におわせ

初出:2020/8/2(pixiv:青年連禱)
香水ネタ。独占欲が強そうな風見さんのお話


 

風見に、香水を押しつけられた。

『香水は、場面によって使い分けるものだから』とのことで、僕は三つの顔とともに、三種類の香水を使い分けることになった。

そもそも、僕には、香水をつける習慣がなかった。だから、『降谷零の時は香水をしなくてもいいだろ?』と抗議した。しかし『習慣がないからこそ、降谷さんの時もつけるんです。そうしないと、安室透の時や組織への潜入捜査の際に、香水をふるのを忘れてしまいますよ』と言われて、なんとなく納得してしまった。
風見裕也には、香水をつける習慣がある。だから、彼の言うことには、一理あるのだろう。

久しぶりのスーツ姿。警視庁に用事があった僕は、スーツを着て、それから、ふわりと香水をまとった。なんだか、落ち着く香りだなあ……と思いながら、ハロの頭をなで部屋を後にした。

小さめのミーティングルーム。
風見とその部下二名、そして、僕の四人で捜査に関する打ち合わせをした。途中、風見が呼び出しを受けて、場を離れる。

風見を待つまでの間、三人で、自販機のドリンクを買いに行った。
部下二人に飲みたいものを聞き、それを購入して手渡した。二人は、とても丁寧にお礼の言葉を述べた。それを受け流しながら、風見用に紅茶を買う。僕は、なんとなく、ほうじ茶が飲みたくて、ペットボトルのあたたかいやつを買った。
おのおの飲み物を飲みながら、来た道を戻る。
道中、部下の一人が言った。

「降谷さん、香水なんてしてましたっけ?」

僕は、ああ、そういえば、香水つけてたな……などと思いながら。

「ああ、ちょっと前からな」

と、適当に答えた。
やっぱり、ほうじ茶は、うまいなあと、思いながら廊下を歩く。「ばか、お前よくあんなことを聞いたな?」「えーだって気になるじゃないですか」部下たちが小声でやり取りする声を聞きながら、確かに場合によっては香水のことを聞くのは、失礼に当たるかもしれない……などと考えた。

ミーティングルームに戻る。
降谷さんに、缶の紅茶をさし出されて、素直にそれを受け取る。

「いつも、ありがとうございます。いただきます」

四人で打ち合わせを再開する。が、今度は降谷さんに呼び出しがかかってしまった。降谷さんは、俺たちにあらかたの指示を出すと

「じゃあ、それで、たたき台作っておいてくれ」

そう言い残して、部屋を後にした。
去り際に、ふわりと香水の香り。俺は、にやけそうになるのを我慢して、部下たちに仕事をわりふった。

「いったん休憩するか」

俺がそう言うと、部下たちは二人そろって伸びをした。息が合っているな、と思う。

「あ、そういえば、風見さん。降谷さんの香水って風見さんのやつに似てますよね?」
「まあな」
「……おい、そういうことは、あんまり聞くなよ」

部下たちが言い合いをする。「お前も気になるだろ」「だからって……聞くのは、だめだろ」
俺は二人のやり取りを眺めながら、にっこりと笑顔を作って見せた。

「別に聞いてくれて構わない」
「え、本当ですか?」
「ああ、そのための匂わせだからな」
「匂わせ……?」

部下たちが、やや怪訝な顔つきでこちらを見た。

「そう、匂わせ。香水だけにな」
「……風見さん、それ、完全におやじギャグですよね」
「まあな」

まあ、冗談ではないんだけれどね。

風見と、そういうことになってしまった。
そういうことというのはつまり、そういうことだ。しっとりとした、風見の胸に、自分の顔を押し当てた時。僕はどうして、降谷零用の香水に落ち着きを感じるのかを理解した。
そう、とてもよく似ているのだ。
僕の香水と、風見裕也の香水は、とてもよく似た香りをしている。

僕の部屋で朝まで過ごした風見裕也は、僕の肌着とシャツを着て身支度をした。風見裕也は、香水をする習慣のある男だから。

「借りてもいいですか?」

ひとこと断ってから、僕の香水をつけた。ネクタイを結びながら風見が言う。

「あれ? 降谷さんも今日は、うちに顔出すんでしたっけ?」
「そう。あ、今日はあの二人内勤か? この前、君たちに作ってもらった、捜査手順のたたき台、とてもよくできていたから、礼を言いたいのだが」
「ああ。そうですね。確か、午前中は書類仕事をやると言っていました」

風見はネクタイの結び目を鏡で確認すると、僕の香水を手に取り、こちらに近づいてきた。
そして

「降谷さん、香水つけてあげますね」

僕に香水をつけてくれた。
なんだか不思議な感覚だった。
自分のネクタイを結びながら、ふと気がつく。

「風見、昨日とネクタイが同じままだけれどいいのか? よければ、僕のを貸すが……」
「あー……ありがとうございます。でも、こちらの方が好都合なので……」
「好都合?」
「ええ。前日と同じネクタイをして、あなたと同じ香りをまとわせて出勤すれば、昨日、俺たちが何をしていたか、一目瞭然でしょ?」
「……は?」

香水に疎い僕は、そこでようやく気がついた。
風見裕也が、僕にこの香水を押し付けた、本当の理由について。と、同時に昨日の情事の名残が呼び起こされる。

「いや、一鼻瞭然……一嗅瞭然か……?」

風見がぶつぶつと、ひとりごとを言っている。僕は、その横顔をにらみつけながら言った。

「君……なんていうか、やらしいな」
「いやいや、ベッドの上の降谷さんにはかなわないですよ。降谷さん、すっげえ、やらしかったよ」

 

【あとがきなど】

降谷さんの香水……風見さんが準備したやつだと、おもしろいなと思って書きました。執着心強い系風見さんを書いたのは初めてですけど、こういう風見さんがいてもいいよなって思いました。
マーキングとマウンティングが大好きな風見さん……なんだろう、もうこの字面だけで、おもしろい。

 

1