領収書なしの恋

初出:プライベッター 2020/11/21

つき合ってない二人。
風→降?
捜査備品を買う時に、こっそり自腹を切る風見さん。


 

Side:K

上司に頼まれて、洋服を買う。彼によく似合って、潜入先の生活になじむようなデザインを選ぶ。

「君、また、こんなに買ってきたのか?」
「ええ。降谷さんが円滑に捜査を進めるためには必要なことですし、いきなり、私服のバリエーションが減ったら、それこそ不自然ですから」
「……そうか」
「ええ、そうですよ」
「……そろそろ月末だから、領収証関連の提出……早めにな。サラッと見るだけとはいえ、僕もいつ登庁できるかわからないから」
「了解しました」

降谷さんは、俺の上司だ。
歳は一つ下だが、大変優秀で顔もいい。階級の差はあるものの、年の近い男同士。気がつけば、一緒に食事に行く程度には仲良くなっていた。

降谷さんの持つ知識と技術。思想と覚悟。時折見せる茶目っ気と、負けず嫌いなところ。厳しいと思えば優しくて。固い人かと思えば、とてもしなやかで。
降谷さんのことを、一つ知る。そのたびに、驚きと喜びが積み重なる。
命を懸ける仕事だ。吊り橋効果には、もってこいだろう?
いつからか、俺は、その高鳴りを恋と認識するようになった。
だが。もちろん、この恋を育てるわけにはいかない。けれど、摘み取ることも、枯らすこともためらわれる。

――だから、これは、この恋の唯一の延命手段。

公費を使ってかき集めた捜査備品。その中に、俺は必ず一つだけ、自腹を切って贈り物を仕込んだ。
今回であれば、使い勝手のよさそうなカーディガン。

「風見、捜査備品の領収書。確認しておいたぞ」
「ありがとうございます」

幹線道路の歩道橋。交通の流れを眺めながら降谷さんが言った。
いや、今は安室さんと呼ぶべきかもしれない。俺が買ってきた衣類に身を包んだ優男。

「あの、そのカーディガン……」
「ああ。薄手なのに、あたたかいから重宝するって、君がプッシュしてたやつな。確かに、この時期にはちょうどいい。デザインも、安室透らしくて気に入ってるよ」
「そうですか。お役に立てたならなによりです」

私費で買ったカーディガンを降谷さんが着ている。そんな些細なことに喜んでしまう自分が、情けなくて気持ち悪い。
それでも。どうしようもなく降谷零という男に恋している。

ねえ、降谷さん。
俺は、国のために、正義のために、あなたのために。精一杯にがんばる所存です。だから、この程度の私情を挟むことを、どうか、おゆるしください。

 

Side:F

部下が、予算をどのように使っているか。大まかに把握する必要がある。しかし、必ずしも詳細を正確に確認する必要はない。なぜなら、領収書の束が真実のみで構成されているとは限らない。
これは、横領とかそういうたぐいの話ではなく。僕たちの仕事には、たくさんのフェイクが仕込まれているという、それだけのことだ。
風見裕也という部下のことを信用している。だから、予算の使い方について、事細かに指導するつもりはない。しかし、衣類に関する領収書に関しては慎重に確認する必要があった。

当初は、僕はそれらの領収書について、サラっと見て確認を済ませていた。
しかし、ある時。風見の買ってくる衣類や装飾品が高額である気がして、領収書をよくよくチェックしてみた。案の定。風見の買ってきた洋服はそれなりに高価であった。

更に、もう一つ。気がついたことがある。どういうわけか、何度確認しても、領収書が一枚欠けているのだ。
渡された備品は17。しかし、提出された領収書は16枚しかない。
風見は、あれでいて、几帳面な男で、その手のミスをすることがほとんどない。
と、なれば。

『このTシャツはですね。今、注目を集めているドメスティックブランドが出したもので。パターンが秀逸で、一枚でもきれいに着れますし、重ね着をしてもアウターに響きにくいんです』

おすすめコメントと共に渡された、あのTシャツ。購入資金の出所は、たぶん風見の財布だ。
万が一。
風見がミスをしていたとしても、決済はクレジットカードを使うよう指示してある。領収書が一枚足りないのであれば、事務員から確認が入るだろう。だが、その件に関する連絡はなかった。

休憩時間。Tシャツをインターネットで検索した。定価は税抜き14800円。

月に数回ほど設けてある登庁日。
机の上には、先日の捜査備品購入の領収書のつづりがある。ぱらぱらと紙束をめくり、僕は領収書のない衣服の有無を確認する。やはり、一枚足りない。

今回は、カーディガンだった。

そういえば、セールストークが長かった気がする。薄手なのにあたたかいとか。どんな服とも合わせやすいとか。
スマホで、カーディガンの商品情報を調べる。定価は税抜き35800円。
冬物だから、値が張るのは仕方ない。けれど、少しずつ額が大きくなっている気がする。

領収書のない衣類について、指摘を入れるべきかもしれない。そして、なぜ、そんなことをしたのか事情を聴いた方がいい。

だが、まだ、それをする気になれなかった。

領収書のないカーディガンを羽織って君に会いに行く。

風見は、領収書のない洋服を着た僕を見るたび、とても複雑な顔をする。嬉しそうで、何かを言いたそうで、でもぐっとこらえているような、そういう表情。
仕事柄、表情のパターンから感情を読む訓練を積んでいる。だから、恋をしている顔だと、気づいている。
しかし、今はまだ、それを指摘する気はない。

いつか、風見が

――僕が、領収書の束を事細かに確認してから、風見に会う時の服装を決めていること。
――風見のセールストークに心打たれて、その服をヘビーユーズしているわけではないこと。
――もう着ないからと、渡している衣類の中に、領収書なしの服は混ざっていないこと。

そのことに気がつくまでは

『君が、僕に恋してることなんて、ずっと前から知ってたよ』

指摘してやらないのだ。絶対に。

 

【あとがきなど】

両片想いなのかなっていう話を書くのが好きです。
私の書く風見裕也は、直情径行BOYであることが多いですが。
たまには、内側に気持ちを抱え込んでるタイプの風見もいいなって。そんなことを思いながら、これを書きました。
そして、その感情を、降谷さんに見透かされていると、なおよいです。

たぶん……。
この風見さんは、しばらくの間、自腹を切り続けます。
降谷さんは、それを黙って見ているのですが。
自腹額が7万を突破したあたりで、風見さんの生活を心配し「君、自腹切ってるだろ?」と指摘します。

あ……この話の風見。ちょっと、やべえタイプだ………

 

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