綱渡りの日々に……

初出:2021/11/23 pixiv

【確認事項】

〇バーボンが、組織の嫌がらせでサーカスに売られる
〇仕事のためなら、身体を売ることもいとわない系のバーボン
〇組織と取引があるサーカスなので、違法行為にバリバリ手を染めている(薬物とか売春とか)
〇モブバボがたくさんある
〇サーカスにて、”商品”として扱われることになったバーボン。そこに、やってきたのは、世話係の男「飛田男六」だった。

モブバボ/無理やり/かわいそう/輪姦/小スカ/ひだばぼ

こんな感じだけど、性描写はふわっとしてます♡


組織の情報屋バーボンが、サーカスに売られた。
世界各地で暗躍する巨大な犯罪シンジケートと付き合いのあるサーカスが、ただのサーカスであるはずがない。
昼と夜に一度ずつの通常公演。
そして、真夜中、街が寝静まった頃。夜な夜な特別なショー開かれる。街のはずれの工場跡地。その敷地のやや奥まった場所に設営された、巨大なテント。
その、ステージの上で、バーボンは、初めての特別公演に戸惑いを見せていた。

「取引先のサーカスに、これを運んでいけ」

ジンから言われたのは、それだけだった。
バーボンは愛車に乗って高速道路を一人、南下する。そして、二回の休憩を取った後。ようやく、そのサーカスにたどり着いた。地方都市の工場跡地。数年後には再開発が予定されているとのことだが、今は、ただの広大な空き地だ。
夜九時を過ぎ、ようやく、テント前に着いたバーボンは、車を降りると、事前に渡された電話番号をコールした。いそいそと、やってきたのは、ここの支配人らしき男。パフォーマー出身だろうか? 恵まれた体躯。スーツの上からでも、一目でわかる分厚い筋肉。
男に案内され、本部と言われるプレハブ棟にはいる。バーボンは、ジンに託されたアタッシュケースを机の上に置くと、腕を組み、部屋の中を検分した。
白いシャツに、フォーマルなベスト。首元にはループタイ。バーボンは、組織の仕事の時にしか着ない特別な装いで、ここにいる。
やがて、男が、バーボンに一枚の紙を突きつけた。そこには、ラムの直筆サインがある。何らかの契約書らしい。

「これで、契約成立だ。バーボン。お前は組織に売られたんだ。多額の金によって。早く、元を取れるよう、せいぜいがんばってくれよ」

バーボンは、ゆっくりと脚を組み。男をにらみつけた。瞳の色が、サァーっと、色を失っていく。

「いやだ、と、言ったら? どうなるんでしょう?」
「交渉決裂となれば、私の手元には契約金の八割が戻り。バーボンという男は海底で魚のえさになる」
「ホォ?」

支配人の男は、小型の銃を取り出し、銃口をバーボンに向けた。

「この辺りには人が住んでいないし。たとえ、誰かが、銃声を聞きつけたとしても、リハーサルで出た物音だと言えば、誰もが納得する。昼と、夜の早い時間。ここは、家族連れでにぎわう平和なサーカスだ。しかし、夜中は世間から切り離され、一種の無法地帯になる。さて、バーボン、どうする? たとえ、お前が俺を殺しここを逃げたしたとして、組織は、大きな資金源を失うことになる。そうなれば、お前の命はない」

バーボンは、ふうとため息をつき、それから、小首をかしげる。

「……しかし、サーカスで仕事とは? 曲芸でもやればいいんですか?」
「そうだな……一般向けの公演では、ピエロをやってもらう予定だ」
「ピエロ?」
「ああ。お前の顔は、女や子どもに受けがよさそうだし。男からも、不評を買うことはないだろう」
「では、ピエロのメイクは必要ないということだな」
「ああ。そして、第三部。特別講演では、曲芸をやってもらうことになる」
「……曲芸?」

形のいい眉が、きりりと吊り上がった。

「得意だろ? 組織から渡されたカタログに、情報を得るために、身体を使っているという記述があった」
「……ホォー。そんなカタログが、ね」
「はなから、組織はお前を売るつもりだったんだろう? 明らかに、一人だけ、情報量が違った。まあ、お前が、組織の中でどんな立場にあったかは関係ない。しかし、ここに売られてきたからには、しっかり働いてもらう」

バーボンは苦笑いをする。厄介払いという言葉が脳裏に浮かんだ。

「特別ショーは、水曜と、日曜日の夜中に開催する。……少し、調整が滞っている。準備が次の水曜には間に合いそうにないから、日曜日から興行を開始する予定だ。通常公演に関しては、それほど難しいことをさせるつもりはないが……明後日からステージに立ってもらう予定だ」
「了解しました」

組んでいた脚をほどき、バーボンは男をじっと見つめる。

「それで、僕は、この後、どうしたら?」
「お前は、一応、特別なキャストだから、個室を用意してある」

案内された先は、トレイラーハウスの一室だった。
四畳ほどのスペースに、ベッドが一つと小さな机が置かれている。簡易なトイレもついており、部屋の出入り口のドアには、内側から鍵がかかるらしかった。そして、外側に、後からつけたであろう、外付けの鍵がある。

「……外側の鍵は?」
「お前らは商品だからな。管理上、外鍵が必要なんだ。日付が変わるころに施錠するから、それまでに、シャワーや食事を済ませるように」
「……食事はどこで?」
「一応、食堂がある。ここは、移動式サーカスの中でも、かなり大きな設備を備えている。団員たちの福利厚生や給与保障。常駐の医者を雇うこと……団員たちが、安心してパフォーマンスをするためにはな、どうしたって、金が要るんだ」

男の話は、正論である。しかし、どこか言い訳めいた歯切れの悪さをはらんでいる。

「まあ、そういうわけだ……あと、このトレイラーハウスには、他の部屋にも商品を押しこめている。しかし、商品同士、間違いがないように。さて……今日はまだ日付が変わっていないが、外から鍵をかけさせてもらう。朝の六時ごろに係の者が来るから、それまで、ゆっくり休め」
「了解しました」

バーボンは、とっておきの笑顔を作って、男に媚びを売る。
男は、数秒ほど硬直したのち、部屋を退出し、ただちに、外付けの鍵を施錠した。

「さて……」

男の足音が遠ざかったのを確認すると、バーボンは、まずはトイレを済ませ、歯磨きと洗顔に取り組んだ。トイレに設置された小さな洗面台には、ビジネスホテルにあるようなアメニティ・一式が用意されている。

「シャワーくらいは浴びさせてほしかったが……」

タオルを水ですすぎ、ぎゅーっとしぼる。そして、服をすべて取り払うと、バーボンは濡れタオルで体を拭き始めた。明日からのことを考える。わからないことが多すぎる。
服を備え付けのハンバーにかけ、裸のままベッドに滑り込み、目をつむる。慣れないベッドで、考え事をすれば、目はさえる一方で、彼が眠りに落ちたのは、明け方三時を過ぎたころだった。

 

***

 

午前六時。
係の者が、部屋の鍵を開ける。

「おはようございます……」
「ああ、おはよう」

バーボンは、なにも身に着けぬままベッドを抜け出す。係の男は、眉をひそめながら、ドアを閉めると、クイっと右手の中指で眼鏡の位置をただした。

「見苦しくて、すまない。しかし、着替えがなくて」
「そう思って、衣類をお持ちしました」

係の男は、バーボンにジャージと下着を差し出す。

「……君は?」
「俺は、あなたのマネージャーみたいなものです。支配人から聞いていないですか?」
「さあ? 係の者が起こしに来るとだけしか……」
「そうでしたか。ええっと、バーボンさん」
「バーボン……呼び捨てでいいよ」
「了解しました」
「で、君は?」
「え……? ああ、申し遅れました。飛田男六と言います。数か月ほど前にここに入ったばかりで、教えられることも多くないのですが……できる範囲で、あなたのお世話をさせていただきます」

飛田は、長身の男で、こざっぱりとした短髪頭に、カチッとした眼鏡をかけ、このサーカスのスタッフジャンパーを羽織っている。

「シャワーを浴びたいんだが、時間はあるか? なんか、僕、明日からステージに立つために、練習とかするんだろ?」
「ええ。ですが、まず、午前の公演を見て、一般公演の流れを知ってもらい。その後、夕方から夜まで支配人から直接指導を受けるという段取りになっています」
「そうか」

バーボンは服を着ると、飛田のことをじっと見つめた。飛田も、バーボンのことを見つめる。どちらも、視線を逸らすことなく、無言のまま見つめ合った。静かに、時間だけが経過していく。
状況を、打ち破ったのはバーボンだった。

「シャワー……」
「え……?」
「案内してくれないのか?」
「え? あ、ああ。ただいまご案内いたします」

シャワーを浴び、食堂に向かう。ちょうど、団員たちの朝食時間とかち合ったらしい。広々とした食事会場は、ずいぶんと賑やかだった。
巨大な移動式サーカス。設備だけでなく、人の規模も、段違いであるらしい。団員たちの出身地もバラバラのようで日本語だけでなく、英語・スペイン語・中国語……様々な言語が飛び交っていた。
ビュッフェ形式の朝食は、種類が多く、栄養バランスが取れるような工夫がされていた。バーボンは、昨晩の支配人の言葉を思い出す。少なくとも、ここが、団員たちにとって、恵まれた環境であることは確かなのだろう。事実、みないい表情をしており。目の下に寝不足のクマを作っているのは、バーボンただ一人というありさまだった。
食事を終え、飛田の案内で、練習場の見学をする。バーボンは、正式な団員としてここに所属するわけではないから、アクロバットの勉強をする必要はない。しかし、元来、好奇心旺盛な男である。ずいぶんと熱心に、団員たちが飛んで跳ねて、組み合う様子を見つめていた。

十二時を過ぎ、テント周辺がにぎやかになる。昼公演は開場十二時。開演十三時。売店のサンドイッチやおにぎりが、とぶように売れる。
飛田はバーボンをショー全体が見渡せる後方の席に案内すると、チケットのもぎりの仕事があるとかで場を離れた。
組織と取引をするような、サーカスがまともであるわけがない。昨晩まではそう考えていたバーボンであったが、どうやら、そうでもないらしい。周囲の目を欺くためだろうか、少なくとも、表向きは人気の移動式サーカスとしての体をなしている。
やがて、ショーが始まる。バーボンが明日から演じるピエロの役は、どうも、ストーリーテイラー的な立ち位置らしい。演目と演目のつなぎに出てきて、短いパントマイムをし、それから、裾に下がる。一時間半の公演のうち、ピエロの出番は三分にも満たない。確かにこれであれば、一日練習すれば、どうにか務まりそうだ。
ピエロの表情を確認しようと、飛田に渡されたオペラグラスをのぞき込む。すると、息をのむほどに美しい作りをした女が、無表情のまま、マイムをこなしていた。
よくよく見れば、がりがりにやせており、衣装が不自然なほどにぶかぶかになっている。そして、左の手首には、テープのようなものが巻かれていた。

ショーを見終えて、テントの外に出れば、飛田が、ごみの片づけをしていた。バーボンが近づいて声をかければ、にこりと微笑んで「いかがでしたか?」と、サーカスの感想をたずねる。
この街の一つ前。飛田は、サーカスが、まだ、北の街で公演をしていた頃に、ここで働き始めたらしい。そして”商品管理”と、”雑用”で忙しい彼は、まだ一度も、公演を見たことがなかった。

「想像以上だった。プロジェクションマッピングなんかも使っていて」
「そうでしたか……。少し、時間があるんですが、お話でもしませんか?」

バーボンは無言のままうなずいた。
飛田の案内で、巨大なサーカス村全体を見学する。そして、トレイラーハウスの個室で、二人は、しばし、おしゃべりをした。

 

***

 

夕飯を済ませると、バーボンはレッスンルームに顔を出した。
支配人の男から指導を受け、合計三分ほどのマイムを体になじませていく。もともと、どこかシアトリカルなところのある男だ。バーボンはあっという間にマイムを覚えてしまう。
これには、男も、驚きを隠せなかった。バーボンは男を見つめ、にこりと微笑む。
ぞわり、と、鳥肌が立つような感覚。男は、舞台の上に立ったバーボンを想像した。すると、たちまちに、新たな演出が浮かんでくる。
こうして、いくつかの振り付けの変更を経て、一般公演に向けての練習が終わった。
時刻は午後九時を過ぎたころ。続けて、特別公演の練習が始まる。はたして、それが練習と呼べるものであったかは、誰にもわからない。
二人きりのレッスンルームに、公演後の鍛錬を終えた男が五名ほど、入ってきた。しかし、バーボンは動じない。特別公演の内容については、昼間のうちに飛田から聞かされていた。

特別公演とは、いわゆる白黒ショーに該当するものだ。それも昼間の公演のように緻密に組み立てられたものではなく、サーカスの団員が、ステージの上で、商品の女を好きに抱くだけのお粗末な見世物。これならば、場末のストリップの方が、よほど、質の高い演目を見せてくれたかもしれない。
このサーカスにおいて、男が商品になるのは初めてだった。だから、バーボンの世話役をしたがるものはおらず、新入りの飛田にお鉢が回ってきた。
飛田によれば、商品と係員は疑似恋愛のような状態になることが多いらしい。商品は常に、五名程度が所属しており、その一人一人に、男性の係員がつく。
商品になる女性は、訳ありであることが多い。ここに来る前は、風俗や個人売春によって生計を立てていたものがほとんどだ。
夜は鍵付きの部屋で過ごさなければならないという不自由があるものの、昼は自由に外出でき、仕事をするのは週二回、衣食住が保障されており、しかも、一年ほど働けば、退職金という名の、多額の口止め料をもらえる。そういう事情で、この仕事を気に入っている者も多かった。

『バーボンは、どうしてここに来たんです? 失礼ですが……あなたも、売春を?』
『いや……僕は、もともといた組織に売られてしまい、ここに来たんだ。そうだな、今頃、彼らは、僕をサーカスに売った金で、焼肉でも食べに行ってるんじゃないかな?』

バーボンの言葉に、飛田はどう答えていいかわからない。しかし、くすくすと笑うバーボンを見て、それが冗談であることを察し、ぎこちなく笑ってみせる。

『ところで、君も……』
『なんでしょう?』
『前にいた街では、担当の女性と疑似恋愛をして、関係を持ったのか?』
『ハァ……?!』

思いがけない質問。飛田は、思わず、目を見開き、バーボンを凝視した。

『いや、だって……君の話だと』
『……んー。俺は、前の街では、まだ、見習いという形で、先輩たちの仕事を手伝っていただけなので……』
『ホォー……。ところで、この仕事の求人はどこで見つけてきたんだ? ハローワークなわけないし、求人広告に載せられるような内容でもないだろ?』
『ああ。実は俺、ある人の探偵助手をやっていたので。その人の紹介です』
『へぇ……探偵か? その人は有名な探偵さんなのか?』
『……ここだけの話ですが』

飛田が、バーボンに耳打ちをする。

『え……? じゃあ、あの名探偵のお弟子さんの助手をしていたのか?』
『まあ……。すごいのは俺じゃないですけどね』

板張りのレッスンルームで、バーボンは、汗だくの男たちに輪姦まわされる。男とセックスをするのは初めてではない。交渉事の際に、身体を武器に使ったことも一度や二度ではない。
ただ、それらは、たいていの場合、交渉相手の所有するセカンドハウスの寝室や、高級ホテルの一室で行われることがほとんどで、堅い床の上で、複数の男たちに、息つく間もなく順番に抱かれたのは、今日が初めてだった。
閉鎖的なサーカス村。サーカスを構えた土地に、必ずしも娯楽施設があるとは限らない。
パフォーマー同士の恋愛が禁じられているわけではない。しかし、女性の団員は圧倒的に少なかった。したがって、特別公演は、このサーカスにおいて、収入源になるだけでなく、男性団員たちへの「福利厚生」という側面も持っていた。
飛田の話によれば、特別公演を開くには、ある条件が必要になるという。その土地の大物と言われる人間を味方につけ、サーカス村における、ある程度の治外法権を勝ち取ってからでなければ、公然わいせつショーを開くことができない。
今回は、その、関係づくりに少しだけ時間がかかっているらしい。

サーカスがこの街に来てから、そろそろ三週間になる。その間、男たちは、福利厚生を受けることができなかった。
味見役の男たちは、新しい商品が男であると聞いて落胆していたが、三週間にわたる禁欲生活。そして、美しい顔立ち、整ったスタイル、挑戦的でありながらどこかあどけない表情をした、かわいらしい男を前にして、強い性的興奮を覚えた。
男たちはひとり最低でも、三回は射精したから、数時間後、バーボンは頭のてっぺんからつま先。そして、腹の中に至るまで、全身ザーメンまみれになっていた。
支配人の男は満足げだった。全裸のままぼんやりと床に座りこむバーボンを前に、スラックスのファスナーから自身の性器を取り出す。そして、それをバーボンにくわえさせた。もうろうとした意識の中でバーボンはジュウジュウとそれを吸った。
誰かの精液によってベトベトになった髪を引っ張られ、喉の奥を無理やり犯される。

「……飲め」

そう言われ、バーボンは、男の精を飲み込んだ。その瞳には光はなく、ただただ、うつろに、空を眺めているだけだった。

 

***

 

呼び出された飛田は、バーボンにバスタオルを二枚かけると、その体を、抱き上げた。
意識があるのかないのか。だらんと脱力した人間を、抱えるのは案外骨が折れる。しかし、着やせするわりに筋肉のある飛田は、特に苦労する様子もなく、バーボンをシャワールームまで運んだ。
飛田によって、身を清められ、服を着替えさせられる。
事前に話は聞いていたし、それなりに覚悟も決めていた。しかし、五人の屈強な男たちに、好き勝手抱かれるというセックスは、バーボンの過去の経験とはあまりにも勝手が違っていた。
交渉でバーボンの体を要求してきた男たちは、みな、バーボンを宝物のように扱った。
多少、強引にされることは想像していたが、優しいセックスしか知らないバーボンには、先ほどの洗礼は、衝撃が大きすぎた。
部屋に戻る。
バーボンがベッドに腰かけると、飛田はドアに向かって歩いていった。

「飛田……!」

バーボンが飛田を呼ぶ。
時刻は零時を八分すぎていて。だから、飛田はこの部屋を出て、外付けの鍵を締め、自分が寝泊まりするプレハブ小屋に帰らなければならない。

「どうしました?」

バーボンは立ち上がり、服を脱ぐ。飛田は、それを見つめていた。

「明日は……初めての公演なんですから。だめ、ですよ……」
「……隣で、寝てくれるだけでいい」

商品は、たいていの場合、係の男と疑似恋愛に陥る。その言葉を思い出しながら、飛田は服を脱ぎ、そしてバーボンと共にベッドに入った。

目が覚める。時計を見れば、五時半を少し過ぎたところ。
バーボンは、周囲を見渡した。しかし、飛田の姿はない。すべて、夢だったんだろうか? そんなことを思いながら、身体を起こせば、途端に、昨晩の経験が夢ではなかったことを思い知らされる。
体のあちこちに残された、性行為の名残。十分な潤いを施されぬまま出し入れされた箇所が、ヒリヒリと傷む。吸われた跡。うっすらとした歯型。
バーボンは憂鬱な気持ちになりながら、昨晩、ベッドに入る前に脱ぎ散らかした服をまとい、それから、部屋のドアを開けようとした。

――開かない

そうだった。六時にならないと、ここの鍵は開かない。飛田は今、どこにいるのだろうか?
六時まで、あと二十数分。それが、永遠のように感じられた。
バーボンはスマホを取り出した。意外なことに、スマホは奪われることなく持たされたままだった。検索バーに、サーカスの名前を打ち込む。すると、楽しそうな口コミがずらりと並び、おそらく、SNSに投稿された画像だろう。サーカスのお土産を持ってにこにこと笑う子供の写真があった。
それから、音楽を聞いたり、知り合いの勧めで始めたクロスワードパズルのアプリゲームに興じていると、よく知る足音が近づいてきて、扉が開いた。

「おはようございます」

飛田がにっこりとほほ笑む。

「おはよう」

バーボンは、少々不機嫌な顔をしながら、ぱたんとベッドに横になった。

「朝食はどうします? 適当に取ってきてお持ちしますが?」
「君は?」
「は……?」
「君は朝ごはんを食べてから来たのか?」
「ああ、いえ、まだですが……」
「じゃあ、君も……ここで食べろ」

しばらくして、どんどんとドアを蹴るような音がした。バーボンは、クロスワードパズルを一旦やめにして、ドアを開けた。すると、トレー二つに、これでもかというほど、たくさんの料理を乗せた飛田が立っていた。

「……テーブルに乗り切るか? それ?」
「……うーん」
「仕方ない……共有スペースのテーブルを使うか」
「……すみません」

バーボンは、飛田から、トレーをひとつ受け取り、慣れた手つきで、それを共有スペースのテーブルまで運んだ。
二人が朝食を食べていると、個室から一人の女性が出てきた。やはり”商品”として、ここに居るだけあって、ひどく整った顔をしている。艶やかな黒のボブヘアに、透き通るような白い肌。

「あれ、飛田じゃん? おはよ」
「おはようございます」
「……ていうか、その人が、飛田の担当? めっちゃ、イケメンじゃん? 私、商品辞めて、管理に移るから、飛田は私の代わりに商品やって」

飛田は、淡々とした口調で答える。

「下っ端の自分に、そんな権限ないです」
「冗談だって……飛田は堅物だなあ……。てか、イケメンさんは、ショーの時なにするの? 私たちとえっちしてくれるの? 私、お兄さんが相手だったらサービスしちゃうなー」

ケタケタと、女が笑う。

「……大変魅力的な話ではあるけれど、僕がやるのは、君たちと同じ団員たちの慰み者さ。昨日洗礼を受けて来たよ」
「え……まじか……ごめん」

女が頭を下げる。

「いや。いい。それに、僕は、少し訳ありだから……支配人には逆らえないんだ。商品とは間違いを起こすなと、ここに来たその日に釘を刺されている」
「そっか……まあ、ここにいる子は、みんな訳ありだから、なんかあったら、相談して。なんもしてあげれんけど、話聞くくらいならできるし。あと、飛田は顔が怖いけどめっちゃ優しいし、いいやつだから、めちゃくちゃこき使うといいよ。私、こいつが、見習いやってた時、何回か、助けてもらったんだ」

 

***

 

 

 朝食を終え、リハーサルに参加する。
あんなことはあったが、一般公演の振り付けはほぼ完璧に覚えていた。それに、支配人が、昨日の練習を動画で撮影していたらしく、それを確認することで、開演までには、どうにか演技を仕上げることができた。

昼と、夜の公演が終わる。
今日もまた、あの呼び出しがあるんだろうかと、バーボンは少しだけ憂鬱になったが、朝食の時の彼女が

「あれは、新入りへの通過儀礼みたいなものだから……基本的には、ステージ以外で体を求められることはないよ」

と、教えてくれた。
しかし、ほっとしたのもつかの間。彼女から、このサーカスに関する、ずいぶんと穏やかでない話が語られた。

「ただ、係を通せば、個人でも商売していいってことになってるから。私もたまにやるかな……」
「……僕は、お金が欲しくてここにいるわけではないから」
「そっか……。あと、ショーだけど……やっぱ、いろんな人が見てるところで本番とかってさ……なかなか慣れんし……。団員はまだいいんだけど……客が金払えば、ステージに上がって、混ざってもいいシステムになってて……たまに、本当にやばいのとか来るから……あんまりしんどい時は、飛田に言って、お薬、もらうといいよ」
「薬……?」
「んー……? なんか、一応、法律には引っかかんないやつらしいんだけど。まあ、セックスドラッグの一種……? それ飲むと、わりと、頭がぼやけて、いろんなことが、どうでもよくなるし。やっぱ、すっごい、きもちくて……気持ちいなあって思ってるうちに終わっちゃうから、私は、結構使う」
「へー……そうなんですね」

缶ビールをごくごく飲み干すと、彼女は、にっこり笑った。

「あー……しかし、リフレッシュ休暇も、もう終わっちゃうな……。バーボン、次の日曜日……がんばろうね」
「はい」

はい、と返事をしたものの。なにを頑張ればいいのか。
バーボンは、部屋に戻ると、飛田を呼び出し、しばらく話しこんでから、床についた。

そして、日曜日はやってきた。
午後十一時。ショーが始まる。バーボンは、ここに来た日に着ていた、シャツとベスト、そして、ループタイを身にまとい、ステージに上がった。

悲惨なものだった。

大半の者は、バーボンに、さほど興味を示さなかった。しかし、客席の中に、組織の頃、取引をしていた男が一人混ざっていた。男は財力を行使して、ステージの上に上がると、下卑た笑いを浮かべながら、バーボンを組み敷いた。団員によって、身体を押さえつけられ、身動きが取れない。
あの頃とは、まったく違う、乱暴なセックスに、バーボンは思わず悲鳴を上げた。しかし、それは、男を興奮させるだけで、何の役にも立たなかった。なぜ、組織は、ここまで酷いことをするのだろうか。
バーボンは、泣きながら、男の名前を呼んだ。

「○○さん……○○さんてば……やめてください……僕が、わるかったです……ごめんなさい」

けらけらと、男が笑い出す。目もどこかうつろだ。
バーボンは、世話焼きの彼女の言葉を思い出した。もしかしたら、彼も、セックスドラッグをきめているのかもしれない。
やがて、男が果て。ほっと一息ついたところで、今度は、団員たちに犯される。明日は、月曜日。サーカスは休演日で、彼らは、体力のことを気にせず、行為に及ぶことができた。
そして、ショーが終わったのは、午前三時。
係の男たちが、それぞれの商品を引き取り、部屋に連れ帰るなり、シャワーに連れて行くなりしている。
別の仕事が立て込んでいたのか、飛田がバーボンのところにやってきたのは、一番最後だった。

「遅くなりました」

飛田が床に膝まづき、バーボンの額を撫でる。

「おそい……」

ステージの床に転がされたままのバーボンは、よろよろと、起き上がりながら、飛田に抱き着いた。

「シャワー……行きましょうか?」

例のごとく、二枚のバスタオルをかけられ、バーボンは、シャワールームに運ばれていく。
そして、

「風見、君も、一緒に……」

誰もいない男性用のシャワールーム。二人は、同じブースで、湯を浴びながら行為をした。
行為の間、二人は、何やら、話をしていたらしい。しかし、シャワーの水音と、肉と肉のぶつかり合う音、時折、聴こえてくるバーボンの喘ぎ声によって、外にいるものが話の内容を割り出すことは難しかった。
やがて、二人、部屋に戻る。
月曜日は休みだから。飛田はプレハブ小屋に帰ることなく、朝までバーボンの側にいた。

 

***

 

 

それから、一か月が経った。
バーボンはここでの暮らしにずいぶん慣れた。飛田は、バーボンの係としての仕事以外にもいろいろやることがあり、相変わらず、忙しそうに動き回っている。

ここに来て、五回目の水曜日を終え、相変わらず、迎えに来るのが一番遅い飛田とシャワーを浴びながら、バーボンは言った。

「君は、ここのサーカスを一度も見たことがないらしいが……今度、一度くらい見たらどうだろうか?」
「……そうですか? しかし……自分は、遊びでここにきているわけではないので」
「……僕だって、遊びでここにいるわけじゃない」

バーボンは飛田に抱き着いた。

「君、やせたんじゃないか……?」

もともと痩せやすい体質だ。飛田は、無理をしているのかもしれない。

「あなたこそ……」

バーボンは、自分の前にピエロをしていた女のことを思い出していた。

「……これくらいは、やせたに入らんよ」
「あなたの前にピエロをしていた子……。あの子は……地元に帰って、ご親戚の元で療養してるみたいですよ」
「……そうか。よく知ってるな」
「ええ。係の見習いをしている時に、少しやり取りがあったので」
「……疑似恋愛か?」
「いいえ」
「じゃあ、恋愛か……?」
「……あの、自分は、あくまで、仕事でここに来ていますから」

飛田が、むすっとした顔をして、バーボンの尻を、かるく叩いた。

「……冗談だよ。君は本当に堅物だな……」
「あなたの冗談は、わかりにくいんです」

 

次の日曜日。
やはり、飛田の迎えは一番遅い。
シャワールームに移動し、二人は、おしゃべりをする。

「君、もう少し早く仕事を終えることはできないのか?」
「これでも、できる限り急いでやってるんです」
「そうか……ずいぶんと、やることがたくさんあるんだな」
「ええ。でも……。次の水曜日は、一番に、あなたを、お迎えに上がります」
「そうか……」

 

そして迎えた、水曜日。一般向け公演は大盛況だった。
もともとのショーの水準が高い上に、地元のミニコミ誌が、バーボンを「美しすぎるピエロ」として取り上げたことによって、平日であるにもかかわらず、昼公演はほぼ満席。夜の公演は満員御礼となった。
この日、支配人の男は、舞台袖から、バーボンのマイムを見ながら、ふるえていた。
美しすぎるものには、いつだって、破滅の予感がつきまとう。
幽玄。その二文字がふさわしい。全幕通して、たった三分にも満たないバーボンのマイムが、今日のステージを異次元まで連れて行ってしまった。

夜。団員たちは、いつもより、強く興奮していた。あのステージに立って、そうならないものがいたとしたら、それは、パフォーマー失格だろう。それほどまでに、今日のバーボンの舞は、美しく甘美であった。
いつもであれば、この福利厚生に乗らない者でさえ、バーボンの体触れたさに、ステージにやってきた。ステージの上の人間、客席の趣味の悪い金持ち連中、照明の係、そして、警備の男たちでさえ、バーボンに気を取られていた。

かわるがわる、男たちが、バーボンの上で腰をふる。バーボンは、それを受け入れながら、小鳥のさえずりのような甲高い喘ぎ声をあげた。
そして、舞台袖にいたはずの支配人が、男たちをかき分け、バーボンに駆け寄る。その鬼気迫る姿に、団員たちは、静かに場所を譲った。
支配人が、バーボンと交わり、腰を激しく打ちつけた時だった。

「降谷さん、お待たせしました!」

バーボンの係である飛田が、緑色のスーツをまとい。そして、数十名の男を、ぞろぞろと引き連れて、劇場後方のドアから押し入った。
しかし、席を立つ者はいない。突然のできごとに、みな、一度は後をふり返ったが。そんなことよりも、ステージ上で行われていた、ショーから目を離すことができなかったのだ。

「あっ……あ……んんっ……」

バーボンが、今までになく、愛らしい声で鳴く。そして

「か……ざみ……おっそい!!!!!!」

と、叫びながら、身体をがくがくと、痙攣させた。
その締めつけに、支配人の男が、精を放つ。

そこから先は、鮮やかなものだった。
警視庁公安部の刑事たちによって現場にいた男たちが捕らえられていく。そして、少し遅れてきた女性警察官が、ステージ上で”商品”として扱われていた、彼女たちに、温かい毛布をかける。
バサッと。
降谷の体に、二枚のバスタオルがかけられた。
被疑者を一人残さず確保し、捜索願が出ていた四名の女性全員を保護した。と、なれば、ゼロの捜査官とその右腕が、二人きりで別行動をとったとして、異議を唱える者はいない。
風見の腕の中で、いつものシャワールームに連れて行かれると思っていた降谷は、いつもとは違う道を進んでいることに焦りを覚えた。

「君、どこに……?」
「彼女たちがね……個人として商売をするときに使う部屋がこっちにあるんですよ」

そうして、連れて行かれた場所は、大きなダブルベッドに、バスルームが設置されたプレハブ小屋だった。
プレハブながら、少しでも、雰囲気を出そうと思ってのことか。天井に小型のシャンデリアがぶらさがっている。
バスルームに入れば、すでに湯が張ってある。それを見て、降谷が苦言を呈した。

「君……遊びじゃなくて、仕事でここに来てたはずでは? 風呂に湯をはる時間なんてあったのか?」
「降谷さん、遊びじゃないですよ。あなたを労わるのは、俺の仕事でしょ?」
「いや、仕事じゃない」

ぴしゃりとした降谷の口調。風見の眉間にしわが寄る。

「では……?」
「恋人としての……務め……っ」

降谷の唇をキスでふさぐと風見は服を脱ぎ始めた。風見のキスが途切れぬよう、降谷は、両手で風見の頭を引き寄せた。
自分で立てた作戦とはいえ、ひどく、みじめな日々だった。仕事でなければ。そして、風見と一緒でなければ、きっと、乗り越えられなかっただろうと降谷は思う。同時に、恋人であり、大事な部下を、このような悲惨な現場に引き込んでしまったことに罪悪感をおぼえる。
風見が服を脱ぎ終えると、二人、かけ湯もせずに、湯船につかった。胡坐で座る風見の上に、降谷が向き合うようにしてまたがる。そして、尻を少し浮かせれば、風見の指がゆっくりと、降谷の中に入っていった。

「風見……ごめんっ……僕は……君に」
「なに言ってるんです? あんたに置いていかれるくらいだったら、俺は、地獄にだってついていく覚悟なんですよ?」

水曜日と、日曜日の特別公演。
風見は降谷に、薬の使用を勧めたが、彼がそれを使うことはしなかった。だから、男たちに凌辱された記憶は、すべて、なまなましく、彼の体と心に刻まれている。自分の体が自分のものでなくなるような恐怖。
しかし、ステージのあとのシャワールーム。降谷は、風見に触れられることをおそろしいと感じたことはなかったし、

「降谷さん」

風見の優しい声を聴くことで、自分を取り戻すことができた。

「かざみ……っ」
「うん……もうちょっと……まだ、出てきますね」

五人の精を受けたところで、数えることをやめてしまったから、今日の夜、何人分の精液を受け入れたのか。正確なところはわからない。

「ごめ……っん。君にこんな……」
「謝らないでください……それに……実は、俺も、あなたに謝らなければならないことが……」

その言葉に、降谷の胸はぎゅっと締め付けられた。
風見……飛田は、ただの雑用だったわりに、ここの女の子たちから、慕われていた。
疑似恋愛? 恋愛? ぐるぐると、嫉妬の炎が、踊り狂う。
しかし、たとえ、風見が”何か”していたとしても、ゆるすしかないと降谷は考える。風見だって、仕事上、彼女たちから話を聞きだす必要があっただろうし。なにより、今回の作戦を立てた自分を棚上げにして、風見を責める気にはなれない。

「どうした……? 怒らないから、言ってみろ?」

声が、少しふるえてしまった。真実を知るのは怖い。けれど、内緒にされるよりはいい。

「降谷さんの愛車……エンジンを塩漬けにしないようにと言われていたので。……三日に一度は、走らせるようにしていたんですが」
「……」
「ええっとですね……子どもが、飛び出してきたと思って慌てて、ブレーキを踏み、急ハンドルを切ったんです。そしたら……それは、子どもじゃなくて、子猫で……ネコちゃんも無事だったんですけど」
「ホォー……?」
「……車体をガードレールの方に寄せたとき、少しこすってしまったみたいで……塗装が少し剥がれました」

ばしゃり。降谷は、湯から両手を上げると、風見の両耳をぎゅううっと引っ張った。

「そっちは、ゆるさん」
「……?! てて……っ! 怒んないって言ったじゃないですか?! てか、そっちは、ってなんですか……?!」
「……まあ……いい」
「え……?」
「今晩、君が、僕を、最高に気持ちよくしてくれたら、全部チャラにしてやる」
「降谷さん!!!」

 

風呂から上がると、二人は、ベッドの上に寝転がった。風見が、ベッドサイドの避妊具を手に取る。

「それは、要らないだろ?」
「……しかし、先ほど……あれだけ……」
「僕がいらないと言っている。するな」
「……はい」

風見のペニスが、降谷の肉筒にわりいる。

「んっ……んん」

あれだけ、乱暴に扱われた直後で、痛みが伴わないわけがない。しかし、ようやく、風見裕也とゆっくり抱き合えるという事実に、降谷はすっかり酔っていた。

「降谷さん……?」
「かざみ……いっぱい、して……?」
「ええ。いっぱいしましょう」

もののように扱われていた先ほどまでとは、まったく違う、温かなセックス。
風見の体温を感じる。大きな背中に、両腕を回せば、風見が「うっ」と短くうめぎ声をあげた。耳元に、風見の鼻息が当たる。その生ぬるさすら心地がいい。

「かざみ……」
「うん……」
「僕は、こういう、仕事の仕方しかできない……。これからもきっと、君には、迷惑をかける」
「……降谷さん」
「うん……」
「だけど、あなたのこんなところにつき合ってあげられるのは、俺しかいないんですから……っはぁ……俺たち、お似合いなんですよ……んっ」
「あっ……あ……っあん……かざみ、かざみっ♡」
「降谷さん……! 降谷さん!」

もう、盗聴器の心配をする必要もない。
二人はお互いの名前を呼び合いながら、朝まで、行為を続けた。

 

***

 

つながったまま眠ってしまうのは、初めてのことだった。横むきに寝たまま、風見を背後から受け入れ、そのまま寝落ちてしまったらしい。
降谷は、顔を真っ赤にしながら、風見の腕から脱出しようと試みた。
と、その時だった。腰を掴まれ、中をやさしくこすり上げられる。

「あっ……ちょ……風見……だめっ……」

何時間にもわたって、刺激されていたそこは、ぬいぐるみを撫でるような優しいピストンであっても、強く反応してしまう。

「だめ?」
「あっ……あ……だめっ! だめだって……あっあ……でちゃうっ」
「でちゃう……? 昨日、白いのは全部出しちゃったし……お潮かな……?」
「ちがっ……そじゃなくっ……て! あっあ……」

風見のペニスが、腸壁越しに、降谷の膀胱を圧迫する。そして、そうなるまでは、あっという間だった。

「やっああああ……おもらし……おもらし、しちゃうっからあぁっ」

昨晩は、セックスに夢中になって、ろくに水分を取っていなかった。だから、降谷のそれは、朝一にしては少量である。しかし、量が少ないからこそ、しっかりと色づきツンとした匂いを伴っていた。

「え……おもらし……? 降谷さん、かわいい……おもらししてるんだ♡」

ちょろろろろと、流れ出るそれを、自らの意思で止めることもかなわず、最後まで出し切ってしまった降谷は、羞恥心と妙な解放感のはざまで、激しく混乱する。

「ひどい……ぼく……だめって……出ちゃうって、ちゃんと言ったのに……っあっあ……ひどい……なんっで……」
「ごめんなさい……俺……ちょっと、最近、抑えてたから、我慢できなくて……」
「あっ……もう……! 風見の馬鹿ぁあっあ……♡」

ぽろぽろ泣きながらも、降谷は、風見を受け入れてしまう。そして、強引に継続に持ち込んだくせして、風見の腰づかいは、ふわりと優しく、甘イキが止まらない。
二人の活躍で、組織の資金源の一つをつぶした。今日は自由に過ごしていいという上の許可をもらっている。だから、風見と降谷がセックスにおぼれてしまったって、責めるものはどこにもいない。

とはいえ、二人とも仕事人間であったから、夕方には、スーツを着込んで、しっかりと、捜査の進捗確認に回った。

さらに

『サーカスに捜査が入ることを事前に察知したバーボンは、警察が突入する前に、このサーカスが組織に関与しているという証拠を、きれいさっぱりもみ消した』
『サーカスの支配人が作った顧客リストを持ち出したバーボンは、それを組織に提供するつもりらしい。その顧客リストには、政財界の大物の名が連なっている』

以上が、ベルモットを経由し、組織の幹部らに伝えられる。それは、サーカスに売られたバーボンが、名誉回復し、再び、組織の幹部として活動するために必要な手土産だった。

「これでは、組織をつぶしたいんだか、発展させたいんだか、わけがわからなくなるな……」
「それはそうですが、資金源の一つがなくなったわけですから、一時的に、やつらも活動を縮小せざるを得ません」
「それはそうなんだが……」

日本最大規模の移動式サーカスでの逮捕劇。
風見が、ちょこちょこ動き回っていたおかげで、送検するに十分な証拠が集まっている。しかし、それであっても、例の特別公演には有力者たちが大勢かかわっていた。二人の仕事は山積みだ。

 

***

 

 

翌日、午後五時。あらかたの仕事を終え、降谷の愛車で引き上げようとした二人に、小学生高学年くらいの子どもが二人、近寄ってきた。
女の子が、降谷を指さして言った。

「あ……お兄ちゃん! この人だよ! 美しすぎるピエロって!」

お兄ちゃんと呼ばれた少年がぺこりと頭を下げる。

「あの……ピエロさん。僕たち、サーカスを見に来たんです。これ……チケット。パパもママも。サーカスはどこかに行ってしまったから、見れないんだよって言っていたけど、テントはあるし、ピエロさんもいる。サーカス……まだ、見れますよね?」

風見が、何か言おうとする。しかし、降谷がそれを制した。

「少し、待っていてくれるかな?」

降谷が、風見に耳打ちをする。そして、レッスンルームから、綱渡りの練習器具を持ってきて、子どもたちの前に設置した。

「風見」
「ええ」

どこからか、引っぱり出してきたスタッフジャンパーを羽織り、風見が二人のチケットの半券を切り取った。
RX-7のライトが、周囲を明るく照らす。降谷は、風見から借りた傘を持ち、高さ二メートルほどの綱を何度も何度もわたって見せた。バランスを崩して落ちるふりをしてみたり。片足でしばらく綱の上に立ってみたり。
その様子を見ながら、風見は「ほんっと……この人、何でもできちゃうんだよなあ」とひとりごちる。

やがて、三十分が経過したころ、一台の軽乗用車がやってきた。彼らの両親だった。
四十歳くらいの夫婦は、最初スーツ姿で曲芸をする金髪の男に度肝を抜かれたらしかったが、楽しそうに笑う子どもたちを見て、しばし、その様子を見守った。
やがて、家族四人が笑顔になった。彼らは、何度も何度もお礼を言い、サーカスを後にした。
降谷のRX-7が走り出す。サーカス村、周辺は暗闇に包まれた。

ハンドルを握りながら、風見裕也が言った。

「知らなかったです」
「え……?」
「降谷さん、綱渡りなんてできたんですね」
「そうだな……」

窓の外を見ながら、降谷が笑う。

「君が側にいたからだよ」
「は?」
「いや、意味が分からないならいい」

(君が側にいてくれれば、僕はどんな危険な綱渡りだって、なんとかなってしまうんじゃないかと思うんだ)

end♡

 

 

【あとがきなど】

コナパズの、美しすぎる道化師あむぴをみたとき。私は、激しく動揺した。

「あむぴ……サーカスに売られてしまった」

と。
その日から私は、サーカスに売られた、あむぴのことを考え、胸を痛め。
サーカスで、えっちなめにあう、あむぴを想像し……あむぴ……すまん。めっちゃ萌えてた。

それから、事あるごとに、サーカスに売られたあむぴの話をしたし。サーカスに売られたあむぴのえっちな二次創作(できたら風降)を探したが、探し当てることができなかった。
そして、本日、とうとう、自給自足に至った。

あむぴをサーカスに売るとしたら。
絶対に組織の嫌がらせだと思ったし。
だけど、実は、サーカスに売られるように仕向けたのは、ふるぴで……
サーカスに売られてしまったふりをして、ゼロの捜査官として仕事をする、ふるぴも見たい。

私のもろもろの欲望を詰め込んだ結果、こんな、とんでもサーカスが誕生してしまいました。
※サーカスは……シルクドソレイユと、シルクエロワーズしか見に行ったことがありません。にわかです。

あむぴがサーカスに売られてしまった話。
あむぴが、団員たちの古風な筋トレに物申す系のお話や
団員たちの慰み者にされまくった結果、あむぴがメス堕ちしてしまうという、エロ漫画風バッドエンドなど……
色んなパターンがあると思うので……あむぴのこと……何度でもサーカスに売りたいなって思っています。

 

 

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