堅物と、甘えた

※風降sss
※ハロ嫁ネタバレあり
※地下シェルターでのあのしーん捏造。


 

今日で最後かもしれない。あらゆる手は尽した。だが、だからと言って、これから行う作業が、うまくいく保障はない。僕がダメになっても、いくつかの手段を残してある。あとは、風見にゆだねるしかない。

風見を右腕にしてから、色々なことがあった。走馬灯、というほどではないが、様々な思い出が、頭の中をめぐる。
工具箱を確認する大きな背中。「風見」と、その名を呼ぶ。

「はい。なんでしょう?」

ニッパーの刃先を指でなぞりながら、風見が答えた。

「いまから、特別に。君からの質問に、ひとつだけ、嘘偽りなく答えてやる」

脚を組みかえる。風見が用意した椅子が、ぎしりと小さな音を立てた。

「嘘、偽りなく、ですか……」
「ああ。一つだけ、だがな」

聞きたいことがあっても、聞くべきでないと判断すれば、なにも聞いてこない。
僕は、風見のそういう所を好ましく思っていて、しかし、もどかしいとも思う。だから、最後くらいは、悔いのないように。

「では……そうですね」
「うん」

ニッパーを箱に戻しながら、風見は言った。

「どうしてそんなことを言うんですか?」
「え……?」
「ですから、嘘偽りなく質問に答えるだなんて。どうして、そんなこと、おっしゃるんですか?」

曖昧に笑いながら、僕は答える。

「その質問でいいのか?」
「ええ。教えてください。どうして、そんな、あなたらしくもないことを言い出したのか」
「ホォー……僕らしくないか?」
「あんた……ミスティフィカトゥールの自覚がないんですか?」

――これは、弱気になった僕への叱責だな……
堅物め、と思いながら

「甘えさせてはくれないのか? 風見先輩」

と、たずねれば。

「自分……公私の線引きは、しっかりしたい方なんで」

と、返ってくる。そして、

「ふーん……じゃあ、このヤマが終わったら、たっぷり甘やかしてくれるのか?」

と。僕が念押しすれば。

「……ええ。そうですね。このヤマが終わったら……たっぷりと」

公私をしっかり分けたいはずの堅物の声が、かすかにふるえた。

 

 

 

9