油断ならない人 ※こご←あむ

こご←あむ
風降の女が書いているので、いつかは風降になる物語


 

プロの役者でも、役に引っ張られることがあるという。だからかもしれない。僕がこの人を気にするのは。

「毛利先生、お疲れ様です。頼まれていた資料の整理やっておきました」
「ああ、すまんな」
「いえいえ。最近、事務所に顔を出せていませんでしたし……少しでもお役に立てたなら♡」
「……コーヒー飲んでくか?」
「あ、では、僕がいれますね」
「いや、今日は俺がいれるから、そこに座れ。まあ、あんまりうまくはないかもしれないがな」

毛利小五郎。以前は、特に目立たない私立探偵の一人であったが、ここ半年で数々の難事件を解決。警視庁捜査一課の元刑事であり、射撃の腕は一級品。柔道の腕もかなりのもの。

射撃の腕前については、警察学校の教員たちが語り継ぐほどである。僕が、在学していた当時も、教官が毛利小五郎の伝説を話をしていた。

「ありがとうございます」

応接用のソファに座り、コーヒーカップを受け取る。
毛利先生は、タバコに火をつけると、競馬新聞を読み始めた。

競馬好き。昼間から酒を飲む。美人に弱い。弁護士の妻とは十年ほど別居。
お調子者で面倒くさがり。

「なあ」
「なんでしょう?」

インスタントのコーヒーは特別おいしくもなければ、まずくもなかった。

「どっかケガしてんのか」
「……」

コーヒーカップを机に戻しながら、あいまいにほほ笑む。
ハロウィンの夜。渋谷のど真ん中で、僕は少しばかり無理をした。

「毛利先生こそ、頭を打って入院していたんですから……」
「……わかってるよ」

毛利先生はタバコを消すと、競馬新聞を折りたたみ僕の顔をじっと見つめた。
推理は、あてずっぽうなことも多いが、勘は悪くない。ことに身内に対しての勘は。
僕の動きにわずかな違和感をおぼえ、なにかしらの故障を抱えていることを見破ったのだろう。
事務所の資料整理を頼んだのも、僕を安静に過ごさせるためかもしれない。……と思うのは考え過ぎか?

「安室君、実はな……」
「ああ。たしか、来年の二月に沖野ヨーコさんのバレンタインイベントがあるんですよね」
「……え? 知ってたのか」
「ええ。知り合いが言っていました。……それで、僕、そのチケットを用意できそうなんですが……」
「……いいのか!? 安室くん♡」

図々しくて、単純で現金。
なんとも操作しやすい。

「もちろん。毛利先生の元で勉強させていただいてるんですから、これくらいはさせてください」

僕がほほえむと、毛利先生はゆるみきった顔を引き締めて言った。

「ゴホン。そうだな。探偵たるもの心身の健康が第一だ」
「……ええ。そうですね」
「休息や息抜きの時間も大事だぞ?」
「……肝に銘じます」

油断ならない人。
「安室透」は毛利小五郎を慕う。
では「僕」はどうだろう。部下に沖野ヨーコの情報をつぶさにチェックさせる。さらに、毛利先生から打診される前に、イベントのチケットを用意する。そこまでする必要は本当にあるだろうか。
毛利先生がいれてくれたコーヒーを飲む。特別おいしくもなければ、まずくもない。

だけど、毛利小五郎がいれてくれたコーヒーだと思うと、なんだかとても、いとしかった。

「どうした……?」
「いや、天下の毛利先生がいれてくれたコーヒーを飲めるなんて、僕は幸せ者だなと思いまして」
「じゃあ、いつでも、飲みに来いよ」
「はい」

ああ、本当に。

油断ならない人。

 

【あとがきなど】

何度か言ってるけど、こご←あむが大好きだし。
こご←あむからの風降大好きなんよ……!
あと失恋する降谷零も大好きなので、片思い こご←あむ は私の性癖そのもの

 

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