〇俺×降から……風見の部下×降谷さんなどを挟みつつ。いつか、風降に至る物語(むなくそわるい……?)。
〇R-18だけど、今回は、ほとんど描写ありません。
〇連載形式(全5話を予定→6話になりました。今回が最終話です。)
〇特別の続き
※風見さんが彼女と別れる
※精神的なグロがある
主人公:
29歳
身長185+。
男根→かなりデカい。
性格→風見裕也が地雷。犬を飼っている降谷のことを解釈違いだと思っている。
半月が経った。十二月初旬。
降谷から電話がかかってきた。
「急に呼び出してすまない」
居酒屋に呼び出されたのは、たぶん、初めてのことだった。
「いや……」
「……今日は僕のおごりだ。好きなものを頼め」
半個室のボックス席。メニューを見れば、日本酒がたくさんあって。料理も凝ったものばかりだった。もちろん値段も数ランク上。
「……そうだな。あんきもと……あとは……降谷のおすすめで……」
「ふむ……。じゃあ、卵焼きと……春菊と牛肉のポン酢炒め……ああ、そういや、君は数の子も好きだったよな? ここの松前漬けは絶品だ」
店員を呼び出し、降谷は、たんたんと、注文をすすめる。とりあえず、ビールで乾杯し、ふたり、黙り込む。
あの日、俺は、催淫剤によって、めちゃくちゃになってしまった降谷を、それはそれは、めちゃくちゃに抱いた。そして、明け方、迎えに来た風見さんに、降谷を託し。俺は、ひとり、家に帰った。あの時のことを、降谷はどれくらい覚えているのだろうか。こいつのことだから、全部覚えていそうな気もするし、しかし、あの晩の乱れ方を考えると、途中からの記憶はあいまいになっているのではないかという気もした。
会うのはあの日以来で。だから、俺は、すごく緊張している。
おごりのビールが、少しもおいしくない。何を話せばいいのかわからない。お通しの白和えを食べながら、そういえば、風見さんのクリスマスデートはどうなるのだろうかとか、非常に、どうでもいいことを考えた。
「君と会うのは、今日で最後だ」
その言葉に、俺は、静かにうなずいた。待ち合わせ場所が、ラブホでなかった時点で、覚悟はしていたし。あの夜の俺は、あまりにも、乱暴すぎた。
いや、あの日だけじゃない。いつだって俺は、目の前の男に自分の弱さをぶつけてきた。
「そうか。じゃあ、ここは俺におごらせてくれ」
そう。せめて、今日くらい。普通の友達のようでありたい。
いつも多く出してもらってるから、今日は俺の方が、支払いを……というような。今日だけは、そういう五分五分の関係でありたかった。
なのに。
「いや……君には、迷惑をかけたし……」
降谷は、俺の申し出を断ろうとした。
「いいだろ? あと数時間の付き合いなんだ。最後の願いくらい聞いてくれよ」
降谷の眉間に、しわが寄る。
「明日は、忙しいのか……? このあと、部屋……取ってあるんだが?」
「……俺は、お前とは、もう寝ない」
「そうか? だけど……僕は、少し、離れがたい気分だ」
離れがたい……。
その言葉で、十分だと思った。
「お前……一応、ちょっとくらいは、俺のこと慕ってくれてたんだな。なら、教えてくれよ。どうして、もう会わないと決めたのか。やっぱり、この前の夜のことか? それとも……」
セックスをしたら、きっと、また、全部がうやむやになってしまう。だから、俺は、居酒屋の個室ですべてを完結させたかった。
「……あの晩のことは、ありがたかったと思ってる。君と、もう会わないと決めた理由か……そうだな。それは、正直に言った方がいいんだろうか?」
「……まあ、できたら、その方が。俺も、いい加減けじめをつけたいから」
降谷は、ビールを一口飲むと、それから、ふーっと息を吐いた。緊張していると、一目でわかるほどに、表情が硬い。
「じゃあ、包み隠さずに言う」
「うん」
「僕……風見に、告白されたんだ」
※※※
あの日。
僕は、組織の人間に、嫌がらせとして、強力な催淫剤を飲まされ、苦しみの中にいた。風見には、嫌な役割を負わせてしまった。デートの途中だった彼を、呼び出し。風見の運転する車の後部座席で、自慰をした。
しかし、風見は、そんな僕に優しかった。
自分が管理しているセーフハウスで、顔見知りの男二人がセックスするなんて。堅物の風見には、耐えがたい出来事だっただろう。だけど、僕が、そこで警察学校時代の同期と行為できるよう準備を整えてくれたし。彼との関係について、苦言を呈することも、不快そうな表情をすることもなかった。
上司が、男性と性的な関係を持っていて。しかも、これから、そういったことをする。そんな、生々しい状況下で、風見は、いつもと変わらぬ表情で、僕の指示を聞き、それから、先回りしてハロの餌を心配した。
『降谷さん、たしか、今日は夕方には帰宅予定でしたから……ワンちゃんの自動給餌機』
『ああ……そう、だ……はぁ……セットしていなっ……い』
僕は、性的な興奮でぐちゃぐちゃになりながらも、風見の親切にうれしくなった。
やがてやってきた同期の彼は、ずいぶんと怒っていた。そして、いつも通り、ずいぶん手荒に僕を抱こうとした。
どうやら、彼は、僕に対してだけでなく、風見にも怒っているらしい。たぶんそれは、僕のためなんだと思った。だから、彼の怒りを受け入れることを、僕はうれしいとすら思った。
こんないびつな関係になってしまったけれど。僕にとって、彼は、貴重な存在だった。非番だったのか、仕事の途中に呼び出されたのかはわからない。しかし、僕に対して、何の義務もないくせに、夜中に飛んできて、僕の体をめちゃくちゃにしてくれる。そういう彼の存在がありがたかった。
明け方まで、めちゃくちゃに抱かれて。本当は、数時間ほどで、薬の効果は抜けていたのだけれど。まだ抜けていないってふりをして、彼に何度も抱いてもらった。ずいぶんひどい言葉をかけられたけど、これでまた、しばらくは生きていけるって、そう思った。
薬を盛られるなんて、失態を晒し、風見に迷惑をかけた。恥ずかしくて、恥ずかしくて気がどうにかなってしまいそうだった。
僕は、彼とのセックスすることで、どうにか、気持ちを切り替えることができた。
明け方。お互いに限界がきて。ようやく、風見を呼び出した。
風見は、僕を家に送った後に、彼のことも、自宅に送り届けるつもりらしかった。しかし、彼は、それを断固拒否した。
『君だって疲れているんだろうから、風見に送ってもらえ』なんて。そんなことを言ったら、また拗れてしまうことが目に見えている。だから、僕は、引き留めなかった。
11月下旬の午前4時。街は、まだ真っ暗で、対向車がほとんど通らない道を、風見が車をなめらかに走らせる。
助手席で、目をつむり、僕は、ぼんやりと、明日からのことを考えた。
薬を盛られたところまでは、いたしかたないにしても。僕が男性相手にセックスしていたことが、風見に知られてしまった。
あのゴールデンウィークから半年。僕らは、ちょっとずつ、関係を良いものとしてきたのに。また、どこか緊張した、ぎくしゃくした日々が始まってしまうかもしれない。
「君、言いたいことがあったら、言ってくれて構わないぞ」
僕に対する不信。僕に対する落胆。僕に対する軽蔑。
そういう感情を、胸の内にとどめるのではなく。ちゃんと言ってほしいと思った。だって、あの一年間。風見は、本当に苦しそうだった。
「では、駐車場につきましたら」
「うん……」
「降谷さんは、ちょっと、寝ててください。病み上がりなんですから」
「……うん」
その言葉に甘えることにし、目を閉じる。
風見は、僕の体調のことをよくわかっている。それこそ、自分の体以上に、僕の体のことを、気づかっている。
「つきましたよ」
目をぱちりと開ければ、そこは、僕のアパートの近くのコインパーキングだった。
風見は、僕の部屋に来るとき、大体この駐車場に車を停める。
「ああ。ありがとう。ちょっと、眠っただけだけど、少し、疲れが取れた」
「それはよかったです」
「で……さっきの話の続きだが」
僕が問えば、風見の表情が硬くなる。
「……遠慮、しなくていいぞ」
「遠慮、と……いいますか……」
「うん」
「緊張、しています」
それはそうだろうなと思う。僕の方が年下であっても。たとえ、あんなみっともない姿をさらした後であっても。僕は、風見裕也の上司で。その事実だけで、彼に緊張感を与えてしまうのだ。
「すまない」
「いや……俺自身の覚悟の問題ですから」
「そうか……?」
風見が、息を深く吸い込み、それから、ゆっくりと息を吐いた。
「……彼女と別れてきました」
「……え? はぁ? まさか……デートを抜けてきたのが原因か?」
「いえ……俺から切り出しました。あ、安心してください。ワンちゃんのえさをやりと健康チェックを済ませてから、話をつけてきましたので」
風見の表情は、真剣だった。
そして、もしかしたら、少しは泣いたのかもしれない。目が充血している。
「犬のことはいいんだ……いや、いいわけじゃない。彼は、僕にとって大事なペットだ…‥いや、まあ、それは置いておいて……確か、君の彼女って……いいお嫁さんになりそうな、大変いい娘さんだっただろ?」
「……ええ。いい女でしたよ。だからこそ、別れたんです」
「……矛盾してるな」
「ですね。でも……俺、くやしくて」
「くやしい……?」
「彼に説教されたんです」
「……彼? ああ。あいつか。あれは、説教が好きだからな」
薬の離脱か。あるいは、セックスをしすぎて、頭が馬鹿になったのか。僕は、風見の言わんとしていることを先読みできない。
でも、なんにせよ、どうやら、風見が、心を開いて話してくれているらしいことに安心する。
「そうなんですね……。あの……降谷さんが、彼と、親しい関係にあることはわかっています。でも、俺、あなたが、あんなに大変そうにしている時に、何もしてあげれなかった。それどころか、彼女に電話してやれ……なんて、お気遣いまでいただいて」
「……いや、別に。……ただ、君は、ほら……彼女がいるわけだし。あまり、ああいうことに関わらせるのもな……」
「俺は、関わりたいと、思いました。いや、正確に言えば、関わりたいという気持ちがありながらも、それを見て見ぬふりをしていたんだと思います」
僕は言葉を失った。
「……は?」
「あなたを抱くとか……そういうの。俺に、できたかどうかわからないですけど。それでも、介抱をしてあげたかったし……なにより。あなたが、一人で、大変なことを抱え込んでいるのに、俺が関わらせてもらえないってのは……もう、いやなんですよ」
「そうか……。もう……いやなんだな」
「ええ。だから、彼女とは、別れるしかないと思ったんです」
「……うまく、いっていなかったのか?」
「いえ、うまくいっていました」
「だったら、なんで?」
なぜ、風見が、そんな馬鹿なことをするのかわからない。
愛している人がいて。その人からも愛されていて。それで幸せなのに。なぜ、それを、自分から手放すようなことをするのか?
「……いつからか。俺の中の価値基準が、変わってしまいました。俺にとっての一番大事な人が、彼女ではなく、降谷さんになっていたんです」
「え……?」
風見の小さな瞳が、ゆらゆらと揺れた。
別の男の放った精の一部を、腹の中に少し残したまま。僕は、今まで生きてきた中で、いちばん純粋で、まっすぐな告白を受けている。
「でも……僕」
プライベートの僕は、きっと、風見の理想とは大きく異なっている。
「彼とは……警察学校の同期、なんですよね? 関係をすぐに終わらせることができないこともわかっていますし……降谷さんが、自分を恋愛対象として考えたことがないということもわかっている。いや、俺だって、あなたのことを、恋として好きなのか、本当はわかっていない。だけど、彼女のことを言い訳にして、自分の想いに蓋をしたくないし……。ああいうことがあった時、右腕として、俺のことをもっと頼ってほしいと思うんです」
「そうか……」
告白を受けたからといって 風見と僕が、恋人になったわけじゃないし、風見から、彼との関係解消を迫られたわけでもない。だけど、風見は僕のためなんかに彼女と別れてくれた。だから、僕も、そうしようって思った。
僕は、きっと、すごく浮かれていて。そして、ものすごく考えなしだった。
警察官として。潜入捜査官の僕なら、もっと、思慮深く先々まで考えて、自分のふるまいを決めていったことだろう。だけど、僕は、プライベートな時間をほとんど生きていなくて。だから、私的な人間関係には、手を抜いてしまいがちだった。
それで、なんとかなってきたし。だから、今回も、きっと、悪いようにはならないって。ずいぶんと甘い考えを持って彼との最後の逢瀬にのぞんだ。
※※※
降谷さんの同期の男から呼び出された。
課は違うとはいえ、それなりにやり取りのある後輩だし。プライベートの連絡先は、数年前に交換済みだった。
彼から届いたメッセージには「セーフハウスに忘れ物をしてしまったから、鍵を開けてほしい」そう書いてあった。
十中八九、嘘だろうと思った。おそらく、それは自分と二人きりで会うための口実。
彼は、俺に何かを言いたくて仕方がないのだ。おとといの夜、降谷さんから彼と関係を清算したという連絡があった。
自分と元カノは、あと数か月で三年目を迎えようとしていた。たしかに、付き合い始めのような熱は冷めていたが、それでも、お互いを尊重し合いながら、関係を育ててきた。だから、自分から切り出したくせに、別れは、すごくつらかった。
『……ゴールデンウィーク。ニュースでやってたIoTテロ……あの後くらいからかな? なんか、裕也、雰囲気変わったよね。……私の誕生日の時だって、写真、一枚も撮らなかったし』
『……ごめん』
『謝らないで。しょうがないじゃん。人間なんだから、大事なものの優先順位が変わったりすることも……たぶん、あるよ……』
その言葉を聞き、彼女の中で、優先順位第一位は、まだ、俺なんだろうなって思った。
彼女はかわいくて、本当によくできた子で。結婚だって視野に入れてた。だから、二度と会えなくなるかもしれないって考えたら、鼻の奥がつんとして、涙がにじみ出た。
『……あのさ、友達として、また会うとか、そういうのは……?』
俺の甘い考えは、あっさり一蹴される。
『はぁ……? 無理だよ。馬鹿。裕也のこと、いまさら、友達としてなんて無理だよ。そんな風に中途半端なことしたら、私、絶対に、未練たらたらになって……最終的に、裕也のこと、すごく嫌いになっちゃうと思う』
『すまん……』
『謝んなくていいって……ただ、最後に、言いたいこと言わせて……?』
『……うん』
『本当は、いっつもさみしかった。デートの時も、また、呼び出しの電話がかかっちゃうんじゃないかって、いつも、落ち着かなかった。仕事柄、しょうがないってわかってたけど……裕也が……去年の夏前からかな? すっごい、病んでるっていうか、悩んでるみたいな時、悩みを聞いてあげれなくて、それがすっごい辛かった……。でも……それでも、私は、裕也と一緒に生きていきたかったよ』
大きな目から、ぽろぽろと涙がこぼれおちた。
彼女は、本当に、かわいくて。俺には、もったいないほどにいい女だった。
「風見さん、すみません……呼び出したの俺なのに、遅れてしまって」
約束の時間から十五分遅れて、彼はやってきた。
「ああ、いや、かまわない。それより、忘れ物って言ってたけど、それらしきものはなかったが……」
「……あの、俺、風見さんに、言わなければならない……というか、お見せしたいものがあって」
「そうか……まあ、いいよ。見せてくれ」
彼は、タブレット端末を差し出した。
リベンジポルノのたぐいかもしれない。催淫剤を飲んだ降谷さんの痴態、だとか。
俺は、覚悟を決めて、彼から端末を受け取った。
『やっべ、Aさんの舌の動きすご……』
『おい……B君、撮影とか、そういうのは……』
『え? でも、降谷さん、すっげえ楽しそうだし。まあ、データは、お二人にも送りますけど、ちゃんと暗号化するんで、大丈夫でしょ? あ、降谷さんも、動画いります……?』
『あ……だめ……んっ……ああ……』
『てか、○○さんも、撮影だめとか言いつつ、興奮してるんじゃないっすか? 腰づかいえぐいっすよ? あー……降谷さん、俺も、気持ちよくなりたいんで、手でしてもらってもいいです?』
端末を持つ手が震えた。
俺は、それを、床に投げつけて、破壊してしまいたかった。だけど、動揺していることを悟られたくなくて、奥歯を噛みしめながら、12分の動画を最後まで確認した。
「これは……?」
「一応、言っておきますけど。同意の上ですよ。撮影については、乗り気じゃなかったみたいですけど……最終的に、降谷はこの状況を受け入れました」
彼の言う通りなんだろう。
動画の終盤。降谷さんは、カメラにサービスするみたいに、こちらをじっと見つめて、そして、ひどく、卑猥な言葉を口にした。
「こういう、やつ……なんですよ。降谷って」
「そうか……」
「警察学校の時には同じ教場の男の学生何名かと同時並行で関係を持ってて。俺もそのうちの一人に過ぎなくて」
言葉に詰まる。
たぶん、俺は、ショックを受けているんだと思う。降谷さんに、そういう一面があるなんて考えてもみなかった。そりゃあ、いい年をした大人だから、それなりに経験があるんだろうとは思っていたが、だからって、これは、あまりにもグロテスクすぎる。
身近にいる男たちと、文字通り同時に関係を持ち。しかも場の雰囲気にのまれたとはいえ、動画撮影を最終的には許可するなんて……病的だ、とすら思う。
「それで、君は、これを俺に見せてどうしたい?」
俺から、タブレット端末を受け取ると、彼は俯いた。
「どうしたいも、なにも……」
「俺は、君のこと、結構気に入ってた。なんていうか、いいやつだなって思ってたよ」
「そりゃあ……そう思われるよう、ふるまってましたから」
「……あの日、君が、この部屋の前で彼女と電話してた俺に、つっかかってきただろ?」
「ああ……そうでしたね……」
「あの言葉で、俺は、決意したんだ」
「え……?」
「彼女と別れて、それで、降谷さんとしっかり向き合おうって、そう決めたんだ」
するっと、彼の手から、端末が滑り落ちた。
「あっ」
俺は、あわてて、手を伸ばして、それをキャッチする。
「……セーフ。って、すまん……話の途中に……」
「……馬鹿、みたいじゃないですか」
「え……?」
「……俺。空回りして、それで、八つ当たりして……それが、結果的に、風見さんの背中を押してしまったなんて、なんか……すっげー馬鹿みたいじゃないですか?」
彼の頬に、涙が伝うのを見た。
俺は、なにも言えない。慰めてやるのも違うし。叱るのも、たぶん、違うのだと思った。
どんな形であれ、彼は降谷さんのことが好きだったんだろう。
彼が泣き止むまでの間、俺は、その泣き顔を見つめ続けた。
警視庁の小会議室。部下二人との打ち合わせ中。
「そういえば、例の動画見せてもらったけど。お前ら、降谷さんと、あんなことしてたんだな」
とたずねれば、Aは黙り込み、Bはずいぶんと饒舌に、降谷さんとのできごとを語った。
「まあ、ゴールデンウィークのあの一件があってからは、お誘いもなくなっちゃったんですけどね。……だから、もしかして……とは、思ってたんですけど。降谷さん、風見さんを誘うようになったんですか?」
「……いや、そういうわけじゃないんだが。実は、俺……降谷さんに、告白をしたんだ」
「は……? え……? いや、そりゃあ、風見さん、降谷さんのこと好きだなあとは思ってましたけど、それって仕事としてとかじゃなくてですか? ていうか……彼女さんは?」
「彼女とは、別れた」
どうやら、この二人は、彼ほどには、降谷さんに入れ込んでいるわけではなさそうだ。
そう判断して、俺は、話を検討事項に戻す。Aはほっとしたような顔をし、Bは少しだけ不満げだったが、すぐに仕事に気持ちを切り替えたらしく、なかなか鋭い意見を、ぶつけてきた。
***
「降谷さん、もしかして、俺の部下と、なにかありました?」
夜の河川敷。仕事のデータのやり取りをしながら、風見が言った。
冷や汗が出る。
「……いや、なにも」
僕は、受け取った情報記録媒体をポケットに入れると、風見から目をそらした。
きっと、すべて、わかった上で、風見はこの話をしているのだと思った。短い夢だったと思う。別に、風見と僕は付き合っていたわけでも、恋愛感情を確認し合ったわけでもない。だけど、風見が、仕事上だけではなくて、私的にも僕のことを第一に考えてくれていたという事実が、うれしくてしかたなかった。
夢が終わってしまう。だけど、夢はいつか醒めてしまうから夢なのであって。だから、僕は、なにを言われても受け入れようと。そう覚悟を決めた。
「動画、見たんです」
「……動画?」
「俺の管理してるセーフハウスで。あなたが、AとB……それから彼と、4人でしてる……」
よりにもよって、あの動画をみられたのか。心拍数が一気に上がる。
「風見……」
「……なんです?」
「……今まで、ありがとうな」
さっさと、自分の手で、けりをつけてしまおう。僕は、そう思った。
「……ええ」
「すぐには難しいかもしれないが、君たちの異動についても、考えておく」
「……は?」
「……嫌、だろ? 僕は、君の部下たちと、あんなことをしていたんだぞ? しかも……君が二人に管理を手伝わせていたセーフハウスで……」
信頼関係が第一の仕事だ。それが、少しでも揺らぐのであれば、関係の解消について考えねばならない。
「……降谷さん、あの……お言葉ですけど」
「なんだ? 言いたいことがあるなら、どんどん言ってくれ」
「……俺、ショックはショックでしたけど。だからといって、自分やあいつらの異動については特に希望はしません」
「だが……」
「降谷さん……そうやって、ちゃんと話し合わないで、すぐに結論出すのよくないですよ」
「……だって、どう考えたって……」
「俺の気持ち、ちゃんと聞いてくださいよ」
風見は、自分の気持ちときちんと向き合える男だ。
彼の言葉は、本当で。だから、それを聞くのがこわい。
「……聞きたくない、と言ったら?」
「ふふふ……」
笑い声が聞こえる。絶対に、笑うような場面じゃないのに。
「どうした……? なにか、おかしなことを言っただろうか?」
「いや……。降谷さん、ようやく、本音を言ってくれたなって……」
「本音……?」
「俺に、嫌われたかと思って、怖かった?」
「え……? 怖い……というか」
わからない。僕は、どんな気持ちで、風見と向き合っているんだろうか?
「あなたも……彼も。あ、降谷さんの同期の……。二人して、本音で語るのが、へたくそすぎるんですよ」
「……それは、どういう意味だ?」
「降谷さん、彼と、ちゃんと腹を割って話したんですか?」
「え……?」
「関係を終わりにしてきたと言ってましたけど。俺の話をよく聞く前に、異動の話を持ちかけてきたように、勝手に話を進めて来たんじゃないですか?」
図星だと思った。
「彼も、不器用すぎるというか……なんというか。俺に、あんな、動画を見せておきながら、ぽろぽろ泣き出したんですよ。もうさ……ガキなんだなあって、思えてきて。そしたら、どうでもよくなりました。いや、どうでもよくないんですけど。すっげえ、ムカついてはいるんですけど。でも、子どものしたことだから、仕方ないっていうか……」
「……もしかして、君は、僕のことも子どもだと言いたいのか?」
そうたずねれば、風見は数秒間沈黙し、それから、ぼそぼそと語り始めた。
「……仕事においては、そんなことを思ったことありませんけど。プライベートにおいてというか……彼との関係を見ていると、そんな風に思いますね」
「……僕は、どうしたらよかったと思う?」
「……さあ? 人間関係に、正解不正解は、ありませんから……ただ」
「ただ……?」
「降谷さんが、別れ話を切り出すのがすっごい下手だったんだろうなってことは伝わってきました」
ドキッとした気持ちになる。下手、というか、僕は、手を抜き過ぎたのだ。
「……僕、本当は……彼と、離れがたいと思っていた」
「……そりゃあ、そうでしょうね。23歳からの付き合いでしょ? 彼とは?」
「うん……だけど、僕は、風見に告白された時、すごくうれしくて。だから、君に誠意を見せたいと思ったんだ。だって、君は、彼女と別れたのに……何もしないなんて、フェアじゃないように思えて」
あの日、僕が風見に告白されたことを伝えると、彼は、そのまま、店を出ていった。
「……それ、説明しました?」
「いや、君に、告白されたって伝えたら、彼は店を出て行ってしまったから」
「……追いかけなかったんです?」
「ああ。追いかけなかった」
風見が、苦笑いする。
「降谷さん。第三者が、勝手に、二人の関係や感情について憶測して語ると言うのは、非常にゲスなことだと承知したうえで、申し上げますが」
「うん……」
「たぶん、彼は、降谷さんのこと、好きだったと思うし。大事にも思っていたはずだ。それなのに、さすがに、それは、どうかと思いますよ」
「……君は、僕が、彼と向き合って、それで、どうなればいいと思ってるんだ? まさか……また、よりを戻せと?」
とんちんかんなことを言っている自覚はある。だけど、風見に諭されているという事実が、なんとなく面白くなくて、ついつい、反論を挟みたくなる。
「いや、仮に、お二人が、きちんと向き合ったところで、よりを戻すとかは無理じゃないですか?」
「じゃあ、どうしろと……?」
「……ちゃんと、話し合ってきてくださいよ」
「……君、それは、僕のために言っているのか? 僕が……大事な友達を失わないために……」
「いいえ、俺は俺のために言ってます。だって、あんまりにも、二人の関係がこじれてて……俺まで、ちょっと、おかしくなりそうなんで」
そう言われてしまえば、もう、何も言い返せなかった。
僕らは、ひどくこじれた関係で、そして、実際、風見に迷惑をかけている。
「まあ、だから、たとえ、けんかになったとしても。傷つけ合う結果になったとしても。一回くらい、ちゃんと、お互いの本音をぶつけ合ったらいいんですよ。友達なんだから。最後くらい、思い切り、けんかをしてきてください」
「……けんか、か」
けんかなんて、もう、何年もしていない。
数日後、僕はあの日と同じバーにいた。数年前のあの日、職場の上司によって準備された、高級ホテルの会員制の店。
果たして、彼は現れるだろうか。そして、今日こそ、僕らは、本音でぶつかりあうことができるだろうか?
そんなことを考えながら、僕は、スコッチのソーダ割を注文した。
終
【あとがきなど】終わりました。
俺降から、風降に至る物語……
pixiv派の方のために、そちらにも再録をアップする予定です。
文章の修正を多少入れる予定ですが、書下ろしや、内容の変更はありません。
なにをもって、ハッピーエンドかについては、人それぞれ考えが違うと思ったのですが……。俺君救済の可能性を残さないと、風降が絶対に幸せになれないと思ったので、俺君の救済を匂わせての終わりとなりました。
俺君は、バーに来るでしょうか?
来るんじゃないかな。ゆーて、あいつ、降谷に対して、未練たらたらだし。風見さんに仕掛けた攻撃の効果を確かめたいって気持ちもあるだろうし(俺君のこういうところが、本当にダメだなあって私は思います)……。
お気づきの方もいるかもしれませんが、サブタイトルの「再生」は、俺君とふるぴの「再生」という意味と……ハメ撮り動画「再生」のダブルミーニングです。
さて、この話の風見裕也は、100%に近い異性愛者なので……
いろいろ、うまくいったとして……。ふるぴが、風見さんに抱いてもらえるのは、半年後くらいじゃないかなって思ってます。
ふるぴも……その辺わかってるから、うまく誘えなくて……でも、どうしても、したくなって、泣きながらお願いします。そしたら、風見が「本音を言うのうまくなりましたね」って、褒めてくれて。それが、すごく嬉しくて……ふるぴ、やっぱり涙が止まらなくて。「そんなに泣かれちゃうと、やりづらいですね」って言われてしまって。がんばって、泣き止もうと唇をぎゅっと噛みしめます。その唇に、風見が、ちゅっと、初めてのキスをしてくれて……
そして、行為が始まると……ふるぴ、すっかり処女がえりしてしまって……
というような、とってもスイートな未来が予定されているので。この話は、どう考えたってハッピーエンドです。