笑門来福

2021年風降納め!
タイトルのまんま!


 

合流の時間が取れず。飛田として訪れた、喫茶ポアロ。安室透の笑顔を見ながら、コーヒーを飲んだ。
看板店員の榎本梓と世間話をする。常連客だろうか? 営業とおぼしきサラリーマンが、ちらちらこちらの様子をうかがっている。苦笑いしながら

「それでは急ぎますので」

清算を済ませ、店を出れば、背後から

「ありがとうございました」

安室透の、さわやかでありながら艶っぽい声が聞こえてくる。

一週間後。久しぶりに、庁舎で打ち合わせをした。報告書を確認しながら、情報をすり合わせる。
降谷さんは、笑わない。笑うどころか。眉一つ動かさず、無表情のまま、ペンを動かしていた。

「降谷さん」
「どうした?」
「……笑うって、結構疲れません?」
「どうした……?」

首を傾げ、降谷さんが、俺の表情をうかがう。

「……安室透は、にこにこ笑うじゃないですか。あれ、疲れないのかなって」
「……どうしてそう思う?」
「普段のあなたは、どちらかといえば無表情だから……」

かちゃん。
降谷さんがペンの先をしまった。

「……笑うって。健康にいいらしいぞ。免疫が上がったり、抑うつが改善したり。しかも、作り笑いでもいい……こうやって、ただ、口角をあげるだけでもいいんだ」

降谷さんが、にいっと口角をあげてみせた。
作り笑いだとわかっているのに。その笑顔に見とれてしまう。

「……ほら、君も笑え」

長い指が伸びてくる。

「え……?」

降谷さんが、俺の両頬をつまんだ。そして、ぎゅうううっとっと、頬肉をつり上げた。

「ふふっ……」
「あの、ふるやは……ん。これ、いたいれふ……」
「あっははっは……」

高らかな笑い声。頬が痛くて仕方ない。

「ちょっと、ふるやはん……」

眉間にしわを寄せながら、視線で抗議すれば、ようやく、頬を解放された。
つままれた箇所を、そうっとさする。

「……どう?」
「……どうって」
「ちょっと、楽しくなったろ?」
「いや……痛みしか感じませんでしたが?」
「そうか……? じゃあ、もう一度、やってやろう」
「いや……あ……大丈夫です。自分でやりますんで……」

ふうーっと息を吐き、口角をあげ、にいっと笑顔を作る。

「……どうです?」
「うーん……ふふっ……ぎこちないな」

俺の作り笑いは、よほどへたくそなんだろうか?
降谷さんが、こらえきれないとばかりに、また、笑い出す。

「あの……降谷さん、もしかして」
「おい……口がへの字になってきてるぞ?」
「……コホン。えーっと、これで、どうでしょう……?」
「はは……君、本当に作り笑いが下手だな……」

実は、笑いのツボが浅いんですか? そう聞こうと思った。だけど、楽しそうに笑う横顔を見たら、そんなこと、どうでもよくなる。
降谷さんが、俺の前で笑えない日も。この人が、あの店で、笑っていられるのなら、それでいいと。唐突に、そんなことを考えた。
だけど。

「……自分の前でも、もっと、笑ってくださいよ」

こういう顔を、俺にも、もっと、たくさん見せてくれればいいのに、

「……じゃあ、君こそ。もっと笑えよ。そうやって……むすっと口をへの字にして……いかつい顔ばっかりしやがって」

――そうか。俺も。笑っていなかったのか……

深呼吸をひとつ。

「……承知しました」

とっておきの笑顔を見せる。

「あっはは……目が、ぜんっぜん笑ってない……!! 君、笑うの下手過ぎるだろ」
「……ひどいなー」

笑え。好きなだけ。作り笑いでも、そうでなくても。
笑う門には、福がやって来る。

【あとがきなど】

風見は、降谷さんて笑わねえなと思ってるけど。
実は、降谷さんも降谷さんで。こいつ、いつもムスッとしてるなと思っている……的なお話です。
風見が笑えば、降谷が笑い。
降谷が笑えば、風見が笑うんだよ。
そして、そこに幸せがやってくる。
風降が笑えば、私も笑う。
来年も楽しく風降を書きたいと思います。
今年一年ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。

 

 

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