【エアブー】Pudding for you【秘密の裏稼業23】

〇2/28の秘密の裏稼業23・新刊です(エアブー参加)
〇風見さんが童貞です。
〇特殊な要素が出てきますので、注意書きやサンプルをご確認の上ご検討ください。

🐯とらのあなさんに委託してます
https://ec.toranoana.jp/joshi_r/ec/item/040030890043

【caution!!】

受けが攻めのアナルに指を挿入するシーンがあります
※決定的なリバシーンはありません

架空の企業名が出てきます(例:モゾロフのプリン)
風見さんと元カノのエピソード(少し生々しい)が出てきます
風見さんの学生時代の友人など、とにかく、ねつ造もりだくさん!


 

降谷さんは、男と寝ることがあるらしい。

「寝るってのは、一緒に眠るということではなくて、性的な関係を持つという意味でだ」
そう告げられたのは、彼の部下になって半年が経過したころだ。
なぜ、俺にそれを打ち明けたのか。
降谷さんのことだから、そこには、なんらかの合理的事情が隠されているのかもしれない。しかし、それがどのように合理的であるか推し量ることは難しい。
立っている場所が違えば、見える世界が違う。
降谷さんにとっての合理的言動が、俺にとっての不可解になる。それはめずらしいことじゃない。しかし、どんなにすれ違ったとしても、後からふり返ると、降谷さんのやり方は確かに合理的なのだ。

あるいは、単純に、からかわれているという可能性もある。
あの人は案外いたずらっぽいところがあると俺は思う。
最初にからかわれたのは、出会ってすぐのこと。
俺たちは現場から少し離れた場所で待機していた。降谷さんの愛車、白いRX-7。知り合って間もない二人、それなりの緊張感。
天候の話と最近のニュース。世間話は一周して、話題が尽きた。何を話せばいいか、悩んだ末、俺は「どうして自分が右腕に選ばれたんですか?」と、降谷さんにたずねた。すると「顔が気に入ったからだよ」と、そんな答えが返ってくる。
――顔? 俺のこの顔を、降谷さんがどのように気に入ったというのだ?
動揺する俺を見て、降谷さんが笑う。
「あの……もしかして、冗談ですか?」
「いいや。僕は、本気だけれど」
「……さては、俺をからかってらっしゃいますね?」
それからというもの顔を合わせるたび、降谷さんは「風見はやっぱり、かっこいいな」とか「スタイルがいいよな」などと、俺の外見を褒めた。

「すまない……。男性と関係を持っているだなんて……変な話をしてしまったな」
どんな言葉を返せばいいのか。冷や汗が噴き出る。「女性とはどうなんですか?」とか、そんなことを聞けばいいのだろうか? あるいは「もしかして、俺のことをそういう目で見ているんですか?」と、茶化せばよいのだろうか?
どちらも、不正解であるような気がする。噴き出した汗をハンカチで拭えば、降谷さんが笑った。
この人が男と寝るという話は、本当かもしれないし、冗談かもしれない。この話には大事な意味があるのかもしれないし、大した理由はないのかもしれない。
でも、降谷さんは笑ったから、真実なんて、この際どうでもいいと思う。
降谷さんが、どれほど努力しているか。いかに大変な仕事をしているか。部下になって半年も経てば、そういうことが、だいぶわかってくる。少しでも降谷さんの役に立てるのであれば、俺は、大体のことを受け流せる。降谷さんが、笑ってくれたから、だから、真実がどうあってもかまわない。
第三者から、思考停止とのそしりを受けたとしても、俺の覚悟は揺らがない。

もうすぐ三月になる。暦の上では春。しかし、ビル風は冷たい。
大学の同級生からの呼び出し。いつもの店に入る。
彼の仕事は、とある代議士の私設秘書である。お互いに守秘義務の多い仕事だ。だから、会うには都合がよかった。
年度末ということで、彼は忙しいはずだが、だからこそ、誰かに愚痴をこぼしたかったのかもしれない。
ビールで乾杯すませ。実際のできごとにモザイクをかけながら仕事の愚痴をこぼし合う。それから、ほんの少しだけ、情報を融通し合った。学生時代に育んだ友情すら利用する、互いの仕事の陰惨さに苦笑いを浮かべながら。
しかし、そんなことは、最初から織り込み済みであり。お互いにその程度のことで落ち込まないからこそ、この関係は続いている。

仕事の話が一段落したところで、プライベートの話になった。ぬる燗と数の子の白和えに舌鼓を打ちながら、友人の話に耳を傾ける。
彼とは、大学のクイズ研究会で知り合った。専攻は違うものの、学部が同じだったこともあり、次第に親しくなった。
大学三年生の頃、彼は、同じサークルの女子部員と恋仲になり順調に交際を進めた。そして、大学を出て四年経った頃、結婚式の招待状が届いた。俺は出席しなかったが、彼女のウェディングドレス姿は、たいへん美しかったと、別の友人が教えてくれた。
「でさ、俺達いわゆる、レスってやつだと思うんだ」
仕事の話をするときの、何倍も真剣な顔で彼は言った。
「ああ。なんか……結構シビアな問題らしいな。それ」
「そうなんだよ。なあ……どうしたらいいと思う? 雑誌の記事とか集めたりしてさ。まあ、やれる範囲で、試してみたんだけど……どれも、うまくいかなくて」
「あのな……知っての通り、俺は童貞だぞ?」
そう、俺にはセックスの経験がない。
「それを承知の上で聞いてるん。童貞ならではの自由な発想が起爆剤になるかもしれないだろ?」
俺をからかいたいのか。あるいは、ワラにも縋る思いなのか。いずれにしたって、童貞の俺にアドバイスできることなんて、たかが知れている。
それでも。
少しでも役に立てればと思って、真剣に答えを考えたのは、友情を大事にしたいという感情か。代議士の秘書との関わりを絶ちたくないという打算か。あるいは、もっと別の事情によるものか。
友人の妻のことを思い出す。彼女は、クイズ研究会のマドンナのような人だった。
「……そうだな。プリンを買って帰るといいと思う」
俺の助言に、友人は首を傾げた。
「プリンってあの……スイーツのプリンか?」
「ああ、そのプリンだ」
「そうか、プリンか……」
「いいか? 言っておくけど。ただのプリンじゃだめだぞ?」
冷めた唐揚げに箸を伸ばしながら、彼はうなずいた。
「スーパーで売っている三つ入りのやつなんてのは、もちろんだめだし、コンビニで売っているちょっといいプリンでも不十分だ」
「……そうか。じゃあ、どのプリンを準備すればいいんだ」
「モゾロフ一択だ」
「モゾロフ? チョコレートメーカーの?」
「そう。あそこ、プリンも有名なんだよ。ガラスの瓶にはいったやつ。……お前だって食べたことあるだろ?」
「どうだったかな」という曖昧な返事。どうやら、俺の話にピンときていないらしい。
「今日は、店が閉まっているだろうから、明日、仕事帰りに買えばいい。たぶん、お前の家の近くにも店舗があるはずだ」
俺が、力説すると、彼は、おちょこの酒を飲みほし、ため息をついた。
「風見さんさあ……」
「なんだよ」
しらじらしい「さん」づけ。
「いや、確かに。どうしたらいいかって、聞いたのは俺だよ。でもさ……セックスレスの悩みってのはさ、もっと根深いわけ。それに関する相談で商売が成り立つくらいには、深刻な問題なんだ」
「いや、それはそうだけど」
「俺には、この問題がプリンなんかで解決するとは思えないよ。風見はさ……頭がいいのに、その辺に関しては、本当にからっきしだな」
「その辺?」
「ああ。お前は、男女関係の機微ってもんを、まるでわかっていない」
俺はもうすぐ三十歳になる。
だから今更、童貞であることをからかわれた程度で、腹を立てることはない。しかし、男女関係の機微に関して理解していないと言われるのは心外だった。
「そう思うなら、俺に相談なんかするな。最初から、その手のカウンセリングを受けるなりすればいいだろ」
「ああ。ごめん……わるかった。でも、そう言うなよ」
「なんだよ。金か? それとも世間体が気になるのか?」
「いや……そのあたりは、たしかに気にはなるが、どうとでもなる。一通り調べてみたけど、顧客が来ないことには、彼らも商売にならないから。意外と気軽にサービスを受けられるような設定になってた。中にはオンラインで受けられるものもあった。でもな、それを利用するにしたって、まずは彼女と話をする必要があるだろ……? 俺達、最近、会話すら危ういんだ」
その言葉に、少し、驚く。友人は、夫婦カウンセリングを真剣に検討する程度に、この問題について悩んでいるらしい。
そして、彼は、自身とパートナーの性の問題に対して、それなりの真摯さで向き合おうとしている。
なんとも言えない気持ちになる。
「……なら、なおさらプリンを試すべきだろ。モゾロフのプリン。プリンを食べながら、まずはおしゃべりをするんだ。あそこのプリンは二つ買っても、千円でおつりがくる。たとえ、彼女がプリンを拒否したとしても、お前が二つ食べれば、それで片がつくことだ。厄介なことが何一つないし、しかも、あそこのプリンはおいしい」
プリンのゴリ押しで場の雰囲気を変えようと試みる。
「……風見がそこまで言うなら、買ってみるかな」
「ああ。買うといい。念を押すがモゾロフのやつだぞ。他じゃだめだ。……ちょっと待ってろ、近くの店舗調べるから」
「ずいぶん、そこにこだわるな。好きなのか?」
「まあ、普通にうまいし。思い出の味なんだ……あ、あった。お前の最寄り駅の地下に店がある。閉店は夜の九時半」
「九時半か……ちょっと、今の時期は厳しいな」
その言葉に「お前が、そんな風に仕事を優先させるから、会話すらままならないんじゃないか?」そう言いたくなったが、さすがに控えた。それは、俺自身にも返ってきそうな言葉だったから。仮に今、俺に恋人がいたとして。俺は、きっと、恋人より降谷さんを優先させるだろう。
俺の友人は「センセイ」に惚れこんでいる。そして、センセイの政治哲学が、少しでも政策に反映されるよう夜遅くまで仕事に励んでいるのだ。
だから、どうしたって、彼女のことは後回しだ。

セックスレスの悩みを打ち明けられたあの日からさらに二週間が経った。三月中旬。春が来たというのに、俺の心は沈んでいて、いつもより気が立っていた。
むろん、そのいら立ちを人にぶつけることは無かったが、それでも、些細なことに腹を立てている自覚はあったし、周囲が俺に気をつかっていることにも気がついていた。
夕刻、降谷さんがめずらしく警視庁に顔を出した。
「風見、それはもういいから、今から飲みにいかないか? 明日休みだろ? 僕も、明日はオフにするから朝までつき合える」
その言葉を聞いたとき、さすがに、このままではいけないと反省した。
俺から見て、降谷さんは年下だし、なにを考えてるのかよくわからない。それでも、この人は、いかにもちゃんと俺の上司で、そして彼の部下である俺は、立場上この人に甘えてもいいということになっている(はずだ)。
慌てて退庁の準備をする。書類をひっくり返しそうになって笑われた。
「風見、そんなに急がなくたって、僕は逃げやしないよ」
「降谷さんは逃げなくても、時間は待ってくれないので」
「時間が?」
「だって、降谷さんの大事な時間をいただくからには、一分一秒でもむだにしたくないんです」
「……そうか」

タクシーで向かった先は、駅から少し離れた場所にある隠れ家風の居酒屋だった。掘りごたつの席に、脚をおろせば、つま先が降谷さんのすねのあたりに触れてしまう。あわてて、脚をひっこめる。
「脚が長いな」
いつもの褒め殺しが始まる。
「……降谷さんよりは短いですけどね」
「そりゃあ、まあ、そうかもしれないけれど。でも、スーツ着てる君って、本当にかっこいいよ。シルエットがとってもいいんだ」
「あー……今日も、からかうんですね?」
少々つっけんどんな言い方になった。降谷さんの表情が、微かにこわばったような気がする。
「すまん……」
小声で謝罪されて、ぎょっとする。
「あ、いえ、いいんです。ただ、俺、余裕がなくて」
慌てて弁解する。
「余裕?」
「ええ。ちょっと理由があって、気が立っていまして」
「そうか……それは、仕事のことか?」
「いえ、プライベートのことで……。我ながら、情けないと思ってはいるのですが、どうにもコントロールできず……。降谷さん……あの…相談に乗ってくれたりします?」
「プライベート……? 君、僕にプライベートに関する相談をしたいのか?」
降谷さんは、ぱちくりと、瞬きを繰り返した。思わぬ申し出に、びっくりしたのかもしれない。
「あ、いや。その。無理にとは言いませんが。ちょっと、今のままだと、業務に支障をきたしかねないので」
「なるほど……。君は僕個人にではなく、上司としての俺に相談をしたいという、そういうことだな」
「あ、いや……あの。ご迷惑でしたら……」
「迷惑じゃない。ちょっと自分に嫉妬しただけだから気にしなくていい。……いいよ、君の話を聞こうじゃないか」
相談に乗ってもらえる、という安堵感よりも、嫉妬という言葉が気になった。
「ご自分に嫉妬ですか? あの……それは?」
「だから、それは気にしなくていい。……君、僕との時間は一分一秒でもむだにしたくないって言ってなかったか?」
「あ……いや、その。それはそうなんですけど。でも……どういう意味かなって引っかかって」
「いいから、早く本題に入れ」
そう言われてしまえば、話を先に進めるしかない。俺は力なく返事をした。
「……はい」
降谷さんは、注文用のタブレットを操作しながら、俺が話し出すのを待った。さて、なにから切り出すべきか。
「ビールでいいか?」
「はい」
少なくとも、童貞であるという大前提については、共有が必要だろう。
「食べ物も頼むけど……何か食べたいものあるか?」
「あの……」
「うん」
「俺、童貞なんです」
つまみのリクエストを聞いてきた降谷さんに、それを告げた。
「そうか……それはそうとして、おつまみ。何か食べたいものあるか?」
降谷さんの視線は、タブレットに向けられていて、だから、どんな表情をしているの読むことができない。
「じゃあ、鶏のから揚げで」
と、返せば
「ここ、手羽先も絶品なんだけど、どうしようか」
と、降谷さんが言う。果たして、先ほどの告白を、この人はちゃんと聞いていたのだろうか。そんな不安がよぎって、もう一度、その事実を告げる。
「降谷さん。俺、童貞なんです」
「ああ。さっき聞いたよ」
「あの……本題に入れとおっしゃっていましたが?」
「うん。確かにそう言った。でも、ちょっとな。君の相談が、そういう話であれば、先に注文を決めてしまおうと思ってな。本題に入ってしまったら、さすがに、聴けなくなるだろう? から揚げにするか? 手羽先にするか? なんて、そんな些細なこと」