初出:2020/9/13
三次創作(なかほどさん @plz_otsume のチャイナバニーが大好きすぎて、前日譚を書きました!)
着衣プレイ
性描写はあるけれど、ぬるめ
十月上旬。
「そのニット……着るの何回目ですか?」
秋風が通り抜ける公園のベンチ。
風見裕也は、コンビニのおにぎりを差し出しながら、僕にたずねた。
「ようやく、涼しくなってきたところだから……まだ、二回目だ」
細いリブの入った、薄手のニット。色はアイボリーで、襟は少しだけつまっている。
半月前
『インナーなしで着たほうが、きれいに着れるって、店員さんが言ってましたよ。コットンが入っているからチクチクしませんし。試着した時の着心地があまりにもよかったので、自分も色違いのやつ買っちゃいました……え? も、もちろん……自分の分は、私費ですよ!』
という言葉と共に渡されたこのニットは、確かに、とても着心地がよかった。
「そうですか。二回ですね。……それ、すごくお似合いですから、たくさん着てくださいね」
「そうか? ありがとうな」
「ええ。最近は、涼しくなったと思ったら、いきなり冬でしょ? ……だから、今のうちに着ないと」
「確かに、秋が短くなったよな……。君の言う通り、今のうちに着ておくよ。寒くなったら、このセーターでは、心もとないからな」
「そうですよ。いつの間にか寒くなって、結局数回しか着なかったなんて、そういう無駄なことをしてはだめですよ。本当に、お似合いなんですから」
――今回は、このニットか……
果たして。僕は、平静を保てているだろうか?
そして、風見裕也は、本当にこれで自分の下心を隠し通せていると思っているのか?
僕はとっくにお見通しだぞ。
君が、着用回数を確認してくる理由。僕がこのセーターを五回以上着たことが確認できた時点で、君はこの服を着た僕を抱くつもりなんだろう? それも、中途半端な脱がし方をして。
君は『五回以上着ていればセーフ』と思っているのかもしれないけどさ。まったくもって、セーフじゃないからな。公費で捜査備品ようふくを買う際に、どさくさに紛れて、着衣プレイに使いたい服を選ぶなんて……どう考えてもアウトだ。
事の発端は、夏にさかのぼる。
僕は、安室透として、小さな探偵たちと行動を共にしていた。友達のために必死になってストラップを探す彼らを見て、僕は少し手助けをした。
僕の右腕は優秀だから、急な頼みにも、ちゃんと応えてくれた。
予定外の仕事で彼の手を煩わせたのだから、ねぎらいは必要だろう。僕は、上司としてではなく、彼の恋人として、風見裕也の自宅に向かった。
翌日は、早朝から家を出なければならなかった。いったん家に帰り、海風にあたった体をシャワーで清めたかったが、それをしてしまうと、ご褒美の時間が短くなってしまう。だから、直接、ここに来た。
風見に招き入れられ、玄関を上がる。
僕が
「お疲れ」
と、声をかけると、風見は目をきょろきょろさせた。
「あ……えっと、お疲れさまです」
僕が、どういった理由で、ここに来たのか、おそらく風見は理解している。
だから、協力者とのやり取りについては報告せず、冷たいお茶の準備を始めたのだろう。
と、なると、お茶の次はシャワーを勧められるのが、いつもの流れなのだが……
「降谷さん……あの……俺、今日すごく、がんばったんです」
「うん。助かったよ」
「車を飛ばして、全力疾走して、乗客にじろじろ見られながら、がんばったんです」
風見の様子が、いつもと違うことに気がつく。
「ですから……あの。俺をねぎらってください」
その顔つきはあまりにも真剣で。風見は、僕がシャワーを浴びるのも待てないくらいに、僕を求めているのかもしれない。そう思った。愛おしさが、こみ上げてくる。
「いいよ」
僕が答えると、風見はにっこり笑った。
「僕も、今日、大嫌いな男に会って……ほんの少しだけささくれ立っているんだ」
「うん」
「だから……まあ、頼む」
僕だって、君にねぎらってもらいたい。
お茶を飲んだグラスを、シンクに運ぶこともせずに、僕たちはベッドに向かった。
その日、僕は、少し個性的な形状の捜査備品ようふくを着ていた。
白い一分袖のトップス。首元から、左のわきに向かって、切り込みが入っており、それをボタンで留めるというチャイナ服を意識したような構造。
もちろん、着脱しやすくするために作られたスリットではない。だが、ボタンもボタンホールも飾りではなく、きちんと機能するようになっていた。
「降谷さん、今日の服……やっぱ似合いますね」
「……そうか?」
僕は、照れ隠しのつもりで言った。
「しかし、この服、実用性からはかけ離れているよな。凝ったデザインなのは、わかるが……もっとシンプルで、機能的な服でもいいんだぞ」
その言葉に風見が笑う。
「そうですかね? 俺はこの服……とても実用的で機能的だと思いますが?」
「……え?」
どういう意味だろう? そう考える僕をよそに、風見は、僕が非実用的と評したボタンを一つ外して、鎖骨に口づけをした。
風見が、シャワーを勧めなかった理由が分かった気がした。
経費で捜査備品ようふくを買う際に、私情……というか劣情を絡ませるなと説教してやりたかった。
だけど、二つ三つとボタンが外れ、乳首にキスをされたことにより、僕は腑抜けになった。風見の眼鏡が、左の肩にぶつかる。
「ぉい…っ……がっつくな……」
「れも……かっらときから、こうひたかったんれ」
「……っ…ぁあ…舐めながらしゃべ……るな!」
僕の言葉の通り。風見は、無言のまま、僕の左胸をべろんべろんに舐めまわした。ちょっとだけ、怖くなる。
腕力に物を言わせて、風見の顔を胸から引きはがした。視線がかち合う。僕が息を整えようと、呼吸をゆっくり吐き出していると、風見は、袖口に顔をよせ、僕の脇の下に舌を這わせてきた。すごく変な感じがする。
「……あっ」
唾液でべちゃべちゃになった左の乳首に、エアコンの冷風が当たった。それだけで、体がふるえる。
そのふるえに呼応するように、風見は顔をあげ、眼鏡の位置を直した。そして、悪ガキのような笑顔を浮かべ、僕の右鎖骨に左手を添える。
「こっちにも、スリット欲しかったですね……そうすれば、服着たまま、両方ともかわいがれたのに」
風見の指先が、スーッと、白い生地の上をなでた。
「ああ、でも……右も、ちゃんと勃っている」
嬉しそうな声。
「……あッ」
ツンツンと、爪の先でつつかれれば、甘いしびれがやってくる。
「かわいい……。こっちも、舐めてあげたかったな……。今度は、両方開く、もっとえっちな服……買ってあげますね」
ガツっと、再び左の肩に、眼鏡が当たる。じゅるッと音がして、れろっとされた後に、歯を立てられた。風見の右手が、僕の耳に伸びてきて、ぐにぐにと膝で足の間を刺激される。
そして、右の乳首を、ひねり上げられた瞬間、僕は、服を着たまま下着を汚した。
終わった後は、もちろん説教だった。
「まだ、二回しか着ていないのに……もう、この服……着れないじゃないか!」
と、怒る僕に、風見は
「どうして、着れないんですか? シミもできていませんし。洗濯すれば、着れるはずですよ」
と、のたまった。
反省を感じられない態度に、風見裕也の再犯を確信した。
二度目の犯行は、イージーパンツ。ゴムウェストで着脱が楽だし、ストレッチ生地で作られたそれは、とても動きやすくて、お気に入りだった。そして、風見はその材質を悪用し、ウェストから手を差し込んで、下着の中をぐちゃぐちゃにした。
三度目は、オーバーサイズのTシャツ。よりによって、その日が休みなのがまずかった。『これなら、お尻まですっぽり隠れますよね』ズボンとパンツを奪われ、Tシャツ一枚で半日を過ごした。
四度目は、何の変哲もない、ワークシャツ。インナーを取っ払われ『生地が固いから、こすれて気持ちいいでしょ?』と言われた。
それらの犯行は、風見が「それを着るの何回目ですか?」と聞き、僕が五以上の数を答えた後に実行された。
その質問の意図に、僕が気づかないわけがない。
だから、この質問をされるたびに、落ち着かなくなる。まだ一回しか着ていない服でも、五と答えたくなることもあったし。風見が買ってきたたくさんの捜査備品ようふくの中から、あえて、そればかりを着たくもなった。
したがって、三回、四回と。薄手のニットを着るたびに、僕のドキドキは高まった。
風見の魂胆は、大体予想できるけれど(風見は、僕の乳首をいじめるのが大好きだ)、気づかないふりをしてやる。
僕は、恋人に対しては、尽くしたいタイプなんだ。
しかし……。
五、と答えても。七、と答えても。風見は、薄手のニットを着た僕を抱かなかった。
裸同士で抱き合う、いたってノーマルなセックスに不満があるわけじゃない。けれど、少しだけ不安な気持ちになる。
風見は、着たままするのが好きなんだと思いこんでいたけれど、本当は違ったのかもしれない。僕が風見のものを受け入れるようになって、すでに、一年半が経過した。
もしかして。夏から、秋にかけて繰り返された犯行は、「マンネリ解消」を動機としたものだったのかもしれない。そういえば、最近の風見は、一回出したら終わりだし。乳首もそれほどにいじってこない。
秋の夜長。
僕は、初めて服を着たまま行為した時のことを思い出した。
シャワーを浴びていない脇を舐められたのは、最悪だったけれど。もう一度、あんな風にぐちゃぐちゃにされてみたい……。
そんなことを、深夜に考えたのがいけない。
数日後、僕は、近所の宅配ポストで段ボールを受け取った。
チャイナテイストの胸のところがめくれる洋服。買ってあげると言ったくせに、風見は、いまだに両方の胸が露出するえっちな服を僕によこさない。
所詮、行為の最中の戯言。風見は覚えていないかもしれない。でも、僕は覚えている。
普通の男性向け既製服でそのようなものを探すのは難しい。
だから、アダルトショップの通販を頼った。あの晩、僕は、ちょっと、どうかしていて、風見の顔を思い浮かべながら、次々に注文を追加していった。
だから、PC用品と書かれた宅配伝票。この段ボールの中には、ぎっしりと、商品がつまっている。
閉め切った、薄暗い部屋で、僕は静かに箱を開けた。
風見に、服を着たまま抱かれたい。そう思うだけで、体の奥が熱くなる。
――そもそも、着衣プレイを僕の体に教え込んだのは君なんだから、ちゃんと責任を取れ
僕は、責任感のない男が好きじゃないんだ。
「据え膳」は食え。
【あとがきなど】
人生初の、三次創作でした。
なかほどさんの、チャイナバニーが大好きなんです。大大大好きなんです。
薄手のニットを着た降谷さんに対して、風見さんは、あれこれするつもりでしたが。
仕事が忙しかったのと、じれったそうにしている降谷さんを見るのが楽しいという理由で、あえて着エロ行為をしませんでした。
降谷さんは、それを、セックスレスフラグだと思ってしまったんですね。
結果、据え膳を準備するという……
(風見さんが、おいしい思いをしすぎでは……?)