不穏

〇俺×降から……風見の部下×降谷さんなどを挟みつつ。いつか、風降に至る物語(むなくそわるい)。
〇シリーズの都合上R-18をつけてますが、このお話に関しては、描写はほとんどないです。
連載形式(全5話を予定)
美しきビッチ、再びの続き

※執行人の羽場二三一の自死(偽装)について触れています。
※風見裕也(29)が……登場!

主人公:
28歳。降谷と再会してから半年くらい。
身長185+。
男根→かなりデカい。
性格→ついつい説教っぽいことを言ってしまう。基本的に、悪いやつではないが、ちょっとねちっとしている。


 

あの再会から。半年が経っていた。
繁華街のラブホテル。シャワーを終えてベッドに戻ると

「君、風見裕也って男のことを知っているか?」

身支度を整えながら、降谷がたずねた。

「……えーっと、風見さん? だよな。知ってるよ。一つ上で。確か、警部補だっけ? 課は違うけど、年が近いから、時々飲みに誘ってもらうこともあるし。まあ、あと、いつだったかの研修で同じグループだったこともある」
「ホォー? どうだった?」

シュルシュルと、ネクタイを締める降谷を眺める。
中のものを掻きだし、タオルで全身を清拭した後とはいえ、シャワーも浴びずに、帰宅する気なのか……と少しだけあきれる。

「どうだった……か。まあ、いい人だよ? んー……強いて言うなら、公安に対してプライドを持ってる感じはあるかな?」
「プライド?」
「まあ、刑事部のことは、あんまりよくは思ってないみたいだ」
「そうか」
「……お前さー」
「なんだ?」
「もしかして、風見さんのこと、次のターゲットにしてるわけ?」

また男を一人増やすんだなとか。そんなことを考えて、少しばかり、感情が揺らいだ。

「……いや、それはない。ただ、今度、仕事で組むことになってな」
「それって……ゼロの右腕ってやつか? ……でも、お前は見境ないからな」
「いや、たぶん、彼とは寝ないよ」
「ふーん……」

確かに降谷は、きわめて近しい人間とは関係を持たない傾向がある。
降谷が、俺に体をゆるすということは、俺に対しては、心をゆるしていはいないという証左でもあった。

「降谷さ。彼女を作らない理由はもうなくなったのに、俺との関係を続けるのはなんで?」

そんな意地悪な質問をしてしまったのは、嫉妬のせいだろう。
初恋の人が亡くなったと聞かされたのは、再会して間もなくのことだった。

「君って、本当に……。まあ、いいか。確かに、当初のような理由はなくなったかもしれないが。僕は立場上、決まった女性を作るのは難しい。それに、この関係には、お互いにとって利益があるはずだ」
「……まあ。お前とのセックスは悪くないけど」

そう。確かに悪くない。降谷は、俺が好き勝手抱くことを望んでいる節があるし。今までに相手をした誰よりも、濃厚なセックスを仕掛けてくる。
けれど、俺は、降谷を未だに少しだけ好きで。だから、どうしたって、この関係を純粋に楽しむことができない。
服を着ながら、一つため息をつく。
どうして、俺じゃないのだろうと考える。

風見さんはあの年で警部補になった人間だし。人格的にも、悪い人間じゃない。
研修で組み手をやったときも、相手をばっさばっさ投げ飛ばしていた。講師からは、力づくで投げ過ぎだとか、体の使い方が堅いと指導を受けていたが。それでも、あれだけ、投げ飛ばせたら、さぞかし気持ちがいいだろうなと思って、その様子を見ていた。
俺はと言えば、平凡な成績で。ただ、受け身の形については褒められた。
風見さんが適任であることは、まず間違いない。だけど、俺だって、風見さんほどではないにせよ、それなりの実績がある。

この人事に対する不満をぶつける相手は、降谷ではない。そもそも、この件について、本来、俺は知る権限を持たないはずだ。
にもかかわらず、降谷が、この手の話をするのは、俺を信用しているからに他ならない。しかも降谷は、口止めをすることすらしない。
もちろん、俺だって、このことをだれかに口外するつもりはないし。降谷との関係を誰かにばらすつもりもない。降谷もきっと同じだ。
学生の頃、降谷は、他の男がいることを隠そうとはしなかったが、具体的に誰と関係を持っているかについて、明かすことをしなかった。(とはいえ、閉鎖的な空間の中で、ある程度のことは筒抜けになっていたが……)

「僕が彼女を作って、君はどうするんだ? また、彼女を作るのか?」

降谷が、ジャケットを羽織る。

「例えば、君に想っている女性がいたとして。それで、僕との関係を切りたいと言うなら、いつだって、その旨を申し出てくれて構わない。別に、僕たちは……恋人同士とかではないのだから」

そんなことを言うなよ。
そんな言葉を、投げたかった。
だけど、三時間の休憩時間は間もなく終わりを告げようとしていて。忙しいだろう降谷の時間を、これ以上、奪うつもりにはなれない。

「……悪かった」
「別に? 君が謝ることではないだろう?」

ジャケットを羽織る。

「……謝りたいんだよ」
「ふーん……どうして?」
「説教めいたことを言って、場をしらけさせたってこと。一応、自覚はしてる。だから……その、すまん」
「かまわんよ」
「そうか?」
「僕は案外、君の説教が好きだからな……さて、そろそろ時間だ」
「ああ」

降谷が、慣れた手つきで、料金精算機に札をさしこんでいく。降谷が右手を差し出す。千円札を三枚渡せば

「二千円でいい」

と、一枚、返される。
ホテルの代金を、降谷は、いつも、少しだけ多く出す。千円とかそんくらい。ほんの少しだけ、多く支払う。
おごりだったのは、再会の日のホテル代だけで。その後は、いつも、だいたい、そんな風にしていた。
再会前は、きっちり割り勘か。たとえどちらかが多く出したとしても、次は、交代で、もう一人が多く支払うようにしていた。
だから、なんだということはないけれど。俺は、そのことが、ほんの少しだけ気になっていた。

 

それから、三か月が経った。

ある男が自殺した。
公安部による異例の取り調べを受けた直後のことだった。

無論、マスコミを含む外部に漏らさぬようにと、緘口令が敷かれた。
警視庁公安部のほぼ全員が、降谷だとまでは特定できなくても、ゼロの捜査官による取り調べの末に起きた事件であることを知っていた。

再発防止の一環として、取り調べに関する研修が行われた。
ちょうど、取調室の可視化……ことに監視カメラ映像に関する取扱いについて考えていかなければならない時期と重なっていた。だから、三度設定された日程のうち、必ずどこかで研修に参加することを義務付けられた。

その会場で、久々に風見さんを見た。
以前は、時々、飲みに行くこともあったし。一時、似たような案件を抱えていたことから、課は違うとはいえ仕事上の付き合いもそれなりにあった。
だけど、降谷のフォローをするようになってから、業務量が増えたのだと思う。以前は、休憩スペースや廊下で見かけることもあったが、最近は、庁内で彼の姿を見かけることがほとんどなかった。

風見さんは、憔悴しているようだった。

だが、誰もそのことに気を留める様子はなかった。警視庁公安部において、風見さんが降谷の右腕であることを知る者はほとんどいない。俺だって、本来はそれを知らないはずの人間だ。
警察庁の職員が作成した、馬鹿みたいに分厚い資料をめくりながら、三時間の研修を受ける。
ふと、風見さんを見れば、最前列の席で、誰よりも真剣に話を聞き、そして、時折、質問をしていた。

研修が終わった後、風見さんに声をかけた。
別に、そんなことしなくたっていいのに。

「大変でしたね」

と三時間の研修の疲れをねぎらうように声をかければ。風見さんは、ピンときた様子で

「……あの人から、何か聞いてるか?」

と、俺にたずねた。
聞いているか、聞いていないかで言えば、何も聞いていない。
ただ、例の取り調べがあった二日後に、降谷がめずらしく我が家にやってきて。それから、何も言わずに、俺の上にまたがった。
ただならぬ雰囲気を感じた俺は、何も聞かず、ただ、下から、降谷の気持ちいいところをめがけて、ペニスを突き上げた。それから、三日して。例の男の自殺の件が耳に入り。それから、あの日の降谷の様子から、何があったのかを察した。

「いいえ。なにも」

会議室から、人がどんどんはけていき。残りは俺達だけになっていた。

「……降谷さんは、君のこと、頼りにしてる。だから、もし、話を聞けそうだったら、聞いてやってくれ」

降谷は、この人に、俺のことを話しているのか。冷や汗が噴き出た。優越感と嫉妬心が同時に押し寄せてきて、余計なことを言ってしまいそうだ。
降谷は、俺達のことを、どこまで、風見さんに話しているのだろう?
確かめたいような、確かめたくないような。自分でもどうしたいのかわからない。

「風見さん」
「ん……?」
「あの、また、今度。お時間できたら、飲みにつれてってくださいよ。最近全然、顔を見ないから……。降谷のことばっかじゃなくて、俺達のことも、たまにはかまってくださいよ」

果たして、俺は。
隣の課の一つ年下の後輩として。適切な受け答えができていただろうか?

「仕方ないな……。そういえば、俺の部下とは面識あったっけ?」
「ああ、あの二人なら。ほら……いつだったかの年末。適当に、公安の若手で集まれそうなやつで、忘年会やったじゃないですか?」
「ああ、そういや、あのとき、君もいたっけな」
「まあ、あと、例の案件でも、資料のやり取りなんかしていましたから」
「そっか。じゃあ、あいつらも誘って、また一杯やるか?」
「いいですね……!」

にっこりと笑って見せる。
警察官という仕事。それも警視庁公安部という男社会の中を何年か生きれば。必然と、こういう、かわいい後輩としての振る舞いが身につく。
俺は「ほんの数週間前、あなたの上司を抱きました」。腹の中では、そんなことを考えながら。そのうち飲みましょうという、ほとんど社交辞令のような約束を取り付けた。

 

【あとがきなど】

まさかの(?)執行軸でした……
俺君のだめなところと、風見さんのよいところ。

そして、降谷零の弱さ……のようなものを詰め込んでみました。
俺氏は……降谷の様子がおかしいと思っても、とりあえず、全力でセックスしちゃうところが、本当にだめだし。風見さんに対する嫉妬も、もうちょっと、ストレートに表出すべきだよなって思ってます。
風見裕也……公安部の若手連中から、それなりに一目置かれてて、それなりにつき合いやすい先輩として、慕われてたらうれしいな……って願っています。
降谷さんは、俺氏のえぐいセックスに、すくわれてるところはあるんですけど。それを言葉にしないから……また、拗れていくんですよね。

次回以降、このお話は、さらに後味が悪い方向に進んでいきます。

 

 

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