夏の火遊び

初出:Pixiv2021/8/29
待ち相2の展示です。

【確認事項】
〇風降
〇風見裕也がそこそこ遊んでる
〇つき合ってない二人
〇ひと夏の間、体だけの関係を持つ
〇甘くはない?
〇そんなにえろくない!


 

火遊びすると、やけどする。などと言う常套句があるが、火遊びと、火の適切仕様を区切る明確な定義とはなにか。手持ち花火は火遊びか? キャンプの焚火、キャンドルポッドの小さな炎、日本酒で行うフランベ。
それらは、日常に、不可欠な火ではない。だが、豊かな生活には、必要な火だ。境界を明確にすることはできない。また、行為者が誰であるかという視点を欠かすこともできない。
子どもがやれば火遊びだが、大人ならば適切な火の使用になることも、大いにある。

風見裕也の大きな手が、降谷の背中をさすった。
背面からの挿入。ささやかな気づかい。
果たしてこれは、火遊びなのだろうかと、降谷零は考える。後ろから、突かれる。風見裕也の、立派な体躯に見合ったペニスが、降谷の後孔を穿つ。
三十歳の男と、二十九歳の。それも、独り身の二人が、エアコンのきいた部屋で、それでもなお汗を垂らしながら、行為に没頭する。
右腕との行為に降谷は思う。自慰の延長のようなこのセックスは、果たして火遊びなのか、それとも、性処理の一環に過ぎないのか。

「あ……っ……ん……っ……はあ……あ……」
「降谷さん……そろそろ、いいです?」

風見裕也に、責め立てられて、降谷の思考回路はほどけていく。

「ん……来い……君の……好きにしていい……っ」

体が熱い。降谷は、快楽を追うことに集中した。
うつぶせの体が、シーツにこすれる感触。ぽたぽたと、背中に落ちてくる、風見裕也の汗。結合部から、せりあがってくる、じわりじわりとした性のしびれ。
これは、自慰行為ではない。と、降谷は思う。一人では、こうはいかない。風見によって、高められるからこそ得られる性のよろこび。右腕、とはいえ、しかし二人は一心同体ではない。

「あ……っ……でる……っ」

風見の腰の動きが激しくなる。ドンドンドンと奥を三回。降谷は、シーツをかき集めながら、ぎゅっと、身体をこわばらせた。

「……っ……あ……んん……っ」

目をつむり、唇をかみ、喘ぎ声がこぼれぬよう降谷は息を止めた。ずっと、息が上がっている。それに加えて息を止めれば、酸素が遠のいていく。溺れる、と、降谷は思う。だが、ここは、風見が用意したシティホテルのベッドの上で、溺れるはずがない。
しかし、降谷は、身体をじたばたさせながら、水面を目指した。それを、ぎゅっと押し固めるように。風見は降谷をベッドに押さえつける。

 

 

七月、下旬。
発案者は、降谷だった。
人がいない場所を選んだ結果たどり着いた日当たりのいい公園のベンチ。正午、熱中症アラート発令の都心は、気温摂氏32度・湿度59%。
データのやり取りを終えた風見と降谷は、ベンチに腰掛け、ペットボトル飲料を飲んでいた。
500のペットボトルが、あっという間に空になる。

『こうも暑いと、気がおかしくなってくるな……』
『そうですね』
『部下であるはずの君と、夏の過ちを犯したくなるほどに、今日の僕はちょっと変だよ』
『……』
『いや、これは、本当に、ただの気の迷いであるから。気にするな。そういうわけで、僕はそろそろ帰るよ』

降谷には、ミスティフィカシオンの素質がある。自覚しているのか、無意識なのかは、わからない。しかし、降谷が、風見を煙に巻くということは、決してめずらしいことではなかった。
地面からの照り返しを受けながら、ぼんやりとした口調で風見は言った。

『なら、俺の部屋に寄っていきませんか? 夏季休みを半日ずつでも消化しないといけなくて。今日の午後は休みを入れていたんですよ』

その言葉が、冗談だったのか、本気だったのか。今となってはもう、風見自身も思い出すことはできない。いずれにせよ

『じゃあ、お言葉に甘えて』

降谷が、そう答えたのは確かなことで。その返答に、誰よりも驚いたのが風見裕也だった。

二人は、平日昼間の地下鉄に乗った。ガラガラの車内。しかし、二人は座ることをせず。つり革を握り、二駅を移動した。
駅と駅の間の数分間。降谷は、窓ガラスに映った自分たちの姿を見つめた。
風見裕也は、まごうことなき男で。そして、降谷だって、どう見ても、男の体つきをしていた。
地上に上がり、降谷は、風見の数歩後ろをついていった。会話はない。ただ、ただ、セミの鳴く街路樹の木陰の中を、二人は静かに歩いていった。
目的地の三十メートル手前。コンビニの駐車場の前で風見が踵を返した。

「少し、部屋が散らかっているかもしれないので。十五分ほど、この店の中で待っていてください。迎えに来ますから」
「わかった」
「……もしも」
「うん」
「十五分後、あなたが、ここに居なければ、俺はあなたを追いかけたり探したりはしません。ただ、ビールを一本買って帰ります」
「そうか」

降谷は、くるっと進路を変えコンビニに向かった。
自動ドアが開く。入店を知らせる電子音。エアコンのひやりとした空気が、降谷を迎え入れた。
店内をぐるりと回りながら、降谷は、十五分の猶予の中をゆっくりと歩いた。一時間の四分の一。風見の部屋に行くべきか、いなか。
しかし、答えは最初から決まっていた。そうでなければ、あんな言葉を口にするはずがない。
降谷は衛生雑貨の棚の前で、足を止めた。避妊具は買うべきか。新品の下着を買った方がいいのか。終電を逃し、急遽男の部屋に泊まることになった女子大生のように、降谷はそんなことを考える。
迷った末、ボクサーパンツを手に取る。それから、汗拭きシートを一つ。
平日昼のコンビニは、会社員や、学生、近所のお年寄りでにぎわっている。降谷は、人々が昼食を買う様を眺めた。

おにぎりに菓子パン、一リットルの紙パックのお茶を買う作業着姿の男。
カップスープと、サンドイッチに、紅茶味の豆乳を買うOL。
おにぎりと、漬物、それから卵と少しの野菜を買う、シルバーカーの高齢女性。

作業着姿の男はスマートフォン決済で支払いをした。
OLは現金。
高齢女性はプリペイドカードに二千円を入金してから、電子マネーで品代を払った。

そういう、なんてことない日常風景を眺めながら、降谷零は考える。二十九歳の私立探偵兼喫茶店アルバイト男性が、平日の昼間、コンビニで買うものは何か。そして、支払い方法は何を選ぶのが妥当だろうか。
降谷は下着を棚に戻し、冷蔵庫から、ミネラルウォーターを手に取った。

 

 

「中で待っていればよかったのに」

店の前でミネラルウォーターを飲みながら、スマホをいじる降谷に、風見が声をかける。

「仕方ないだろ。安室透は、目的を持たずコンビニの店内をうろうろする男じゃないんだ」
「……安室透だって、コンビニを待ち合わせ目的で使うこともあるでしょう?」
「中、こんでて……落ち着かなかったんだよ」
「……で、これは、店で待っていたことになりますか? それとも、俺は缶ビールを買って一人で来た道を戻るべきでしょうか?」
「そうだな。パンツを買ってきてくれ」
「は……? パンツ……ですか?」
「ああ。黒のボクサーのLサイズ。税込みで七百五十円だ」

降谷はごくごくごくと、ペットボトルの水を飲みほし、空き容器をゴミ箱に放った。

「安室透は、昼間のコンビニで、新品のパンツを買わないんだ」
「……そうですか。では、少々お待ちください」

降谷は、風見を待つ間、買ったばかりの汗拭きシートで、顔と首元をぬぐった。首元がすーっとするのを感じながら、真っ青な夏の空を見上げた。

数分後。
「お待たせしました」と言いながら、風見が差し出したものは、包装にリンゴの写真がプリントされたアイスバーだった。

「……パンツは?」
「ああ、買いましたよ。でも、使うのは今じゃないですよね? しかし、この暑さ。……アイスはすぐに溶けます」
「……そうか」
「あ、ソーダの方がよかったですか?」
「いや。そっちは君が食べるんだろ?」
「好きなんですよ。このアイス」

アイスをかじりながら、数十メートルの道のりを歩く。
降谷は風見の後ろを一メートルほど離れて歩いた。セミが鳴いている。風見のTシャツには、汗がにじんでいた。

ベッドと、本棚と、テレビが置かれた風見の自室。

「すみません、ソファとかないんで。とりあえず、このクッションのとこに座っててください」

マンションのエレベーターの中で、アイスを食べ終えてしまった風見は、部屋の中をばたばたと動き回っている。
降谷は体育座りをしながら、残り三分の一になったアイスをかじった。
折り畳み式のローテーブルの木目を眺めながら、降谷はテレビをつけた。そこへ、トレーを持った風見がやってくる。

「とりあえず、麦茶。水分取らないと」
「ありがと」

丸っこいペアのグラスに、タイルモザイクのコースター。麦茶の上には氷が三つ浮かんでいる。
意外なもてなしに、降谷は、ほんの少し驚く。

「なんだ。缶ビールじゃないのか」
「……今日、飲めるんです?」
「いや、飲まない方がいいだろうな」

降谷は、棒から滑り落ちそうになるギリギリのところで、アップル味のアイスを食べ終え、麦茶のグラスに手を伸ばした。
その様子を見て、風見もまた、麦茶を飲む。

「そうだ。これ」

降谷は、風見に汗拭きシートを手渡した。

「着替えたばかりだろうに。Tシャツに汗がにじんでいる」
「ああ……本当だ。今日は暑いですからね。ありがとうございます」

まず、風見は眼鏡を外した。それから、汗拭きシートを一枚手に取り顔を拭く。
エアコンのファンが回る音。降谷は、麦茶のグラスを握りしめた。
顔の次は、首。それから、腕を拭き終えたところで風見が言った。

「もう一枚、いただいても」
「どうぞ」
「すみません」

二枚目のシートを手に取ると、風見は、Tシャツの裾を十センチほどまくり上げ、それから胸元と、脇を拭き始めた。ちらりと見える、腹直筋と、腹斜筋。降谷は、その筋の凹凸に目を奪われた。
コトン。
降谷は、コースターの上にグラスを置いた。そして、身体を前傾させ、風見のへその上のあたりに手を伸ばす。

「降谷さん」

テーブルの上に、汗拭きシートを投げ、風見は降谷の手首を捕まえる。

「暑いですね」
「ああ、暑いんだ。とても」

風見が立ち上がる。手首を掴まれた降谷も、それに従う。風見の、空いた方の手が、降谷の背中に回る。そして、数歩移動した先には、ベッドがあった。
ゆっくりとした動作で、二人は、腰を下ろす。

「降谷さん、あの……」
「……夏、だから。僕も、来年三十だ。……夏をいいわけにできるのは、二十代の特権だろ?」
「……いや、俺、三十ですけどね」
「そうだったな」
「ええ」
「でも、まあ、なんだっていいさ。僕の”遊び”につき合ってくれよ。夏休暇中の刑事さん」

降谷の誘いに、風見はキスで答えた。

 

 

 風見が開封済みの箱から、コンドームを三つ取り出した。コンビニで買った新品が出てくると思っていた降谷は、少しだけめんくらった。
その様子に気がついた風見が、微笑を浮かべる。

「……俺にだって、性生活というものがあるんですよ」

もちろん、降谷はわかっていた。
服を脱がせるときの風見の手つき。キスをした後、首をほんの少し傾げながら、顔をのぞき込んでくる仕草。後ろをほぐすときの指の動き、声掛け、背中を撫でる手のひらの優しさ。

「君は、理解が早くて、助かるよ」

降谷零は遊びにしたい。今日のできごとを、暑い夏の日の、過ちにしてしまいたい。
風見が女性たちとどのような、関係を持ってきたか。あるいは、関係を持っているのか。降谷は、わかっている。そして、わかっているからこそ、この遊びを持ちかけた。

「深呼吸、できます?」
「うん……」
「力、抜いて……そう、上手。ここ、窓も防音だし、壁も結構、厚いので声は我慢しなくて大丈夫ですよ」
「うん……っん……」
「こら……声、我慢すると、体に力はいっちゃうから、だめ」
「あ……っあ……きつ……んん、あ……あ……ぁぁぁ」
「半分、入ったから、ちょっとここで止めますよ。ほら、深呼吸して」

風見のベッドの上で、四つん這いの降谷は、枕を抱き寄せた。
取り替えたばかりの、枕カバーからはほんのりと洗剤の匂いが香る。深呼吸をしながら、降谷は、その洗剤の匂いの奥にある、雄の匂いをかぎ取った。

「ん……っ……はー…ぁ……っ……あ。ふ……はぁー……っ」
「うん……もっと、リラックスしてください。これは、遊びなんですから……気持ちよくなって、いいんですよ」
「あ……かざみっ……も……動いて」
「しかし……」
「これは……遊び……っなんだ、から……君も……っん……気持ちよく……な……っあ……あ…ああぁぁあ」
「んー? どうしました」
「あ……っ、どうも……しないっ……」

風見が腰を揺らす。その緩急やリズムに、降谷は、四つん這いを保つことができない。

「……ほら。おしり。下がってきましたよ」
「あ……っ……んん」

体をうまく操れないもどかしさ。降谷は、ゆっくりと腰を上げた。

「ほら……しっかり、俺のことも気持ちよくしてください……っほら……ほら」
「あっ……あ……ぁあん」
「ほら……腰。ちゃんと……」

降谷は、風見の下腹部に自分の尻を、すりすりとこすりつけた。

「……ああああっあ……」

エアコンの設定は、二十六度。
にもかかわらず、風見の顎を汗が伝う。ぽたぽたぽたと、降谷の背中に、水滴が落ちた。

「あああっ……あ……でちゃ……でちゃうっ……あ……あぁああぁっ」
「……っすっげ……ところて、ん」
「あ……ぁっあ」

降谷は、ぺたんと腰を下ろしてしまった。
風見は、それに従って、降谷の背中に覆いかぶさる。

「あ……っや……っああ……っああ」
「ん……? 気持ちいいでしょ?」
「あ……っあ……わかんな……い……僕……へん、に、なっちゃ……う」
「何を言っているんですか?」

降谷の体が弛緩したのをいいことに、風見は性器を、限界までねじ込んだ。

「最初から……っあ……今日の、あなたは、へ、ん……っでしたよ」
「あ……ああ……おなか……だめ……っ」
「暑いんです、今日は」
「あ……っあ……ああ、あつ、いっ……あついよ……」
「コンビニの店内で涼んでも。冷たいアイスを食べても……っ……あなたの頭は冷えなかった……っ」
「あ……っ……ごめんなさい……っ……」
「だからね……この熱を解放するためには……こうやって……っ」
「あ……っあ……かざみっ……」
「燃え尽きるまで……ヤるしかないんです……っ」

カランと。
麦茶のグラスの中の氷が溶ける音がする。
ベタッ……ベタッと、肉と肉がぶつかり合う音。
降谷の手が、シーツをかき混ぜる。
二人の雄の、荒々しい息遣い。そして、つやを帯びた、降谷の小さな叫び声。

こうして、夏が終わるまで。
二人の火が消えるまで。
降谷零は、風見裕也との、不埒な同性交遊を続けたのだ。

Continu to next summer……?

 

【あとがきなど】

祝・待ち相2開催!!!
今回、新刊も全年齢!
ペーパーラリーも全年齢!
twitter連動企画も全年齢!
夏なのにR-18がない……だと?????????
夏だぞ……?

でも……時間がない……!!!!!!

というわけで、久々に、手癖で書いた、甘々じゃない風降です。
私は、降谷零のえろかわいさを表現したくて、日々七転八倒していますが。
そもそもとして、R-18とか、すけべなお話を書くのが苦手なんです(断言)

したがって、そういう話を書こうとすると、筆の進みがゆっくりになります。
だから、今回は、えろかわいさの追究を放棄して、乾いた風降を書いてみたよ♡

ちなみに、この降谷零は、夏が終わった後も

「台風は南国の大気によって、生じる自然現象だ……。つまり台風の今夜、東京は実質夏!」

って、言いながら、台風の夜のセックスをおねだりするし。

クリスマスの時期に、オーストラリアの真夏のサンタのニュースを見ながら

「南半球は夏。そして、地球は一つ……つまり、クリスマスの今日も実質夏!」

って、言いながら、クリスマスセックスをねだるし

正月は、芸能人のハワイ旅行のニュースを見ながら

「赤道付近は常夏。そして、赤道付近の国と東京も、同じ空でつながっている。つまり、正月も実質夏!」

って、言いながら、姫はじめを、リクエストしてくるので。
夏の火遊びは、ずっと火が付いたまま、続いていくのです。

風降……心のどこかに、永遠に終わらない、夏を秘めながら……暇さえあれば、セックスしてて……くれ
(寝不足故……自分でもよくわからないことを言っている)

 

 

 

 

 

1