半童貞と百戦錬磨

初出:Pixiv(2020.12.27)

この話の風見裕也(もうすぐ三十歳)は童貞ですが……

〇彼女と途中までしたことがある
〇風俗を使ったことがある
〇力加減を間違えた自己処理を続けてきた結果、膣内射精障害一歩手前

という感じです。


 

彼女がいたことがある。
途中までしたこともある。
キスをしたことも、口でシてもらったこともある。手マンだって少しはしたことがあるし、ゴムをつけて、入り口んとこに先っぽを添えたこともある。
でも、どういうわけか、その先に行けたことはなかった。

旅行に行ったはずの両親の突然の帰宅だったり、女の子の気持ちの変化だったり……。
そういう様々な事情で、俺は最後までしたことがなかった。
大学を卒業して、仕事が忙しくて。彼女もしばらくできなくて。
二十五の時、いっそ風俗で……なんて思ったりしたが、結局、最後までする勇気が出なかった。

童貞と呼ぶにしてはきれいな体ではなく。でも、経験者と呼ぶには肝心の行為が欠けている。俺は、そういう中途半端な存在だった。
だから、自分の中では半童貞という言葉を当てはめている。その言葉が一般的であるかはわからない。でも、自分の中途半端なステータスを示すのに、ぴったりの言葉だと思う。

半童貞の俺は、性行為に対して憧れを抱いていて。そのくせ、いざとなれば簡単に童貞を捨てられるという根拠のない自信を持っていた。
三十歳を目前に控えた今、変な焦りのようなものはなくて。いつか、そういう機会に恵まれたら、絶対にいい初体験にしてやろうって考えている。
未知の体験だから、よくわからないけれど。大事な人と見つめ合いながら、お互いの肌を重ね合わせて、たとえ薄いゴム越しであったとしても、自分の遺伝子を解き放つことができたとしたら。それは、きっと、すごく幸せで。世界の色が違って見えることさえあるんじゃないかって……そんな、ロマンチックなことを考える。

 

一方。
数か月前に、俺の上司になった男は、性に対してドライな考えを持っていた。

――性感帯と呼ばれるか箇所を刺激し合い、空洞に突起物を挿しこみ行き来させること

おそらくセックスのことを、その程度にしか考えていない。
だから、目的達成のために、平気で男に抱かれる。

俺は、降谷零という一つ年下の上司に恋をしているわけではない。また、仕事でいろいろな人間模様を見てきた。だから、俺は半童貞ではあるけれど、性に対して清廉潔癖な考えを持っているわけではない。
だけど、降谷さんは大事な人だ。
俺はこの人のすごさを知っていて。手製の弁当を食べたことがあって。信念を貫こうとするこの人の在り方を好ましく思っている。
降谷さんの右腕になって、まだ数か月しかたってないけれど。降谷さんは大事な人だ。心の底からそう思っている。

仕事で体を使っているというデリケートな話を、降谷さんは随分あっさり俺に話した。それこそ、出会って一週間とか、それくらいのタイミングで。

「そういえば、僕、仕事で男に抱かれることがあるんだが」

なんて。まるで、世間話をするかのように。

――降谷さんにとって、体を使うことは、手段の一つに過ぎない。

頭ではわかっていても、気持ちが落ち着かなかった。
高校生の頃、同じ学年の女子に援交してるという噂があった。俺はその子と話したことなんて一度もなかったのに、すごく複雑な気持ちになった。
降谷さんが、どこかの誰かに抱かれているという事実は、そういう感情を思い起こさせた。

もっと自分を大事にしてほしい。そんな、説教じみたことを思う。
けれど、仕事に追われて、睡眠負債を積み上げ、食事をおろそかにすることと、売春じみた行為で仕事を優位に進めること。そのどちらがより自分を大事にしていないかなんて、半童貞である俺が断ずることはできない。
性行為に理想を抱いている自覚はある。俺の意見は、多分、偏っている。だから、その件について、あまり考えないようにしていた。

 

切り込んできたのは、降谷さんの方だった。

「なあ、君の同期から。君が童貞だと聞いたのだが。そうなのか?」

仕事終わり。個室の居酒屋の掘りごたつ席。俺たちは、膝と膝を突き合わせ、もつ鍋でビールを飲んでいた。そんな時に、いきなり。きゅうりの浅漬けを頼むかどうか確認するのと同じくらいの軽さで、降谷さんは言った。

俺は、童貞であることを隠してはいなかった。
二十五くらいまでは、隠したいと思っていたけれど。(今となっては、そういう気負いがよくなかったように思う)
中ジョッキに残ったわずかなビールを飲み干し、喉を湿らせて、俺は言った。

「ええ、そうですよ」

降谷さんが、ちょっと気まずそうな顔をする。
やめてほしい。これをそういう重い話にしないでほしい。

「そうか……じゃあ、君には、いやな思いをさせていたかもしれないな」

注文用のタブレットを操作し、アルコールのページを開きながら、俺は答える。

「いやな思い……ですか?」
「ああ。君みたいに、身持ちの固い……というか。真面目な男からしたら、僕のしていることなんて、虫唾が走るだろ?」

焼酎の銘柄を眺めながら、降谷さんに悟られないよう、呼吸を整える。

「いや、別に、俺は身持ちが固くて、今の今まで童貞だったわけではないですよ。途中までしたこともありますし。風俗のお世話になったこともあります」
「そうか? とはいえ、身近な人間が、売春まがいのことをしているというのは……」

タブレットを膝の上において、降谷さんの顔を見た。
金色のまつげで縁取られた、美しいブルーが、不安そうに俺の表情をうかがう。俺は驚いた。だって、降谷さんはドライな男で、体を使って仕事をすることに、特別な感情を持ったりしない。そう思っていたから。

「降谷さん、あなたが、どんな手段を使ったとしても。それが、あなたが、必要だと判断し、自由意志の上で行ったことに対して、俺はどうこう言うつもりはありません。……ただ」
「……ただ?」
「大事な人が、そういうことをしている……と思うと、ほんの少しだけ。ほんの少しですよ? 複雑な気持ちを抱くこともあります」

降谷さんのつま先が、俺の足の甲をつついた。
びっくりして「うぇ?!」などと、間抜けな声が出てしまう。

「なあ、風見……僕が筆おろしをしてやろうか?」
「は?」
「いやか?」

いきなりの提案に、頭が回らない。調子よく空けた中ジョッキ七杯分のアルコールが、冷静な思考を邪魔する。いやか、そうでないか。その二択に絞れば、いやじゃない。
精通を迎えてから、十七年くらいだろうか。誰かの中で果てることに、ずっと憧れていた。
降谷さんの顔を見る。とても美しい。
だから、というわけではないけれど。

「いや…では、ありませんね」

俺は、そんな風に答えてしまった。

 

店を出て、当然のように、ホテル街に向かおうとする降谷さんをあわてて引き留めた。
冷たい空気が酔っぱらって火照った顔を、いい感じに冷やしていく。そして、ちょっとだけ冷静になった俺は、一生に一度きりの晴れ舞台のために、必要なことは、きちんと伝えていこうと決意した。

「俺の家か、降谷さんの家がいいです……もしくは、旅館業法の許可のものと営業している、そういうちゃんとしたホテル」

その言葉に、降谷さんが笑う。

「君、見かけによらず、かわいいことを言うんだな」

なんとでも言えばいい。
下手したら、中学時代に童貞を卒業していそうな、このモテ男に俺の気持ちはわからない。

「初めて、ですから。こうなることがわかっていれば、もつ鍋じゃなくて、寄せ鍋にしてましたよ」
「もつ鍋、美味しかったけど?」
「にんにく……」
「ああ」

降谷さんが、ケタケタ笑う。そんでもってタクシーを指さしながら「じゃあ、君んちにしようか」なんて、話を進めていく。
タクシーに乗り込む。行き先を告げ、膝の上に手を乗せる。
いよいよ、そういうことになるんだと思ったら、背筋が伸びる。

 

タクシーが停車する。降谷さんが、財布を取り出そうとするのを制止して、素早く、スマホで支払いを済ませる。
タクシーを降りた後、降谷さんは「僕が払ったのに」と言った。でも、そういう問題じゃない。俺にとっての初体験はすでに始まっているのだ。やっぱり、少しは、男らしいところを見せたいじゃないか。(初体験の相手が、年下の上司で、しかも男という時点で、そんなこと気にするのは、おかしいかもしれないけれど)

部屋のドアを開けて、玄関の電気をつけた瞬間、降谷さんが俺に抱き着いてきて、眼鏡を奪った。
そして、キスをされる。

――いや! だから! そうじゃなくて!!!

もうじき三十になる半童貞の、微妙な男心。それに対する配慮が一切かけている。
キスをするなら、俺がリードしたい。
数年ぶりのキス。ファーストキスじゃないとはいえ、すごくドキドキした。でも、ファーストキスじゃないから、冷静に対処できるところもある。いくらかの経験と、たくさんの知識を駆使して、俺はキスの主導権を奪い返そうと躍起になった。
腰に手を添えて、顔の角度を変えながら、舌でいろんなところを舐めてみる。にんにくのきいたもつ鍋に、たくさん飲んだビール。でも、それはお互い様だったから、においとかそういうのは、よくわからなかった。

(どうしたら、あなたは気持ちよくなる? どうすれば、俺に身をゆだねたいって、思ってくれる?)

必死に。
だけど、必死になりすぎないように。
俺は、俺にできそうなことを、確実にこなしていく。
降谷さんの息が荒くなってくる。そんで「ん…」とか、そのような色っぽい音が漏れ聞こえてくる。
キスを中断する。降谷さんから眼鏡を奪い返し、大急ぎでかける。でも、降谷さんは俺の肩に顔をうずめてしまったら、表情を確認することができなかった。

「なあ……? 君って本当に童貞?」
「ああ、キスは初めてじゃないんです。セックスも、途中まではしたことがあるので」
風呂の準備をと思って、浴室に向かおうとした俺を降谷さんが制止した。そして、せめてシャワーを……と思った俺のネクタイを引っぱり

「ベッドはどっちだ?」

と、聞いてきた。

「あっちです」

寝室を指さす。俺は、散歩嫌いの犬みたいに、ずるずると引きずられ、ベッドまで連行された。
ムードも何もあったものじゃない。
とりあえず、ジャケットを脱いで、ネクタイを外す。そして、降谷さんが、俺のベルトを外そうとするのを、必死の抵抗で止めた。

「やっぱ、やめておくか?」
「いえ、そうではなくて……ですね」
「そうでは、なく?」

言うべきか、いなか。
少し迷ったが、一生に一度の晴れ舞台。やっぱり、少しでも、思うような初めてでありたい。
相手は、恋人ではないが、赤の他人ではない。片想いの相手でもないが、それでも俺にとって大事な人。性別は男だが、とびきりに美しくて、大変魅力的な体つきをしている。
三十間近の半童貞男が初めてを捧げる相手にしては、申し分がないどころか、むしろ、贅沢なほどに素晴らしい。

――でも、だからこそ、欲が出た。

どうせなら、俺が、リードして。それで、めろめろになったこの人を抱いてみたい。
けれど、百戦錬磨のこの人の前で、半童貞の俺が、できる事なんてたかが知れている。だから、恥を忍んでお願いするしかないのだ。

「俺が降谷さんをリードして、ちゃんと気持ちよくさせて、それで……こう、手とか握り合いながら? そういう雰囲気で、あなたの中に入りたいです」

沈黙。

「あ、無理にコメントを考えなくて結構です。俺だって自覚あります。はっきり言って、ちょっと、気持ち悪いですよね?」
「いや……まあ。善処する」
「じゃあ、とりあえず、服を脱ぐタイミングとか、そういうので、いちいち戸惑いたくないので……お互い、全部脱ぎましょうか」
「……え?」
「いや、だって、えっちするわけですから」
「君…なんというか……乙女っぽさと、豪胆さのギャップがひどいな……」

 

とりあえず、自分用のローションとコンドームを取り出した。
ベッドの上で、全裸のままうつぶせになった降谷さんが、眉をひそめて、こちらを見た。

「……君、なんで、こんなものを? 新品なら、まだしも……」
「ああ。オナホ使う時に…ちょっとばかり。……あと、いざっていう時に備えて、片手で装着する練習とかしてたんで」
「風見、お前……努力家だなあとは思っていたけれど。こっち方面でも努力するタイプだったんだな?」
「いえ、楽しんでやってることは、努力と呼ばないと、自分では思っているんで」

女性との性行為を前提に情報を集めていたから、正直、男同士のやり方には明るくない。
まあ、でも、アナルをどうこうするんだよなって事は知っていて。アナルの扱いについて、多少の知識がある。

「これ、中に塗ればいいんですよね?」

そうたずねれば、降谷さんが、少々気まずそうな顔で述べる。

「下準備はしてあるから、その必要はない。君の心の準備ができ次第、どうぞ」

なんで、下準備をしてあるんだろう? と思ったが、それを聞くのは、なんだか、童貞っぽさ丸出しな気がして。質問は控えた。そして、状況を先に進める。

「あの…降谷さん」
「なんだ?」
「指、入れてみたいです」

降谷さんは、何も言わずに、腰を上げた。
俺は、ちょっと嬉しくなって、きれいな形のお尻をなでた。そして、ぬぷっと、降谷さんのアナルに右手の薬指を突っ込んだ。本人の申告通り、そこはじっとり湿っていて、表体温よりとてもあたたかだった。
ちょっとずつねじ込むようにしながら、指を先に進める。そして、付け根まで入ったところで、指の腹を軽く押しつけてみる。ぎゅっとして、ふっと力を抜いて、またぎゅっとして。それを地道に繰り返す。
すると、降谷さんの呼吸が、ちょっとずつ乱れてきて。指をゆっくり引き抜けば、ふるりと腰がゆれた。

ローションを手元に手繰り寄せる。それを右手にたっぷりとかけて、指の温度になじむのを待つ。いつか、濡れにくい女の子とすることがあったら……。そう思って調べたことがあるから、ローションの扱いについては、それなりの知識がある。
頃合いを見て、降谷さんの中に人差し指を入れた。中を押しひろげるように、内壁をマッサージする。降谷さんの尻穴が、ひくひくとして、それがすごくえっちだなって思った。
途中までしたことがある俺は、女の子の秘部の構造をなんとなく理解していたけれど、アナルに指を入れるのは初めてで。だから、ワクワクしながら、しかし、丁寧に中をなぞった。
降谷さんの短い喘ぎ声のようなものを聞いて、指を二本に増やす。そういえば、と思って、前がどうなっているのか、のぞき込んで確認する。降谷さんのそこは、いい感じに勃起していて、先っぽからとろとろと透明な液体が流れ出ていた。その様子に、どうしようもなく興奮する。
自分の指が、降谷さんを気持ちよくしている。
それが嬉しくて、でも、焦りたくはなくて。
中を丁寧に。でも、単調にはならないように。ベクトルを長くし、短くし。角度を変えて、いろんな矢印をまぜこぜにして。指を三本に増やした。さらにローションをつぎたす。
ぐちゃぐちゃと、卑猥な音が部屋中に鳴り響く。指先が中のしこりのようなものに触れた時、降谷さんの体がはねた。そして、ほんの少し苦しそうな声で

「君……本当に童貞だよな?」

と聞いてくる。

「ええ。でも、指でするところまでは、何度かあるんですよ。経験が」

そう、受け答えながら、そうか、降谷さんが俺を童貞であるか疑う時は、気持ちがいいってことなんだなと、そんなことを思う。
なんだかとっても嬉しくなって、耳元で「仰向けになってください」って、頼んでみたら、降谷さんは黙ってそのようにしてくれた。

 

顔は真っ赤だし。汗で、前髪がペタンコになってるし。口の端から、よだれが伝った跡がある。チンコは、少しも触ってないのに、血管が浮き出るくらいにガチガチだ。
そして、俺は長年の練習の成果を披露する。コンドームの封を口で破って、右手だけを使用しゴムを装着する。その時、左手は何をしていたかと言うと、実は何もしていなくて。ああ、こういう所に、経験のなさが出るなあと、そんなことを思った。
右手でゴムを装着するとき、左手って何をすべきなんだ?
乳首をつまむ?
それとも、男相手だし、チンコを握る?
そんなことを考えて、行動が止まる。ふと気がつくと

「君のそれ……」

降谷さんが、ゴムでテロテロ光っている俺のペニスを見つめていた。

「ええ。まあ。これを見て、リタイア宣言をされたことが何度かありまして……。やっぱ、難しい…ですかね?」
「いや、まあ、善処する」

降谷さんの脚の間に、ポジションを取る。そして、先っぽを、押し当てれば、降谷さんが小さくうめき声をあげる。
自分のものに、右手を添え、左手で降谷さんの股関節を開かせる。降谷さんは、とても協力的で、俺は、自分のものを、一生懸命に入り口のところにこすりつけた。
挿入のタイミングを考える。先っぽで、アナルをぬちぬちと刺激しながら、降谷さんの体の力が抜けるのを待つ。
降谷さんはと言えば、自分で、自分のペニスを扱いたり、乳首をいじったりして……すごくエロかった。

「ほら…はやく……挿れてみろ」

そう言われて、今なのかなと思って。降谷さんのお尻に自分のペニスを突き刺すみたいに、前に進んでみた。亀頭が温かなものに包まれた。そこから先はとても順調だった。降谷さんのアナルが俺のチンコを飲み込んでいく。だけど、だんだん、滑りが悪くなる。
あと、数センチで、根元まで入りそうだったけれど、ふと、降谷さんをみたら、汗がだらだらになっていて、とりあえずじっとすることに決めた。
そして、そういえば、手をつないでないなってことを思い出して。挿入を深めないようゆっくりと、体を前に倒した。
その微妙な、動きですら、降谷さんにはきつかったらしく、眉間にしわが寄るのが見えた。
ようやっと、降谷さんの体に、自分の上体が重なって。それで、とりあえず左手で、降谷さんの手を握ってみた。

「動いても、大丈夫…だ」

降谷さんは、そう言ったけれど、動く勇気はなくて。
俺は、右手で眼鏡を外し、キスを試みた。
繋がったまま、体をぴったりくっつけてキスをする。降谷さんが俺の手をギューッと握って。ちょっと痛いくらいだったけれど、そういうのが逆にセックスしているという感じがして嬉しかった。
先ほど、童貞であることを疑われたキス。
たぶん、俺のキスは、まあまあにうまいんだろう。そう思いながら、降谷さんの唇を舐めたり吸ったりする。やがて、降谷さんの舌が伸びてきて、俺はキスに夢中になった。
そのうち、降谷さんが、腰をゆらゆら揺らす。でも、本当にピストンしていいのかっていう確信は持てない。だから、いったん、唇を離して

「本当に、動いていいんですか?」

と、たずねた。

「さっきから、動いて…いいってぇ、言ってる…だろ……」

心なしか、先ほどよりも、ろれつが回らなくなっている。そういうことに、嬉しさを感じて、俺は、ゆっくりと腰を前後させた。
腰を動かすたびに、降谷さんは、息を詰まらせ、それから、時々、小さな声であえいだ。
ゆっくり動かすうちに、コツをつかんできた俺は、ちょっとずつ工夫を重ねながら、ゆったりとした腰振りを繰り返した。出し入れを繰り返すうちに、挿入が深くなっていく。先っぽが何かにあたる。そこにチンコを突き刺す。そのたびに、降谷さんの声は、甘くなっていった。

「あ……深い…そこ……おく…っ……ああ」

体を起こし、目を細めて、降谷さんの様子を眺める。
顔は真っ赤になっていて、よだれもすごいことになっている。
ふと、股間を見れば、性器の先から、とろとろと、白い液体が漏れ出ているのが見えた。
男同士のセックスって、女側は、こうやって射精するんだなあと思い、人体の不思議に感動する。
でも、射精しっぱなしは辛いだろうなと思って、奥への刺激を少し休むことにした。

「奥……辛そうだから、浅いところにしますね」
「え…それ……だめ…っぇ…♡ ああ」

こんなに、イきっぱなしになっておきながら、浅いところじゃ我慢できないなんて。普段のセックスは、もっと刺激の強いことをしているのかもしれない。
そう思って、ちょっとだけ、悔しさを感じた。でも、せっかくの初体験を、そういう快楽のためだけのセックスにしたくなかった。緩めの快刺激の中で、見つめ合ったり、頬を寄せ合ったり、言葉を交わしたり。そういう、甘い感じのこともしてみたい。
そう思って、浅めのところで、ゆるゆるとチンコを前後させた。中のコリコリ、そこに亀頭をこすりつけるのが気持ちいい。それで、その動きに夢中になっていたら、降谷さんの体が、盛大にはねた。そして、きつい締めつけがやってくる。ほんの少しだけ持って行かれそうになった。
だが、これくらいなら余裕だ。
セックスできなかったがゆえに、性処理のほとんどをオナニーに頼っていた俺は、力加減を間違えた手コキを好んでいたため、そう簡単に射精しない。

「すっげ……降谷さんの体、めちゃくちゃエロいですね」

素直に感想を述べるが、降谷さんからの返事はない。体の力はだらんと抜けている。
どうしたものかと思いながら、もう一度、上体を重ねて、奥までチンコを進めてみる。
袋小路のようになっていた降谷さんの空洞。けれど、絶頂を繰り返すと、筋肉だけではなく腸管も緩むのかもしれない。あったはずの、行き止まりが消えていた。
その先に進んでいいものか迷ったけれど、様子を見ながらゆっくりやればどうにかなるだろうと思って、先に進む。ゴム越しに、何かが先っぽに吸いついた。気持ちいいなと思いながら、そのまま、もう二センチ。根元のところまでペニスを押し込んだ。
その瞬間、降谷さんの体がビクンとなった。

「らめ……ああ…ああんんッ……奥…そこはだめ…♡」

なんか、めちゃくちゃエロい喘ぎ声。

「…ダメなんですか? でも、降谷さんのココ、俺のチンコにちゅうちゅう吸い付いてますよ?」

いつか使うかもしれないと思って、頭の中にストックしておいた、言葉責め例文集から、それっぽいやつを引っぱり出して、囁いてみた。
そしたら、わりと悪くなかったみたいで、降谷さんの中がぎゅうーっと締まる。

「あっ…君…童貞の…くせにっ……じょぉしのの結っ…ちょーをっ…♡」
「けっちょう? あ…? そっか? ここ結腸なんですね??? えーっと…降谷さんの結腸、俺の童貞チンポを、おいしそうに……? 食べてますよ?」

今度は、ちょっと失敗したかもしれない。
けれど、結腸をこじ開けられる快感は、ものすごいらしく、些細なことは気にならなくなるらしい。ふと、胸元にコリコリしたものが当たる。男の胸なんて、と思って、一度も触っていなかったけれど、降谷さんの体はとてもえっちだから、つまんでみたら、おもしろいことになるかもしれない。
左手は、降谷さんにぎゅっと握られていて、放してもらえそうにないから、右手をお互いの体の間に滑り込ませて手探りで、そこを探す。
手のひらに、こりっとしたものが触れる。

「あっ…むね……」

手のひらで、しこりを転がす。降谷さんの体が跳ねる。

「あ……胸…むね……」

結腸への責めをお休みして、ゆっくり、じっくり、乳首を転がし続ければ、降谷さんが切なそうな声をあげる。

「胸……むねぇ…っ」
「うん?」
「ちゃんと……ちゃんとして」
「胸をちゃんとするって何? 俺、童貞だからわからないんですけど?」

刺激を与えていないはずの、降谷さんの肉筒が、ぐにっとうねる。

「僕の…」
「うん、降谷さんの?
「乳首……。ちゃんと、もっとちゃんと、コリコリして……? 指でつまむみたいに……」
「こう?」

人差し指と中指の間で、軽く挟むと、降谷さんは、首を激しく横にふった。

「もっと…強く……親指と、人差し指で……ぎゅううって」
「ぎゅううって?」

その言い方がかわいくて、たまらない気持ちになる。
もっとかわいい降谷さんを見たくなって、乳首を強くつまみ、軽くひねりを入れた。

「あ…ちくび……あああっ…♡ とれちゃうよぉお…だめ……強くしちゃだめ…っ♡」
「強くしろって言ったのは、ご自分でしょ?」

俺は、体を折りたたんで、降谷さんの乳首にかみついた。

「あっ……♡ ああ…ごめんなさい…でも……強いの…こわい」

ごめんなさいをするなんて、すごくかわいい。
本当は、ぷっくりとした乳首へのかわいがりを続けたまま、ピストンをこなしたかったのだけれど。初体験の俺は、さすがにそこまで器用なことはできない。だから、乳首への愛撫はこれでおしまい。
体を起こす。
右手を降谷さんの腰に添え、性器の長さマイナス二センチほどの往復運動を繰り返した。
ぐぐぐぐーって入れて、ずるずるーって引き出して。それを、何度も何度も繰り返す。

「あ……ら…おく…♡」
「奥、ダメ?」
「わかんな……ぁああっ♡」

たまに、結腸のところをぐりぐりしてあげて。

「ぐりぐり好きですか?」
「ぐりぐり…? あ…それ♡ きもちい……あたま…へんに…♡ なっちゃう……♡」

エロ漫画か何かみたいに喘ぐ、降谷さんが馬鹿みたいでかわいい。そんでもって、おなかの中で、ぎゅうぎゅうされるのが本当に気持ちよくて。
感度悪めの自分も、さすがに、そろそろしんどくなってきた。それで、そこから先は、夢中で腰を打ちつけた。

「降谷さん……! 降谷さん!!!!
「あ……♡ ああっ……かざ…み……♡♡」
「あ……でる…でちゃう…」
「うん♡ 出して…かざみの、せええき♡」

ゴムの中でぶちまける。生まれて初めての体内射精。人生で五本の指に入るくらい、ドバドバって、長くたくさん出て。
うっとりしながら、チンコを引き抜こうとしたら、中でゴムが外れた。そして、そのゴムを外そうと指でかき回してるうちに、降谷さんも俺も、もう一回したくなって、シた。

 

降谷さんに、タオルとペットボトルの水を渡す。
喘ぎすぎて、ちょっとかすれ声になった降谷さんが言う。

「君、本当に童貞か?」

って。その言葉に嬉しくなる。

「ええ、降谷さんに筆おろししてもらうまでは、確かに童貞でした」

そして、俺は、部屋を見渡した。
セックスをしたら、世界が違って見えちゃうんじゃないかなんて、そんなことを思ったけれど。壁紙の色も、降谷さんの金髪も、いつもと同じに見えた。

「あー……変わらなかったな」

ちょっとがっかりして、そんなことをつぶやくと、降谷さんが「なにが?」と聞いてきた。

「世界が。いや……世界が、というより、世界の見え方が…というか」

降谷さんが、ペットボトルの水を飲む。そして、キャップを締めながら言った。

「……いや、世界は変わったよ」
「え?」
「少なくとも、僕は、ちょっと、いつもと違う世界を覗いてしまった」

それって、どういう意味ですか? と聞きたかったけれど。それはちょっと無粋な気がして。人生初のピロートークは、それで、おしまいになった。

 

【あとがきなど】

ふと思ったんですよ。
どことなく、ヤリチンぽい風見裕也ばかり書いてきた私が、童貞裕也を書いたらどうなるのかなって。
まあ、いつもと変わらなかった。
いや、変わらないどころか、手加減の仕方を知らない分、いつもよりひどかった。
実のところ、風見裕也が無自覚結腸責めからの、無自覚前立腺責のコンビネーションを決たあたりで、私は、ある覚悟をした。

このままいったら、降谷さん、潮吹くんじゃね? と。

でも、まあ、どうにか、そうならないように抑えた。何故なら潮吹きを書いたことがないからだ。私の文章力で、潮吹きをかわいく書ける確率は極めて低い。

そのかわり、人生初の♡喘ぎに挑戦してみた。
基本的に、受けの喘ぎ声を書くのが苦手だ。そこに、適切な配分で♡を設置しなければならない。
結果、全然エロくない♡喘ぎが爆誕した。
♡喘ぎの先輩諸氏たちへのリスペクトが改めて深まった

♡喘ぎ、すごい……
♡喘ぎかける人たち、みんな天才……!!!

 

2