ぼくらがラブホに行く理由

※冷凍のエビピラフという言葉に性的ニュアンスを持たせる表現があります(?)冷凍エビピラフを、汚されたくない方は閲覧をお控えください。

ラブホに行く風降
少しSMっぽいかもしれない?


 

【冷凍のエビピラフ】

風見とラブホテルに来ることがある。

仕事柄、街中にあるホテルに入ることはできない。だから、僕たちのラブホ利用はいつだって計画的だった。休みを合わせ、風見が用意したレンタカーで移動し、隣県のワンガレージ・ワンルーム式のホテルを利用する。
知り合いに見つかるリスクは低い。
郊外のラブホテル。土地代が安いこともあって、部屋は広くてベッドやソファも質のいいものを使用していた。風見曰く「フードメニューが冷凍ばかりなのが唯一の欠点」とのことだが、そもそも僕たちはフードメニューをほとんど利用しない(アイスクリームを頼んだことがある程度)。
食べ物は、いつも風見が準備する。デパ地下のお惣菜とか、どこかのレストランの前菜詰め合わせのテイクアウトとか、そう言ったものをクーラーボックスに詰めて持ってくる。

なぜ、僕らは、ラブホに行くのか。

僕たちは、お互いに一人暮らしだ。正直に言えば、セックスをする場所に困っていない。
にもかかわらず、なぜ、レンタカーを借りてまでラブホに向かうのかといえば「音の問題」が大きい。

――風見裕也は、僕を思いっきり啼かせたい

しかし、集合住宅での生活。性行為の際の声量には配慮が必要だ。
僕らは公安の人間だ。近隣住人から「性行為の声がうるさい」という苦情が出てしまったら……面目が立たない。

 

数か月ぶりのラブホテル。

コンビニの駐車場で、風見と落ち合ったのは午後七時半。

ラブホテルに行くだけだ。レンタカーなんて、軽自動車だってかまわない。なのに、風見はいつも、セダンタイプの、そこそこいいクラスの車を借りて来る。他人の金の使い方に口出しするつもりはない。けれど「馬鹿だなあ」とは思う。どんなにいい車を借りても、ホテルについたら午後十時から翌日の正午までガレージに停めっぱなしになるのだから。

高速に乗って、片道1時間半ほどの道のり。途中のSAで地ビールを買い足して、目的地付近に到着したのは午後九時を回った頃だった。

「降谷さん、今日は晴れているし、見晴台まで行きます?」
「そうだな」

今日のように、渋滞に巻き込まれなかった日には、近くの見晴らし台まで足を延ばして夜景を眺める。
ベンチが置いてあるだけの、小さな夜景スポット。
時折、別のカップルがいて、気まずいこともある。しかし、みんな自分の恋人のことしか見ていない。だから、そういう時は、隅の暗がりで夜風にあたった。

「あ、今日は先客いないですね」
「まあ、平日だしな」

僕らは車を降りて、夜景を眺めた。丘陵地帯のなだらかになったあたりに、市街地が見える。
他の恋人がいない時、風見はいつも同じことを言う。

「降谷さん。これが、自分たちの国ですよ。そして、あなたが守っている国」

何度、聞いても笑ってしまう。僕の恋人は、そこそこにサブカルをたしなんでいて、アニメの台詞のパロディを会話に仕込むことがある。
少しおしゃべりをして、キスをした。外気に触れながらするキスは、とてもすがすがしくて。いつも夢中になってしまう。風見の分厚い舌が、僕の口腔内を丁寧に愛撫する。頬に感じる鼻息がとても熱くて。僕は、すごく興奮した。
僕と風見が、おまわりさんじゃなかったら。このまま、車の中で交わっていたかもしれない。
しかし、どんなに欲に飲まれそうになっても、僕らは悲しいほどに警察官で。だから、キスを切り上げ、少しの冷却時間を取った。

 

午後九時五十分。見晴らし台を出てホテルに向かう。

ホテルに到着したのは十時二分だった。備え付けのベニヤ板でナンバーを隠し、部屋につながる階段を上った。
風見の背中を眺めながら、その後ろをついていく。その背中に抱き着いてみたかったけれど、風見がびっくりして階段から落ちでもしたら洒落にならないから我慢した。
部屋の戸を開ける。風見は、靴を脱いでスリッパに履き替え、すぐさまに部屋を換気した。
そして今月の映画配信スケジュールの紙を僕に渡し

「じゃあ、降谷さんは、今日の映画を選んでくださいね」

と言った。
僕は、風見の腕を引っぱった。風見は僕の額にキスをし、スリッパをパタパタ言わせながら玄関に向かった。額をなでながら、映画のリストに目を通す。
扉がばたんと閉まる音。風見が階段を下りていく足音。
こういう時、風見は、一人で動く。二人で料理や飲み物を運べば、その間も一緒に居られるのに。風見は僕を手伝わせない。

――そもそも

風見が僕を思いっきり啼かせたいと言うから。毎回毎回時間を作って、こんな辺鄙なところまで来ているのに、どうして映画を見ながら、ゆっくりおしゃべりをする必要があるんだろう……?

僕は、リストの中から、一番退屈しそうな映画を選んだ。スマホで検索する。インターネットの口コミも、かんばしくない。
風見が戻って来た。風見は、クーラーボックスの中の料理や酒を、冷蔵庫にしまったり、レンジに入れたりと、せわしなく動き回った。

「降谷さん、映画決まりました?」

エアコンの電源を入れながら、風見はにっこりとほほ笑んだ。

「うん」
「じゃあ、乾杯したらそれ見ましょ。セッティングしてもらっていいです?」
「うん」

風見が、洗面所の水道でグラスをすすぎ、乾杯の準備をしてくれた。

最初の一杯はワインだった。地ビールは、冷蔵庫で冷やしてある。

「では、降谷さん、乾杯」
「うん」

グラスを合わせる。恋人の時は、職位を忘れろと言っているのに。乾杯のとき風見のグラスは僕より数センチ低いところにある。
映画を再生する。料理を食べながら酒を飲む。
風見は、僕がどんなにつまらない映画を選んでも最後まで見る。「なぜ最後まで見るのか……?」なんて、聞かなくてもわかる。僕が選んだ映画だから……という、それだけの理由だ。

むっとしながら、つまみに箸を伸ばす。風見がデパ地下で買ってきた冷菜。セロリとクリームチーズの相性がよくて、すごくおいしかった。
僕は29歳の大人で、風見がどういう気持ちで、料理を準備してきたのか理解できる。だから「僕は冷凍のエビピラフだってかまわないのに……」なんて、そんなことは言えない。
風見の肩に、よりかかる。
恋人に冷凍食品を食べさせるわけにはいかないと思っている風見裕也は、映画からは目を離さずに僕の頭をなでた。

TIME IS MONEY……

そんな言葉がよぎった。時間は有限だ。
僕は、風見の太ももをさわさわとなでた。風見が僕の手を捕まえて、ぎゅっと握りしめた。

「まだ、映画、終わってないですよ」
「……でも、この映画退屈だろ?」
「……そうですか? 降谷さんと見る映画なら、俺はなんだって楽しいですよ」

そしてまた、額に、キスをされる。
「違う、そうじゃない……」と言いたい気持ちをこらえながら、僕は、風見の首筋にキスをした。

映画が終わるまでは、おしゃべりとお酒の時間。それが、風見裕也の愛情表現。

僕が風見の体に、胸板を擦り付けたって。意味ありげに、風見の指に唇を押しつけたって「ハイハイ」とあやすだけで、一向に手を出してこない。

凡庸なエンディング。
エンドロールが流れ始めたところで、僕は、テレビの電源を落とした。

「あ……」
「……さすがにいいだろ?」

苦笑いをしながら、風見が僕の頭をなでた。

「地ビール、開けましょうか。日付変わるまでなら、飲んでもいいですよね?」
「だめだ」
「どうしてです? 12時間経てば、アルコールは抜けます」
「そういうことじゃない……。君、ここに何をしに来たのか、わかっているのか?」

風見を、にらみつける。

「……あー……ほんっとに、かわいいよなあ」

風見が、僕の髪をガシガシして、ぐっちゃぐちゃにした。

「おい……」
「降谷さん、アンタね。かわいいですよ。かわい過ぎるんです」

風見が、僕の鼻の頭にキスをする。そして、ぎゅっと抱きしめられた。

「あのね……もっと、直接的に誘ってくれていいんですよ」
「……十分、直接的だったろうが」
「わざと退屈な映画を、選んだり?」
「……触ったりとかしただろ…?」
「胸を…こすり付けてきたりしてましたね。あれ、気持ちよかったです?」

なにも言い返せない。風見の手がズボンの布越しに、僕のものを触った。

「ガチガチですね」

余裕ぶった言い方にカチンときて、僕も風見のそれに手を伸ばした。

「……君だって、人のことを言えないじゃないか?」
「…そりゃあ、恋人に焦らしプレイされてましたからね?」

焦らしたのは、どっちだよ! そう、思いながら、風見のそれをさわさわと、なでた。

「……あー…いいですね…それ。降谷さんから触られるの…すっげえ、うれしい」

風見もなでてくるだろうって、そう思って、心の準備をする。
そしたら、いきなり

「最初から、ここを触ってくだされば、あんな退屈な映画……最後まで見ることなかったんですよ」

耳元でささやかれ、ソファに押し倒された。

「意地悪してごめんなさい。でも……俺、降谷さんにもっと積極的になってほしくて……」
「……そんなの…君が、……冷凍のエビピラフで良しとしないのが悪いんだろ?」

顔をふいっと背け、ぎゅっと目をつむる。

「……? 冷凍の…エビピラフですか?」
「……毎回毎回、おいしい料理を買ってきて…ちゃんと……恋人同士の雰囲気を作ってくれて………君の心遣いを無下にしたくないから、僕は……」

次の言葉が出てこない。

「もしかして……我慢してたんですか……? ……降谷さん…本当は、どうしたかったんです?」

風見が、僕の頬を撫でた。

「どう…って」
「言ってください……言ってくださらないと、俺、最大限自分の都合のいいように解釈しますよ」
「都合のいい解釈?」
「ええ。だって、俺には、降谷さんが考えていることがわからないんだから。自分の都合のいいように解釈するしかないじゃないですか」

おそるおそる、風見の表情をうかがう。
風見は、にっこり笑っていた。それは、少年のような笑顔で。「君の好きにしろ」と言いたくなった。
けれど……ここで流されたら僕はきっと後悔する。風見裕也は、あまり自覚していないみたいだけど、結構なサディストなのだ。過去に何度か痛い目を見た。
僕は、自衛のために、率直な意見を述べた。

「君は、僕を思いっきり啼かせるために、僕をここに連れてきているんだろう? だったら、部屋に入ったら、即ぶち込むくらいの気概を持て」

…………。

風見の顔から表情が消えた。風見の全体重が僕の体にのしかかる。

「おい……」
「いや……降谷さん…あんた……本当に、すごいな……」
「……なにが?」
「いや……俺の予想だと、映画は見ないで、ソファで触りっこしようとか。部屋に入ったら、まずベッドに向かおうとか……そんな感じだと思ってたんですけど…そうですか……即ハメですか……」

なんだそれ。これじゃあ、まるで、僕がとんだ淫乱みたいじゃないか。
あわてて、風見を押し返す。

「即ハメ…って……。僕が言いたいのは、そういう意味じゃないから……。僕が言いたいのは、そういう気概を持てと言うことで……」
「……いや…部屋に入ったら即ぶち込むくらいの気概を持ったら、結果、即ハメになりません?」
「……ならない! というか、そんなに急に入らないことぐらい、君だって知ってるだろ??」
「あー……じゃあ。次から、家でほぐしておいてくださいよ」
「は?」

僕は風見をにらみつけた。
けれど、風見裕也は気にしない。指を折りながら、新たなラブホデートの工程を呼称確認し始める。

「降谷さんの準備、ドライブ、ホテル、即ハメ……それからえーっと、冷凍の……」
「冷凍の……エビピラフだ」
「それだ! 冷凍のエビピラフ」
「……そんなにうまくいくわけないだろ?」
「ああ、では、リハーサルをしてみましょう」
「え?」

 

僕は、風呂場で、自分のそこをぐずぐずにほぐし。一度、レンタカーに戻って、ホテルに入るところからやり直した。階段を上がって、ドアを開ける。そして、靴を履いたまま風見裕也にハメられた。

「あー。これ……案外、いけますね」

風見が、冷凍のエビピラフを頬張りながら言った。
ぐちゃぐちゃのシーツにくるまりながら、その横顔を見つめる。

そして僕は

(今度からは、体の準備をした後にドライブが入るのか……)

などと考え、自分の体をぎゅっと抱きしめた。

 

【冷凍のエビピラフ ―おかわり―】

例の組織が崩壊してから、一年が経った。

俺は今。降谷さんとハロと一緒に生活している。
半年前に引っ越してきた鉄筋コンクリート造りのマンションは、防音もしっかりしていて。降谷さんがギターを弾いても、ハロがはしゃいでも、降谷さんを啼かせても……苦情が来ることはなかった。

そういうわけで。同棲をはじめてから「冷凍のエビピラフ」を食べに行っていない。
もともとあれは、数か月に一度程度の頻度で行う特別な営みだった。確かに、たまにはああいうのも……と思わなくもない。
しかし、俺は今、ほぼ毎日、降谷さんと同じベッドで寝ている。もちろん、毎日するわけではなかったが、俺は今の性生活に満足している。

けれども、あれは、とても刺激の強いプレイだったから。降谷さんにも、もう一度してみたいという気持ちがあったんだろう。

 

その日、俺は

「……たまには、冷凍のエビピラフ食べたくないか?」

という。わかりやすいような、わかりにくいようなお誘いを受けた。

金曜の午後七時。
二人とも、めずらしく家にいた。ハロにご飯をあげながら、自分たちの食事はどうしようか……と話をしていたら、突然の「冷凍エビピラフ」発言だ。
俺は、スマホを取り出し、降谷さんにラブホの予約サイトを見せた。

「……降谷さんの潜入捜査も終わったし、そろそろ、この辺の繁華街のホテルでも大丈夫ですよね?」
「……まあ」
「じゃあ、十時から宿泊のところで、良さそうなところ、予約しておいてもらえます? 俺は、風呂を用意してきますんで」

ホテル選びを降谷さんに任せる。そして、俺は、風呂の準備と『降谷さんの準備』の準備をした。

別々に住んでいた頃は、レンタカーの手配とか、その他諸々の事情で、『降谷さんの準備』は降谷さん自身にお願いしていた。でも、今日は、おそらく俺がやるんだろう。
……いや、降谷さんにお任せしてもいいんだけれど。なにせ『冷凍のエビピラフプレイ』をご所望なのだ。刺激が強い方が、よろこぶに違いない。
そう判断し。俺は、ずいぶん前に通販で買って、使わずじまいだった例の物を取り出した。

風呂の自動ボタンを押して、降谷さんに、ホテル選びの進捗をたずねる。

「冷凍のエビピラフがメニューにあるところ、見つかりました?」
「……うん」
「どこにしたんです?」
「ここ」
「え……。一番安い部屋じゃないですか。もっと、いい部屋を取ってもいいのに」
「……別に、必要ないだろ」

降谷さんは、効率重視の男だ。
おそらく「玄関に入って、すぐにするわけだから、ドアと玄関があれば目的は果たせる」とか思っているのだ。かわいい顔をして、過激なところがある。

「なあ……ここ…歩いていくには、だいぶ遠いよな?」
「……まあ、タクシーが妥当でしょうね。歩いて行ってもいいけど。準備した後に歩くの嫌だろうし。車を出してもいいけど降谷さんの愛車だと目立ちますからね」

降谷さんから、スマホを受け取り、タクシー会社に電話をかける。
そして午後九時にマンションの駐車場に着けてもらうよう手配した。

「……九時はちょっと早くないか?」
「そうですか? 金曜日だし、踏切りを通るし……ゆとりをもって見積もると、そんなものでは?」
「……ゆとりを持ちすぎだ。たとえ渋滞していたって、三十分あればあの辺りにつくし……ホテルから、少し離れたところに車を停めてもらうにしても、徒歩で十分もかからないだろ」
「大丈夫ですよ。そこ、待合コーナーがあるから。雑誌でも眺めていればすぐですよ」

降谷さんがギロリとこちらを、にらんだ。

「君……このラブホテルに行ったことがあるのか?」
「……いや。一般論ですよ。こういう繁華街に建っているやつは大抵あれですから。待合室ありますから」
「ふーん……」
「まあ……仮に行ったことがあるとしても、あなたとお付き合いする前のことですから、ご安心ください」

不機嫌そうな降谷さんを見て、なんとも言えない気持ちになる。
嫉妬だなんて、かわいらしいこと、この上ない。俺は、少し楽しい気分になって、風呂までの間、ハロを構い倒した。

 

二人で風呂に入る。
お互いに髪や体を洗いっこして『降谷さんの準備』を始めた。

頭のいい人ほどエロいことが得意という俗説の通り、降谷さんは、とてもエロい。
今だって、タクシーという第三者のいる環境で移動することとか……いろいろ、想像しているに違いない。
……などと考えたら、俺もすごくエロい気分になってきた。
手のひらでローションを温めながら、いっそのこと、風呂場で一回抱いてしまおうか……と考える。けれど、なんだか、もったいない気がしてグッとこらえた。
気を紛らわすために、雑談をもちかける。

「そういえば……あそこの繁華街の入り口。ドラッグストアありましたよね?」
「ああ。あったな……」
「タクシー……そこに着けてもらって、買い物してから行きましょうか」

お茶と、ビールと……氷も売ってたかな……と、言おうとしたところで、降谷さんが口を開く。

「……ゴムはまだあったろ…君……使い切る気か?」

不安と期待が入り混じったような、降谷さんの青い瞳。

(あ……そっちですか)

「いや、ゴムじゃなくて飲み物とか、買おうかなと思ってたんです」と言いたくなるのをこらえて。

「ああ。念のため……ですよ。ついでに飲み物と乾きものも買っていきましょう」
「ふーん。それにしても……君、ずいぶん倹約家になったよな……前は、ワインとか地ビールとかデパ地下のお惣菜とか準備していたのに」
「ええ、そうですね……。よし……失礼しますよ」

降谷さんの背後にまわる。降谷さんは、ちょっとためらいながらも、四つん這いになって俺の方に尻をさし出した。
ぬぷりと、まずは指を一本いれる。

「痛い?」
「いや……問題ない」

ぐにぐにと、人差し指で穴のふちを押し広げ、ローションを足して指を二本に増やす。

「ねえ、降谷さん」
「なん……だ…っ?」

指を出し入れする。俺は、降谷さんの中の気持ちいい場所を知っているし、手だけでトコロテンさせたこともある。でも、これは準備だから……そういうのはまだ早い。

「お金の使い方なんですけどね」
「……うん」
「あの頃と、今は、状況が違うので」
「う……ん…うん」

苦しそうにしながらも、降谷さんが相槌を打つ。俺は、温めることもせずに、ローションを足していった。

「あの頃の俺……一応、覚悟してたんですよ」
「かく…ご?」
「……あの世には金を持っていけないでしょ?」
「ぅ…ん」

指を三本に増やす。降谷さんが腰を揺らす。俺は、降谷さんの体をぎゅっと抱え込んで、腰の動きを抑え込んだ。

「でも、あの頃と状況が変わりましたので」
「…っ…そう、だな……」
「俺は、定年退職後も、たまにはあなたとラブホに行きたいし、旅行をしてみたいし、いい酒だって飲みたい。だから、倹約しようと思いましてね」

三本の指をずぼずぼと抜き差しする。降谷さんのそこは、少なくとも週に一度は、俺のものを受け入れている。だから……あっという間にほぐれた。
ずるりと指を引き抜く。

「ん…ぁあ」

ローションの容器を直挿しし、クプクプとぬるぬるの液体を腹の中に注ぎ込んだ。

「ひゃ…ばか……」
「いや…残り少なかったんで、きりがいいし、使い切っちゃおうと思いまして」
「こんな入れたら……中……なんか……変…だし……さすがに……パンツが濡れちゃ……ぅ…」

降谷さんが、息をふーふーさせながら、苦情を申し立てる。
俺は、例のものを取り出し降谷さんに見せた。

「ご安心ください。実は結構前に買って、なかなか使う機会がなかったアナルプラグがあるので、これを挿しますね」

挿しますね……というか、挿した。

プラグ。
自分で、抜くかなあと思いながら、降谷さんの様子を観察する。
降谷さんが抜きたいなら抜けばいいと思った。プラグをしないのであれば、軽めのシャワ浣で中をすすいで、ローションが垂れてこないようにしてあげるつもりだった。
けれど。
降谷さんは「いきなり、異物を入れるなんて……」などと、軽めの説教を始めたが、俺がおでこにキスをしたら、黙ってしまったし。「抜いてくれ」と頼んでくることもなかった。

正直に言う。

この展開、ちょっと予想していた。
降谷さんは、無自覚なドMだ。そして、俺に、ドSであることを望んでいる節がある。
俺は、どちらかと言えばS寄りだし、降谷さんに、いたずらを仕掛けるのは大好きだ。しかし、降谷さんの願望を十分に叶えられている自信はない。でも、できる限りの努力はしたいと思う。
そういうわけで

「……ホテルの部屋に入ったら、すぐに抜いて、俺のを挿れてあげるから。我慢してくださいね」

などと。まあ、Sっぽい感じでささやいた。

 

風呂から上がる。降谷さんは、あんまりしゃべらなかった。
切羽詰まっているんだろうなあと思いながら、ドライヤーで髪を乾かしてやる。降谷さんは、立ったままドライヤーの熱風を受けた。
たぶん、プラグのことが気になって、座れないんだろう。

髪が乾く。

俺は、リュックに、下着類と衛生用品、飲み物などをつめ、それを背負った。そわそわした様子の降谷さんに、薄手のパーカーをさし出した。

「それ、タクシーに乗ったら、膝の上にかけてください。俺は、リュックを膝の上にのせるので」

降谷さんは、無言のまま、パーカーをひったくった。

靴を履くとき。玄関の扉を開ける時。エレベーターに乗り込むとき。エレベーターから降りた時。
降谷さんの眉毛が、ぴくって動くのがすごくかわいくて。ちょっかいを出したかったけれど。ぐっとこらえた。

タクシーに乗り込む。
降谷さんは、きゅっと目をつむって眠ったふりをした。俺が渡したパーカーは膝の上にある。
いたずら心が湧き上がる。
パーカーの下に、そっと手を差し込む。降谷さんの太ももに、手の甲を押し付けた。パッと目を見開いて、降谷さんがこちらに視線をよこした。俺は、窓の外を見るふりをしながら、手の甲で、降谷さんの太ももをなで続けた。

ドラッグストアの前でタクシーを降りる。

……結局、買い物はしなかった。降谷さんが、目で何かを訴えていたから。

「待合室だから、すごいことはできないけどいいですか?」

俺がたずねると、降谷さんは、こくこくうなずいた。
繁華街を足早に通り過ぎ。九時半頃ホテルに入った。待合室は、パーテーションで区切られてる。とはいえ、目隠しがある……という、それだけの構造だ。
三十分という、それなりの時間を、俺たちはやり過ごさなければならない。
降谷さんも……だけど、俺が持つのかもあやしい。俺たちは、待合室のソファに腰かけ、体を密着させた。降谷さんの頭に、パーカーのフードをかぶせてやる。降谷さんが俺の眼鏡を外した。
それが、合図になった。感じやすいところを避けながら、お互いの体を触り合う。キスはしなかった。キスをしたら歯止めがきかなくなるのが目に見えていたから。
他のカップルの話声が聞こえるたびに、降谷さんの体がビクッてなって。すっごいかわいかった。
三十分は長いと思ったけれど、後半の十分は、あっという間に過ぎ去った。
他のカップルに見つかるとか、そういうの、どうでもよかった。十時まであと一分というところで、へろへろの降谷さんを立たせて、エレベーターまでひっぱっていった。

エレベーターの扉が閉まった瞬間、降谷さんにキスをした。

「んっん……ぁ…ゃあ…」

降谷さんは、やらしい声をあげながら腰を揺らした。
エレベーターの扉が開いて、予約した部屋に向かう。ぴかぴかと、部屋番号のランプが点滅していた。

部屋に入る。降谷さんが、ぺたんとしゃがみ込む。

ドアがばたんと閉まった。
俺は降谷さんのズボンと下着を一気に脱がした。降谷さんの下着はぐちゃぐちゃになっていて。勃起している降谷さんの性器には、精液がまとわりついていた。
俺は、予告もせずに栓を引き抜いた。

「……あ…ぅあっ……!!!」

降谷さんが、白いものを散らす。

「あ……また、イった。ていうか……いつイってたんです? 一回目?」
「……君が…タクシーで…いたずら……した…から……って…いやぁっ…だめ……イったばかりだから…」
「悪い子」

俺は、嫌がる降谷さんに、自分のそれを挿しこみながら

(この人……俺が、射精管理をしましょうって言い出したら、すごく歓びそうだよなあ)

って、そんなことを考えた。

 

【あとがきなど】

私は、子供の頃から、冷凍のエビピラフが大好きでした……
そんなエビピラフさんを……こんな風に、汚す日が来るなんて思ってもおらず。
書きながら、罪悪感がすごかったです……。
でも、なんだろう「冷凍のエビピラフプレイ」という語感がすごくよくて……これ以外の言葉を持ってくることができませんでした。

私、この話に出てくるみたいなエロい意味じゃなくて、普通にエビピラフさんのこと食べたいって思っています。
明日の、昼ご飯、冷凍エビピラフにしようと思っている。

……さて。この話を書いたきっかけですが

「自分のツイートした風降のラブホ妄想が、なんかかわいそうに思えて怒りの感情が沸いたから」

です。謎のマッチポンプ。

思いついてから、仕上がるまで、時間がかかってしまって、しんどかったけれど。
最終的に

無自覚ドSな風見裕也×無自覚ドMな降谷零

が大好きなんだってことに気づけたから。
仕上がりはともかく、書いてよかったなあって思いました。

 

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