ふるえるおもちゃ

初出:プライベッター 2020/11/9

〇ローター
〇降谷さんが風見さんの乳首を責める(?)話
〇挿入などはないです


 

別に、仕掛けたつもりはなかったんだよ。

ニュース見ながらどうでもいい話をして。軽くスキンシップをして、そうやって、夜に向かってちょっとずつ盛り上げていけばいいって思ったのに。Tシャツ越しに感じた体温。
でもさ。抱擁とこめかみへのキス、なんて。それだけのスキンシップでその気になっちゃう降谷さんが、あんまりにもかわいすぎるから。
仕込みの途中ではあったんだけれど、誘いに応じることにした。

寝室に移動する。
降谷さんが、俺のベッドに腰かけて、ペットボトルのお茶をラッパ飲みした。
セックスの前の降谷さんって、照れ隠しなのかわからないけど、わざとがさつにふるまうところがある。俺は降谷さんのそういうところが好きだ。
引き出しから、ローションとゴムを取り出す。それから未開封のローターを手に取り、降谷さんの方に投げた。

「なんだこれ?」

降谷さんがローターを手に取り、パッケージをじっと眺める。

「ローターですけど?」
「……使うのか? これ?」

枕元にローションとコンドームを置いて、降谷さんの隣に座った。

「ええ。自分の乳首も気持ちよくしてもらいたいと思いまして」
「……え? ……これ、僕が君に……使うのか?」
「ええ。ご存知の通りの通り。降谷さんほどじゃないですけど、俺も乳首感じるじゃないですか? まあ……いつもみたいに、舐めてもらうのも好きなんですけど。……こういうのもしてみたいなと思って買っちゃいました」
降谷さんから、ローターを奪い取り、パッケージを開封する。形は極めて古典的。コントローラーから線が伸びて、その先に小さな楕円形がついている。
購入する際、無線式やUSB充電式の商品と比較したが、結局は見慣れた形が、一番エロいと思う。色はもちろんピンクだ。

「え……じゃあ、これを、当てればいいのか……? その、君の…ちくび……に」
「ええ。そうです。お願いできますか? あ……それとも…。もしかして、当ててほしかったですか……?」
「いや、別に……。まあ。いいよ。君がしてほしいっていうなら……」

俺が「当ててあげますよ」と言い出すことを警戒したんだろう。降谷さんは、あっさりと、俺の頼みを受け入れた。
コンビニで買ってきた単三電池四本を差し込み、スイッチを入れる。膝の上で、長さ三センチほどの楕円が、ぶるぶる震えた。

「降谷さん」
「なんだ……?」
「これ、無段階調整なんですよ」

そう言いながら、振動を一番強くしてみる。跳ね上がるほどの震え。楕円が俺の膝の上をころころと転がり落ちた。

「……やっぱ、電池四本だと激しいですね」

降谷さんに、ローターを持たせる。

「ここ、ぐるっとひねると、強くなったり弱くなったりするんで。調節の程よろしくお願いします」
「うん……」
「はい。では、よろしいですか?」

乳首の場所がわかるように、照明は落とさなかった。
俺は、内科医の診察を受ける時みたいにTシャツをたくし上げ、胸をさし出した。
降谷さんは、それこそ、聴診器を当てるようなしぐさで、俺の右乳首に、ローターを当て、静かにスイッチを入れた。
お医者さんごっこみたいですね……と、からかってやろうと思ったけれど、降谷さんがあんまりにも真剣な表情をしているので、ふざけるのはやめた。

「あ……ちょっとくすぐったいかも…です」
「もうちょい、強くか? ……こんなもんかな?」

降谷さんが、ローターの振動を強めた。

「ああ、まあまあ。気持ちいいです」
「うん」

降谷さんが、ぐにぐにと、ローターを乳首に押し付けてくる。

「あ…それ……微妙です」
「びみょう、か……?」

乳首から振動が離れた。
予想はしていたけれど。降谷さんはこういうおもちゃを使ったことがないのだろう。

「あの。ご自身の乳首で想像してほしいんですけど……触れるか触れないかでびりびりさせた方が、気持ちいい気がしません?」
「……いや…僕、こういうの使ったことないから、わかんないけど……」

もごもごしたしゃべり方。唇がムニムニと動いている。経験上、こういう時の降谷さんは、えっちなことを考えている。
下品なピンク色の性玩具を手にした降谷さん。リモコンで振動を強くしたり弱くさせながら、一生懸命、考えごとをしているらしい。
その首筋を見つめれば、のどぼとけが上下するのが見えた。カッと体が熱くなる。
「降谷さん、自分で使って試してみます?」と、お声掛けしてもいいのだけれど。今はまだ言わない。

「よっと!」

俺はベッドに寝転がり、手招きで降谷さんを呼んだ。降谷さんは、ローターのスイッチを切って横になり、俺と向きあった。
セミダブルのベッド。
一人で眠るのには十分だが、男二人が共寝するには狭すぎる。
降谷さんが、無言で俺のTシャツの裾を引き下げ、ローターのスイッチを入れた。
そして、Tシャツ越しに楕円形の先っぽで、つんつんと、俺の乳首をつついてくる。弱弱しい振動がびりりと伝わる。俺は思わず笑ってしまう。

「気持ちよくないか……?」
「んー……少しは、気持ちいいです。でも、ちょっとくすぐったい気分です」
「そうか」

降谷さんが、刺激の与え方を変えた。先っぽで、ぐるぐると、俺の乳輪をなぞる。
ああ、確かにこれは気持ちがいいかもしれない。

「あー……こっちの方がいいです」
「うん」

降谷さんが少し、得意そうな顔をした。
少し経って、再び、乳首の先に、ローターが当たる。今度は振動に強弱がついている。
弱いびりびりと、ヴーっという強い振動。それが、交互にやってくる。初めてなのに、とってもお上手だ。気持ちいいなあと、その振動に酔いしれていたところで、いきなりの電源がオフになった。
おとなしくなったピンク色の楕円。その先端を使い、降谷さんはぐりぐりと俺の乳首を刺激した。先ほどまでの振動の名残。ほのかに、びりびりが残っている。

「……あ…いーですね」

なるほど、この責め方は気持ちがいい。でも、俺の乳首は開発が不十分だから、これだけじゃあ物足りない。

「……あの、降谷さん。確かに気持ちいいんですけど。俺、降谷さんと違って、布越しだとそんなに……? かも、です」
「そんなに、か?」
「ええ。残念なことに、降谷さんみたいに、布越しに刺激されるの、そこまで気持ちいいって感じないみたいで」
「……僕は、別に…布越しがどうとかっていうのは……」

降谷さんの呼吸が、ほんの少しだけ乱れる。
俺は、自分のTシャツをめくった。降谷さんのギョッとした表情。

「ね? 舐めて。片っぽ舐めながら、ローター……もうちょっと強く当ててください」
「え……?」
「お願いします。俺も降谷さんみたいに乳首で気持ちよくなってみたいんですよ」

なんて、半分本当で、半分嘘。

「ああ。わかった……君を、気持ちよくするためなら、がんばるよ」

降谷さんが、ベッドに接してる側の乳首に、唇を当てた。もう片方の乳首にはローター。
カチッとスイッチが入って、先ほどより、やや激しめの振動が乳首に伝わってきた。

「ふるやさん、きもちいー……ですっ…よ」

ぴちゃぴちゃと。いつもだったら聴こえてくる、かわいい乳首舐めの音。だけど、今日はモータ音でかき消されて、俺の耳には届かない。
さらさらの前髪をかき上げるようにして、頭をなでれば、降谷さんと目が合う。降谷さんの胸に手を伸ばす。さわさわと手のひらでさすれば。固い突起が指の間に引っかかる。それを、ぎゅっとつまんで、こりっとした。

「……ふ…ぁ」

ローターの振動が、乳首から数センチずれる。ぺろぺろと動いていた舌も、動きが緩慢になる。

「あれ……? 降谷さん、なんで、乳首勃ってるんです?」

我ながら、白々しい発言だと思う。
だけど、セックスなんてそんなもんだ。非日常的やり取りを盛り上げるためには、芝居がかることも必要なのだ。そのまま乳首をぐりぐりし続ければ、降谷さんが、俺を睨みつけた。

「……勃ってない」
「じゃあ、見せてください」

降谷さんを仰向けにする。その拍子に、ローターが降谷さんの手から落ちて、ベッドの上に転がった。
俺は、体を起こし、ローターを拾い上げた。Tシャツの裾がへその上までずり落ちる。
ローターのスイッチを切って、それから、すぐに入れ直した。そのまま、振動を大きくしていく。

「降谷さん」

降谷さんが、ぎゅっと目をつむる。
振動に強弱をつけてみる。降谷さんの体がピクリと震えて、俺は、ローターのスイッチを切った。
パチッと、降谷さんが目を開けた。視線がかち合う。

「ローター落としましたよ」

降谷さんに、ローターを握らせた。そして、降谷さんのTシャツの生地を引っぱり、胸にぴたりとはりつけた。

「……ちょっと…君」
「あー……降谷さん、やっぱり勃ってますよ。Tシャツの生地が、ぷくってなってますもん」
「それは……寒さのせいだ……」
「え? そうですか、じゃあ、布団に入りましょう」

そう提案し、照明を落としてから二人で布団をかぶった。眼鏡を外し、ベッドボードの上に置く。
もう一度、横になって向き合う。
降谷さんの緊張が、なんとなく伝わってきた。こわばった体を、ぎゅっと、抱きしめる。そして、耳元でささやいた。

「じゃ、降谷さん続きをしましょうか? 舐めるのは、もういいから、ローターを当ててください」

降谷さんの体を解放する。
カチっという音、無機質なモーター音。
降谷さんがローターのスイッチを入れた。

「……見えない」
「そうですね。では、誘導します」

ローターを持った方の降谷さんの手首を掴んで自分の胸元に引き寄せ、もう片方の腕を降谷さんの背にまわした。
そして、

「えーっと、こっちですかね」

などと、相変わらず白々しいことを言いながら、降谷さんの手を操作し、ローターの位置を調節した。

「おい…僕にあたってる……!」
「え? 大丈夫ですよ。ちゃんと、俺にもあたってます。密着してますから」

そう言いながら、降谷さんの手首を上にひっぱったり、横にずらしたりして様子をうかがう。
そのうち

「……あぁっ」

降谷さんが甲高い声をあげて体を震わせた。と、なれば、たぶん当たったんだろう。降谷さんの、より感じやすい方の乳首に、ローターがぶつかったのだ。

「ばか…当たってる……あ…たってるから……」

体をよじらせようとする降谷さんを、片腕で固める。
ついでに、腰をグラインドさせ、降谷さんの脚のつけ根に自身の下腹部を押し当てた。

「ああ……ごめんなさい、当たっちゃいましたね。俺のコレ」
「ちが……っそうじゃな……当たってるのは、それじゃなくて……」

パニックになっているのか、それとも本当は気持ちよくなりたいのか。降谷さんは、ローターから手を放すことも、スイッチを切ることもしない。

「なにが、どこに当たってるんですか?」

降谷さんが心底恥ずかしそうに言う。

「……ローターが、僕の……ちく、びにあたっていて……」
「そうですか。でも、気持ちよさそうだし。いいですね。こうやって、お互いの胸を同時に刺激できれば、一石二鳥じゃないですか?」
「そんな…君……あ、だめ」

眼鏡を外した後だから 降谷さんの顔が見えないのが惜しい。でも、せっかく眼鏡を外したのだ。降谷さんの唇を奪い、むさぼった。
キスをしているうちに、降谷さんの手からローターが滑り落ちるまでは数分とかからなかった。
ローターを拾い上げる。

それから俺は、降谷さんの機嫌を損ねるほどに、単三電池四本分の振動を使って楽しく遊んだ。

 

【あとがきなど】

私は

「風見さんは、降谷さんに乳首舐めをさせているに決まっている」

そう信じています。
それも、たいして感じないくせに、ぺろぺろさせる感じのやつな……!!!

そんな風見裕也は、ローターで、自分の乳首を責めさせるくらいのことはするだろう……
そう思って書いたのがこれです。
あと、風見裕也は、オーソドックスなローターを買うけれど、電池は通常の二倍。四本入るやつを買うに決まっているという、そういう思い込みが私の中にあります。

 

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