風降(両片想い?)
年賀はがきのあれ……
年越しは、仕事だった。
いやに冷えると思ったら、白い雪がふわりふわりと舞い落ちる。
不幸中の幸いで、春先の雪ではないから、湿り気はあまりなく。傘を刺さなくても、少しの時間ならどうにかなりそうだ。
コンビニのポリ袋をぶら下げて、夜の街を一人歩く。大通りを右に曲がって、公園の前に行けば、暗闇の中スーツ姿のあの人が待っている。
「買ってきました」
「ありがとう」
俺が袋を差し出せば、降谷さんは、そこに手を突っ込み、かさかさと中を物色する。
「肉まんてさ……案外すぐ冷めるよな」
降谷さんが、肉まんを手に取りながら言った。
「ああ、そうですね。食べますか?」
「いや、君が食べたかったんだろ」
そういうなり、降谷さんは、ぺらりと肉まんの包装紙をむき、薄紙をはぎ取った。そして、むき身の肉まんを俺の口に押しつける。
少し迷いながら、それをくわえた。
「手袋してたら、肉まんに、さわれないだろ?」
ああなるほどなと思いながら、ストレートティーを差し出す。降谷さんは、それを受け取るなり背を向けた。
俺は、引き続き袋を物色する。
肉まんをくわえたまま、カサリと缶しるこを取り出すと、降谷さんがこちらを振り向いた。
「ああ、すまん。それじゃあ、手袋外せないな」
確かに、片手と口がふざがった状態で、手袋を外すのは難しいだろう。しかし、だ……。
降谷さんは、ふたたび肉まんに手を添え
「僕が食べさせてやるから、その間に、手袋を外せ」
と言った。
――この人は、いったい何度、俺を驚かせれば気が済むんだろう?
缶しるこをカイロ代わりに、コートのポケットに入れ、それから手袋を外すつもりだった俺は「大丈夫ですよ。自分で外せます」と、言いたかった。
が、口は肉まんで塞がっていたから、そういう訳にはいかない。
仕方なく、肉まんを食べさせてもらいながら手袋を外した。
そして、俺が肉まんを食べ終えると、降谷さんは再び背を向けた。
少しかじかむ指を缶しるこであたため、プルタブを引く。
「降谷さんの、それって、天然なんですか? 策略なんですか?」
そうたずねたところで
「さあ? なんのことかな?」
やっぱり、いつも通りにはぐらかされる。
雪が降るほどに寒い夜。缶しるこは、すでにぬるくなり始めていた。
「では、好きなように取っていいですか?」
「どうぞ、おかまいなく」
その言葉に、お年玉をもらったような気持ちになった。
しるこをすする。
正月らしさをほんの少しでも感じたくて買った缶しるこは、記憶にあったよりも美味だった。
【あとがきなど】
年賀状の見本を見たとき
「しかし妙だぞ……? 風見裕也、手袋してるのに……肉まんはの包装がむかれている? 何かが引っかかる」
という、気分になったので
私なりに謎解きした結果、こうなりました……
降谷零の難解な愛情表現を、風見裕也は理解し受け取ることができる……そういう関係性であってほしい……!!