fetish 4 U

初出:2020/8/9(pixiv 『肉體は楽しい!』より)

風見裕也フェチな降谷さんの話。
フェティシズムがメインなので、本番シーンの描写がほぼ無い

 


道場の畳の上。初めて見た風見裕也の土踏まず。とても立派なアーチを作っていて、とても平成生まれの男の足には思えなかった。

「君の土踏まず……すごいな」
「ああ。野球やってた時、ずいぶんと鍛えたので」
「そうか」
「ええ、おかげで、甲高になってしまって、靴選びで苦慮するんです」

そう言いながら、風見は、足の指をぐにぐにと動かした。足背の筋が浮かび上がって、ピクリピクリと動く。その様を見て、なんだか、ドキドキしてしまった。
それが、フェティシズムを自覚した瞬間だった。

 

胸の大きな女性が好き、とか。ぽってりした唇の女の子にキスをしたくなる、とか。なんならフェラをしてもらいたくなる、とか……。

大学の飲み会の時に、そういう話を耳にしたことがある。初恋の夢から目覚めていなかった僕は「そういうものか」と思いながら、みんなの話を聞いていた。
そして、そういう僕を見て、隣の席に座っていた男が「降谷って、案外まじめだな」と言った。
僕は「確かに、そうかもしれない」などと思って、適当に相槌を打った。
あれから8年が経過し、僕は気がつく。僕は、まじめだから、みんなのフェチ話に乗れなかったのではない。僕のフェティシズムが、よりマニアックなところにあったのだ。

今の時代は、とても簡単に目当ての画像を収集できる。
巨乳好きのあいつは、巨乳という単語で画像検索しただろうし。唇フェチの彼も、インターネットで様々な唇の画像を集めて、フォルダに収めているかもしれない。
かくして僕も「土踏まず」とか「甲高」という単語で画像検索を試みた。確かに、画像は見つかったが、僕の心に引っかかるような土踏まずは一つもなかった。どうやら、僕の土踏まずのストライクゾーンは、ものすごく狭いらしい。今のところ、僕の心を弾ませるのは、風見裕也の土踏まずだけだった。

土踏まずに対してのストライクゾーンは、きわめて狭い僕だったが、どういうわけか、風見裕也に対するストライクゾーンは、とても広かった。
たとえば、散髪したばかりのこざっぱりしたうなじであったり、スカスカに生えている眉毛だったり、立派な鼻筋であったり、切れ長の目であったり。
そういったところが、なんだかいちいち、ツボだった。

そして、僕は気がつく。僕は、風見裕也のフェチなんだということに。自制しようと試みたが、無駄だった。
目で追わないようにしよう。耳を澄まさないようにしよう。匂いを感じないようにしよう。触覚を殺そう。そう思えば、思うほど、僕の五感は研ぎ澄まされていった(さすがに、味覚で感じることはなかったが)。

ある日の洗面所。腕まくりをして、手を洗う風見裕也の腕橈骨筋。僕は、そこに手を伸ばしてしまった。

「降谷さん、どうされました」

風見の声が上ずっているのがわかった。風見の頬がほんのり紅く染まる。じんわりとにじみ出る汗を手のひらから感じた。そして、ふわりと香る、シャンプーの香り。
もしかしたら、僕が、右の腕橈骨筋に触れたから……彼の体は、こんな風に反応したのかもしれない。僕は、その「もしかしたら」に賭けることにした。

「僕、君の体が……好ましく思えて仕方ないんだ」

告白としては、最低の言葉。
でも、その言葉には、嘘はなかった。

「本当に?」

風見が、目をキラキラさせる。

「うん」
「じゃあ、これも?」

風見の顔がぐんぐん近づいてきて、唇に柔らかいものが当たった。つんつんと、風見の舌が僕の唇をつつく。僕は唇をほどいた。
風見裕也の舌は、はちみつみたいな味がした。僕は目を開けたりつむったりしながら、風見の舌をはんだ。
キスが終わる。
風見が首をかしげながら、俺にたずねた。

「どうです? 俺の口の中も、好ましかったですか?」
「うん……はちみつみたいな味がした」
「あー、それは、ここに来る前、はちみつ飴を舐めてたからですね」

これが、僕と、風見裕也のなれそめだった。

 

初めて、セックスをしたのは、風見に二度目の草野球の助っ人を頼んだ夜だった。

打ち上げを辞退し、夕飯を買って、僕の部屋に向かう。順番にシャワーを済ませ、缶ビールで乾杯した。
別に、この日にしようと約束していたわけではなかったけれど。なんとなく、今日なんだろうなという、そういう空気が漂っていた。
プロ野球のナイター中継を見ながら、野球談議に花を咲かせる。ホームチームの7回の攻撃が終わり、CMが始まった。風見に肩をつつかれる

「降谷さん、見て」

風見の手のひらには、素振りでできたマメがあった。たかが、草野球なのに。こんな風にムキになってしまうところが、風見らしいと思った。

「手のひらのね、マメのできる位置で、バットをうまく振れているか、わかるんですよ」

風見は、そう言いながら、硬くなったマメを触らせてくれた。僕は、意味ありげなため息を抑えることができなかった。風見が眼鏡を外す。視界の端で、ハロが別室に移動するのが見えた。心の中でハロに礼を述べながら、風見の首に腕を回した。風見の手のひらが、Tシャツの中に入ってきて、僕の背中をなでた。その温かさであったり、硬いマメが皮ふをひっかく感触がたまらなくて、僕は、あっという間にとろけた。

「降谷さん……感じやすいですね…」
「違う…」
「でも、もう、腰……揺れてますよ」

そうやって、耳元でささやく風見のやわらかい声がたまらなくて。

「だって……風見が風見だから…」

そう言うよりほかなかった。

「……すごいことを…おっしゃいますね。とても哲学的だ」
「そうか…?」
「あー……でも、言いたいことはわかります。俺も降谷さんが降谷さんなところが好きですよ」
「……君こそ、すごいことを言う…」

風見が、にっこり笑う。

「ベッド行きます?」
「うん」

――風見裕也のセックスは、とても丁寧だった。

翌朝、ぱちりと目を覚ますと、風見が僕の頬にキスをくれた。じょりっとした感触があって。その衝撃で眠気が吹っ飛んだ。風見の、顎を指で触れる。

「……ひげ」
「ああ。年々伸びるの速くなってきてて。嫌になっちゃいますよね」
「……新鮮だな」
「まあ、降谷さんとお会いするときは、出かける直前にひげをそりますからね」
「そう」

僕は、風見の顎に、自分の頬を押し付けた。

「あー……じょりじょりするな…」
「うん。じょりじょりするでしょ?」

そんな会話をして。朝ごはんを食べ、ハロを連れて近所の河川敷まで出かけた。
前日の埋め合わせ、というわけではないんだが。僕たちは、ハロの気が済むまで、走りまくって、遊び倒した。

 

数か月が経過した。
僕たちは、休みの日には必ず、どちらかの家で過ごすようになった。僕は、風見の体が大好きだったから、セックスも大好きになった。風見も、性欲は強い方らしくて。最近は、朝起きた後にも、必ず一回はしてしまう。

「してもいいです?」

風見のベッド。風見のにおいがしみこんだ寝具。

「うん」

僕は、風見の顔を自分の胸に引き寄せた。風見の分厚い舌が、僕の胸をなめる。
ザリっと。伸びかけのひげが、僕の肌をひっかくのがたまらなかった。ことに、風見の献身によって敏感にされてしまった乳首に、チクチクとひげが当たるのがたまらない。
あんまりにもよすぎて、少し怖くなった僕は、

「やだ」

風見の頭を押しのけた。風見は、それ以上は深追いしてこなかった。それが、すごく寂しかった。
「ひげのやつ、もっとして」と、言いたくなるのをこらえた。伸びかけのひげを、こすりつけられるのがたまらない……なんて、いくらなんでも言えるわけがない。
そうこうしているうちに、風見が、僕の足を割って中に入ってくる。風見の性器は、とても男らしい形をしていて、だから、根元までおさまりきるには、ほんの少しだけ時間と工夫が必要だった。
風見が額に汗を浮かべながら、じわじわと、腰をすすめる。眉間のしわが深くなる様が、とても愛おしくて、それだけで体が熱くなった。

セックスを終えて、裸のまま、ベッドの上でだらだら過ごす。
風見の吐息。風見の体温。枕に落ちた抜け毛。男らしい汗の香り。僕のフェティシズムが満たされていく。

眼鏡をした風見の横顔。
風見は、スマホをのぞきながら、何やら考え込んでいた。

「どうした……」
「いや…レーザー脱毛、どこがいいかなって」
「え?」

風見の口から発せられた言葉の意味が分からなかった。レーザー脱毛って……誰がするんだ? 風見? それとも僕? ……風見がつるつるになってこいというのであれば、行く覚悟はあるけれども……。

「さっき……降谷さん、俺のひげで痛そうにしてたじゃないですか?」
「え……ああ。まあ……」
「痛くしちゃうの申し訳ないですし。毎日きっちりひげを剃るのも手間ですしね。いっそ脱毛を試してみようかと」
「それは、だめだ」
「え? だめですか? 今は、機械もよくなってるし、安価で質の高い施術を受けられるって言いますし……」

僕は、風見の顎に右手を添えた。

「この、じょりじょりが好きなんだ……」
「え……?」

風見の顎に、そっと唇をよせる。首を小刻みに動かす。唇の薄い皮ごしに、伸びたひげを感じた。それだけで、下腹部がうずいてしまう。
もちろん。仕事中の、きれいに剃られた彼の顎もすごく好ましいと思う。
彼のきっちりと整えられた身だしなみは、スーツの着こなし、整ったボールペンの文字、かっちりとした眼鏡などと共に、警視庁公安部の風見裕也らしさを形作る大事な記号だ。
けれど、今、僕の唇を刺激しているチクチクとしたとんがりは。風見裕也が生身の男であるという証。そして、このひげを、こんな風に触ることができるのは、僕だけなのだ。
風見の顎から唇を離す。風見の右手を引いて、僕のそこに触れさせる。

「な……僕のここ、君のひげを感じただけでこんなことになっている……だから、レーザー脱毛なんて、するな」
「そう……ですか…。では……先ほど…ひげが当たった時、嫌だとおっしゃったのは……?」
「……それを言葉にしなければならないほど、君は察しの悪い男じゃないだろ?」

風見は、こくんとうなずき。僕の乳首にざりざりとした顎を押し当てた。

「……!」
「ああ、本当だ。ぬるぬるしたの、出てきましたね……」

風見の指先が、僕の敏感な先っぽをひっかく。
そのすべてがたまらなくて。僕は、今日はもう出ないだろうと思っていた、ほとばしりを、こらえることができなかった。

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