初出:2020/9/24(ぷらいべったーより)
※TIME.45のネタバレあり
〇公安の仕事と並行して、街のトラブルシューターやってる系の風降
〇TIME.45の少し後の話
「降谷さん、またですか?」
夜の公園。仕事帰りに、上司に呼び出された風見裕也は、缶コーヒーを飲みながら、眉間にしわを寄せた。
「風見、警察職員の職務倫理の基本のひとつ。誇りと使命感を持って、国家と……さて、何に奉仕することかな?」
「……国民、ですね」
「そうだな。”誇りと使命感を持って、国家と国民に奉仕すること”。風見裕也警部補。この公園を中心とした半径二キロメートルで、頻発する地域ネコ失踪事件を解決することは、国家・国民への奉仕になるとは思わないか?」
自信と威厳に満ちた降谷の口ぶり。風見は「そうですね」と答えたくなるのをこらえた。そして、警戒心を強めながら
「地域ネコは国民ではありませんよ。そういった活動は、動物愛護団体に任せておけばいい」
と反論した。しかし、降谷は動じない。
「……君も知っての通り、猟奇殺人犯は、たいていの場合、殺人の前に小動物などを殺害している。そういった人物を早めにしょっ引き、更生の機会を与えることは、国家・国民への奉仕と言えるだろう?」
「しかし、降谷さん。遺体は上がっていないんですよね? ネコちゃんらは、まるで神隠しにあったように、跡形もなく消え去ったと、そうおっしゃっていましたが?」
風見は、コーヒーを飲み干した。
「しかし、妙だろ? 居なくなったネコは、一匹や二匹じゃない。僕が、子どもたちに聞いて調べただけでも二十匹を超えている。となると、これは個人の犯行であることは考えにくい」
なんらかの組織が、地域ネコ神隠し事件に関わっているとでも言いたげな降谷の口調。風見が、ため息まじりに答える。
「……保健所が、仕事をしたんじゃないですか?」
「いや、ここらの地域ネコ活動は、市役所や保健所と連携を取りながら行われているし、地域ネコにはすべからく、耳先のV字カットが施されている」
「では……ネコちゃんが、集団移住したとかは考えられないんですか?」
「それは考えにくい。ネコはなわばりを持つ動物だし、野良猫の行動半径は、おおよそ五百メートル。半径二キロ圏内のネコ二十匹が、次々と、生活場所を遠くに移すとは考えにくい。それに、ネコとは……」
降谷がネコの生態について事細かに語り出す。それを、風見が制止した。
「降谷さん」
「……ん?」
「この前の、河童及び赤マント事件の時も思ったんですけどね」
「なんだ?」
「あの時も、有毒ガスだ。テロの可能性だ。違法薬物の実験施設があるかもしれない……と、そんなことを言って、俺に調査を命じましたが。降谷さん、本当は、近所の子どもを守りたかっただけですよね? 神社で遊ぶ子どもが中毒にならないように……とか、興味本位で近づいた子が危険な目に合わないように……とか」
降谷は、ぶっきらぼうに
「違う。それは、君の考えすぎだ」
と、言った。
「そうおっしゃいますが、あの医者は優秀でしょう? 二酸化炭素中毒の診断はすぐについたでしょうし。最初から、有毒ガスが原因でないことをわかっていたはず……。まあ、そのことはいいんです」
風見が、手に持っていたコーヒーの空き缶を捨てながら言う。
「降谷さん。ネコちゃんが居なくなって、寂しがる子どもたちのためだったり。ネコちゃんが消えた謎を解こうとして無茶をする子どもを守るためだったり……。俺は、そうことのために働くの、好きですよ」
降谷は、風見の顔を見つめた。
「……ですから、最初からシンプルに、子どもたちのために手を貸してくれって、そう言ってくださいよ。そうすれば、俺は、手を貸すんだから」
「君……手伝ってくれるのか?」
「ええ。子どもたちの、笑顔と安全を守るためでしたら、俺は、誇りと使命感を持って奉仕しますよ」
降谷は、ぷくくっと、こらえきれずに笑い出した。
「え……そこ、笑う所じゃなくないですか?」
「いや……君、今の部署より……交番のおまわりさんの方が似合うんじゃないか? そう思ったら、なんか、おかしくなってしまって」
その言葉に、風見も、ふふっと笑う。
「確かに……自分でも、ちょっとだけ、そう思うんですけどね。でも、俺は、今の上司のもとを離れる気がさらさらないので、交番勤務は希望しません」
地域ネコが消えた、夜の公園。十月の風は、冷たい。
「……そうか。まあ、君の上司も、君を手放す気はさらさらないだろうな」
そう言いながら、そっぽを向いた降谷の横顔を見て、風見裕也は、笑いをこらえることができなかった。
「そこ、笑う所じゃないだろ」
「いやあ……俺たち、相思相愛だなあと思ったら、なんか、うれしくて。まあ、いいんです。そんなことより……降谷さん! 俺は何を調べればいいんです? ひとまず、動物愛護団体に問い合わせをいれますか?」
その問いに、降谷が的確に指示を出していく。
誰も知らない、たった二人だけの『米花町地域ネコ集団失踪事件捜査本部』。
その第一回捜査会議は夜の公園で行われた。
【あとがきなど】
TIME.45……読み終わって思ったよね
この二人……やってる!!!!!! 絶対、あれをやってるよ!!!!!!
この二人……ぜってー、公安の仕事と並行して米花町のトラブルシューターをやってるよ……!!!!!
そう思って、これを書きました。
二人だけで、秘密裏にトラブルを解決して。
解決後は、少しだけ、しみじみして……
いくつか言葉を交わし合ったのち、二人別々の方向に歩いていく……そういう風降…めっちゃよくない?????
(事件解決後のBGMは、TMNetworkの『Still love her』でお願いします)
そういう気持ちで、これを書きました。
そして……。
推敲をしながら……。
『いくら人気のない公園とはいえ、お外で警察バレするであろうおしゃべりをするのは、どうなの?』
って、思いましたが。茶文脈なら、ゆるされる気がしたので、修正しません。