〇原作1051-1054の事件解決後(ネタバレあり)
〇セフレだった二人が、事件のあと、お互いの気持ちにほんの少しだけ踏み込みます。
〇思いを伝え合っている際のシチュエーションが、わりと最低です
〇一応R-18にしていますが。乳首責めしかしてません
〇何でも許せる方向け
事情聴取が終わり。
子どもたちと引率の先生方と別れ、僕は風見と一緒に公用車に乗り込んだ。
「降谷さん……お疲れさまでした。 行き先は、どうします? ご自宅ですか? それとも、一度、登庁します?」
「いや、君んちで頼む」
「はあ……でも、ワンちゃんは?」
「事件が長引いてもいいように、預けておいた」
「あ……そうですか」
「行ったら、迷惑か?」
「いいえ。うれしいですよ。降谷さんが、うちに来てくれるの……ただ」
「ただ?」
「ゴムを切らしておりまして……」
「……おい、この前まだあったろ?」
僕の問いかけを、無視して風見は車のエンジンをかけた。
「確かに、君と僕は、そういう関係じゃないし……。君が、他の誰と、どうしようと勝手だけども……それをわざわざ言うのは、どうなんだ?」
われながら、ねちねちした言い方になっている。
これじゃあ、まるで、僕が風見を好きみたいだ。
風見が、どんな顔をしているか、盗み見る。
風見は、恥ずかしそうな顔をしていった。
「……えーっとですね。降谷さんが、どう考えようとあなたの勝手ですけどね……自分…オナホ使って抜くときにゴム使う派なんですよ……。あの……さすがに恥ずかしいですね…そんなことを、あなたにカミングアウトするのは」
予想外の回答に、思わず、顔をしかめる。
いきなり、なんてことを言い出すんだろう……この男は。
人の心の機微を読むのは得意な方だ、と思う。
なんなら、人の言動を操ることだって、決して苦手ではない。
けれども。
風見裕也の考えていることは、よくわからないと思うことが多かった。
今回の事件だって。
なぜ、一人で、無茶をしたのか。とか。
どうして、軽々しく、僕の名前を呼んでしまうのかとか……
死体と一緒に監禁されてたのに、その状況で、飲食を済ませてしまう神経とか。
上司に助けられたのに、さほど悪びれてない感じとか。
それなりに自由に動けてたとはいえ……地下の暗い部屋で、死体と一緒に長時間閉じ込められていたのに、拘禁反応の兆しが全く見られないこととか。
いくら、公安部の職員とはいえ。風見裕也のメンタルは少し規格外だった。
(だから、僕の右腕なんかに選ばれたんだろうな……)
と、思わなくもないのだけれど。
それにしたって、元気なやつだな…と思う。
なぜ、風見はこの状況で、楽しそうに運転してるんだろう……とか。
本当につかめない。
皮肉交じりに言う。
「……なんていうか。君って、元気だよな?」
「え……そんなことないですよ?! 昔はゴムをグロスで買ってもすぐ使い切ってましたけど、今は、3ダースずつにしてます」
やはり、少しずれた受け答え。
「今、そういう話してないから……」
「え……あ…ごめんなさい……でも、俺、なんか舞い上がってて……だって、この後、降谷さんと……」
風見が、嬉しそうに言う。
鼻息の音が聞こえてきそうだ。
「……ちょっとだまっとけ」
風見は口をぎゅっと一文字に閉じた。
エンジンブレーキをうまく効かせながら、峠の道を滑らかに降りていく。
その横顔をじっと、見つめた。
この男は。
頭を打った直後とはいえ。僕に。29歳の男にエスコートするように右手をさし出すような男だ。
僕の記憶にはないけれど、子どもたちが言うには、僕をお姫様抱っこして、地下室から運び出した男だ。
気絶した僕が目覚めるのを、子どもたちと一緒に、傍らで見守っていた男である。
確かに、僕らは恋人ではない。
けれども……総合的に考えて。
もっと……甘い感じにならないか? 普通?
多忙を極める僕が、部下である君を助けに来たんだぞ?
一緒に事件に巻き込まれて、一緒に生還して……それで…君の家に行きたいと。
……この僕が言い出したんだぞ?
それを、どうしてこの男は。
コンドームが切れた話だとか、用途だとか、消費量の話だとか、そういう話を今するのだろう。
米花町に入る手前。
風見がドラッグストアの駐車場に車を停めた。
ゴムを買いに行くのか……と聞こうと思ってやめる。
風見は、財布とスマホを手にして、僕に、飲み物や食べ物などの希望を聞いた。
そういえば、自分がろくに食事をとっていないことを思い出す。
「飲み物は…お茶と……。あと、そうだな…。うどん買ってきてくれ。冷凍であっためたらすぐ食べられるやつ」
気が利くじゃないか。と、感心しかけたところで、風見が言う。
「了解しました。あ……そうだ、ゴムはなにか希望あります? 熱感のやつとか、好きな子いますけど、男でもいいもんですかね? あれ?」
あのな。中であったかくなるかならないかとか、心底どうでもいいよ。
君の頭の中はそれしかないのか……と叱責したい気持ちをぐっとこらえる。
「……なんでもいいから、さっさと買ってこい……」
「……はい」
僕の声色から、何かを察したらしい風見は、いそいそと店に入っていった。
シートベルトを外して、助手席のシートを倒す。
帽子を目深にかぶり、少しだけ目をつむる。
ほんの少しだけ、眠りに落ちた。
ばたんと、運転席のドアが閉まる音がする。
ふと、近くに人の気配がして、眼を開けると、運転席から風見が僕の上に覆いかぶさっていた。
「おい……ここ、どこだと思ってるんだ?」
「え…? 駐車場? ……いや、降谷さん寝ていたようだったので、シートベルト……自分がつけようと思いまして。」
「あ…。すまん。いや。自分でやる」
「……はい」
風見は、車のエンジンをかけながら、笑いをこらえているようだった。
「笑いたければ、笑え」
「いや……笑わないですよ……まあ、そう思いますよね…いきなりね、覆いかぶさったら」
「普段の君の行いが悪い」
「おっしゃる通り。……さて、降谷さん。食べ物以外にも、降谷さんが使いそうなものも買ってきたので確認してもらっていいですか? 後部座席に、袋、置いてあるんで」
風見に言われて、僕は、後部座席のビニール袋に手を伸ばした。
まず、紙袋に入った商品をよける。
視界の端で風見が苦笑いをする。
街灯の明かりを頼りに、商品を確かめる。
お茶と、うどんと、風見自身が食べると思しき冷凍パスタとお菓子が少し。
それから、シンプルな黒いボクサーパンツと、僕が使っているのと同じ型番の歯ブラシ・歯磨き粉・洗顔フォームなんかが入っていた。
風見が、僕の家の洗面所に入ったのは、僕の知る限り一度だけだ。
性行為をするときは、いつも風見の家だった。
だから、風見がハロの世話をするときに勝手に立ち入っていない限り。
風見が僕の部屋の洗面所に立ち入ったのは、ただの一度きりだ。
こういうところがあるから。
風見裕也という男をどう評価すべきか、ますますわからなくなる。
僕は風見の家に泊まったことはない。
いつもなら。やることやったら、すぐに部屋を去る。
だから、僕用の歯ブラシだとか、洗顔フォームだとか、そういうものは必要なかったし。
今晩、僕が風見の家に泊まるにしたって。
一晩泊まるだけの人間に差し出す歯ブラシなんて、どこのメーカーのものでも構わない。
「……なんで?」
「え?」
「なんで、泊まると分かった?」
「ああ……それは…。泊まると分かったというより、泊まってほしいと自分が思ったから買っただけですよ。って……降谷さん、泊まってくれるんですか?!」
「……うん。もう…おそいし」
「やったー! じゃあ、朝までやれますね!」
いや「やったー!」じゃないだろ?
普通に、今、いい感じの雰囲気だったのに「朝までやれますね!」じゃないだろ。
僕は、ちょっとふてくされて
「寝る」
と告げて、ふて寝を決め込んだ。
それから二十分ほどして、風見に起こされる。
風見と一緒に部屋に入る。
手を洗って、レンジであっためをして冷凍うどんと、冷凍パスタで、空腹を満たす。
風見の部屋の、ソファ。
そこに二人で並んで、会話もなく、空腹を満たしていく。
数年前、なにかの用事ではじめてこの部屋に立ち寄った際。
風見は、得意げに「この部屋の家具の配置は、お持ちかえりした子を、ベッドに持ち込むために研究に研究を重ねてこうなってるんですよ」と説明してくれた。
なにを馬鹿なことを言っているんだろうと思った僕は、その三十分後に、ベッドに引きずりこまれた。
それが、僕と風見の最初の性行為だった。
他人のペースに乗っかって、無防備な姿をさらしてしまった自分に驚いて。
でも、楽しそうに、性行為を楽しむ風見を見て、こういうのも悪くないかもしれないと思った。
自分に恐怖を感じた。
だから、急いでその場を去って。
その後も、風見の家に立ち寄ったとしても、やることをやったら、さっさと帰るというのがなんとなくの約束事になってしまった。
あれから、何十回と行為を重ねたけれど。たとえ、5時間たっぷり絡み合った後も、僕は、すぐに服を着てこの部屋を去った。
そんな風に、徹底的に体だけの関係を貫いてきた僕が。
今晩、初めて風見の家に泊まる。
死ぬんじゃないかと心配した大事な右腕は、元気なまま戻ってきてくれた。
ドラッグストアで、わざわざ僕専用の日用品を準備してくれた。
僕は、いつもより、ほんわかした気持ちでこの部屋のソファに座っている。
風見の右手に、自分の手を重ねた時の気持ちを思い出す。
ペットボトルのお茶を飲んで深呼吸をした。
「風見…」
ペットボトルをテーブルに置く。
風見の方を向いて、ソファの上で正座をした。
「はい」
風見が、僕の上着のファスナーを下げる。
「ちょっと、話がある」
「はい」
風見が僕の上着を少しはだけさせる。
「あの…話があるから……っ」
「はい。どうぞ」
「どうぞ…じゃ……ないっだろ」
言葉が出ない。
なぜなら、先ほどから、風見が、人差し指の爪で僕の乳首を薄手の黒いTシャツ越しにつついているのだ。
「いや、降谷さん、布越しに、これされるの好きだよなと思いまして」
「ばか…好きじゃないし……話を聞け」
僕がそう言うと、風見は、乳首をつつくのをやめた。
けど、相変わらず、風見のつめ先は、僕の乳首を覆う黒い布に触れるか触れないかの位置にあって、僕をいらだたせた。
「もう…なんなんだよ……本当ッ…わからない…僕は君のそういうところ、本当にわからない」
「……わからない? 俺は単純ですよ? 自分から言わせれば降谷さんの方がよほどわからないですよ」
そう言って、風見は、僕の乳首を爪でピンとはじいた
「…っ!」
「でも、そういう意味じゃ、相性いいんですかね? 俺たち。…‥‥まあ、体の相性は最初からめちゃくちゃよかったですけど」
風見が目を細めながら、つめ先でぐにぐにと、僕の乳首を転がした。
「…それ……やめろ……?」
「気持ちよくなっちゃいます?」
「僕は、まじめな話してるんだ」
「…それ言ったら、俺だっていたってまじめですよ」
「どこが…っまじめだよ……」
風見をにらみつける。
風見は僕の乳首をつまみながら言った。
「だって、大好きな人が……自分のことを心配してくれて…危険を顧みずに、迎えに来てくれて……それで、その後、泊まりたい…とか言ってくるんですよ? たまらないって思うし。気持ちよくさせてあげたいって思うに決まってるじゃないですか?」
ちょっと待て。
なんで、今?
よりによって、乳首責めをしながらそれを言うんだよ。
「っばか……ぁ」
「え……でも、降谷さん、腰動いてますよ。さっきから」
「……ぅう。ひどい」
「ひどくないですよ。降谷さんの乳首がかわいいのがいけないんですよ。見えます? 透け乳首? ぷっくりしててかわいいですよ?」
「かわいく…っない」
「あ、でも、確かに、去年より、ここ感じやすくなってるし。Tシャツの素材……もっと、気をつけないとですね」
やめてほしいのに。
体格差があるとはいえ、風見のことを制圧することくらい余裕なのに。
なのに、それができなかった。
「も…ほんと、やめろ」
「どうして……? つついてるだけで、こんなに気持ちよさそうなのに? ズボンも……もう、窮屈そうですけど?」
「好きって……、ちゃんと言わせて」
「え?」
風見の手が止まる。
そのすきに、僕は風見をソファに押し倒してやった。
風見のシャツの襟口を両手で引き上げる。
ずるり、と、眼鏡が風見の鼻からすべりおちた。
「好きって、言おうと思ったのに……君が、先にそれ言っちゃうし……しかも、ここ触りながら言うし……やめてって言っても、触るのやめないし…どうして、君は、そんなにがっつくんだ?!」
「降谷さん……」
「だいたい……部屋に来るたびに、僕のことねっとり抱くくせに……いままで好きとかそんなこと一言も言ってなかったじゃないか?!」
ぐいっと。
風見は眼鏡の位置を直しながら言った。
「割り切った関係を、お望みなのかと思っていました」
「なんだよ、それ」
「降谷さん、一回目の時からずーっと。終わったらすぐいなくなるし。冷凍のうどんとはいえ。ここで食事を取ったのだって初めてですよね? だから、俺……自分の気持ちを伝えたら、迷惑になるかなって……思ってたんです。ずっと。体だけの関係であっても、関係が続くのであれば、それでいいって……そう思ってたから」
風見は、そう言うと、両腕を伸ばし、僕を抱き寄せた。
僕の体は、風見の腕の中にすっぽりとおさまった。
「乳首の件は、ごめんなさい。今日、降谷さんを車に乗せてるときからずーっと触りたいって思ってたから……我慢できなくて」
「ひどい」
「うん……自分は、降谷さんは俺の気持ちとか、考えてることって全部、お見通しなんだと思っていたし。それに、あなたの考えや、気持ちを計り知ることなんてできないと思っていました。だから、どうして、あなたみたいな人が自分に抱かれてるのかとか、そーゆーの、極力考えないようにしてたんです」
「お前な……風見の思考回路は謎だって……案外有名だぞ」
「えー……降谷さんに言われたくないですよ…。……でも、降谷さんの考えや気持ちはわからないけど、体はすごく正直だから……それでつい……。気持ちよくしてあげるの好きになっちゃって。なにより。降谷さん、気持ちよくなっちゃうと、すぐ俺の言いなりになるじゃないですか?」
そんなことはないと、否定したかったが。
つい、さきほどだって乳首責めを、なかなか、やめさせられなかったのは事実だし。
行為を終えるたびに、もうしないと決意するのに。何十回とこの部屋で関係を持ってしまったことも事実であるし。
短時間で済ませるつもりが、風見のペースに乗せられて何時間も抱き合ってしまったことだって、何度もある。
「僕の体って……正直っていうのは…その……そんなに、あれなのか?」
「うーん……なんていうか、反応がしっかり返ってくる……と、いいますか。手ごたえが分かりやすい? 感じですかね。乳首も数年間かわいがり続けたら、こんなことになりましたし」
風見が、上体をもぞっと動かす。
先ほどまで、風見にいたずらされていたそこは、風見のシャツにこすれる感覚を敏感に拾った。
「ぉい…っ」
「あ、やっぱ感じた! 降谷さん、後ろから犯されてる時、シーツに乳首、こすりつけてるでしょ? すっげえ感じやすくなっちゃったんだなあって思って、俺、あれ見るの好きなんですよね」
本当に、なんていうか、この男は、体のことばっかり……
「君、体目当てか?」
僕がそう言って、上目遣いでにらみつけると。
「え? 心もいただいちゃっていいんですか?」
底抜け明るい声で、風見が言った。
どうぞ差し上げます、とも。
渡すわけないだろう、とも。
どちらも言うことができなくて。
「ちょっと黙っとけ」
僕は、苦し紛れのキスで風見の唇をふさぐしかなかった。