夜が明ければ、サーカスは静かな休日

【確認!】
綱渡りの日々に……」の番外編?
モブレ後/女性蔑視っぽい表現/おきよめ/風見裕也が巨根

特別公演のあとの、事後処理。

 


何事にも終わりはある。
午後十一時に始まった、特別ショーが、ようやく終わりを迎えた。

――七人だった。

回を重ねるごとに、相手をする人数が増えていく。
緞帳がおり、客席から人が消える。団員達は、名残惜しそうにしながらも、商品を床に置きステージを去る。
やがて、係の男たちがやってくる。
降谷は、ステージの床の上で、身体を丸めながら、目をつむった。
係の男たちと商品は、たいていの場合、疑似恋愛のような関係にある。迎えに来た男が、自分の担当の女を抱き寄せ、耳元で「がんばったね」「痛くされなかった?」「きれいだったよ」「迎えに来るのが遅くなってごめんね」「シャワー浴びながら、いっぱい、しようね」などと、甘い声でささやく。
少しかすれた声で、女たちが答える。「○○が、迎えに来てくれると思って、がんばったよ」「キスして」「もうやだ」「はやく○○がほしいよ」そんな風に。女たちは係の者に甘える。
降谷は、ぱちりと目を開け、そして、床板の模様を眺めた。

キスをする音。女の求めによって、男が女に触れる音。女たちの甘いうめき声。「好き」「あっ……きもちいいよぉ」「○○……」「んっ……あ……」。自分こそが、一番愛されているのだと。そう、誇示するように。女たちは、幸せそうな声を響かせた。
色恋を使った女の管理。サーカス馬鹿の支配人が、こんなことを考えつくとは思えないから、おそらく、組織と付き合いのある、風俗経営者あたりから知恵を借りたのだろう。

迎えに来た係とステージ上で行為を続ける者。ひたすらにキスだけをする者。
残酷な公然わいせつショーが行われていた現場が、甘ったるいピンク色の空間に様変わりする。
バーボンがやってきた当初、女たちは飛田の迎えが遅いことを気にかけていた。しかし、ステージ上でバーボンを抱く者が、一人二人と増えていくうちに、態度が変わっていった。

降谷は、再び目をつむる。
気のせいかもしれないが、女たちがステージ上で係と触れ合う時間が長くなっている気がする。
少し、被害的になっているのかもしれない。彼女たちの中には、セックスドラッグを使用している者もいる。非日常的な性行為の直後、薬が抜けきらない中、好きな男が目の前にやってきたら、大きな声を出して行為をしてしまうのは致し方ないことだろう。しかし、女たちの、甘美な喘ぎ声が、降谷には当てつけのように聞こえるのだ。

風見が、来るのが遅いからいけない。
男たちに、好き放題され、腹の中に、大量の精液を放たれた。むりやり快楽を与えられた肉体には、性行為後の甘い余韻のようなものが残っている。不快で不快で仕方がない。
風見に、触れてほしいと思う。大好きな声を聴きたい。「大丈夫でした?」「遅くなってごめんなさい」「今日も、がんばりましたね」「早く、ここを抜け出しましょうね」……そう、耳元でささやいてほしい。
大きな背中に腕を回して、胸板に顔をうずめたい。風見の首筋の匂いをかいで、風見の大きな手。こざっぱりしたうなじ。見かけによらず、ぷにぷにとした唇。早くそれらを感じて、そして、「降谷さん」て。ふくよかなあの声で、僕の名前を呼んでほしい。

一組、二組……。
男と女が、ステージから去っていく。性行為を始めたカップルも、男が一度果てたところで、ここを立ち去った。だから、ショーが終わって数十分ほどしか経過していないと思う。
普段の降谷は、時計がなくとも、現在時間をだいたい把握することができる。しかし、息つく間もなく男たちに抱かれ、永遠のような苦しみを味わった直後。その感覚はすっかりあてにならなくなっていた。
静まり返ったステージの上で、体を起こすと、降谷は指を二本。直腸の挿し入れた。
ぬちぬちと中を掻きまわし、腹に力を入れながら、男たちの子種を外に追いやる。奥に放たれた精液が、ゆっくりと、重力に従い下に落ちていく。気持ち悪くて仕方がない。

ステージ上で、粗相をするのは、絶対に嫌だった。
降谷は、特別公演の際。前日から食事を制限する。そして、個室の狭いトイレの中で、風見に腹の中をゆすいでもらった。
風見は、いつも、少し、大げさなぐらいたっぷりと、降谷の内部に、アナル用ローションを含ませた。だから、どれだけひどく抱かれても、粘膜が大きく傷ついたことはない。
本日も、かなりの酷使となったが、縁が少し腫れた程度で、出血もなく、無事にステージを終えることができた。

ぐちゃぐちゃのステージの上で。男たちに放たれたものを、一人、掻きだす。
それは、ひどくみじめな行為であったが、風見が来る前に、少しでも処理を進めておきたかった。
むろん、風見だって、覚悟を決め今回の作戦に参加している。降谷の腹の中から、大量の精液が流れ出てきても、淡々と処理を進めるはずだ。けれど、たくさん出されたことを知られたくない。
降谷はむすっとした表情で、指を動かし続けた。

ゴトン。

と、物音がする。
降谷は自己処理の手を止めた。また、犯されるかもしれない。冷や汗が噴き出る。きっと、逃げ出すことはできない。団員たちの激しいピストンを受けた足腰では、ゆっくり歩くことが精一杯だ。
覚悟を決め、後ろを振り返れば、スタッフジャンパーを着た長身の男が、足元に落ちたペットボトルを拾い上げていた。
降谷は、ぷいっと、顔をそらしながら言った。

「……遅い」
「……すみません」

聞きなれた足音。風見が、降谷に近寄り、ペットボトル飲料を手渡した。そして、二枚のバスタオルで、降谷を包み

「よいしょ」

と、抱え上げる。
降谷は、ペットボトルの、スポーツ飲料をごくごく飲んだ。そして

「君……さっき、ちょっと、気まずいなって思ったろ?」

と、単刀直入にたずねる。
風見の眉間に、しわがよる。

「言っておくが……」
「……はい」
「君が、迎えに来るのが遅いから、仕方なく自分で処理をしていただけだからな」
「ええ」
「さっきみたいな場面に遭遇したくなかったら、次からは、もっと早く迎えに来い」
「……善処します」

スポーツ飲料をもう一口飲み、ふたを締める。
降谷は、身体をひねって、風見の頬にキスをした。
早く迎えに来い、と言ってはみたものの。それが難しいことくらい、わかっている。だけど、さみしかった。そして、みじめだったのだ。冷たいステージの上で、降谷は、ひどく心細かった。
しかし……。さみしかった、なんて。心細かった、なんて。口にできるわけがない。
風見は、この一連の潜入捜査を、少しでも早く終わりにするため、動き回っていたのだ。
特別公演に来ていた客の身元を割るために、尾行を任せている。地元の人間なのか、そうでないのか。そうでないとしたら、どこに、宿を取っているのか。自動車の車種は? ナンバーは? 運転手はどんな人物か? 一人で来ているのか、それとも、複数?
顧客名簿を入手できるなら、それが一番いい。だが、それは、厳重に管理されているはずだし、某県の公安部の職員が、このサーカスに潜入し、その後、消息を絶ったという話もある。

じっくり、時間をかけて、捜査を進めなければならない。急がば回れ、だ。

 

シャワールームに移動し、ぬるま湯をざあざあと浴びながら、降谷は、風見の名前を呼んだ。
サーカスの中では、他人であることを貫き通そうと、決めていた二人だったが、初めての特別公演の後、降谷が風見の名を呼んでしまったことで、シャワーの間だけは、いつも通りの名前で呼び合うという、暗黙のルールができあがった。

「降谷さん」
「風見……して……」
「しかし……」
「ある程度は、出してあるから……お願い……」

降谷は、シャワーブースの壁にもたれかかりながら、片足立ちで、風見を受け入れる。

ここに来るまで、降谷は風見のペニスが、大きいことを、好ましいことだと思っていなかった。過ぎたるは猶及ばざるが如し。風見とのセックスは好きだったが、受け入れる際の負担が大きく、もう少し小ぶりでいいと考えていた。
だが、今は違う。
降谷の一番、奥。そして、一番、気持ちのいい場所。そこに到達できたのは、今のところ風見裕也だけで、その事実が降谷の心の支えになっていた。

「あっあ……♡ かざみ……っ」
「降谷さん、つらくない?」
「ねぇ、奥……っ」
「え?」
「奥に欲しい……」
「ふるや……さっん……!」

降谷の体重をしっかりと支えていた、たくましい男の腕。風見は、ゆっくりと、腕の力を抜いた。重力にうまく逆らえない降谷は、ずるずると、腰の位置を低くた。
そして、それはそこに到達する。

「あっああ……あっ……風見……、かざみっ……」
「ほら……奥ですよ? ね……わかる? 降谷さんの一番、奥の大事なところ……たくさん、可愛がってあげますね」
「あっあ……あん……かざみ、かざみ……」
「はぁっ……すっげ、奥……っきゅうきゅう」
「あ……あ、こじ、あけて……はいって、なか、きて……いい、から」

ざあざあと、ぬるま湯を浴びながら、降谷が体を大きくしならせる。

「んっ……ふる、やさ……ちから、ぬい……て。きつすぎて……うごけない」
「あっあ……あ……ああ……」
「むずかしい……?」
「あ……ああ……わかんな……っ♡」

眼を細めながら、風見は、降谷の表情を観察した。

「あー……降谷さん、とんじゃってる?」
「あ……かざみ……っ、かざみ……」
「うん……かざみですよ」
「かざみ……っ♡ ……かざみ……!」

舌をつき出すようにしながら、とろけきった顔をしている降谷を見て、風見は、雄としての衝動を駆られた。
男たちから、ひどい仕打ちを受けた後だ。大事に抱いてやりたいと思っていたのに。そんな配慮はどこかに吹き飛んでしまう。
風見が腰を突き上げる。ごちゅ、っと、通常のセックスではありえないような音がする。でも、抑えがきかない。遠慮のない荒々しい腰づかい。
仕事に追われ、ステージ上の降谷を見ていない風見は、自分がどの男よりも暴力的で無慈悲なセックスをしていることを知らない。

「ほらっ……降谷さん……奥、くぐり……っましたよ」
「あっあ……おなかおかしくなっちゃう……♡」
「奥、きもちいいね? ほらっ、ほら……奥、わかる? いっぱい、かわいがってあげますからね」
「あ……ああ……っ、僕……あ……っあ、あああ……」
「ふふ……いっぱい、いっていいですよ……」

二人きりのシャワールーム。
ざあざあという水音と、肉と肉がぶつかり合う音。風見が何かを囁けば、降谷が喘ぎ声をあげる。だから、二人が、どんな話をしているか。外にいるものが、把握することは難しい。

午前三時五十四分。
夜が明ければ、サーカスに休日がやってくる。

 

 

【あとがきなど】

このあとがきを読んでいるということは。
あなたもきっと、サーカスに売られたあむぴがお好きですね?!

特別公演のあと、ぐったりしながら、お迎えを待つばぼぴ……
たぶん、すごく心細かっただろうなと思って、こんな感じの話を書きました。

団員たちに、好き勝手抱かれてる、降谷さんなんですが。
個々で考えると、風見裕也が、一番、やべえ抱き方をしている……というお話でした。
綱渡りの日々に……」のおもらしも……サーカスの団員たちによる鬼畜セックスの結果とかではなくて……普通に、風見裕也の仕業でしたからね……。

風見……おまえというやつは……。

 

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