初出:Pixiv(2020.11.5)
〇内容皆無のエロコメもどき
(たいしてエロくないです。)
〇恋心をこじらせる風見さん(29)×何事にも努力を怠らない降谷さん(28)
〇風見さんがゲイバーに行ったり、売り専の若い男を買ったりするけど浮気ではない
〇二人の妄想が半端ない
〇降谷さんが自己開発をがんばるが、直接的な描写はほとんどない
〇道具を使ったプレイがあります
俺の恋人兼上司は、降谷零といって、顔の作りがとてもよくて、均整の取れた体はとても美しい。
仕事はバリバリにこなすし、知識・技術・判断力・マネジメント力……なにをとっても超一流。
気がついたら俺は、あの人のために、かけずり回っている。だから、周囲からは「あの人、年下だろ? それなのに、あれだけ、こき使われて……お前、よく平気だな……?」と言われることもある。
しかし、そんなセリフは、彼らが降谷さんの部下になったことがないから言えるのだ。
俺は、こき使われているわけではない。「降谷さんのためなら、できることすべてをしてやりたい」そう思って働いている。
俺のあの人に尽くしたいという思いは、能動的で「させられている」という類のものではない。国を想い、仕事に邁進する降谷さん。そして、その降谷さんを支えることこそが、俺の、この国に対する奉仕なのだ。恋人になる前も、そして、恋人になった今も、そういう気持ちで降谷さんに仕えている。
最初は、畏怖まじりの尊敬。
けれど、手作りお弁当の差し入れであるとか、時折見せる優しい笑顔だとか……そういう降谷さんのやわらかいところに触れるうちに、その感情は恋のようなものに変質していた。
さっぱりしていると思われがちな俺だが、恋愛に関してはドツボにハマるたちだ。その性分によって、学生時代は、勉強に手がつかない…なんてこともあった。
片想いを放っておく。感情がどんどん膨らんでいき、押しつぶされそうになる。たとえ、恋が実ったとしても、ささいなことで不安になる。
そういう体験を経て、片想いは初期のうちに片づけるのが、もっとも効率が良いと学んだ。
俺の仕事は、冷静であることを求められる。
恋に一喜一憂しているような状態で、いい仕事がわけがない。だから、初期対応が必要不可欠だった。
降谷さんのもとで、働き出して、二か月が経過した頃。降谷さんへの感情を「恋かもしれない」と思った俺は、ただちに、告白とを決行した。
男に恋をしたのは初めてだった。
同性であることを差し置いても、降谷さんのような人が、俺を好きになるとは思えなかった。それに、俺たちは上司と部下だ。利害関係のない二人であれば「お友達から」ということもあったかもしれないが、俺たちの場合、そういうわけにはいかない。
この恋に勝機は、ほとんど無い。
だから、これは、ふられるための告白だ。
芽生え始めた恋を、降谷さんに摘み取ってもらうための、利己的な行動。でも、仕方がないだろう? 俺は降谷さんの側で、仕事を続けたい。だから、尊敬する上司への片想いをこじらせるわけにはいかないのだ。
俺が告白をする。
降谷さんは、俺をふる。そして、弁当の差し入れなど、俺を勘違いさせるような行為を避けるようになるだろう。少し寂しい気もするが、上司と部下として長く付き合っていくためにはその方がいいのだ。
――降谷さん、突然ですが。俺は、あなたに恋をしているみたいなんです。
移動中の車の中で、さらっとしてみた告白。
助手席の降谷さんは、淡々とした声で、俺にたずねた。
――それは……僕とつき合いたいとかそういう意味か?
俺の真意を確かめるための質問。
――そこまでは、考えたことなかったのですが……。ええ、でも、つき合うことができたら、夢みたいですね。
そう、夢みたいな話だ。
けれども、俺と降谷さんは仕事上のパートナーで、降谷さんが俺に優しくしてくれるのは、彼が俺の上司だから。それが、現実だ。
――いいぞ、つき合おう
――はい?
あまりにも、あっさりと受け入れられてしまった告白。
まさか、そんな風なことになるとは思わないだろう? だって、俺は、降谷さんに、ふられたくて、告白をしたのだから。
降谷さんと恋人同士になる。夢みたいな話だが、それは夢じゃなかった。
翌週、初デートなんてものをした。
降谷さんが俺の部屋に来てくれた。それだけで、すごくうれしかった。でも、うれしいは、それで終わらない。
なんと、降谷さんは、キス……どころか、抜き合いにまで応じてくれたのだ。もしかしたら、俺の恋人は、とても流されやすいのかもしれない(プライベート限定で)。
出すものを出して、くったりした降谷さんをベッドの上で、抱きしめて、髪をなでた。「手を洗ってからにしてほしかったな」と苦笑いする降谷さんに、謝罪をして、それから別々にシャワーをすませた。
きれいになった体で、もう一度、身を寄せ合った。
一回抜いたの後なのに、勃起してしまいそうで(というか、した)、それを隠しながら、降谷さんと同じベッドで眠りについた。
職業柄、仕方のないことだが、二度目のデートも俺の家だった。
すんなり受け入れてもらった告白。初デートのキスと触れ合い。なにもかもが、とんとん拍子で進んでいる。
それらに味を占めた俺は、素股をリクエストした。そして、その要求は、あっさり受け入れられた。
お互いに、すべての服を脱いでから、行為に及んだ。
『舐めさせてください』
俺が頼めば、降谷さんはフェラをさせてくれた。
感じやすいのか、降谷さんは、あっさりイってしまった。下腹の上にパタパタと垂れた精液が、たまらなく、いやらしくて、かわいらしかった。
ローションと一緒に、降谷さんの精液を自分の男性器にぬりたくった。その様子を見て、降谷さんは、青い瞳を揺らした。
引き締まった降谷さんのうちもも。その間を、俺のペニスが往復する。降谷さんの体があったかい。挿入はしてないけれど、それは本番行為と変わらないくらい気持ちがよかった。
素股の最中も。行為が終わった後も、俺は降谷さんの頭をなでたり、キスをした。
指を絡ませ合う。たくさんいちゃいちゃした。すごく、うれしくて楽しかった。
挿れるとか、挿れないとか……この際どうでもいい。恋人である降谷さんと、こんな風に気持ちいいことして、いちゃいちゃできれば、俺は十分に幸せだったのだ。
三度目のデートは、降谷さんの部屋だった。畳の部屋に置かれた簡易ベッド。
降谷さんの作った、夕飯を食べながら、今日も、いちゃいちゃさせてくれるのかなあって、ワクワクしていた。食事を終えて、風呂を勧められる。そして、一番湯をもらった。
風呂から出て来たら、降谷さんが俺の耳元でささやいた。
『今日は、最後まで……できるよう、仕度してくるから。待っててくれ』
その言葉の意味が分からなかった。
いや、わからないわけがなかったのだが、そんなに、とんとん拍子でコトが進むわけがないと思い、急に不安になった。
恋心をこじらせるのが、俺の悪い癖だ。両想いになっても、少しの引っかかりで、頭がぐちゃぐちゃになってしまう。
風呂上がりの降谷さんは、俺のものがすぐに入るように、中を準備していた。降谷さんの準備は完璧で、中ははとろとろで、十分に広がっており、ずいぶんあっさりと俺のイチモツを受け入れた。
俺だって、二十九歳だ。今更、交際相手に、初めてを求めたりしない。
でも、今回に限っては、初めてだと思い込んでいた。確かに、降谷さんはもてる。女性経験は豊富かもしれない。けれど、男との行為に慣れているなんて……そんなこと、想像したことすらなかった。
果たして、降谷さんのここは、何人の男をくわえこんできたんだろうか?
平均サイズよりも、だいぶ大きい俺のチンコを、あっさりと迎え入れた、降谷さんの体。
もちろん。
すんなり入ったとはいえ、俺はなるべく丁寧に、降谷さんの体に触れた。
降谷さんが苦しくないように、体位を工夫して腰の動きを微調整した。終わった後も、一緒にシャワーを浴びて体を洗い、降谷さんの体をいたわった。
色んなものを洗い流して、さっぱりした体。俺は、裸で密着しながら、降谷さんの額や瞼にキスをしたり、背中を優しくなでた。
我ながら、いい初めてだったと思うよ。降谷さんは、苦痛を訴えなかったし、甘い雰囲気で眠りにつけた。
けれども、この日から、不安にさいなまれるようになる。
美しくて、かっこよくて、優秀な俺の恋人。
でも、プライベートでは、流されやすいところがあって、どうやら男と抱かれることに慣れている。
仕事上、すれ違いも多い俺たち。
降谷さんは初デートの時点で性的な触れ合いに応じた。さらに、三度目のデートで、自分で中を準備し、俺をセックスに誘った。おそらく、降谷さんは、性行為が好きなんだろう。
だから、もしも、降谷さんを性的に満たすことができなかったら、俺は浮気されてしまうかもしれない。
そう考えた俺は、気持ちいい男同士のセックスに関する情報収集を始めた。
隙間時間にはスマホでネット検索し、そういったテキストを片端から読んだ。少し時間がある時にはゲイバーでの聴きこみ。「知りたいなら、実践で教えてあげる♡」という誘いをかわしながら、肛門性交経験者たちの様々な意見を集め、男同士の気持ちいいやり方を研究していった。
そうした地道な努力が実り、三度目のセックスで初めて降谷さんを中イキさせることに成功した。回を重ねるごとに反応がよくなっていく降谷さんの体。最近では、連続で絶頂を迎え、ろれつが回らなくなるという現象もみられるようになってきた。
そういえば、最初の抜き合いの時点で、降谷さんは感じやすさの片鱗を見せていた。
俺は悟った。おそらく、俺のセックスは、すごくへたくそだったのだ。だから、初めてと二回目のセックスの際、降谷さんは中でイけなかった。
降谷さんに十分な満足を与えていられなかった自分。それなのに、言い初めてだったと思い込んでいたなんて。俺は、なんて恥ずかしいやつなんだろう。
そして、交際から三か月が経った頃。俺は降谷さんの性欲が、大変に旺盛であることを知る。
降谷さんの部屋で、降谷さんの風呂が終わるのを待っていた時のこと。
スマホゲームに切をつけ、部屋を見回した俺は、見慣れないものを見つけた。長辺が五十センチほどのプラスチック製の箱。見たところ、鍵はかかっていない。なんとなく、中身が気になって。軽い気持ちで中を覗いた。
そして、俺は、絶句した。
箱の中には、開封済みのローションと、大量のコンドーム。サイズ違いのディルドが五本と、前立腺を刺激するためのおもちゃが一つ。
あわてて、ふたを閉めた。
降谷さんのことだ。俺に見つけてほしくないものは、完璧に隠し通すだろう。
それなのに、こんな目のつく場所に、このような箱を置きっぱなしにするなんて……。考えられる理由は一つだ。これは「まだまだ足りない」というメッセージなんだろう。
そういうわけで、俺は、自身の性技の向上に、ますます精進した。
売り専の青年とアポを取り、金を支払い、具体的なことを教えてもらった。もちろん、俺は、浮気はするのもされるのもNGだから、行為には至らない。
時折、スーツ姿の俺に、あれこれ聞かれるのがたまらないとかで、俺の声をオカズにしながら一人で行為を始める男もいた。好きでもない男の自慰行為を見せつけられるのは、大変、苦痛だった。
だが、降谷さんを気持ちよくするためだから、そういう事態にも耐え忍んだ。
そうやって、地道に、俺はセックスの技術を磨いた。
だから、俺の体で、イキっぱなしになる降谷さんを見ると、すごく安心すたし、うれしくなった。
でも、その一方で、プレッシャーも感じる。降谷さんの欲張りな体を満足させることができなくなった時、俺は浮気されてしまうかもしれない。
五里霧中。
必死になっていた俺は、自分が、いつもの悪癖にとらわれていることに気がついていなかった。
こうして、俺の恋心は、どんどんこじれていったのだ。
告白をされた時は、うれしかった。キスや体のふれあいを求められた時も、夢のようだった。
終わった後も、すごく優しくしてくれて、ふわふわした気持ちで眠りについた。
そして、僕は、そう遠くない未来、風見に抱かれるんだろうなと思った。最初のデートであんなことまでするのだ。風見は、手の速い男だ。
身長が大きいから、そうだろうなと思っていたけれど。風見のエレクトした性器は、予想以上に立派だった。 だから、入念な事前準備が必要だと思った。
セックスとは、ただでさえ、みっともない行為だと思う。風見との行為で、もたついて、失敗して気まずい空気になったら? 僕は、そのシチュエーションに耐えきれない気がする。
一緒に働く中で……いや、彼を部下にする前から知っていたけれど、風見は機転の利く男だ。
行為に失敗したとしても、いい具合にその場を収めてくれると思う。けれど、僕は、人前で失敗することに慣れておらず、たとえ恋人の前であっても……いや、恋人の前であるからこそ、失敗をしたくないと思う。
初めてのデートの直後、僕は、アナル拡張のための道具を用意した。
ディルドは、性器を模したものではなくて、シンプルなデザインのものを選んだ。素材は、滑りのいい医療用シリコン。
準備の際に、うっかり裂傷なんて作ったら、風見に引かれてしまう。無理なく、少しずつ目的を達成するために、サイズは小さなものから大きなものまで五種類ほど準備した。
念のため、おすす欄にあった前立腺を刺激する器具も購入した。
初めて触り合ったときのこと。風見は感じている僕を見て、うれしそうにしていた。感じる相手を見るのが好きという男性は多いらしい。それならば、中で感じられる体づくりも必須になるだろう。
おそらく、風見は、性欲が強い。そうでなければ、最初のデートで、あんなことまでしない。
二回目のデートで、素股というものをリクエストされた。風見がよろこぶならと思って、行為に応じた。挿入はしてないが、それを意識させるような行為。
僕は、腹をくくった。
それまでも、努力をしていたが、肛門拡張に割く時間を増やした。さらに、洗浄の予行演習を実施し、問題なく準備できるようにした。
――残る課題は、中で感じられるようになること。
これには、苦戦を強いられた。
コツをつかむのが、難しい。何度か挑戦したが、少しは快感を拾えるようになったものの、前立腺だけで絶頂を迎えることはできなかった。これに関しては、引き続き練習が必要だろう。
そして、三回目のデートで、僕は作戦決行にふみきった。
デートの場所を僕の部屋にしたのは、後ろの準備がしやすいように。
「最後まで」と自分から誘ったのは、するのかしないのか、あやふやな状況よりも「する」と決まってしまった方が、精神的に楽だと考えたから。
こうして、入念な事前準備のかいあって、僕たちは比較的順調に行為を終えることができた。さすがに、中で絶頂を迎えることはできなかったが、セックスとしての体裁は整っていたと思う。
それから、風見とは、デートのたびにセックスをした。
度重なる行為。その中で、実感したことがある。
たぶん、風見は、性経験が豊富なんだと思う。
行為は、回を重ねるごとに、内容が濃くなっていった。うまく言えないのだけれど、与えられる刺激の強弱とか種類とか……そういうバリエーションが、どんどん増えていって、頭の処理がどんどん追いつかなくなった。
最初の頃、風見は、比較的ノーマルな方法で僕を抱いていた。そして、行為の後、僕を甘やかした。しかし、それは、初心者である僕に配慮したからで、本来の彼は濃厚で激しい行為が好きなのだと思う。
ことに、風見は、僕がペニスではなく、中でエクスタシーを得ることによろこびを感じるようだ。それも、連続で長時間の絶頂し続ける僕が好きらしい。
僕がそういう状態になると、風見はすごくうれしそうな顔をする。
快感で少しゆがんだ視界。揺らぐ意識。はっきりいって、その状態になった僕は、すごくみっともないと思う。さらに、やむことのない強い快感の波。頭がおかしくなってしまいそうで恐ろしい。だけど、風見が、よろこんでくれるなら……。僕は、快楽の海におぼれてしまってもいいと思えた。
風見をよろこばせたくて、前立腺で、すぐに達する体になりたい。
専用の器具による、自慰行為で僕は研鑽を続ける。
ローションをたっぷりつけて、横になって、ぼんやりしながら体の準備ができるのを待つ。
失敗することが多かったし、ふと我に返って、おのれの情けない姿に泣きたくもなった。僕は必死だった。
僕には、必死にならざるをえない事情があったのだ。
――箱をしまい忘れたことに気がついたのは、風見が部屋を去った後だった。
体の奥にある、情事の余韻を鎮めようと冷たいシャワーを浴る。そして、布団を干そうと部屋に戻った。視界の端には、自主トレーニンググッズを収めた箱。
あわてて、ふたを開けて検分する。中を物色した形跡はない。果たして、昨夜、風見は、この箱に気がついただろうか……?
少し、考え、推理をした。
そして、おそらく見ていないだろうという、結論に達した。性欲が強くて、僕を気持ちよくするのが大好きな風見のことだ。このようなおもちゃを見つけたら、目を輝かせて「今日は、これを使いましょう」と提案してくるに違いない。
「いつも使っているんですか?」なんて、そんなことを聞きながら、風見が笑う。そして、僕の中に前立腺用の器具を挿しこむ。僕は、全裸のまま横にさせられる。あの大きな手のひらは、僕の背中や胸をなでまわすだろう。そして、一人でよくなっちゃう僕を見て、風見は、うれしそうに微笑むのだ。
そんなことを想像したら、落ち着きつつあった、おなかの中がじんわりと熱を帯び始めた。
今日は、午後から、バーボンとしての仕事が入っている。僕はため息をつき、冷たいシャワーを浴びなおすことにした。
降谷さんとおつきあいを始めて、五か月が経った。
最近、降谷さんが、とても色っぽく見える。
ほれた欲目かと思っていたが、数名の同僚から「あの人、最近……なんか、セクシーさが増してないか? 風見、お前、何か知ってる?」とか「なんか、ますます美人になったよな?」というような問い合わせがあった。
俺の中の不安が、大きくなっていく。
「あの人は俺のものだから、手を出すな」と、釘を刺したかったが、降谷さんに無断で、この関係を公にするわけにはいかない。では、どうやって、あいつらに牽制をかけたらよいだろうか。
仕事中なのに、そんなことを考えていたのが、いけなかったのかもしれない。上から呼び出しを受けた俺は、地方へ二週間の出張を命じられた。
警視庁の公安部の活動範囲は、東京都内に限定されない。
俺は、降谷さんの右腕だが、警視庁公安部所属だ。状況次第ではそちらの業務が回ってくることもある。
出発は、五日後。
「二週間か……」
部屋で、荷造りをしながら、ため息をついた。
二週間、降谷さんとアレができないと思う。俺ですら、わびしいと思う。性欲の強い降谷さんは、なおのことそう思うだろう。
降谷さんはもてる。しかも、最近の降谷さんは、職場の男どもからの人気が加速している。恋愛関係は、生活範囲が重なる者同士で発生することが多い。俺と降谷さんがそうであったように。
プライベートでは、押しに弱いところがあって、簡単に体をゆるしてくれて、デートの際には必ずセックスをする降谷さん。アダルトグッズを愛用していて、イキっぱなしにさせると、うれしそうに笑う俺の恋人。
そんな人が、果たして、浮気をせずにいられるだろうか?
俺は、降谷さんが浮気をしないように、対策を考えた。
俺だって、男だから。
行為の際に、ローターくらいは使ったことがある。挿れたままローターを敏感なところに当ててあげるとか、ベタだけど、よろこぶ子が多いし。
しかし、ディルドやバイブはなんか違う。例えば、恋人が、ローターを隠し持っていたくらいなら「かわいいなあ」で済むけど。ディルドやバイブなどの挿入系のアダルトグッズをを所持していたら、結構ショックを受ける。
正直なところ。降谷さんがディルドと前立腺オナニーの器具を所持していた件。俺は、数か月たった今も、消化しきれていない。
しかし、複雑ではあるものの、降谷さんが浮気ではなく、おもちゃ遊びで性欲を発散してくれるなら。俺も折り合いをつけられる気がする。
だが、懸案事項がある。降谷さんは、最近、奥を責められることを気に入っている。
この前も、目にいっぱいの涙をため
――中が、いっぱいになってうれしい
と言っていた。
ディルドを使用すれば、物理的には、降谷さんの奥まで満たすことができるだろう。しかし、奥を刺激するには、それなりの強引さが必要だ。おそらく、自力でおこなうのは難しい。
そうなると、降谷さんは、別の人間の手助けを求めるかもしれない。
ディルドの出し入れを誰かに手伝ってもらう降谷さん。出入りする物体は、ディルドだけで済むだろうか?
つまり、浮気だ。
想像しただけで、ぞっとする。
俺は、ただちに、本件に関する協力者たちに電話をかけた。そして、奥までしっかり届く、おすすめのアナルバイブについて情報を聞き出した。
出張に行く前日になって、ようやく、降谷さんと会うことができた。
場所は、俺の家。今晩は、ここでセックスをして、翌朝、家を出る。
いつもであれば、俺が先に風呂を使うのだが、本日は、降谷さんに先に入ってもらう。
降谷さんが風呂から出てきた。セックスの準備を済ませ、体をぽかぽかにした降谷さん。
「風見…あいたぞ」
にっこり笑う降谷さんを、抱き寄せてキスをした。舌を挿しこめば、あっさりとそれを受け入れ、俺の好きなようにされる。
押しに弱いあなたを、ベッドに連れていくことは簡単だ。
「降谷さん、ベッドいこ?」
そう頼めば、すぐに応じてくれる。
キスをしながら、降谷さんをベッドに座らせる。照明を落とし、腕まくりをした。
スーツの上着とネクタイを外しただけの俺と、俺の部屋着を借りてきている降谷さん。少しゆとりのある部屋着は、簡単に脱がすことができる。
服を脱がせながら、首筋にキスして、耳を触って、乳首をひっかいたあげた。
まだ、それしかしていないのに、降谷さんの性器は、もうパンツの布を押し上げている。やや性急にパンツを脱がせる。恥ずかしそうに、前を隠そうとする降谷さん。俺は、降谷さんを抱き寄せて、背中をスーッとなで、お尻をさわさわしてから、アナルのふちに指を添えた。
「準備、できてます?」
耳元で、たずねれば、降谷さんがこくんとうなずく。そして、前を隠していた手が、俺の股間に向かって伸びてきた。
「降谷さん。もう、欲しくなっちゃったんですか?」
思わず、そんな言葉が出てしまった。降谷さんに求められるのは、うれしい。だけど、あらためて、降谷さんのいやらしさを思い知らされるような気がして、ほんの少しだけ、この人のことを憎いと思った。
いらだちが声に出ていたんだろうか? 降谷さんが、不安そうな顔をする。
「降谷さん。今日は、一人で、気持ちよくなる練習をしましょうね」
「……ひとりで?」
「ええ。ですから、まずは、手首を拘束させてくださいね」
眼鏡のレンズ越しに、降谷さんを見つめる。数秒間の沈黙ののち、降谷さんは、小さくうなずいた。
背中側で拘束するのは、かわいそうだから手は体の前。痕が残ったら困るから、使うのはクッション付きの手錠。
ガチャンと、片手ずつ手錠をはめていく。降谷さんは、従順にそれを受け入れた。
もちろん。業務や訓練で、手錠を使ったことはある。しかし、情事の際に手錠を使うのは初めてだ。俺は、基本的に、密着しながらするラブラブえっちが好きだ。軽い意地悪をすることはあっても、SMまがいのことは好きじゃない。
「降谷さん、俺、明日から、出張でしょう?」
「うん」
「二週間ほど、会えなくなります」
「そうだな」
「だから、その間は、降谷さんの奥のぐりぐりしたり、イカせっぱなしということができなくなります」
「……うん?」
「だから、その……いいおもちゃを準備してきたので……これで、気持ちよくなる練習をしてほしいんです」
降谷さんを四つん這いにさせて、充電器にさしておいたアナルバイブを引っこ抜く。そして、挿入部分に、たっぷりとローションを垂した。
電源を入れてみる。暗闇でもボタンの位置がわかるようにだろう。根元についた操作ボタンにLEDライトが灯る。下品なピンク色の光。
うごうごとあやしい動きをするシリコン。ヴヴヴヴという規則正しいモーター音。アナルパール風の、ふくらみとくびれを持つ、充電式アナルバイブ。太いところは直径三十ミリ、くびれの部分は直径十五ミリと、説明書に書いてあった。俺の性器より少し細いが、長さは数センチほどこちらの方が長い。
スイッチを切る。降谷さんの頭をなでて、宣言する。
「降谷さん、挿れますよ?」
「君のがいい……」
声が震えている。俺だって、できたら、自分のものを突っ込みたい。けれど、今回ばかりは、仕方がない。
それに、おもちゃを嫌がるなんて、なにを今更、だ。
「大丈夫ですよ。普段も使ってるでしょ? ディルドとか。前立腺気持ちよくなっちゃうやつとか」
観念したのか、降谷さんはシーツに顔を押しつけて黙り込んだ。もう一度、声をかける。
「いいですか、挿れますよ?」
返事はなかったが、降谷さんは、腰をぐっと上げた。それをOKのサインとして受け取る。
バイブの先を、降谷さんの穴に押しあてる。その刺激で、括約筋がひくついた。いやらしい体だ。やっぱり、俺のものじゃなくても、こうなるんじゃないか。
ぐにぐにと、バイブを挿入していく。
降谷さんは、大きな抵抗もなく、するすると、異物を受け入れた。根元までは難しいかと思ったが、シリコンがよく滑るからなのか。降谷さんの適応力が高いのか。それは、あっという間に奥までおさまってしまった。
降谷さんの体になじむよう、バイブをゆっくりと出し入れする。数センチほどの往復。一ターンあたり、三秒程度の時間をかけて。
普段、俺の手マンやピストンを受けている降谷さんは、緩慢な動きに物足りなさを感じているのか、腰をゆらゆら動かした。出し入れの速さをに緩急をつける。俺の上司はいやらしい声を上げ始めた。
状況のせいもあるけれど、いつもよりも、感じているかもしれない。
その声を引き出しているのは自分だが、いかんせん中に入っているものは、自分ではない。その事実に、イライラする。
だが、こうでもしなければ、この人は、他の男のものをここに受け入れてしまうかもしれない。具体的な顔が浮かぶ。例えば、降谷さんの色っぽさに気づき始めた、あいつとか。
ゆっくり進めようと思っていた俺だが、いらだちが、焦りにつながったのかもしれない。
「スイッチ入れます」
挿入して、まだ、数分しか経っていないのに、バイブの電源を入れてしまった。
LEDが点滅する。ヴヴヴという低音が部屋に響き渡る。
降谷さんが、体をくねくねさせて喘ぎ声をあげた。その姿を見て、なんだか、いろいろと、面倒になってきた俺は、ボタンを操作し、ランダムモードに切り替えた。
バイブがどんな状況になっているかは見えないが、説明書によれば動きの種類や強弱が、順不同で切り替わるらしい。不規則なモーター音。降谷さんの喘ぎ声も、振動音の大きさに合わせて変化していく。
自分でおもちゃを抜き取らないように、手首にかけたプレイ用の手錠。降谷さんは、シーツをギューッ握って、快楽に耐えている。
なんとなく、ランダムモードは気持ちがいいんじゃないかと予想していたのだけれど、どうやらそういうわけでもないらしい。降谷さんを観察する。どうやら、気持ちよく感じる刺激と、そうじゃない刺激があるようだ。もどかしげな、降谷さんの顔。
(俺だったら、降谷さんの反応を見て、一番気持ちよくなれるところをえぐってあげられるのに……)
などと、心の中でアナルバイブと張り合う。
それにしても。このまま、ランダムモードで放置しても、目的は果たせなそうだ。
降谷さんの気持ちいい刺激を探って、降谷さんに教えてあげなければならないだろう。この刺激を使えば、いっぱい気持ちよくなれますよって。だから、浮気をしたくなっても、これで我慢をしてくださいねって。
「降谷さん、どの動きが好きですか? 振動は? 強い方が好きです? それとも、弱い方がじわじわ来ちゃう?」
添い寝するみたいに、降谷さんの横に寝そべって、頭をそっとなでる。
風呂上がりの髪。ドライヤーで乾かさなかったから、毛先がひんやりしている。
降谷さんは、俺の方に顔を向け
「わかんッな…い」
と答えた。
「全部、気持ちよすぎちゃいます?」
「ちがう……!」
降谷さんが、首を横に振る。
「じゃあ、ちょっとずつ、振動変えていきますね。それで、一番気持ちいいやつを探しましょうね。そうしないと、いつまでたってもイけなくて、辛いですよ」
よっこいしょと、体を起こして、あぐらで座る。
ふとのぞき込めば、降谷さんのペニスは、パンパンになっていて、少し気の毒だった。触ってあげたい。いや、舌で優しく、かわいがってあげたい。
でも、それは、できない。
なぜならこれは、降谷さんが、一人で気持ちよくなる練習だから。
アナルバイブに手を伸ばす。ひとまず、振動を弱くする。それから、一つずつ振動の種類を試そうと、ボタンを操作した。
すると、降谷さんが、腰をぺたんと下ろし、のろのろと動き出した。
びっくりして、手の動きが止まる。
降谷さんは、手錠のかかった手と足を使って、シーツの上を這いまわった。そして、あぐらをかいている俺の足元に顔をよせ。再び、腰を高く上げた。
「どうしたんです?」
頭をなでてやれば、降谷さんは、体をビクッと震わせる。
そして、手錠をカチャカチャ言わせながら、俺のベルトに手を伸ばした。
その様子を眺める。降谷さんは手を震わせながらも、一生懸命に、ベルトのバックルを外し、ズボンの前を寛げた。
降谷さんが、パンツ越しに俺のチンコにキスをしてくる。
「ちょ…ふるやさん?!」
こんなことを、されたのは初めてだ。というか、降谷さんが、俺のそこを舐めようとしても、俺はそれをさせなかった。大好きな人に、そんなことをさせたくない。
だけど、今日は、降谷さんを押しやることができなかった。
お尻にアナルバイブを突っ込まれて。体をびくびくさせて、手錠をしたまま一生懸命に、俺のチンコに手を添える降谷さん。
ぺろっと、パンツをめくられて、俺のペニスは勢いよく飛び出した。竿が、降谷さんの顔にべちっと当たる。
(あ、これ、AVで見たことある)
妙に冷静に、そんなことを思った。
俺が、そんなことを思っている間にも、降谷さんはことを進める。降谷さんの真っ赤な舌が、ペロッと、俺のものを舐めた。俺は、フェラの経験があんまりないから、フェラのよしあしとか、あまりわからない。でも、上手さが伝わってくる。
ふと、仕事から帰ってきて、シャワーどころか着替えすらしていなかったことを思い出した。あわてて、降谷さんを制止する。
「だめです」
「れも……ぼく、これ、ほしい」
「バイブがあるでしょ? 明日からは、それで、気持ちよくならないとなんですから、練習をしないと」
諭すように言いながら、頭をなでる。しかし、降谷さんは、フェラをやめないどころか、一段上の舌の動きを披露し始めた。裏筋のところをレロレロされて、竿を下から上にジグザグに舐められて、亀頭をツンツンとされ、敏感なところを唇でねっとりと包み込まれる。
正直、めちゃくちゃ気持ちがよかった。
どうして、こんなに上手なのか。考えなくてもわかる。これらは、昔の男に教え込まれたテクニックだ。俺は、この刺激で、イキたくないと思った。
「ふるやさ…ダメ……俺、いきそ……、ね、離れて」
降谷さんに懇願する。だけど、返事はない。ピチャピチャって音と、バイブから聞こえる下品な振動音、自分の脈、降谷さんの喘ぎ声まじりの吐息。
「降谷さん……、お願いします。俺、これでいきたくない」
ぎゅっと、チンコの根元にあった降谷さんの手を握りしめる。
すると、降谷さんはフェラを中断し、顔をあげた。口の端からは、よだれが垂れて、ぴかぴかと光っている。
「ぼくら…って。こんなので…ぃきたく……ないよ」
今にも泣き出しそうな声だった。
俺は、はっとした。
恋心をこじらせて、不安にかられて、勝手に煮詰まっていく俺の悪い癖。
俺は、ポケットから手錠のカギを取り出し、降谷さんの拘束を解いた。
そして、大急ぎで、アナルバイブを、降谷さんの中から引き抜いた。降谷さんの体が、ぎゅっと、弓なりに反る。
「あ……ごめんなさい」
なんてことだ。
「ばか…っあぁ」
アナルバイブでイカせるのを阻止しようと思ったのに。俺は、慌ててバイブを引き抜いたことにより、うっかり、降谷さんを射精に導いてしまったのだ。
風見が、浮気しているかもしれないことには気づいていた。ゲイバーに出入りしていることや、男性同性愛者を金で買っているらしいことも。知ってはいたけれど、僕は、それを問いたださなかった。
この恋において、僕は一つのずるをした。
風見が、ゼロの右腕にふさわしい男であることは確かだ。けれど、僕が彼を右腕に選んだ理由は、それだけじゃない。
潜入先での諸々が一段落して、警察庁での別案件を任され始めた頃。僕は、風見裕也を知った。
大がかりな仕事。警視庁から派遣された職員は五十人。
モニター越しに、作業員の様子を確認しながら指示を出していく。作戦は順調に進んでた。
そんな折、一人の作業員が、現場に子どもが紛れ込んでいるという報告をあげた。状況を確認しようと、無線で声をかけた時、彼はすでに動き出していた。事前に僕が決めた段取りの一部を無視して。
画面越しに、彼と子供の姿を見つける。僕は無線で追加の指示を出した。彼は、現場の状況を確認し、少しの自己判断をまじえて、僕の指示に従った。
画面越しとはいえ、自身の動きが指揮官に筒抜けになっていることを彼は知っていただろう。しかし、彼は、僕の指示を機械的に実行しなかった。彼は大筋は僕の指示に従いつつも、周囲を確認し、自分で考え、総合的に判断し行動した。
「また、風見か」
という、誰かのつぶやきを、僕は聞き逃さなかった。
一目ぼれだった。
僕は、風見裕也のとりこになった。
最初は、もちろん、部下にしたい男としてほれ込んだ。
だけど、僕が作ったお弁当をおいしそうに食べてくれることとか、僕のために、本当に一生懸命になってくれることとか。そういう一つ一つが積み重なり、気がついたら恋になっていた。
たぶん、風見は、僕の体目当てで、僕と交際している。
けれど、それでも、いいと思えた。
セックスの時、風見は、僕の体にぴったりと肌を合わせる。そして、時間と体力の許す限り僕を抱いてくれる。
だから、僕も、風見を気持よくしてあげたくて、フェラチオの勉強をした。
女性向けの雑誌が、男性への愛撫の特集をした時は電子書籍でそれを買い、熟読した。
けれど、風見は、好きな人にはそういうことはさせられないとか、そんなことを言って、手で触るところまでしか許可してくれなかった。
風見が、二週間の出張に入ると聞いたとき。僕は、ほんの少し不安になった。
二週間の地方ぐらし。当然、風俗ぐらいは使うだろうし。向こうで、いい遊び相手を見つけて、その人と浮気をするかもしれない。
出張の前の日、風見の家に招かれた。僕は、不安でいっぱいだった。
先にお風呂に入るように言われた時は、なんだか、嫌な予感がした。いつもは、そんなことはないから。
入浴と一通りの洗浄を終え、風見の部屋着を着る。
そして、風見に声をかける。
緊張を悟られぬよう、作り笑いをはりつけて。
「風見…あいたぞ」
そう言った僕に、風見はキスをした。そのまま、ベッドに誘われる。
いつもと違うことへの不安。
お風呂に入っていない風見と、そういうことをするのは初めてだ。風見は疲れていて、お風呂に入るのが面倒になったのかもしれない。
風見のシャツから汗とほこりの匂いがした。でも、嫌じゃない。それに、僕の準備はできている。だから、早く済ませて、出張に備えて早寝をしたらいい。
そんなことを思いながら、ベッドで風見の体を求めた。
だけど、風見は、服を脱がなかった。
僕は、おもちゃの手錠をかけられた。
風見が、グロテスクな形をしたアダルトグッズを僕の中に挿しこもうとする。断りたかったけれど、拡張のために使ったディルドの話を引き合いに出されて、引けなくなった。恥ずかしい。風見は、僕があれを使っていたことを知っていた。
そして、アナルバイブが入ってきた。
それは、風見しか入れないはずの奥まで侵入してきて、僕の中をぐちゃぐちゃにかき回した。こんなもので、達するのは嫌だった。
「一人で、気持ちよくなる練習をしましょうね」と、風見は言う。
彼は、連続して、絶頂を迎える僕が好きだ。だから、出張中も、これをつかって、一人でそういう風になれってことなんだと思う。風見がよろこぶのなら、ぜひとも、そうしたかった。
だけど、僕が、そういう状態になれるのは、風見の腕の中で、風見のものでいっぱいになっているからだ。風見以外のもので、そんな風になりたくなかった。
僕の気持ちとは裏腹に、中の異物は無理やり僕の快感を引き出そうとする。
いろいろな振動を試すために、風見がボタンを操作した。振動が、ほんの少し弱まる。行動するなら、今しかないと思った。
風見のペニスを目指し、僕はベッドの上を這いずり回った。尻に刺さった異物。うまく動かない体。今の僕は、きっと、すごくみっともない。けれど、そんなことは、もう、どうでもよかった。
どうしたら、それをもらえるんだろう? わからない。わからないけど、僕は風見のベルトを外しズボンのファスナーを下ろした。
ツンとした匂い。僕は、パンツの上から、風見のものにキスをした。唇から伝わってくる硬さ。そこは、ちゃんと大きくなっていて、パンツの布をめくれば、勢いよく、僕の顔にぶつかった。
風見のそれが、欲しくて欲しくて。生まれて初めてのフェラチオをした。
お風呂に入っていない風見のものの匂いと味。それは、一般的には、いいものではないんだろう。だけど、今の僕には、たまらなく魅力的だった。
ちょうだいちょうだい。
そう思いながら、勉強の成果を見せつける。
体がぐずぐずになっていく。振動が弱まっているとはいえ、あいかわらず、おなかの中はひっかきまわされて大変だし。風見のやつを舐めまわす興奮で、僕の体はどんどん熱くなっていく。
このままじゃ、本当にこれにイカされてしまう。
でも、風見のじゃなきゃ嫌だ。達しそうになるのをこらえながら、風見のものをしゃぶり続けた。
やがて、口の中のものがびくびくして、風見の息が荒くなった。風見のいい声が「イキそう」と言う。味がちょっと濃くなってきて。ああ、いっそ、精液を飲んでみたいと思い舌を動かし続けた。
でも、なんでだか、わからないけど、風見は、僕のフェラチオで射精するのを嫌がった。
それなら、僕だって、君以外のものでイクのは嫌だ。
「ぼくら…って。こんなので…ぃきたく……ない」
必死の訴えが功を奏したのだろうか? 風見が、僕の手錠をはずした。
そして、バイブを引き抜く。
ズブン……
「あ……ごめんなさい」
「ばか…っあぁ」
せっかく風見が、やめてくれたのに。バイブを抜くときの刺激で射精してしまった。風見のスラックスをほんの少し汚した。
「降谷さん、本当に、ごめんなさい」
風見が、僕の頭をなでる。
僕は、風見のシャツに手を伸ばし、そのボタンを外そうと試みた。
「ふるやさん?」
だけど、体中が、なんか気持ちよくて、手錠は外れたはずなのに手の自由が利かない。
「して……。 挿れて……? 僕、君の、ほしい」
「でも、今……イッたばかり」
「……ばか、今更だろ。君、いつも僕のこと……しつこいくらいに、責め立てるくせに」
「ああ、ごめんなさい。俺……こんなことしてしまったのに、それでも、まだ、俺のを欲しいと思ってくれるんですか?」
「……しばらく会えないのだし、君が出張先で、変な気を起こさないように空っぽになるまでつき合ってやる」
風見は、浮気することに罪悪感を感じないたちなのか
「降谷さんこそ。二週間、ちゃんと、我慢しててくれなきゃ、だめですからね」
自分のことを棚に上げて、そう言った。
風見が、服を脱ぎ、素っ裸になる。それから、眼鏡を外して僕の首や肩に優しくキスをしてくれた。横に寝かされる。背中に、風見の体がぴたりとはりつく。さわさわと、下腹部をなでられて、うなじを舐められた。
バイブによって、振動を与えられ続けたおなかの中は、何もなくても、びりびりとした余韻を引きずっている。
そこに、風見のものが、入ってきた。体がびりびりする。
「ごめんね。俺のせいで、お風呂上がりの体、冷えちゃいましたね」
風見の優しい声が、おなかに響く。もう僕は声を我慢できない。
そして、あっという間に、風見が大好きな「そういう状態」になった。
「……ッふる、やさん。ナカすごい」
「ぁん……あっ……ふ……」
「おもちゃより、本物のチンコがすきなんですね」
「……すき……!ぁあぃんッの…に…好き…ぃ」
「風見のペニスが好き」うまく言えたかは、わからない。
初めのうちは、この状態になるのが、恐ろしくて仕方なかったけれど。多分、僕は、風見にドロドロにされるのを、だんだん好きになっている。
「新幹線で寝るから大丈夫です」
風見は、ギリギリまで僕のことを抱き続けた。
本当に、セックス好きだよなあと思いながら、それにつき合った。
明け方、身支度を済ませた風見を見送った。
もう少しだけ眠ろうと思って、ベッドに向かう。すると、床に、あの忌々しいおもちゃが落ちていた。明るい場所で見るそれは、本当にグロテスクで。こんなものが入ってしまう自分の体が心配になった。
バイブを拾い上げる。
自分の中に入っていたものを、そのまま放置しておく気にもなれなくて。ベッドサイドに置いてあった説明書を手に取り、お手入れの方法を確認した。どうやら水洗いが可能らしい。
風見が出張に出かけた後。僕は忙しかった。風見の不在を見越して、業務量の調整はしてあった。
だから、こなす仕事の量はいつもと変わらないのだが、風見ありきで事を進めそうになる自分がいた。
僕はとことん、風見裕也を頼りにしているんだと、思い知る。いや、風見がいなくたって、何とかなってしまうのだけれど。ふとした瞬間に風見の不在を感じて寂しくなる。
風見と、久しぶりに電話をしたのは、風見が出張に出てから十一日目のことだった。
仕事に関するやり取りは、メールであらかた済ませていた。だから、ほとんどプライベートのための電話だった。
『降谷さん。あの日、湯冷めさせてしまったけれど、風邪ひいたりしませんでしたか?』
スマホ越しとはいえ、風見の声を聴くのは久しぶりだから、すごく、うれしいかった。
「君こそ、出かけるギリギリまで、無茶をしていたけれど……大丈夫だったのか?」
『ええ。大丈夫ですよ』
ベッドに移動して、棒状のものを手繰り寄せる。
「なあ、風見……」
『どうしました?』
「あの、この前使った、シリコンのやつ」
『え……? あ、もしかして、結局、使ったんですか?』
「いや、使ってない」
『ああ。ですよね……降谷さんは、本物のチンコの方がお好きですもんね』
その言い方が、なんだか、引っかかった。
僕は、男性器が好きなわけではない。あくまで、風見のものが好きなのだ。
「うん……僕は、君の……その。性器が好きだよ」
行為以外の場面で、その名称を言うのは、なんて恥ずかしいんだろう。
行為中だって恥ずかしいけれど、服を着ているせいなのか、頭が冷静であるせいなのか、いつもより余計に恥ずかしい。
『そうですか。俺の性器がお好きなんですね』
「ああ。たとえ君が準備してくれた、アダルトグッズであっても、できれば入れたくないよ……」
『うん』
「でも……君は、僕が、その…そういう状態になっているのが好きなんだろ? だから……、もし、それをしてほしいと言うなら……できる範囲で、がんばろうとは思う」
『え? 降谷さん……そういう状態とはなんです?』
「いや……その…なんていうか。性行為中のトランス状態というか」
『え? イキっぱなしにが好きなのは、降谷さんでしょう?』
ひさしぶりに会話をしているせいなのか、顔が見えないせいなのか。話が微妙にかみ合わない。
仕方がないので、僕は、改めて自分の気持ち説明することにした。
「僕は、その……そういう状態になるの、好きっていうか……そうなってる僕を見て、君が、うれしそうだったから、がんばっているだけだ」
『え……?』
「だから、君が、どうしてもって言えば……この前のバイブで。その、うまくできるかわからないけど……電話越しで、こう……挑戦してみてもいいかなと思っている」
絶倫で、浮気癖のある恋人を持つ僕は、とにかく必死なんだ。
『え…? そんな、無理をなさらなくていいんですよ』
「無理……するに決まってるだろ。僕だって、浮気されたら、傷つくんだ……。君、ばれてないと思ってるかもしれないけど。…ゲイバーとか……若い男を買ったりとか、してたろ? だから……そっちでも、その…風俗とか……マッチングアプリとかで、息抜きとかして…
『降谷さん!!!!!』
「なんだよ、急に。大きい声を出して」
『それ、全面的に誤解です』
「誤解???」
『自分は、降谷さんを気持ちよくするために、情報収集をしていたまでです!!!!』
「え?」
そこから、風見のいいわけが始まった。
確かに、僕は決定的な証拠を押さえていない。風見が、実際の行為に及んだかについては、裏を取っていない。だが、状況を考えれば黒だ。
『俺には、浮気をする動機がありません』
「いや、動機ならあるだろ。君は、性欲の塊みたいな男だ。僕が仕事で忙しいときに、よそで、済ませようとしてもおかしくない」
『いや、降谷さんの方が、性欲強いじゃないですか? ディルドとか…前立腺気持ちよくするやつとか愛用してますよね? ……俺が買ったバイブだって結局、部屋に持ち帰っているし』
その言葉を聞いて、愕然とした。どうやら、僕は、あれらの道具を使って自慰行為をしていると思われていたらしい。
そんなんじゃないのに。
僕は、風見との行為をうまくこなしたくて、あれらの道具を使っただけだ。
自分で、アナルを拡張していたなんて、絶対に知られたくなかった。でも、変な勘違いをされるのは、もっと嫌だ。
「いや……その。あれは……僕が初めてだったから、失敗したくなくて……自主トレーニングに使っていただけで……」
『え? 初めて、ですか?』
「うん」
電話口から「えーと?」「え? 自主トレって、つまり?」「じゃあ、あれ、処女だったの?」風見のつぶやきが聞こえてくる。
『申し訳ありません。降谷さん……。俺、勘違いしてました』
「うん」
『俺、昔から、片想いでも両想いでも、恋心をこじらせちゃう癖があって』
「恋心をこじらせる癖???」
『なんていうか。不安とか、そういうものに飲み込まれて、変な方向に突っ走ってしまうんです』
「変な方向? ちょっと、よくわからないから、詳しく説明してくれ」
『降谷さん、すごくきれいだし、えっちだから……浮気しちゃったらどうしようって、そういう不安があって』
「え? なんだそれ?」
僕が、浮気するわけがないじゃないか。
『それで、この出張中も、降谷さんに浮気されるんじゃないかと思ってすごく不安で……。それで、この前みたいな、ああいう……ひどいことしてしまって』
そして、風見は、アナルバイブを準備した経緯を語り出した。
僕が浮気したらどうしようと思って、あれを準備したこと。自分で準備しておきながら、バイブに対して嫉妬してしまいイライラしたこと。そういう馬鹿みたいな話を、風見は真剣な口調で語り続けた。
さらに、僕がいかにもてるかを力説し始めた。あげく、具体的な同僚の名前を出し「あいつは、降谷さんのことを、そういう目で見ています。絶対に近づいちゃだめです」などと、注意喚起を始める。
馬鹿みたいな話だけれど。風見の言っていることは、全部本当だと、そう思った。
だから、途中から、笑いながら話を聞いた。
『俺たち、お互いに相手のことを勘違いして……。一人で間違えた方向に努力してしまって……なんか、馬鹿みたいですね』
「まあ、似た者同士なのかもな……」
『ええ。俺も、今後は情報収集を控えますので、降谷さんも自主トレは辞めてくださいね』
「……うん、わかった」
『そうだ、降谷さん、俺が、そちらに帰ったあかつきには……』
出張が終わり、報告書作りや伝票整理も終わり、明日から、二日間の休暇が与えられた。
降谷さんもそれに合わせて、一日だけではあるけれど、休みを入れてくれたらしい。だから、今晩は、久しぶりに降谷さんの家でお泊りだ。
とてもうれしい。それこそ、鼻歌を歌いたくなるくらいに。
ずっと、無理をしてきた。俺はセックスが好きだけれど『強制連続アクメ!!』というタイトルのついたAVのようなプレイは、好きじゃない。降谷さんに浮気されてしまうと思いこんでいたから、降谷さをイカせっぱなしにしていたけれど、俺は、甘々えっちが大好きだ。
ゆっくり時間をかけて、リラックスしながら行為をして、終わった後は、髪を撫でたり軽めのキスをしながら、おしゃべりをする。そして、お互いの体温を感じながら、情事の名残を楽しみつつ、うとうと眠る……俺は、そういう、穏やかなセックスが大好きなのだ(うっかり二回目に入ってしまうことはあっても、その場合も、まったり行為を楽しみたい)。
「おかえり」
半月ぶりの降谷さん。
「ただいま」
出張のお土産を渡し。それから、軽めのハグをした。
降谷さんは、お風呂に入った後みたいで、シャンプーと石鹸のいい香りがした。俺も夕飯前に風呂をもらう。
降谷さんが作った料理を食べた。すごくおいしかった。食後は、テレビを見ながら、土産のまんじゅうをかじる。
半月の間に何があったのか、仕事以外のささやかな日常について語り合った。
スウェットのズボンに、少しぴったりした長袖Tシャツを着て、パーカーを羽織っている降谷さん。
降谷さんの家に置かせてもらっている、イージーパンツと薄手のトレーナーを着た俺。
指を絡ませたり。軽くキスをしたり。そういうスキンシップを楽しみながら、おしゃべりをした。
ぴったりとした、長袖Tシャツの裾。手を忍び込ませて、降谷さんの下腹をなでる。降谷さんが、もぞもぞして、俺の眼鏡を外した。
「今日が本当の初夜みたいですね」
俺がそう言うと、降谷さんが、俺の鼻をギューッとつまんだ。
おわり
【あとがきなど】
内容がないよー!!!
風降って、ラブコメっていうか、エロコメが似合うなあと思っていて。
「自分でも書いてみよう☆」と思った結果が、このざまです(エロコメ適性が低い)。
本当は、この後
甘々えっち最高だぜ!!!!
……と、幸せに浸るのも、束の間……激しいセックスに慣れきってしまった二人の体は、貪欲で?!!!!
という展開を書きたかったんですが。
心が折れたので、ここでおしまいです。