【注意!】
〇そしかい後のおうちデート
〇上司部下関係を解消している
〇降谷さんの階級をねつ造
〇風降が結婚について意見交換する(ハッピーな感じはあまりない)
〇風見さんが家族に夢を見ていない(犯罪統計の話とかし出す)
〇降谷さんは家族というものをイメージできていない
※なんでも許せる方向けです
例の組織への潜入捜査が終わった。残党狩りや、彼らの犯した違法行為の全容解明など、課題は山積していた。しかし、それでも、僕の潜入捜査は終わったし。それに伴い、少しずつ表の仕事に復帰していくことになった。
風見裕也は僕の部下としての仕事を終え、警視庁公安部の仕事に追われている。
仕事で会うことは少なくなったが、その分、互いの家を行き来することが増えた。潜入捜査をしていた頃は、公私混同をしながら、どうにか情を交わしあっていた。そうするしかなかったし、そもそも、僕と風見の関係は公私混同を発端としていた。だから、恋人として会う……という今の状況には少し慣れない。
安室透として借りていた部屋を引き払い、今の僕は、降谷零として部屋を借りている。
二人で住むことも、考えなくはなかったのだが。あまりのいそがしさに、準備が間に合いそうになかった。それで、今回は見合わせた。
風見がプライベートな時間を割いて探してくれた部屋には日当たりのよいベランダがあって、畳の部屋もあった。さらには、広いキッチンとゆったりしたバスルームもあり、住み心地は、とてもよかった。そんなわけで、最近は、風見が僕の家に来ることが多かったのだけれど、今日は久しぶりに風見の家におじゃましている。
軽めに夕飯を食べ、晩酌をしながら、7時のニュースなどを見ていると、本当に一段落ついたんだなあと感慨深い気持ちになる。
アナウンサーが、野菜の物価の話や、動物園の動物の話題……そんなニュース原稿を読み上げていく。僕と風見は、缶ビールを傾けながら、とりとめのない話をする。
――さて、続いてのニュースです。本日、米花市の市議会で同性のパートナーシップ証明制度の条例化が可決されました。
アナウンサーが原稿を読み上げると、事前に準備してあったと思しき、同性カップルのインタビュー映像が流れた。僕は、缶ビールをあおりながら、ちらりと風見の顔色をうかがった。風見は、枝豆を食べながら
「あー、これ半年前から議論されてましたもんね」
と言った。
風見がこの件に言及したからには、僕も何か言わなければならない。
「君、この条例が半年前から議論されてたこと知っていたのか?」
「ええ。まあ、一応、あなたと、つきあい出してからは、この辺のニュースにはアンテナをはってましたから」
その言葉に、なんだか、恥ずかしい気持ちになる。
「……そうだったんだ」
「ええ」
「その……君は、こういう制度について、どう思ってる?」
「うーん……養子縁組だと、降谷さん、自動的に風見になっちゃうでしょ? それは、ちょっと気が引けるなあと思っていたので。まあ、こういう制度ができて助かりましたね。選択肢が増えたというか」
風見が、僕の予想以上に、いろいろ考えていたと知って、軽く動揺する。ビールをもう一口、流し込む。
「君、そういうの……興味あるのか?」
「そういうの? と、言いますと?」
「いや……なんていうか結婚したいとか…家庭を持ちたいとか……そういうの興味あるのかなって」
単刀直入な言い方になってしまって、なんだか恥ずかしい。でも、いつかはちゃんと話し合いたいと思っていたし、なにより、タイミングを逃して後悔するのだけは嫌だった。それで、こんな風にストレートな聞き方になった。
風見は、枝豆をもぐもぐしながら、首を傾げる。そして、少しぼんやりとした口調で言った。
「うーん……どうだろうな。俺、こういう仕事だし、家庭を持つということについて、あんまりちゃんと考えたことないんですよね。降谷さんは?」
「……僕は、正直なところ、ちょっと怖いと思っている」
「怖い?」
「なんていうか、家族というものが、僕にはちょっとわからなくて……夫婦というものについても…同様で。素敵だなと思う夫婦や家族はいるんだけれどな……」
『毛利小五郎探偵の弟子』をしていた頃のことを少しだけ思い出す。
「わからないから、怖い……? 降谷さんともあろう方が?」
風見が、心底びっくりしたというような顔で、こちらを見た。
「……ばか。仕事とプライベートじゃ違うんだよ……」
「……そっか。俺、今まであなたの仕事の顔ばかり見てきましたしね。プライベートの顔なんて、それこそ、仕事の合間にしたセックスの時にしか見たことがない」
「おい……僕は、真面目な話をしてるんだけど?」
「はは……そうでしたね。では、こちらも真面目に話しましょう」
風見はそう言うと、背筋を伸ばして僕の顔をまっすぐに見つめた。キリッとした男らしい表情であったり、Tシャツの襟ぐりから見える首筋がなんだかとても色っぽくて。僕はそれを正面から見つめ返すことができなかった。
「降谷警視」
「こら、公私混同禁止」
「ああ、では、降谷さん」
「うん」
「ご存知の通り、わが国におきましては、殺人事件のおおよそ半数は親族間で起きています」
公私混同を禁じたばかりなのに。風見は大真面目に、犯罪統計の話を始めた。思わず、風見をにらみつける。
「まあ、確かにそれは事実だけれど……何故、今、そんな話を?」
風見は、にやりと笑いながら
「どうしてだと思います?」
と聞き返した。
もともと風見裕也という男には、突拍子のないところがあったし。恋人モードの時は、年上風を吹かせる傾向があった。しかし、気のせいかもしれないが、上司部下の関係を解消してからは、その傾向が悪化しているように思う。
彼は相変わらず、僕のことを「さん」づけで呼ぶし敬語も使う。けれど、最近の風見は、僕をからかうような……なにやら悪いことをたくらむような……そういう顔をすることが増えた気がする。
「そうだな……家族なんて、そんなにいいものじゃないから家族という形にはこだわらないと言いたいのか……。もしくは、家族なんて所詮そんなものだからもっと気楽に考えようと言いたいのか……そのどちらかだとは思うが」
「おお……さすが降谷さん! 正解です!」
風見が、僕を抱き寄せて、僕の頭をわしゃわしゃとなでた。
「正解って……どっちが正解?」
「どっちって、そりゃあ……どっちも正解です」
「なんだそれ」
むっとしながら、風見を押しのける。
風見は、目じりを下げて、ほほえんだ。風見のそういう表情、嫌いじゃないんだけれど。子ども扱いされているような気がして、素直に喜べない。
「降谷さんが言った方を正解にしようと思っていたので……だから、両方正解です」
「なんだそれ? ずるくないか?」
「やだなあ……降谷さん。公安警察たるもの抜け道は常に作っておくものですよ」
風見はそう言うと、もう一度。僕を抱きしめた。
「俺さ……昔は、家族って、当たり前のようにあると思っていたけれど。こういう仕事していると、いろんな家庭事情を知るじゃないですか?」
「まあ……いろんな家族があるな」
「誰かにとって、家族がそんなにいいものではないというのは事実です。そして、家族というものが、実に微妙なさじ加減で成り立っているというのもおそらく事実だ。そう考えたら、降谷さんのおっしゃる通り、家族を作るのって、怖いような気もするし……でも、だからこそ、家族というものは尊いのかなと、そんな風に思わなくもない」
「思わなくもない?」
「そうです。思わなくもない」
大きな手のひらが、僕の背中を静かに撫でた。
「だから、どうなるか予想は全くできないけれど、俺はあなたと家族になってもいいと思うし。ならなくてもいいと思う。俺はどっちでもいいから、結局、降谷さん次第なんです」
「風見……それ、主体性がなさすぎやしないか?」
「んー……そうでもないですよ。降谷零に全権委任するという決断は俺の主体性でしょ? ……まあ、だから、ゆっくり考えてください。降谷さん、これから仕事の内容も変わるんだから…いっぺんに色んなことを動かす必要はないですよ」
風見の胸に頭を預けながら「そうだな」と答える。
「うん。だから、家族なんて、殺し合いにならなければ、それで十分成功なのかもしれない」
「それは、さすがに言いすぎじゃないか……?」
「おっしゃる通り、ただの極論です。まあ……殺し合いはごめんですけど、俺は、恋人のままだろうが家族になろうが、ベッドの上では何度でも、あんたを天国に連れていく所存ですが……よろしいですか?」
「君な……」
なにか一つでも、憎まれ口をたたこうと思って、風見を見上げる。風見は、どこふく風という表情で、僕のこめかみにキスを落とした。あー……これ。絶対に、このまま、ソファでやる流れだ……と思って、僕は流されまいと気を強く持ち、風見をにらみつけた。
「君、結局は、それが言いたかっただけだろ?」
「あはは……。ばれました? その通りです」
風見は、そう言うと、僕から離れて、缶ビールをごくごくと飲みほした。
「降谷さんも、それ、ぬるくなる前に飲んじゃってください。もうすでに、ちょっとぬるい。……あ、でも。……冷蔵庫に、ジンジャーエール冷やしてあるから……シャンディガフにでもします? 買っておいたんですよ。辛口のビンのやつ」
そう言いながら、空の空き缶をもってキッチンに向かう風見の後ろ姿が、すごく憎らしく思えた。
「まだ飲むのか?」
「ええ。今日ね。いろいろ買ってきてあるんですよ。……どうします? シャンディガフ作ります?」
「いい、これを飲むから……」
「そうですか……? 俺、次は焼酎を……と思っていますけど? 降谷さんは、次もビール?」
「いい。もう飲まない」
「えー……? まだ8時前ですよ」
僕は、ごくごくとビールを飲み干して、空き缶を風見に投げつけた。空のアルミ缶は、見事に風見の後頭部にヒットした。
「わかってるくせに」
「わかってるくせに……って、言われましても。わからないですよ。ちゃんと言ってくれなきゃ」
風見が、空き缶を拾い上げて、ごみ袋に投げ入れる。
「さっさと、天国に連れていけ」
「えー……せっかく、公私混同なしで、おうちデートできるようになったのに……もう、それですか? 俺、おつまみとかも、いろいろ買っておいたんですよ?」
「うるさい……! 仕掛けてきたのは、そっちだろうが!!」
おわり
【あとがきなど】6月ということもあって、プロポーズとか結婚に関する素敵な風降作品を見たり読んだりして……
自分でも書いてみたらこうなりました。
降谷さんが、家族に対して、どう考えているかさっぱりわからないんですけど。今回は天涯孤独Verで書いてみました。家庭を持つことに、不安を覚える降谷さん。
風見さんは、結婚とか家庭とかについては、あんまり考えていないのだけれど、降谷零との未来については真剣に考えてる人だといいなあと思いました。
風見さんは、愛されて育った人だと思うんですが、愛されて育ったことを当たり前だと思っていない人だといいなーと思っています(私の願望)。
あと、彼は詐欺師の心理について小学生に語り出すような男なので、恋人との会話に、犯罪統計の話くらいはしそうだな……と(相手、降谷さんだし)。