〇つき合っている
〇男六の名付け親がふるやさん
〇オカルトとクロスワードパズルが好きで、ちょっと天然なかざみさん
お試しで文庫メーカーに上げたやつをこちらにも(2020.6.1)
「男六でどうだろう」
偽名である飛田の下の名前をどうするか、悩んでいた俺に降谷さんはそう言った。
「だんろく……? ですか?」
「ああ、男に六と書いて男六だ。どうだ、男らしくないか?」
「ええ、まあ……でもなんで六なんですか?」
「んー。オカルト好きの君ならすぐにわかるだろうから答えは言わない。自分で考えろ」
「……答えが分かったら、なにかご褒美とかあるんですか?」
「……考えておく」
というやり取りをしてから、数週間が経過していた。あれから、六という数字の意味についていろいろと考えた。降谷さんの口ぶりからして、オカルトに関わるものなんだろう。
六……六道…六芒星…数秘術の6、十牛図の六番目は騎牛帰家、黄道十二宮の六番目は処女宮、ラテン語で6の綴りはsex(これはないな…確実に)……どうにもしっくりくる答えが見つからない。
考えれば、考えるほど、答えから離れていっているような気がする。
それで、俺は、六の意味を考えることを一旦放棄した。
そんなある日、降谷さんが俺の家に遊びに来た。
「で、答えはわかったのか?」
降谷さんが俺にたずねる。
「いいえ……それが、まだでして」
「ふうん……まあ、いいけど」
降谷さんは、そう言うと、そっぽをむいた。その様子に、少しだけ焦る。もしかしたら、男六の六には降谷さんからの恋人としてのメッセージが隠れているのかもしれない。ご褒美なんて、この際どうでもいいから早く答えにたどり着かなければ、降谷さんに愛想をつかされてしまうかもしれない。
きっと、俺はすごい顔をしていたんだろう。降谷さんが笑い出す。
「そこまで、真剣に考えなくていいよ。別に君が気づかなくってもいいんだ。男六の六は、どうせ僕の自己満足だし」
「いや、そんなこと言わんでください……! 俺、絶対に六の意味を探し当てますから……!」
「熱心な部下だ」
「いえ……部下というより、恋人として…です。恋人がくれた名前の意味が分からないなんて、恋人として失格です」
「恋人として、ね。……君、本当にわかってないんだよな?」
「ええ……恥ずかしながら」
「オカルト好きな君なら、もうわかってもおかしくないのにな……なんで、わからないんだろう。君のそういう所、ちょっと不思議だし、面白くて好きだよ」
降谷さんは、そう言うとふふふと笑った。俺もつられて笑う。
答えがわからないもやもやはあるけれど。降谷さんが楽しいなら、それでいいやと思った。
協力者との接触を終えた帰り道。電車に揺られながら、クロスワードパズルを解く。
スマホを使わずに、自分の知識だけで勝負するのが面白い。今、解いている問題は恋に関するものだったから、俺はおのずと降谷さんのことを思い出していた。降谷さんのことを思いながら、設問をこなしていく。
(ダンテの神曲に出てくる女性の名前は……ええっと…ベアトリーチェか)
(いとし、いとしという○○○……こころ、だな)
(えーっと、タロットカードの6の絵札は……え…? 6……6と言えば男六の六……
「そうか、恋人か!」
気づいたときには、時すでに遅し。平日昼間の電車の中で、そこそこ大きな声でひとりごとを言ってしまった俺は自分の顔が真っ赤に染まっていることを自覚した。