初出:プライベッター 2020/12/19
両片想い?
待機中とはいえ仕事中にいちゃつく。
キスあり。
――年末特別警戒。
しばしの待機。降谷さんと二人、車内で休憩を取る。
運転席でおにぎりを食べ終えた俺は、胸ポケットからキーホルダー型LEDライトを取り出し、クロスワードパズルを始めた。
降谷さんが言う。
「……君は、本当に、それが好きだな」
少々あきれたような口ぶり。
仮眠を取ればいいのに、と言いたいのかもしれない。だが、俺は仮眠を取らない。俺が寝てしまったら、降谷さんはきっと眠らないだろう。だから、こうやってクロスワードパズルを取り出したのだ。
「ええ、まあ。縦と横。二つの方向から、キーワードを読み解くことで、答えにたどり着くというのが、なんだか楽しくて……」
俺は「それって、公安警察の仕事に通ずるものがありますよね……」と続けたかったが、言葉を飲みこんだ。夏頃、部下にそのようなたとえ話をした。しかし、彼らに俺の考えはいまいち伝わらなくて、それが少しだけ寂しかった。
「……ああ。確かに。……それに、それは我々の仕事に通づるものがあるよな」
思いがけない降谷さんの言葉。とても、うれしくなった。もしかしたら、降谷さんは、俺の考えや気持ちを先読みできるのかもしれない。
『クロスワードパズルをしているので、降谷さんは寝ていてください』。そう言おうと考えていたはずなのに。つい、食い気味に
「降谷さん……! そう、それ! そうなんですよ!!」
と、言ってしまった。
「……どうした、急に」
「あ……いや。降谷さんは、俺の考えを言い当てるのがうまいなあと思いまして」
恥ずかしい。でも、しょうがない。だって、本当にうれしかったんだ。
「……そうか? 君が何を考えているか、わからないことって結構あるけどな」
その言葉に、苦笑いする。俺からしたら、降谷さんが何を考えているのか。そちらの方がよほど難解だ。
それでも目の前の男に必死でついていく。降谷さんなら俺のがんばりを、この国の最大限の利益につながるよう変換してくれる。そう信じているから。
――信頼と少しの下心。
俺は、降谷さんの顔や声が好きだ。
この人のそばに居ると、いつも、うれしくなる。降谷さんの期待に応えること。それが、降谷さんの隣で呼吸するための最低条件。
整った横顔を見つめる。薄暗い中、長いまつ毛が、キラキラ光った。
「そういえば、クロスワードパズルで思い出したが……」
「なんでしょう?」
「だいぶ前に、ポアロの梓さんが、クロスワードをやっててな」
「ええ」
「そのキーワードの答えが”風見”だったんだ」
「え?」
「屋根に取りつける風向きを知るための道具とは……という設問でな。まあ、一般的には風見鶏とするところを、パズル作成の都合で、三文字の風見になったんだろうな」
降谷さんが、くすくすと笑い出す。
「……なんで笑うんです?」
「いや、名は体を表すっていうのは本当だよなあって……」
その言葉に少し戸惑う。
「……風見鶏みたいですか? 俺は…?」
自己評価とのずれ。
周囲の意見には、どちらかと言えば流されにくい方だと自覚していたが……降谷さんは俺をそう評価していないらしい。
戸惑いが表情と声色に出たかもしれない。降谷さんが、なんだか優しげな声で言う。
「……一般的な意味で、風見鶏のような人といえば、八方美人であるとかそういう意味合いになるが。僕がそんな風に君を見ていると思うか?」
「さあ……どうでしょうか」
――降谷さんが何を考えているか、俺にはわからないので。
「むしろ、そういう意味での風見鶏らしさについては、少し身に着けて欲しいと思っているところだ。縦と横で考えるのも大事だが、たまには斜めになったり、ぐにゃっと曲がってみる必要もあるだろ?」
痛いところを突いてくる。
確かにそうだ。刑事部など、他部署と交渉する際、俺は、正論で人の心を逆なでしてしまうことがある。
「なあ、風見……風見鶏はさ、いつもどちらの方を向いている?」
その言葉にはっとした。
そうだ。風見鶏は、いつだって、風に向かって前を向いている。なかなか、真意を見せない降谷さんだが、その言葉からねぎらいの気持ちが伝わってきた。
単純な俺は、やっぱり、うれしくなる。そして、ほんの少し調子に乗った。
「そうですね……風見鶏はいつも、降谷さんの方を見ているんじゃないですか?」
降谷さんを見つめた。
「馬鹿を言うんじゃない」とか「君もおべっかを使えるんだな」とか、そのような言葉が返ってくることを期待して「冗談ですよ」と言う準備をした。
しかし、降谷さんは十秒待っても、三十秒待っても、一分待っても、何も言わなかった。無言のままうつむき、瞬きを何度も何度も繰り返している。
車内の雰囲気が、どんどん、重くなっていく。「冗談ですよ」なんて、とても言い出せる雰囲気ではない。
先に言葉を発したのは、降谷さんだった。
「なあ……どうしよう……舌が、回らない」
確かに。弁の立つ降谷さんが会話の途中で黙り込むのはめずらしい。
「……どうしました?」
降谷さんの顔をのぞき込むようにしてたずねる。すると、いつもよりも、舌足らずな声で、降谷さんが言った。
「なあ、かざみ……僕の舌が、ちゃんと回ってるか……確かめてくれないか?」
眼鏡を外される。降谷さんの右手が、俺の頬に触れる。ごくりと唾を飲みこんでから、唇を合わせた。
そして、俺は、自身の舌を使い降谷さんの舌に異常がないか探った。
降谷さんの舌は、最初のうちよく回ったけど、時間が経つにつれ、動きが緩慢になった。精査が必要と考えられたが、待機中とはいえ業務時間内に、それをするのは難しい。
続きは、仕事の後に持ち越しだ。
【あとがきなど】
クロスワードパズルの回で。
クロスワードにかけて、ちょっといいことを言おうとした風見さんに対して部下さんが
「あぁ そういう… 風見さん本当にクロスワードパズルが好きですね…」
って、言うじゃないですか……
あの、風見さんと部下さんの温度差が、本当に好きなんですよ……。
でもね、私思うんすよ。
風見さんは、降谷さんと日常的にそういう感じの会話をしているから、ついつい、そんなことを言っちゃったんじゃないかって。
執行人の「僕以上に怖い男」問答とかさ……。言葉を使ってじゃれあってるじゃん?
つまり、言葉遊びこそ、風降の本質なのではないかと……?! 私はそう思ったんです。
タイトルなんですけど。
言葉遊びを英語にするとwordplayになるって、グーグル先生が教えてくれたんだけど。
言葉と舌をかけたい系のオタクなので、Tongueplayって言葉を使ってみました。そういう言葉が、実際に存在するのかどうかは知らないけど、なんか、エロくていいなって思う。直訳したら舌遊びだもの……!