な感じだし、その辺のお店でお茶でもしませんか?」
「いいですよ」

 

お店を探してくれたのはゆー君だった。探してくれたというか「いい店があるから」と言って、私の手を引きながらお店まで連れていってくれた。

深夜までやっている、個人経営の小さなカフェ。

店に入るなり、私は、店員に事情を話して、トイレでブラジャーとTシャツを替えた。パンツも……と思ったけれど、トイレで着替えるのは微妙な感じがして。結局、下着の上下はちぐはぐなままだった。
テーブルに戻る。
ゆー君はにこにこしながら、メニュー表を眺めていた。

「あ、おかえり」
「ただいま…」
「ね……甘いもの大丈夫? これさ、半分こにしない?」

ガトーショコラの写真を指差しながら、ゆー君が、ほほえむ。

「え……? ゆー君、甘いもの好きなの?」
「うん。でも、夕飯がっつりめだったし、時間も時間だからさすがに一つはなあと思って」
「私も、夕飯はがっつりでしたー。カレー」
「あ、そうだったんだ? うーん。じゃあ、一人で一つ食べちゃおうかな」
「え……ずるい。私も食べたい」
「お? 半分こにします?」
「ううん。私も一つ食べます」
「あはは。いいね。よし。食べよう食べよう。一つずつ頼もう」

そして、ゆー君はコーヒーとガトーショコラ。私は、紅茶とガトーショコラを注文した。
ケーキが届くまでの間、ゆー君は「カレーと言えば……」とカレーの話をした。ゆー君が激辛カレーを食べて、火を噴いた話。ゆー君はすごく楽しそうで、だから私は、この時間がずっと続けばいいと思った。

ガトーショコラが届く。
スマホで写真を撮るついでに、LINEを確認した。
件の友人から「どこにいるー?」「ごめん、私、ちょっと抜けるわー」というメッセージが届いていた。彼女は彼女でうまくやったらしい。
私は、ゆー君が「終電は何時?」と聴いてこないことを祈りながら、スマホをバッグにしまった。
日付が変わるまで粘れれば、私は終電を逃すし、ゆー君はきっと私を放っておけない。
私は、ゆー君とのおしゃべりに夢中になって時間を忘れたふりをした(実際、ゆー君の話はおもしろかったし)。

「あれ、もう、日付変わっちゃってたね。そろそろお店出る?」

私は、心の中でガッツポーズをしながら言った。

「え……どうしよ。時間見るの忘れてた……私の家、電車の乗り継ぎが悪くて……終電、ちょうど出ちゃったくらいです」
「おー……そうですか」
「まあ、明日お休みだし。もともと、終電逃しても、カラオケかネカフェで寝て、朝カフェして帰ろうかなと思ってたから、大丈夫なんですけど……」
「え……カラオケとかネカフェって、体痛くなるし、寝た感じしなくない?」
「あー……ゆー君と違って私、背が低いから。まあまあ快適に寝れます」

ゆー君が小さな声で言った。

「どっか、泊ってく?」

カフェのお代は、ゆー君が払ってくれた。

 

人が少なくなった下北沢の街を二人で歩く。「吉祥寺までは、まだ電車動いてるから」と言われて、電車に乗って吉祥寺に向かった。ゆー君によれば「吉祥寺にいいところがある」らしい。
電車に揺られながら、音楽とかゲームとかアニメの話をする。ゆー君は、サブカルとか結構詳しくて。でも、ちゃんと、話題のドラマのことも抑えていて。ほんのり香る香水の匂いが、すごく好ましかった。

吉祥寺に到着する。
ゆー君は、一度も道に迷うことなく、私を「いいところ」に連れて行った。
人通りの少ない道を歩きながら、ゆー君が言う。

「今、俺、仕事いそがしくて……正直、彼女とか作らないことにしてるんだけれど……本当にいいの?」
「うん。私も、別に、彼氏とか欲しいわけじゃないから」
「そっか……俺、女の子大好きだし。気持ちいいことも好きだからさ……多分そういうことになっちゃうけど……いいの?」
「ここまで来て、どうこう言わないです。私…もうすぐ25だし」

ラブホなんて、大学の時の彼氏と2度来ただけだったから。すごくすごく緊張したけれど、ゆー君と一緒だったから、ワクワクの方が勝った。
ゆー君の行きつけのホテルは、結構きれいで。ゆー君は慣れた手つきで、部屋のパネルを押して、私をエレベーターに引き込んだ。
ブラックライトの明かりで、壁紙にクラゲの絵が浮かび上がる。
ゆー君は、私の体をギューッと抱きしめた。

部屋に入ると、ゆー君は、財布を取り出して精算機にホテルの会員カードを突っ込んだ。
私は、靴を脱いで、スリッパに履き替え、とりあえずテレビの前のソファに座った。
こんな風になるんだったら、スカートにすればよかったなとか、そんなことを思う。そして、まだパンツを履き替えていないことを思い出して、そわそわした。
ゆー君はといえば、空調のスイッチをいれるなり、歯を磨き始めた。それを見て、私も歯を磨いた方がいいかなと思って、あわてて洗面所に向かった。

「ゆー君」
「ん? みがく?」
「うん」

初対面の男と、ラブホテルで歯を磨く。私も大人になってしまったなあなどと思いながら。久しぶりのキスに備えて、しゃこしゃこと、歯ブラシを動かした。

ゆー君は、口をすすぐと「どうする、シャワー使ってからにする?」と聞いてきた。
私は、がっついてるみたいで、恥ずかしいなと思ったけれど。ゆー君のいい匂いが、お湯で流されてしまうのが惜しい気がして、歯ブラシをくわえたまま、首をぶんぶんふった。
歯磨きを終えて、再度、ソファに向かう。ゆー君は、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、それを、ごくごく飲みながらソファに腰かけた。

「アダルトとかつけてもいい?」
「ゆー君……そういうの結構見るの?」
「うん。まあまあ見る」

慣れた手つきで、ゆー君が、AVを再生する。
ゆー君が選んだのは、名門大学の在学生がどうこうっていう、そういうタイトルだった。

「よく、男同士で、AV見たりするとか言うけど、ゆー君もそういうことするの? さっきの服のお友達とか」
「あー……あの人とは、それはしないなあ」

ゆー君は、私の体を抱き寄せた。
そして「そんなことより、キスしてもいい?」と聞いてきたから、私はなるべく、軽い感じの口調で「いーよ」と言った。
ゆー君のキスは、まさに大人のキスという感じだった。私は、おそるおそる、舌を動かして、ゆー君のキスにこたえようとした。

ちゅっと音を立てて、ゆー君がキスを切り上げる。

「へたくそでかわいい」

と言われて、私は、顔を赤らめた。
ゆー君の手が、私のTシャツをまくろうとする。私は慌てて、ゆー君を押し返した。

「どうした? こわくなっちゃった?」

こわいといえば、こわい。でも、そうじゃなくて、私は、まだ、パンツを履き替えていなかった。
どうしたら、この場をスマートに切り抜けられるのかわからなくて、だから、私は、正直に言った。

「着替えをしたくて」
「……着替え? Tシャツは変えてたよね?」
「いや、パンツ……」
「パンツ?」
「うん。今日、下着の色の上下……ちぐはぐで……ユニクロであたらしいやつ買ったから……」

私が、もじもじしながら言うと、ゆー君が耳元でささやいた。

「あー……なんだ、パンツ、濡れちゃったのかと思った」

――……私…むしろ、今のそれで濡れました。

「濡れてないです」
「そう? じゃあ、着替えてくる?」
「うん」
「俺もスラックスとシャツ脱いでていい?」
「うん……」

トイレで、パンツを履き替える。
ゆー君の言う通り、私のそこはしっかり濡れていてすごく恥ずかしい気持ちになった。
新品のパンツに履き替えて、ソファの方に戻ると、部屋の照明が少しだけ暗くなっていた。ゆー君は黒いボクサーパンツに、薄いグレーのVネックの半そでインナーを着ていた。
一目でわかった。ゆー君……体をめちゃくちゃ鍛えている。
体が熱くなるのがわかる。
ゆー君は、私を見るなり

「パンツ濡れてた?」

と、失礼なことを聞いてきた。

「濡れてません」

私は毅然と答えた。
まあ…本当は濡れていたんだけれど……。

ゆー君が手招きをする。ゆー君の手に導かれて、ゆー君の太ももの間に座る。後ろからぎゅっと、抱きしめられる。テレビでは、名門大学の女の子が指でされて、すごく気持ちよさそうにしていた。
ゆー君の大きな手が、私の頭をなでる。

「ねえ」
「ん?」
「パンツ、一枚しか買ってきていないの?」
「え? うん」
「そっか。じゃあ、後でもう一枚買おうね」
「なんで?」
「んー……多分、俺、下着ぐちゃぐちゃにしちゃうと思うから。替えが必要でしょ」

その言葉に、私はさっそく、下着をじんわりと濡らした。

「ゆー君……変態っぽい」
「そう? 女の子の下着をぐちゃぐちゃにしたいって思うのは、普通の感覚だと思うけどな」

ゆー君の手のひらが、私のTシャツをまくり、へその辺りをさわさわとなでた。

「……ゆー君。私……男の人とこういうことするの……かれこれ、3年ぶりくらいで」
「あー……ちょっとそんな感じしてた」
「その……うまくいくかわからないんだけれど」
「うん。ゆっくり準備するから、安心して」
「うん」

私は、ゆー君に体を預けた。

ひとことで言うと、ゆー君は、すっごく意地悪だった。

「久しぶりだから、ちょっとずつね」などと言って、気持ちいところを掠めるくらいにしか触ってくれない。
パンツを脱がされながら「ここ……ほとんど触ってないのに、すっげーぬらぬらになってる」って言われた時は、顔から火が出るかと思った。

ゆー君が、AVの女の子を見ながら

「見て……あの子、すっごい気持ちよさそうな顔してる」

と言った。私は、こくんとうなずいた。

「でも、君もすっごく気持ちよさそうな顔してて、かわいいよ」

ゆー君の太くて長い指が、私のそこをぬるぬると、なぞった。
気持ちよくて、変な声が出る。指を挿れられる前から、こんなことになっちゃって、私はいったいどうしてしまったんだろう。

ゆー君がテレビを消して、私を抱き上げた。お姫様抱っこで、ベッドまで運ばれる。ゆー君は私をベッドに寝かせると、眼鏡を外してインナーを脱ぎ、パンツ一枚になった。

「痛かったら、すぐに言ってね?」

耳もとで、言われて、私はうなずいた。

そして、そこから、一時間……指と、唇と舌で、中を、ぐちゃぐちゃにされた。
比喩とか、そーゆーのじゃなくて、私は、泣いた。
自分の身体が、どんどんおかしくなるし、気持ちいいの止まらなくなるし、ゆー君の指が触る場所、全部が気持ちよくて。ゆー君の匂いが、すごく好ましくて……頭がおかしくなりそうですごく…こわかった。
私がもうやめてと言っても、ゆー君はやめてくれなかった。「久しぶりだから、ちゃんと準備をしないと」と言って、にっこり笑うゆー君はすごく楽しそうだった。

それで、私は。自分でも、びっくりなんだけれど

「ゆー君……もぉ…挿れて」

などと、すごくはしたないことを言って。ゆー君の男性器をパンツ越しで触った。

 

ゆー君は、ゴムをちゃんとつけてくれた。
それも、ホテル備え付けのやつじゃなくて、自分で持ってきたやつ。
缶ケースから、蝶の包装のゴムを取り出して、私に検分させてから、自分のものにかぶせた。
ゆー君のは、すごく大きくて、本当に入いるのかなあって不安になったし、痛かったらやだなあって思った。けれど「こういうのはコツがあるから」という、ゆー君の言葉の通り、それはするりと入ってきた。
そこから先は、うまく言葉にできないな。
ゆー君が私の中を行き来するのがすごく気持ちよくて。小さく何度も何度もいかされて。すごくすごく気持ちよかった。

ゆー君は、いい匂いがしたし、私の体をいたわってくれたし、いっぱいキスをしてくれたし、朝カフェにもつきあってくれたし、連絡先も教えてくれた。

だから、これは、やり捨てじゃないんだって、そう思った。

(ゆー君の本名はわからずじまいだったし、教えてくれた連絡先はTwitterの鍵アカだったけれど)

ゆー君と次に会ったのはそれから5日後のこと。私の部屋に遊びに来てくれた。
スーツ姿のゆー君は、服装とは不釣り合いな大きな荷物を持っていた。

「音楽好きだったなあと思って」

それは、アナログレコードのプレイヤーで。ゆー君が自分の部屋から持ってきたものだった。

「ゆー君、これ、重かった?」
「んー。今日は車だったから、別に。それより、さっそく聞こうよ。あ……あと、これ、紅茶。なんか、紅茶派っぽい感じだったから……」

私は紅茶をいれて。ゆー君は、ジャズのレコードをかけた。
紅茶を飲みながら、レコードの音を楽しんで。そして、気がついたら、抱かれていた。

5回目に会ったときは、街中で買い物をした。
その日もスーツ姿のゆー君はセレクトショップでサマーニットを試着して、それを一着買っていた。私と会う時は、いつもスーツなのに、その服はいつ着るんだろう……そう思ったけれど、言葉にはしなかった。
買い物につき合ったお礼……ということで。ゆー君は、下着ショップで、すごくかわいい下着を私に買ってくれた。そして、その日の夕方は、その下着をつけてえっちをした。

ゆー君は、相変わらず私に名前を教えてくれなかったし、Twitterの鍵アカでは、スマホゲームのことしか投稿しない。
でも、ゆー君は相変わらずいい匂いがしたし、会っている時間中ずーっと優しかったし、いつも蝶々のゴムをつけてくれた。

ゆー君と会うのはすごく楽しかったけれど、どんどん、つらい気持ちが募っていった。
休みの日は、ゆー君の声掛けに、すぐに応じられるよう、なるべく家にいるようにした。それから「ゴムしなくてもいいよ」って言えるようにピルを飲み始めた。

ゆー君に会えない退屈な夜。私は、Twitter上のゆー君とゲーム仲間とのやりとりをさかのぼって読んだ。そしてREIっていう人に嫉妬した。
REIって人のアイコンは、ゲームキャラのアバターで、すごくかわいい顔をしていた。ゆー君とは同じゲームをしているらしくて、頻繁にゲームに関する情報交換をしたり、作戦会議みたいなことをしていた。

……REIって人は、ゆー君のことを「ユーヤさん」と呼んでいた。

私は、ゆー君のやっているゲームのアプリをスマホに入れたけれど、ゲームとかほとんどしたことがない私には、難易度が高かった。そして、ゆー君は、こういうの嫌だろうなと思って、アプリはすぐに削除した。

楽しいことが大好きで、仕事に集中したくて、彼女は作りたくないけど、セックスが大好きなゆー君は、私に恋愛感情を持たれることを、きっと、喜ばない。
関係を続けるためには、私が我慢するしかないことくらい、わかっている。
ゆー君は、女の子が好きそうなカフェとかをちゃんと知っていて、いくつかの行きつけのラブホがあるような男だ。だから、私以外にも、私みたいな子はいるんだと思う。……たぶんだけれど。
だから、この関係は、私が、ゆー君への好きを抱えきれなくなった瞬間に終わってしまうんだ。
八方ふさがりだと思った。
恋愛経験に乏しい私は、どうしたらいいかわからなくて、生まれて初めて行った占いで、占い師に「その男はやめておいた方がいい」と言われた。

 

それから、ゆー君の仕事が立て込んで、2か月会えなかった。
ゆー君はREIって人と、相変わらずゲームに関するやり取りをしていた。
頭ではわかっている。スマホゲームは、仕事の隙間時間に取り組むことができる。
だけど……もしかして、このREIって人……ゆー君の本カノなんじゃないかとか、そんなことを考えて、泣きそうになった。メンタルがどんどん落ちていく。

私は。とうとう自分の気持ちをコントロールできなくなり……REIって人にDMを送ってしまった。
ゲームを教えてもらいたいという体で。でも、ゆー君と自分の関係はしっかりとにおわせて。

『私も、怪コレにチャレンジしてみたいんですが、なかなか難しくて…。ゆー君に聞こうかなと思ったんですけど、ゆー君仕事で忙しそうだし……REIさんに教えてもらいたいなと思っているんですけど、ご都合いかがでしょうか?』

そういうDMを送った。

そしたら、どういうわけか……私は、REIっていう人とオフ会をすることになってしまった。

場所は、米花町のポアロという喫茶店。スマホで検索をかけて見たら、イケメン店員がいるということで、若い女の子に人気があるらしかった。

静かな時間がいいと思って、待ち合わせは平日の午前10時にしてもらった。

ポアロに行って、びっくりしたのは、REIって人は、すごくかわいらしいおばあちゃんだったということだ。
もしかして……ゆー君の親戚の人かなと思って話を聞いてみた。

「ユーヤさんとはね、ゲームだけのお付き合いだから、直接の面識はないのよ」

私は、安心すると同時に、少し虚しい気持ちになった。ゆー君の本カノがREIさんなんじゃないかと疑って、その結果、見ず知らずのおばあちゃんと喫茶店でオフ会をしている。なにこれ……本当に意味が分からない。
私が呆然としていると

「買い出し終わりました」

背の高い男の人が、買い物袋をぶら下げて、店に入ってきた。
一目でわかった。これが、噂のイケメン店員なんだろうなって。

そして……妙なひっかかりをおぼえる。彼の着ているサマーニットには見覚えがあった。さらに、どういう偶然かはわからないけれど、その人はどことなく、REIさんのゲームアバターに似ている気がした。

私がREIさんにゲームのことを聞いていると(REIさんはとっても丁寧に、怪コレのことを教えてくれた。ゆー君はサムライ職をやっているらしい。なんかかわいい)、金髪のイケメン店員が各テーブルにランチメニューを置き始めた。

「失礼します。ランチタイムのメニューを置かせていただきますね」

イケメンがにっこりとほほ笑みながら、私とREIさんのテーブルにも、ランチメニューを置いた。
ふんわりと、香水のような香りがした。それは、すごくいい匂いで。しかも、私が大好きなゆー君の匂いにだいぶ似ていた。
そして、ポアロと書かれたエプロンの下のサマーニット。それは、私の前ではスーツしか着ないゆー君が、数か月前にセレクトショップで買ったものと同じデザインだった。

私は、彼の服を凝視した。

「どうかしました?」

イケメン店員が、にっこりとほほ笑みながら、私に声をかけた。
私は笑顔を作って、軽めの口調で答える。

「いえ、なんでも」

何が何だかわからなかったし。あれこれと考えることに疲れてしまった。
紅茶を一口飲む。
イケメン店員が、お冷のグラスに水を差しに来た。

私は、ゆー君とよく似たその香りを感じながら

(……ゆー君に会いたいな)

って、心の中でつぶやいた。

終わり

 

【あとがきなど】

私は、風見裕也に対して「ああいうタイプの男が一番たちが悪いんだよ」という謎感情を抱いています。

ここ数日……私の中で、この謎の感情が高ぶってしまい。
全力で、たちの悪い風見裕也を書いた結果、こうなりました。

ですから……
「ゆー君」には。私の考える、『ありとあらゆる たちの悪い男要素』をぶち込んでみました。

本当は
たちの悪い男が使っているコンドームはグラマラス・バタフライだと思う……とか。
ゆー君の、ラブホの会員カード。何ポイントたまっているかを見たら、絶対不幸になる……とか。
そういう小ネタについても、事細かに書きたかったんですが。
それをやると、あまりにも冗長になるので、やめました。

書いてる本人は、途中から、ギャグのつもりで書きました。
やるなら、とことん突き抜けてやろうと思って。そういうつもりで書きました。
大好きな鶴山のおばあちゃまを書けて嬉しかったです。
本当は、梓ちゃんにも絡んでもらいたかったんだけれど、出すタイミングを見失って、出番を作れませんでした。
でも、多分だけれど。
梓ちゃんはニコニコしながら、鶴山さんのオフ会を見守っていたのではないかと思います。

 

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