そういう演技

初出:2020/8/9(pixiv 『肉體は楽しい!』より)
ふせったーに書いた小ネタを、SSに仕立て直し
経験豊富そうな降谷さんの演技。風見さんが結構ひどい男かもしれない


 

恋人ができて、二か月が経過した。

相手は、一つ年下の上司。
すごくすごく大好きで。感情を抑えられなくなった俺は、今の関係が壊れることを恐れながらも、ストレートに「あなたが大好きだ」と伝えた。
そして、どう考えても無理だろうと思っていた告白は、あっさり受け入れられ、俺たちは恋人になった。

別に、俺は、相手の過去の恋愛とかそんなに気にしていない。いや…気にはするが、少なくとも二十歳のころほどには気にしていない。
三十路の俺は、それなりに、それなりの経験を済ませていて。だから、相手がそれなりの経験をしていたとしても驚かない。まして、相手は降谷さんだ。降谷さんが男からも、もてることを知っている。「降谷さんならいける」とか、そういう発言は何度も耳にした。
さらに言えば、降谷さんは、とても危険な組織に潜入していて。そういう場所で、彼がのし上がるために、性行為を手段にしていたとしても驚かない。降谷さんは、とても合理的な人だから、体を使うことが最短距離とわかれば、体を使うことをいとわないだろう。

 

つき合い始めたと言っても、俺たちはまだ、キスをしたことすら無かった。仕事が忙しかったし、男性とつき合うのが初めての俺は、どうやってことを進めていけばいいのか自信がなかった。

先にしびれを切らしたのは降谷さんだった。

ひとけのない橋げたの下。俺と降谷さんは、そこで、情報のやり取りをした。別れ際。仕事中だけれど、キスをしていいだろうかなどと逡巡していたら、降谷さんが言った。

「なあ、少し、プライベートの話になるが……いいか?」
「え……? ええ?」
「つき合って、結構…経つだろ。そろそろ、そういうことをしていいかなと思うんだが……」
「ああ。それは、俺も思います」

降谷さんが、顔色を変えずに続ける。

「君がよければの話だが。僕が、抱かれる方でもいいか?」

降谷さんに言われて、びっくりした。俺は、最初から、降谷さんを抱くことしか考えていなくて、この人に、抱かれるかもしれない可能性について考えたことがなかった。

「ああ……ぜひとも。しかし、よろしいんですか?」

俺がたずねると、降谷さんは髪をかき上げながら言った。

「まあな。そちらの方が、慣れているし」

降谷さんの、きれいな顔を見ながら、俺は少しだけ複雑な気持ちになった。

「降谷さん、今は、プライベートな時間ですよね……?」
「え……? ああ。まあ」
「では、キスをしてもいいですね?」

答えを聞く前に、唇をふさいだ。降谷さんは、経験豊富なのだから、これくらいのこと、どうってことないだろう? そう思って、つき合い出して最初のキスにしては、激しめのキスをした。
降谷さんのキスは、なんだか、とっても初々しかった。降谷さんの舌の拙劣さを感じながら

(あーあ。経験豊富っていうのは、こんな風に、初々しいキスの演技までうまいんだな)

と、そのようなことを思って、少しだけ悔しかった。
キスを終えた後の降谷さんの表情を俺は見れなかった。涼し気な顔をされていたらやきもきするし、びっくりしたような顔をされても、きっといらだちをおぼえてしまう。

降谷さんは

「なかなかだったよ」

などと、そんなことを言って、俺の心をかき乱した。

 

それから数日経って、降谷さんからメールが来た。それは、プライベートで部屋に来いというお誘いだった。
ああ。あのキス……及第点だったのかな…と思いながら、覚悟を決める。「準備は僕の方で全部しておく」とのことだったが、一応、コンドームとローションだけは買っておいた。

そういうわけで、俺は、降谷さんのベッドの上にいる。
ハロは、降谷さんの言いつけを守って、別室に退避。
先に風呂をもらった俺は、降谷さんが準備してくれたバスローブに身を包み、そわそわしながら彼が風呂から出てくるのを待った。

「待たせたな」

降谷さんが、姿を見せる。
間接照明の明かりが、降谷さんのバスローブ姿を照らした。

「この前みたいに、あんまりがっつくなよ」

そう言われて、俺は、先日のキスのことを思い出した。
確かにあれは、初めてのキスにしては、がっつきすぎだったと思う。

「わかりました。では、丁重に、ことを進めさせていただきます」

そうはいっても、経験豊富な降谷さんに手加減するつもりはあまりない。
まずは、ベッドの端に座って、体を触りながらキスをした。経験豊富な降谷さんは、やっぱり、ういういしい演技が上手で、俺が触るたびに、びっくりしたような顔をし、俺の体にまわした手は、ぎゅっとバスローブを握りしめるだけで、愛撫の類を一切してこなかった。
そういう、ういういしさに、喜んでしまいそうな自分が嫌で、俺は、やや強引に降谷さんをベッドに押し倒し、バスローブの帯を解いた。
降谷さんは、パンツを履いていなかった。
予想よりも、きれいな色をしたチンコが、先走りで、てかてかに光っていて、尻の穴からはトロッとしたものが流れ出ていた。
俺は、今すぐにでも、突っ込みたくなったが。「がっつくな」という降谷さんの言葉を思い出して、つっこむのは、指で我慢しておいた。使い込まれているだろう、降谷さんのそこは、予想以上に狭かった。
準備をしておくと言っていた降谷さんだが、もしかしたら、あえて、ほぐし切らない状態で、準備完了としたのかもしれない。つまり「俺が、降谷さんの体を変えていく」という、そういう楽しみを残すために、あえて、このような中途半端な状況にしたのかもしれない。
あるいは、降谷さんは、痛いのが好きなのかもしれない。しかし、いくら、降谷さんがそういうプレイが好きであったとしても、初めての夜に、流血沙汰というのは、気が引ける。
だから、俺は指を使って、地道に中をほぐすことにした。

自分で買ってきた、ローションを手に取る。そして、降谷さんの性器にかけてあげた。降谷さんが、ビクンとなるのが嬉しくて。もう、演技でも何でもいいやって思った。
性器を伝って、ローションがとろとろと後ろの方まで流れていく。それを少しだけ、すくい取って、降谷さんの穴に、自分の指を挿しこんだ。
ぐにぐにと押し広げるように、中を刺激する。降谷さんが両手で口をふさぎ声を抑えた。俺はどちらかと言えば、声を聴きたい派だけれど、声を我慢させるのも嫌いじゃない。
だから、降谷さんの中のふくらみをぐいぐい押しながら、チンコをしごき

「降谷さん、さっきから、声、漏れてますよ」

と、意地悪なことを言ってみた。
降谷さんは、目をぎゅっとつむって、声を出さぬよう、必死にこらえていたけれど、射精の瞬間にはさすがに、色っぽい声を出した。
だらんと脱力した降谷さんの手を、口からはがして、キスをした。キスをしながら指で腹の中をこねくり回す。
体をびくびくさせながら、必死に俺のキスについて来ようとする降谷さんは、すごくかわいかった。

降谷さんの体から、いったん離れる。降谷さんがとろんとした目つきで、俺の姿を追う。
バスローブを脱ぎ、パンツ一枚になる。その流れで、降谷さんの体からバスローブを取っ払た。
俺は、パンツをずらしながら、降谷さんに、自分のものを見せつけた。

「これだけほぐせば、入るかな……? まあ、降谷さん、慣れてるから大丈夫ですよね」

俺がそう言うと、降谷さんは

「まあな……」

と言った。
降谷さんは、自身よりも数センチ程長い俺の性器を見ても動じなかった。
(ああ、アンタは、俺くらいの、サイズのものも、咥えこんだことがあるんですね……)
そんなことを思いながら

「降谷さんが準備してくれたゴム……多分、俺には少し窮屈なので、自分で買ってきたやつ使いますね……これ、摩擦少なくて、挿れられる側もいいらしいですよ」

なけなしの、俺のデカいんですアピールをかましてゴムを装着した。そして、眼鏡を外す。

「では、失礼します」
「うん……」

後ろからの方が失敗は少ないだろうなと思ったけれど。降谷さんは、挿れられるのに慣れているし、前からでも構わないだろうと思って、体位は、正常位を選択した。ベタだけど。やっぱり最初だし。
降谷さんの足の間に割って入り、ぐーっと挿入を深めていく。降谷さんの中は、十分にほぐしたつもりだったけれど、結構きつくて。熱くて、すごく気持ちがよかった。

「……動いていいぞ」

と、降谷さんが言った。ので。俺は、遠慮なく、腰を前後させた。
ぐちゅぐちゅと、結合部から音がこぼれる。そして、俺が、腰を前にやるたびに、降谷さんの腰が引けて、体が上に逃げていった。
その現象に、違和感を覚える。一挿しするたびに、数センチずつ上にずれていくから、降谷さんの頭頂部は、あっという間に壁まで到達した。
そして、俺が腰を振るたびに、降谷さんは壁にガツンガツンと頭をぶつけた。

確か、この現象「処女の滝登り」というやつではなかったか?

(いや……まさか。そんなわけがない……降谷さんは、経験豊富で…俺を喜ばすために初々しい演技をしているだけで……いや、これ本当に演技か?)

俺は、腰の動きを止め、降谷さんをずるずると引き戻しつつ

「降谷さん……腰、引かないでください…」

と、声をかけた。

「腰……? ひかない?」
「できます?」
「うん……」

降谷さんが「うん」と言うので、ピストン運動を再開した。けれど、ものの1分で、降谷さんの頭は壁際に到達した。

(あ……これ、やっぱ処女だ。処女じゃないにしても、経験回数めっちゃ乏しいやつだ)

腰の動きを止める。
降谷さんが、息をふーふーさせながら

「どうした?……風見…疲れちゃったのか? 君…案外体力がないんだなあ」

などと、経験値あります風のことをつぶやく。「どうした?」と、聞きたいのは俺の方だよ。そう思った。
理由はわからないが、降谷さんは、経験がある風を装いたくて、こんなちぐはぐなことになっているのだろう。
降谷さんが壁に頭を打ちつけながら、経験者あります風に装う様……かわいくはあるのだが、ちょっと、シュールすぎて行為に集中できない。
そんなわけで、俺は、年下の上司の矜持を守りつつ、現状を打破するため、やや強引に降谷さんの体を抱き起した。

――挿入したまま、動かしたのがよくなかったのだと思う。

対面座位になったのはいいが、俺の先っぽが、思いがけず、降谷さんの奥の方をえぐってしまったらしい。降谷さんは、声にならない声をあげながら、軽いパニックを起こした。
中が、ギューッと締まる。
あ……イキそう………そう思ったときには手遅れで、俺は、ゴム越しではあるが、降谷さんの中でイった。

「ッ……すみません、俺…イってしまって」

俺が謝罪すると、降谷さんは、顔を真っ赤にして体をびくつかせながら。

「これくらいれ…っ…イっちゃう…なん…れ…きみ……あれらな……」

などと、やっぱり、経験豊富っぽいせりふを言おうとがんばっていた。

降谷さんあくまでそのキャラを貫くつもりなんだなあと思った。
そして、俺は、射精した後もそれなりの硬度を保っていた自身を引き抜かないまま、腰をゆらゆらと動かした。ゴム…抜けるかもなとか、液漏れするだろうなと思ったけれど、それでも、そうしていたかった。
たとえ中で外れたとしても、経験豊富だと思われたい降谷さんなら「仕方ないやつだな」の一言でゆるしてくれる気がする。

そういうわけで、俺は、降谷さんの経験豊富キャラに乗っかり、コンドーム会社・非推奨の行為を続行した。

 

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