待ち相2(風降webオンリー)のペーパー企画に提出したss。
怪盗キッドvs安室透に関するお話。
スマートな男だと思っていた。
右腕に就任してからしばらく、降谷さんが汗を垂らすところを見たことがなかった。
いつも涼しい顔をしている。漫画の登場人物のような男。それも女性からの熱烈な支持を集めるような二枚目キャラにちがいない。
降谷零は、ポーカーフェイスで感情を表に出すことがない。感傷に浸ることもなければ、情にほだされることもない。
そういう男だと思っていた。
しかし、違った。
つき合いが長くなるにつれ、この男のいろいろな顔を知っていく。俺の上司は、存外、泥臭い男である。
俺の車には、金髪のかつらと、褐色のファンデーションが積まれている。自分と降谷さんの身長は、ほとんど一緒で、同じサイズの服を着まわすことができる(着こなしの問題については論点が変わってくるので、ここでは触れないこととする)。
あの人の影武者を演じるのは初めてだ。
練習は積んできた。歩き方だって。警視庁が保有する歩容認証システムを欺ける程度には、完璧にあの人の動きを再現できる。
ただし、あくまで時間稼ぎと攪乱を目的としたそれは、対象との至近距離での接触を想定していなかった。
『君に、影武者を頼むかもしれない。それから、機動隊員の装備を一式準備してもらえるか?』
電話で指示を受けた時、何のために、それらが必要なのか聞かなかった。
なぜ、非番日に怪盗キッドの予告現場に出向く必要があるのか。なぜ、予告状には深夜零時とあったのにヨーコさんの出番を待たずに合流を急がなければならなかったのか。
不満はあっても理由は聞かない。
――降谷零が右腕の力を必要とした
俺が動く理由としては、それで十分なのだから。
『このスピーカーを使って、僕がしゃべる。君は口の動きをうまく合わせてくれ』
その小型スピーカーを渡された時、俺はひどく驚いた。
そして、改めて、目の前の男のかっこいいところを知り、うれしくなる。
工藤邸での一件。あの夜、何が起きていたのか。そのトリックを解き明かさないままでいる降谷零ではなかった。
まさか、あの夜のトリックを使うなんて。
江戸川少年の協力もあり、計画は順調に進んだ。
かくして『|女王の前髪《クウィーンズ・バング》』は守られ、セリザベス女王の警護計画変更は必要なし。
キッドの身柄拘束はかなわなかったが、一応の作戦成功といって差し支えないだろう。
事後処理を終え、帰路に就く。
「俺ね、使えるものは何でも使う……降谷さんの、そういうところ好きですよ」
スカイラインのハンドルを握りながら、助手席に目配せをした。
「そうか? 非番の部下をこじつけの理由で呼び出すなんていい上司のすることとは思えないが?」
「それは、そうですけど……しかし、スピーカーを使っての入れ替わりトリック。あれを使うとは思いませんでした」
「……案外、太いだろ?」
「ギャップがありますよね。でも、そういう泥臭いところにあこがれてます」
信号で、一時停止。
「……ありがとうな」
「え……?」
「君がいなければ、あの作戦は決行できなかった」
「……いや……まあ、自分はあなたの右腕ですから」
この人の。こういう、温かな一面に、俺は、いとも簡単にほだされる。
「おかげで引き分けに持っていくことができたよ」
「引き分けですか? こちらのトリックはうまく決まったんですから、判定勝ちに相当するのでは?」
俺たちはキッドの犯行手順を見破り、罠にはめた。
「一ラウンド目は、向こうの方が優勢だったんだ。だから、二ラウンド目でようやくイーブン」
「……はあ、そうですか」
(一ラウンド目ってなんの話だ?)
相変わらず、なにを言っているのかわからない人だと思いながら、信号を確認し、アクセルを踏む。
「まあ、なんにせよ。よかったですよ。あなたのお役に立てたなら、それで……」
「……君は、本当に部下の鑑だな」
午前二時十二分。深夜の米花町は静かだった。
【あとがきなど】
キッド様VS公安!!
すごかったですね!
このお話は私の願望を交えて、風見視点で事件をふり返ると、こうなるというイメージで書きました!
つまり、妄想です!
風見が降谷さんの声に合わせて、口を動かしてたの……なにげに、すごくないですか?!
まるで優作じゃーん!! すごい!!
そして、降谷零……
工藤邸での一件があったのにあの晩と同じ仕掛けを使うとは?!
なんていうか、太いな!?
ベルツリー急行では、キッドの変装にしてやられた降谷零が……風見裕也の変装で一本取るのも熱い!!
語りたいことは尽きませんが……原作で……風見裕也の力を借り、大活躍する降谷零、最高だぜ!!